プリティダービーに花束を(本編完結)   作:ばんぶー

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暑くてだるいと言いながら




涼しくなると妙なさみしさが湧き上がりますわ




ああ夏よ行かないで





あわよくばボーナスをもう一度






字余り






さようなら僕らの夏休み

 

 厳しい戦いだった。いつもは優しい先輩達も、この勝負の場においては一切の甘さを消し去り誰一人として隙を見せない。それは本来であれば相手にもならない未熟者であるウオッカを1人の敵と見なし全力で相対するという最大の敬意の表明でもある

 

「どうするよウオッカ。降りるってなら止めやしないけど」

 

「……降りません。このままじゃ終われないんで」

 

「良し。それじゃあ皆さま、もう一勝負と行きますか」

 

 挑発とも警告ともとれるようなネイチャの言葉に対しウオッカは己を奮い立たせるように決意を表明した。居並ぶ実力者達と全力の勝負が出来るこの機会を放り出す。それがカッコイイ筈が無いのだから。ネイチャ達は折れずに向かってくるウオッカを見て不敵に口角を吊り上げた

 

「ウオッカ、もうやめなさいって!もう十分でしょ!?」

 

 背後からスカーレットの悲痛な声が飛んでくるがウオッカは引かない。既に引けない所まで踏み込んでしまっている。今の彼女を止めることは誰にもできないだろう

 

「へっ。そんな訳にいくかよ。ここで終わりなんて納得できる訳ねえ。お前だってわかんだろうがスカーレット!終わりを認めた時が本当の敗北なんだよ!」

 

 力強く言い切ったウオッカに気圧されてスカーレットは口を閉じざるを得なかった。確かに気持ちは解る。スカーレットはもしも自分が同じ立場だったらと考えて、しかし首を振った。今自分が止めなければならない。それが友人でありライバルである自分の責任だろう。スカーレットはもう一度声を張り上げようとした

 

 

 しかし、もう遅い

 

 

「いやさっさと荷造りせんか!なにをやっとるんだ貴様らはっ!」

 

「「「やばっ」」」」

 

 

 部屋のドアをすぱーんと勢いよく開きながら制服姿のエアグルーヴが部屋に現れた。勝負に興じていたウマ娘達は思わず両手を挙げて手に持っていたトランプを放り捨てて、我関せずといった顔でそっぽを向いた。エアグルーヴは額に青筋を浮かべながら地を這うような声を出した

 

 

「遊んでいた者の顔は覚えたからな」

 

「ヒェッ……」

 

「あ、遊んでるんじゃありません!七並べをしてトランプが全部揃ってるか確かめてるんです!」

 

 

 誰かが必死に叫んだ言い訳にムーンシャインの面々はそうだそうだと乗っかって頷いた。嘘ではない。確かに最初はそれが目的だった。しかしいつしかそれはジュースを賭けたポーカーへとシフトしていたのだから、間違いなく彼女達は遊んでいた。だからやめろって言ったのに、とスカーレットはウオッカと先輩達を冷たい視線で見渡した

 

 

「余計な言い訳はいらん!まったく、他の部屋の様子を少し見に行っただけでこれだ!……ほら作業に戻れ!あと30分で正面に集合だぞ!遅れた者は置いて行くからな!」

 

「「「はい!」」」

 

 名残惜しくも最終日の朝。迎えのバスは10時にはやってくる。エアグルーヴは生徒会副会長として絶対に遅刻者を出さないと心に誓ってこの日を迎えていた。気合を入れ過ぎてあまり良く眠れなかったくらいだ。不眠もあっていつも以上にイラついている彼女の怒号に急き立てられ、ウマ娘達は一斉に残った荷物を纏め始めた

 

 

 しかしいざ始まってみればあれがないこれがないとウマ娘達は大騒ぎで部屋中を駆け回り始めた。朝から何度もこの光景をあちらこちらの部屋で見てきたエアグルーヴはうんざりしたように頭を抱えた

 

 

「そもそも荷造りは昨日の夜のうちにすませておけといっただろう!何故今更靴下がないだのどうだのという話になるんだ……いや私毎年これ言っていないか!?」

 

「いやー夏の風物詩ですなぁ」

 

「やかましいぞネイチャ」

 

「はい。さーせんす……」

 

 

 怒れる副会長に尻を叩かれてカバンを背負ったムーンシャインの面々は部屋から転がるように飛び出して行く。最後に忘れ物が無いか部屋をぐるりと見渡したエアグルーヴが小さくよしと呟いて扉をパタンと閉じた

 

 

 広々とした部屋はこれまでの騒ぎがウソのようにシンと静まり返った

 

 

_________________________

 

 

 

「次ここに来るのは1年後なんだよな」

 

 ポツリと呟いたウオッカの言葉に返事を返すことなく、スカーレットは窓の外に目をやる。2人はバスに乗り込み発車を待っていた。遠くに見える宿舎や練習場はすっかり見慣れたものだが、次に見れるのは1年後。そう考えると少し寂しさも感じてしまう

 

 

「そんで次にここに来るときは俺はダービーウマ娘って訳だ」

 

「ま、そうだといいわね」

 

 確かな自信を持って放たれた言葉には妙な説得力があった。スカーレットは素直に頷くか迷い、結局の所いつも通りに少々喧嘩腰の態度で返事をする事にしたがウオッカは気にしない。スカーレットが自分の言っている事をバカにしていない事くらい解っている

 

 

「んでそういうお前はどうなんだ?」

 

「言うまでもないわ。どのレースでも、誰が相手でも負けない。1番を背負ってここに返ってくるわ」

 

 

 ふふんと笑いながら見つめ合う2人はそれ以上何も言わずに前を向いた。丁度バスのドアが閉じ、ゆっくりと車体が動き出す。バスに乗ったウマ娘達は窓の外で見送りをしてくれているスタッフ達に手を振り、そして遠ざかって行く合宿場で得た思い出を久しぶりに顔を合わせたクラスメイト達と楽しく共有するのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なにやってるの?」

 

「は?い、いや別に……」

 

 バスが走り出して数時間。スカーレットは何かの気配を察知してパッと目を開くと間近に迫っていたウオッカとばっちり目が合った。変な姿勢で固まっていたウオッカは右手に持った水性ペンをすっと背中に回すが、スカーレットは素早く手を伸ばしてその手を掴んで思い切り引き寄せた

 

「なにを、やってるの……!?」

 

「別になんでもないって!」

 

「アンタの顔に落書きしたのはアタシじゃないって言ってるでしょうが!」

 

「だとしても俺だけやられっぱなしってのはな!」

 

「やらせないわよ……!」

 

(うるさいなぁ2人共……いちゃつくなら部屋戻ってからやってよね……)

 

(というか1ヶ月前の事まだ引きずってたんだウオッカちゃん……)

 

 

 

______________________

 

 

 

 さて。

 

 

 2ヶ月近くエンジョイしてきた夏休みが終わってしまった訳だ。しかしどうだろうか、この胸に溢れる達成感は。これは僕がこの夏、精一杯頑張ったという証拠になるだろう。こうなると身体に溜まった疲労すら誇らしいという訳だ

 

 久しぶりに座ったトレーナー室の椅子の感触を楽しんでいるとふわふわしていた夏休み気分がすっと遠のいて行く気がした。学園の授業が始まるまでの数日の間、トレーニングは休みになる。ウマ娘達にはゆっくりと身体を休めて2学期に備えてもらおうということだね

 

 しかし働き者である僕はこの僅かな休日も有意義に活用しなくてはならない。まずは僕らのチームの出走登録を確認する。皆秋からは様々なレースに出走するが、最初に取り掛かるのはスカーレットとウオッカのデビューレースの事だ。2人は同じレースでは走らないが、日付自体は同じだ

 

 

「今僕が頭を悩ませている問題はこの2人をどの舞台で勝負させるべきなのか、という事なんだよね」

 

「ふーん」

 

 

 んな事聞かれてもな、って顔で鼻を鳴らすアグネスタキオンに対し僕はもう一度質問を繰り返した

 

 

「いつ勝負させるか。なんだよ」

 

「いや知らないよ。私が口出しすることじゃないだろう?面倒事はパスだよ」

 

「おいおいタキオン。後輩思いに欠ける発言じゃないか」

 

「キミねぇ。トレーナーとしての自覚に目覚めたというのならそういう繊細な問題は自分で答えを出さないとダメなんじゃないかと私は考えるが」

 

「2人は互いの事をライバルとして強く意識している。合宿期間で相手の走りを何度も見て、その気持ちはより大きくなっただろう。だが決着をつける場にもそれ相応の舞台を求めているようなんだ」

 

「おっと勝手に話を進めるのはやめないかい?」

 

 

 夏の合宿期間中、2人は何度か模擬レースを走っている。1対1ではなく、同じ練習場で練習をしていた様々な学年のウマ娘達が参加する9人立て形式だ。流石に先輩相手に1着をとることは出来なかったものの、それなりに喰らいついてレースの雰囲気をしっかり掴む事は出来ていた。その中で2人の決着がつく事はなかったが、それでも互いの実力を把握する事は出来ただろう

 

 

「順調にデビュー戦で勝てればの話ではあるが、年末……もしくは年明けくらいで一度一緒に走らせてあげたいんだ。今のところ2人はクラシックとティアラで違う路線を目指しているみたいだから春以降は中々対決の機会を得られないだろうからね」

 

「ふーん。君の見立てでは今の所どちらが上なんだい?」

 

「難しいな。どちらも走る度に成長するし、悪く言うならまだ安定していない。ただ長い距離だとスカーレットの方が得意みたいだね」

 

「成程。まあ後は本番でどうなるかだね。こればかりはどれだけ練習のデータを集めても確証には繋がらない。もっとも、そのデータだけから予測するのであれば2人共デビュー戦の勝率自体はとても高いように見える。いやぁとても優秀じゃないか」

 

 

 嬉しそうに眺めているデータは新人2人のものだろう。彼女は指先で叩いていたタブレット端末を机に置くと1つ咳払いをした

 

 

「彼女達2人には新たな可能性を見せてもらいたいものだよ。___さてそれで?」

 

「ふむ?」

 

「お土産だよお土産。あるんだろ?」

 

 

 期待を込めた視線が僕の横に置かれた紙袋に注がれる。確かにこれは彼女に差し上げようとしていたものだ。どうぞと差し出せば彼女の手が素早く袋を取り上げて中身を改めた

 

 

「ほう!これは……え、なんだいこれは」

 

「海岸で拾った綺麗な貝殻だね」

 

「初めて海に行った女子小学生みたいなお土産だねぇ……」

 

「お菓子とか食べ物系は奥の方にちゃんと入っているからね」

 

「その言葉が聞きたかったんだよ!」

 

 嬉々として袋をひっくり返すようにしてお目当ての物を机の上に並べ、それぞれをじっくりと観察し始めた。どれをどういう順番で食べて行くかを脳内でシミュレートしているのだろう。

 

 貝殻を手の中で弄びながらしばらく楽しそうにふんふんと考え込んでいたタキオンはよしと手を打ち合わせて袋の中にお菓子を戻し始めた。シミュレートは終了したのだろう

 

 

「さて。お土産も回収できたことだし失礼させてもらうとするよ。研究の手を止めてきているのでね」

 

「ふむ。研究室まで付き添おうか?」

 

「結構。もう慣れたものだよ」

 

 椅子から立ち上がろうとした僕を制して彼女はよいしょと椅子から立ち上がり机に立てかけてあった松葉杖を脇に挟んだ。その動きは軽やかで、本当に慣れたものなのだろうと僕は思った

 

 アグネスタキオンは現在ムーンシャインに所属しているウマ娘ではかなりの古株に当たるだろうか。彼女はウマ娘についての研究に日夜明け暮れている。研究室とはチームハウスの傍に建てられた彼女用の施設だ。小さいが彼女がやりたい事をするには十分な設備が揃えられている

 

 

 かつてGⅠを制した経験を持つウマ娘の見地から導かれる研究成果は我々トレーナー達も非常に興味深いものが多く、『ウマ娘の適正距離は成長により変化するのか』や『レース前日にお腹いっぱい食べるなという悪しき風潮をぶっ壊した葦毛の怪物』『勝負服はオシャレであればある程に走りやすい』等、様々な興味深い論文を世に打ち出している

 

 

 今彼女を支えている松葉杖も自ら考案して作成したもので、自分で使用感を確かめながら改良の余地を探っているんだそうだ。あらゆる状況を研究に活かそうとするバイタリティは非常に尊敬できる所ではあるのだが、自分の身体を大切にするという意識が少々欠けているのが彼女の良くない所だ

 

 

「タキオン。僕達のいない間にもしっかり規則正しい生活を送る努力はしてくれていたのかな?どうにも寝不足のように見えるけれど」

 

「固い事を言わないでくれよ大和くん。身を粉にして働いているんだ、怒られる謂れはないね。それに君はウマ娘が好きな事に没頭しているのを止めるような野暮な人間じゃないだろう?」

 

「そうだね。君がそう望むのなら、不規則な生活で研究に没頭するのも止めはしない。僕はね」

 

 

 僕の意味深な言葉に眉をひそめたタキオンの向こうでがらりとドアが開いた。出口に振り返ったタキオンの前に壁のように立ちはだかったのは無表情のホワイトレイヴンである。タキオンの顔は見えないが、うげっと小さく声を漏らした所からも笑顔ではない事は容易に想像できた

 

 

「やあレイヴン。後は君に任せるよ」

 

「ええ。引き継ぐわ。それで部屋にいないと思ったらここにいたのね、タキオン」

 

「あー……やぁトレーナー君。これから君の所へ行こうと___うわっ」

 

 レイヴンは己の細腕をタキオンの両脇の下に差し込み彼女を軽々と持ち上げた。彼女の青い瞳がスッと細くなり、刺す様な鋭い視線がタキオンの全身を素早く見回す。居心地悪そうに身体を揺らすが、タキオンの身体はびくともしない

 

「顔色が悪い。目の下にクマがある。寝不足の証拠。体重が明らかに落ちている。ご飯を食べていない証拠」

 

「いやぁまあその……なんだろうね」

 

「何故自分が怪我をしたのか忘れたのかしら」

 

 タキオンが気まずそうに目を伏せた。彼女は先日徹夜明けでぼけっとした頭のままお風呂に入ろうとしてうっかり滑って足を捻挫してしまったのだ。合宿場でその報告を受けたレイヴンは電話越しで彼女に長々と説教を食らわせたが、その後も監視が傍にいないことを良い事にタキオンは好き勝手過ごしていたらしい。その分のしわ寄せが今ここに集まっているという訳だ

 

 

「そんなこと言ったら君の生活習慣も最悪じゃないか!私が一方的に注意されるというのは納得できないね!どうせ合宿期間中も好き勝手していたんだろう!?」

 

「そんなことないわ。そうでしょ大和」

 

「ああ。レイヴンは日の出と共に起きて昼間は皆のトレーニングを監督し、夜は10時には布団に入るという健康的で文化的な生活を送っていたとも」

 

「絶対に嘘だろう!?ネイチャ君やライス君に聞けばすぐ解るんだからな!」

 

「どうにせよ私はいいの。でもあなたはダメ。あなたまだ学生なのだし、出走頻度は減ったとはいえまだ現役でしょう。競技者としての自覚に欠けているわ。当然私はトレーナーとしてあなたを怒らないといけない。もし口で言っても聞いてくれないというのなら私にも考えがある」

 

「……具体的には?」

 

「次許可なく徹夜したらお尻をひっぱたくわ」

 

「こんな横暴な事があっていいのかい!?おいモルモット君2号!見ていないで止めてくれないか!?」

 

 

 モルモット2号とは僕の事だ。1号はレイヴンだ。共にタキオンの実験台になる事を受け入れた事からこのようなありがたいあだ名を拝命している訳だが、タキオンの事に関しては2号である僕は1号に逆らう事は出来ない。こればかりは仕方ないのだ。それに彼女はタキオンの専属トレーナーでもある

 

 

「愛の鞭というやつよ。大丈夫よ、次から気を付ければいいだけの話なのだから」

 

「勘弁してくれないか!うわビクともしないじゃないか。ええい、トレーナー君がここまで力強くなるとは……私の才能が恐ろしいよ!あ、そうだ。新しい膝関節サポーターの試作品が出来たんだがね、ぜひ今日中にデータが欲しいんだよ。せめてそれだけ付き合ってくれないかい?」

 

「それはまた明日。あなたはこれからご飯を食べてお風呂に入ってお布団で寝る。これ以外の事は許可できない」

 

「うぅん。解った。解ったよ。だからせめて降ろしてくれたまえ!学園内を担がれて歩く訳には行かないだろう!ちょっと聞いているのかねトレ___」

 

 

 完全に無視してレイヴンはタキオンを抱っこすると軽やかに去って行った。静かになった部屋の中で僕は椅子に座ったままくるくると回り、今日の夕飯を何にするかに考えをシフトさせることにした

 

 

 

 

 






タキオンはまだ現役です。ややこしくてすいませんでした


大和サブが学園に来た頃には既にタキオンとレイヴンは契約してトゥインクルシリーズへの挑戦を開始していました。その時のお話もいつか書けたらいいなと思ってます


最近ペース遅くてすいません。ちょっと展開に迷ってるのとお仕事まだちょっとだけ忙しいんです。秋からは落ち着くって聞かされてます。ほんとかなぁ!?


一応お話的には折り返しは過ぎている筈なのですが、アプリで新ストーリーとか追加されるみたいなのでそれ次第では解りませんね・・・


あとエイシンフラッシュは引けませんでした!天井手前です!課金するか迷ってます


今後のウマ娘達の過去回の長さは

  • 数話使ってもよろしくてよ
  • 1話で簡潔にすませるべきですわよ
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