プリティダービーに花束を(本編完結)   作:ばんぶー

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ウイニングライブ、全部のレースが終わった後にまとめて行うと思うんですよね!


そうですねぇ


本来はレース毎に全部違う曲なんだと思うんですけど、デビュー戦は皆同じ曲ですよね!?それをレースの数だけやるんでしょうか!?


……実況さん。この辺に関してはあまり深く考えずに行きましょう。












歌って走れるウマ娘

 

「3曲目リハ終了!次4曲目行きます!ウマ娘さん達入って下さい!」

 

「1番の照明落ちてない!?ちょっと誰か見て来て!」

 

 

 鬼気迫るスタッフ達の怒号が飛び交うステージ裏において、これからのライブを楽しみにしながらにこにこしている僕は少々場違いであった。ライブ衣装に身を包み軽くお化粧を施されたウマ娘達もその空気に当てられ前のめりに入れ込んでいる。周囲を見ればそれぞれの付き添いのトレーナー達が思い思いにウマ娘達に声をかけている

 

 

「ライブに必要なのは……失敗を恐れない事だ」

 

 

 僕も応援用のサイリウムの光具合に問題が無い事を確認し終えた後、そわそわする2人に話しかけた。こういう時は当たり前の事をもっともらしく言ってのける役が必要だ。僕自身が素晴らしいライブを見たいと言うのもあるし、2人にもできればこの舞台を心から楽しんで欲しかったのだ

 

 

「お客さんが一番見たいのはダンスじゃない。歌でもない。君達を見に来ているんだ。デビューを初々しく飾った君達がどんな子なのかを皆知りたいんだ。自分の想いを伝える事に一生懸命になってくれれば、僕達にとってそれが最善のパフォーマンスだ」

 

「……でもやるからにはキチンとしたものじゃないと。折角皆応援してくれてるんだし、言い訳はしたくないわ」

 

「そのやる気は否定しないよ。それに2人共、歌も踊りもとても上手だし。皆にそれを見せてあげて欲しいとは思う。でもまああまり気負わずに、というだけの話さ。ウィニングライブは競うものじゃないからね。んん……でもこういう所スカーレットは妥協したくないって思っちゃうか。いやそういう所が好きなんだけどね。でも落ち着いてね?」

 

「まあスカーレットだからなぁ……」

 

「なによウオッカその言い方は!アタシが落ち着いてないとでも言いたいの!?そういうアンタは気合が足りてないわよ!気合入れなさい気合!」

 

 

 スカーレットの目がぐるぐるしてる。明らかに落ち着いていないけど、対照的にウオッカは随分自然体だ。まあ隣でこれだけ『かかってる』子がいたら逆に冷静になれるその気持ちは理解できるけど。僕が送った視線に気づいたらしく、ウオッカはわざとらしくスカーレットをからかって緊張をほぐそうとしてくれた

 

 

「うん、なんかスカーレット見てたら落ち着いてきたわ。ありがとな」

 

「はぁー!!?なに勝手に落ち着いてんのよ!緊張しなさい緊張!」

 

「ははっ、なんだそりゃ」

 

「軽く笑って流してんじゃないわよ!もうっ!」

 

「はいはい喧嘩しない。僕はもう観客席へ行かなくちゃいけないからね。……いいかい。ウイニングライブを最も楽しむべきなのはお客さんでもレースを作り上げてくれたスタッフさん達でも、ましてや僕達トレーナーでもない。なによりも君達ウマ娘さ。僕もお客さん達もとにかくそれが見たい。ステージにはレース場には無い夢が満ちている。勝者だけが味わえる特権に存分に浸って、楽しんでおいで」

 

 

 最後に僕がそれっぽい事を言ってのければ2人もそれっぽく頷いてくれる。拳の先を軽くこつんと合わせてから僕はクールに舞台裏を去った。彼女達から見えなくなったであろう場所まで来たら周りの邪魔にならない程度に走り出した。万が一にもライブ開始に遅れる訳にはいかない

 

 既に僕の心はトレーナーたるべき者から厄介信者ファンのそれへと変貌を遂げていた

 

 

___________________

 

 

 

 

「前をタイシンとライス、左右をネイチャとスカイが率いる応援団で広く展開する。後方からはエアグルーヴ達が抑える形だ。僕は中央に立たせてもらう。火力と支援を両立した効率の良い陣形だ。皆に渡した鉢巻には小型カメラが仕込んである。だからできるだけステージに頭を向けて応援するようにね。あ、各自サイリウムも持ったかい?スカーレットとウオッカのライブは出走順に従い一曲目と二曲目だ。終わり次第速やかに掃けて次のチームの応援団に場所を譲る。移動経路の確認は終わっているね?移動時にはくれぐれも忘れ物の無いように。では質問は?」

 

 

「「「無し!」」」

 

 

「よし会場入りだ。皆が出来得る最高の応援というものを見せて欲しい」

 

 

「「「はいっ!」」」

 

 

 スカーレット達には言った。ライブは戦いでは無いと。でも僕達観る側からすれば戦いなのだ。この胸の滾り、戦いに挑む戦士のそれでなければなんだと言うのだ。僕はばさりと法被を羽織った。スカーレットの為に用意したこの法被、しかし一枚脱げば下にはウオッカの為の法被が姿を現すという戦法だ

 

 

「いつもの事だが……こんな時だけはきびきびと動けるものなのだな」

 

 

 エアグルーヴが何か言っている気がしたけど言葉の意味は僕の頭には入って来なかった。多分大事な事じゃないと思う。何か言いたげな彼女に法被を押し付けると、渋々と言った表情で受け取ってくれた。スタッフが誘導を開始したのを見た僕達は理論上最速の早歩きで観客席に突撃した。走るのはマナー違反だからね

 

 

 

_____________________

 

 

 

『~~~~♪♪!!!』

 

 

 センターに立ったスカーレットは流れて来た音楽に歌声を合わせる。レースと同じように出遅れは無く、会場にひしめくファンの動きもリズムに乗っていて非常に一体感があった。緊張はとっくに快感へと変わり、スカーレットは完全にステージの楽しみ方というものを理解できていた

 

 

 きらきらした照明で照らされたステージから見る観客席は薄暗いし、お客さんの顔も最初ははっきりと見えなかった。でも踊っている内に少しずつ目が慣れて来たのか段々とお客さん達の表情も解るようになってきた。皆、とても楽しそうに笑っていた

 

 

 勝者の影に敗者がある。そういったレースの終わった後の、ただ喜びを分かち合う光と音のパレード。ここには祝福だけが満ちている。だからこれほどまでに胸が暖かくなるのだろう

 

 

 スカーレットは自分の名前を呼ぶ声に応えて振り付けの合間に軽く手を振ってみる。すると一際歓喜の声が大きくなる

 

 

 レース中は中々声援に応える事ができないが、ライブであればそれができる。楽しくなってきたスカーレットは大きくステップを踏んで、次の歌い出しに備えた

 

 

 人生は長い。想像もできないような出来事がこれからも続くだろう。今日より良い日もいくらでもやってくるだろう

 

 

 だがしかしダイワスカーレットは今日という日の事を生涯忘れないだろうという自信があった。ちょっと上手くいかなかったステップも、少し声が上ずって音程が外れてしまったパートも、名も知らぬ観客席の笑顔の数々も。きっといつまでも忘れずに、心のどこかに抱き続けるだろう

 

 

 時間がたって色褪せたとしても、この思い出がある限りスカーレットはレースの素晴らしさを見失うことはない。スカーレットは心に次々湧き上がってくる熱い想いを少しでも伝えようと最後のパートを歌い上げる為に大きく息を吸った

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 僕史上、最高の一日となった。胸を張ってそう言える。まあ『僕史上最高の1日ランキング』というものはほぼ毎日のように更新され続けている。ウマ娘達と共に過ごしていれば、そうもなろうというものだ

 

 

 卵の殻を破り飛び立った新星達。これまでの伝説を過去にする者がその中にいるのかもしれないと考えれば、レースを愛する者の1人として心が湧き上があらずにいられない。各レースで1着になったウマ娘達は皆それぞれ格別な魅力を持つ者達だ。その中でもスカーレットとウオッカの放つ輝きは少しだけ抜きんでていた……そう思うのは僕の贔屓目があるからだろうか

 

 

「メイクデビューなんてもう何十回と見て来てるけど、飽きねえよなぁ」

 

「ええ。実に……いい一日でした。レイヴン、君も会場に来ればよかったのに」

 

「仕事が山盛りだから。でもこの目で見たかったわね」

 

 

 ソファーに座る彼女と大丸さんの前にグラスとお皿を並べて行く。とはいえ大層な物は用意できない。茹でたパスタに買い置きしてある出来合いのソースをかけた物と、余った野菜を簡単に切って盛っただけのサラダ。工夫のない夕食を前にしたレイヴンの瞳が不満気に垂れ下がった

 

 

「地味」

 

「出口はあちらだよレイヴン」

 

「嘘。とてもド派手な夕食。痛み入るわ」

 

「それはなによりだ」

 

 ライブが終わり彼女達を学園へと送り届けた後、僕と大丸さんはいくつかの事務仕事を片付けねばならなかった。誠に面倒な事ではあるが、スカーレットとウオッカの今後の活動に関しての仕事でもある以上疲れた身体に鞭打たねばならない。日付が変わろうという時間でようやく寮へ戻って来た僕と大丸さんは少し話し足りないというのもあって一緒に夕食を取ることにした

 

 なんでレイヴンもいるのかはよく解らない。普段あまり学園から出ない彼女は今日も例外なくいつもの如くタキオンの研究室かチームハウスで仕事に当たっていた筈だしいくらでも夕食を取る機会はあっただろうに、どうやら僕達を待っていてくれたのだろうか

 

 

「でもよかったわね。2人共問題なく結果を残せて」

 

「うん。2人は本当によく頑張ってくれた。当然大丸さんとレイヴンのお力があってこそではありますが、僕も鼻が高い」

 

「いや。スカーレットとウオッカに関してはお前に任せた部分も多かったが、俺から見ても指導に不足は無かった。うん、やっぱりお前はやればできる奴だよ大和。これからもしっかりな」

 

 

 大丸さんは大きな身体を揺らしながらバシバシと僕の肩を叩く。走りに関しての指導の殆どは彼と先生のやり方を見て学んだものだ。ウマ娘の指導とは上手く行った先例をなぞって真似をしても効果が出ない事も少なくない。当たり前の事だが、彼女達1人1人違った色があるのだ

 

 僕達トレーナーの意義の殆どは、彼女達自身でも理解していないそれを見極め彼女達が最も輝ける道へと導く事にこそある。優秀なトレーナーとして長く活躍している人達はそれがとても上手い。大丸さんは言わずもがな、レイヴンもその資質が高い。かくいう僕はそれほど自信は無いのだけれど

 

「お前は可愛がりがすぎるからな。見る眼が無いとは思わないが、なんでもかんでも利点だと褒めちまう。放っておくと際限なく甘やかすだろ?」

 

「他に誰もいないのなら飴も鞭もやりますよ。でもあなた方が居てくれている内は、僕は両手いっぱいに飴を持って彼女達の傍にいてあげたいんですよ。試練が必要とあれば甘くない飴も配りますけど」

 

「俺も別に鞭は打たないが」

 

 

 大丸さんが心外そうな顔でそう言うが、まあそうだろう。彼はムーンシャインのリーダーだ。このチームがゆるっぽい空気なのは僕がどうこうというよりこの人がそういう人だからだ。ドンと構えてなんでも受け入れ、20年近くトレーナーとして実績を残し続けている。ある意味では理想像の1つだろう。それにまあ彼の形相で鞭持ってたら絵面が凄まじく暴力的過ぎる。通報だよ通報

 

 

 軽く用意しただけの夕食が片付くのはあっという間だった。今日のレースについての話は尽きそうになく、大丸さんがポンと膝を打って素敵な提案を出してくる 

 

 

「そういやぁ、世話になってる記者の人から差し入れで良いワインを貰ったんだ。めでたい席だし、一丁空けるとするか」

 

「素晴らしいです。ならばとっておきのチーズを引っ張り出すのもやぶさかではありません」

 

「楽しみ。今宵もパーリナイね」

 

「……あ、ダメだな。大和お前はもう寝ないとな。昨日の今日だ、身体を労われ。明日の午前も寝てて構わんから疲れをとるように。あの子達に明日元気な顔を見せてやらんとな」

 

 

 自分からあんな魅力的な提案をしておいて急に真面目な話を出すなんて一種の嫌がらせだろうか。そう思ったが大人しく了承の返事を返す事にした。僕だって流石に反省はしている。レイヴンがからかうような目つきをこちらに向けて来るのは若干不愉快ではあったが、大丸さんの矛先がそちらにも向いた事で少し気が晴れた

 

 

「レイヴンお前も人の事は言えんぞ。食べ終わったなら部屋に戻ってさっさと休みなさい」

 

「……」

 

「そんな目するなレイヴン。……確かに、私生活に口は出さんとは言った。お前達ももう大人だからな。だが俺は一応お前達の保護者の立ち位置だ。今回は大事にはならんかったかもしれんが、こんな事が続くようなら兄貴達から俺が怒られるんだぞ。注意くらいはさせてくれ」

 

「……うん。気を付ける」

 

 

 レイヴンは叔父からの説教を嫌がったのかお皿も下げずにふらふらと部屋から出て自分の部屋へ戻って行った。後片付けはやっておくぞ、という大丸さんのありがたい提案を断り彼を見送った後僕も早々に床に就いた。まあ早々って言っても部屋に帰って来れたのが日付の変わる1時間程前とかなので、もう既に寝る時間としては遅い

 

 

 暗闇の中で目を閉じる。僕の頭の中では今もターフを駆けるスカーレットとウオッカの姿がチラついている。彼女達の歌声が脳内でくるくると回っている。一瞬の出来事だったが、僕の心に鮮烈なイメージを刻みつけていた

 

 

 深く息を吸って、ゆっくりと吐く。刻み込まれた情景に想いを馳せながら僕の意識は徐々に深く沈んでいく

 

 

 ああ、また明日も彼女達に会いたい。希望をくれるウマ娘達に。喜びをくれるウマ娘達に

 

 

 彼女達が笑っているのを見ながら僕も笑う。いつものように、しかし特別で代えがたいそんな時間が待ち遠しい

 

 

 おやすみ、と呟いた声はどこへともなく飛んでいく。返事は当然返って来ない。それでも僕は満ち足りた気持ちで意識を手放した

 

 

 

 

 

 

 

 

 





なんか最終回っぽい締め方になっちゃいましたが大丈夫です。お兄さんが1人寝落ちしただけです


ウオッカちゃんのライブ描写は・・・また違う機会にしっかりやります。ごめんなさい・・・!お詫びにバイク買ってあげるから!いつか!



感想いつもありがとうございます。一応今回のお話までが第一部みたいな区切りだと個人的に勝手に思ってます。次回からは第二部です。プリティダービーに花束を2です。何も変わりません。よろしくお願いします


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