あと前回『精神的動揺による誤字は今後一切ない』と言いましたが普通に誤字してました。あれです、精神的どうのこうのよりタイプミスなので。しょうがないと思います。はい、許してください
トレーナー。国家資格である免許を取得しウマ娘専属の講師としての能力があると認められた者が名乗る肩書だ。世界各地にある拠点に所属しウマ娘達を指導するのが主な役割である
そして、今僕が所属している『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』で働く為には免許とはまた別に必要な資格を___中央のライセンスを得なくてはならない。手に入れるにはそれはそれは厳しい審査を通過する必要がある。或いは……
「コネだよ」
「はぁ?」
スカーレットはぽかんと口を空けたまま固まり、彼女が手に取ろうとしていたお菓子は横からかっ攫われた。スカーレットが正気に戻る頃には隣に座っていたウオッカの口の中に消えてしまっていた
「お、これ美味いっすね」
「ああ。高そうなのを選んで持ってきたからね」
「ちょ、ウオッカ!何してんの!!」
「へへーん、隙を見せるほうが悪いんだよ」
午後の日差しがトレーナー室を明るく照らしている。最近購入した真新しいソファーに並んで腰かけながら取っ組み合いをする2人を机越しに見つつ、僕は薄い紅茶を一口飲む
「っていうかなんでアンタがいんのよ!ここはアタシの部屋よ!」
「いやここは僕のトレーナー室だね。……ああ、つまりそういう事か!悪いね、すぐにでも私物を片付けて君の為のスペースを___」
「そこから先、言葉には気を付けなさいよトレーナー……!」
顔を真っ赤にしながら拳を振り上げるスカーレットは非常に魅力的で___いや、ごめん。ちょっとからかいすぎた。フンと荒く鼻息を吐いてウオッカを一発シバいた後、スカーレットは姿勢を正して改めて僕に問いかけた
「続き、聞かせてもらえる?」
「ああ、いいよ。昼休みの暇つぶしには丁度いい下らない話だ」
またまた一口紅茶を含み喉を潤してから話を続けた
「中央のトレーナー。ウマ娘の指導者ならば喉から手が出る程欲しい肩書だ」
「そうでしょうね。中央には高い目標を持ったウマ娘が集まってくるわ。トレーナーとしてそこに籍を置いてれば日本一のウマ娘を育てられるチャンスも多くなるものね」
「死ぬ程給料が良いんだ」
「なんですって?」
「トレセン学園は半端じゃない額の給料をくれる。ここはもう何年も前からウマ娘に対してトレーナーの数が足りていないし、トレーナーではない職員も重労働だが見合っただけのモノは貰っている」
人々が求めるウマ娘とは未来を感じさせる様々な可能性を秘めた原石だ。しかし求められるトレーナーはどうだ?未完成の原石を好んで引っ張ってくる変わり者は少ない。当然、極限まで狭められた門を通過したエリートこそが求められる
「だがこれも難しい。優秀で生真面目、堅実でやる気に溢れている___同じような者ばかりが集まりがちだ。ウマ娘は1人1人違った個性を持ち、それに合った適切なパートナーが必要だというのにね。かと言って門戸を開きすぎるのも問題だ。近年では減ったが、ウマ娘とトレーナーが仲違いの末事件に発展する……なんて話は全国的に見れば未だちらほらある。歴史あるこの学園でそんな不祥事を起こす訳にもいかない。
そこでこの学園に用意されたのが、トレーナー推薦というものだ。多大な実績を残したトレーナーに認められた者が、この学園の職員としてやってくるんだよ。審査が一切ないと言う訳ではないし、それ相応の試験のようなものはあるんだけどね」
「へー、マジかよ。初めて聞いたぜ」
信じられねえ、と首を振るウォッカとスカーレットだがここに証拠が居る
「周りに優秀な人が多くてね。就職先を探してふらふらしていたんだが、縁あってこうしてここに座らせてもらう事が出来たってワケさ」
生まれついての次男坊気質。責任を負いたがらず、媚びを売るのは上手いが何をやらせても半端者だと後ろ指を刺されたものだが、流石に中央のトレーナーの肩書を背負ってみれば周りの目も変わる。僕は晴れて『どこへ出しても恥ずかしくない大人』になったという訳だ
「僕のこの学園での立ち位置はサブトレーナーだ。身内がやっているチームでお世話になっている。担当トレーナーとして名前を貸したことはあるけど、それこそ1から10まで面倒を見た子は今まで1人もいない。張りぼての実績しか持たない男なんだ」
「……」
「スカーレット。色々とあるが僕が良く思われていない一番の理由はそういう事さ。熱意をもって挑んでいる訳でもなく、そのくせ表舞台にはちょっかいをかけてくる。そんな男を目障りに思わない者はいない」
彼女は何も言わない。僕が話終わるのを待っているのだろう。いつもは食い気味に突っこんでくる彼女がこんな時ばかりは静かにしているのは少々心にくるものがあった。恥ずかしい話を切り上げたくて、或いは不安を誤魔化したくて僕は肩をすくめて笑いながらこれで話は終わりだよ、とばかりに彼女に問いかけた
「失望したかい?」
「そんなつまらない質問に、返事しないといけないのかしら」
「ああ。他の誰にどう思われても何ともないが、君にどう思われているかが気になって仕方ない。つまらない男なんだよ」
「……アンタ、アタシを1番にする覚悟がないってワケ?あれだけ言ったのは嘘なの?」
「それは違う。僕は君を頂点へ導く為に自身の全てを賭ける覚悟がある。こればかりは本当だ」
思わず身を乗り出すようにして口早にそう言った。これだけは伝えなくてはならない。みっともない事に、僕の胸に燃え盛っているこの思いを疑われるような事はあってはならないんだ。そんな事があっては僕はとてもじゃないが耐えられない
「そ。ならいいんじゃない?言っとくけどアンタがアタシを選んだように、私もアンタを選んだのよ」
彼女の紅い瞳は一切の曇りなく僕を見据えた。ああ、この目だ。この目が___僕を焚き付けたんだ
「アンタがどんな人であれ、その思いは信じるわ。アンタがアタシの思いを信じてくれたようにね」
ああ。腹の底から湧き上がってくる心地よい感覚に思わず身震いしてしまう。ダイワスカーレットは普段はツンと釣り上げている赤い瞳からは想像もできない程の、柔らかさすら感じさせる視線を僕に向けてくれていた。この思いに応えなければならない。僕は薄っぺらい笑顔を捨てて、振り絞るように声を出した
「ダイワスカーレット。改めて君をスカウトしたい。君の夢を叶える手伝いを、ぜひ僕にさせて欲しいんだ」
「ええ。受けてあげる。覚悟しなさいよ、トレーナー!アタシ、かなり我儘なんだからね!」
僕が差し出した手を優しく握りしめながら彼女は明るく笑った。見ているだけで胸に詰まっていた淀みがスッと流れるようなその笑顔に僕も自然と頬が緩んだ。交わす言葉こそ出て来ないが、僕と彼女の気持ちは1つだった。その確信があった
「……くぅー!感動したぜッ!!!」
「うっさいわね。なによアンタまだいたの?ほら出口はあっちよ。あ、使ったコップは流しの左側に置いといてよね。洗うのはやっとくから」
「ああすまねぇ……いや帰らねえよ!それよりも……アンタ、熱い男だったんだな!感動したぜ!」
「ふむ。僕の心に火が付いたのを感じる今、それを否定する訳にはいかないかもしれないね」
「あのさ、ちょっと相談あんだけどよ!俺も___」
「ダメよ!!!!!」
「「!?」」
爆発音のような叫び声がトレーナー室を揺らした。前のめりになっていた僕は衝撃に押されるように背後の椅子に倒れ込み、何か言おうとしていたウオッカは驚きの余り一瞬意識が飛んだのか白目を向いてソファーの背に崩れ落ちた
「す、スカーレット。いい肺活量だ、感動したよ。しかし今後は少し気を付けるようにね。部屋のガラスも僕の鼓膜もひ弱なんだから」
「わ、悪かったわね。それじゃ今日は帰るわ。ほらウオッカ立ちなさい!帰るわよ!」
「ちょ、スカーレット!?放せって、俺は___」
騒ぐウオッカを引きずりながらスカーレットは慌ただしく出て行った。僕は曖昧な挨拶でそれを見送ると、席を立って部屋のガラスが本当に割れてない事を確認するついでに外を眺める。遠くに見える練習場では豆粒のように小さなウマ娘達が走り回っていた
「ふぅ。これから、少々忙しくなるね」
<コンコン>
誰かが部屋をノックする。来客の予定は無かった筈だが、拒絶する理由もないのでどうぞと声をかけるとガラリと引き戸が開けられた
「失礼する」
「ああ、エアグルーヴ。どうしたんだい?おやつでも食べに来たのかな?」
「ふむ、おやつの件である事は間違いない。チームハウスに保管しておいた会長用の菓子が無くなっていたのでな。知らないかと思って尋ねた」
「……」
「……」
ふーむ。奇しくも第一話と同じような位置関係だ。僕は窓際、追うものは入り口近く。二度同じミスをする僕ではないという所を皆さんにお見せしよう。僕は素早く窓に手をかけて
「そう来るだろうと思ったぞ」
ポンと肩に手が置かれた
「流石の読みだねエアグルーヴ。今回は君に勝ちを譲るとしよう」
「何を言っとるんだ全く。チームハウスに物を置く時は間違えないよう色分けした棚に保管しようと言ったのは貴様だろうが!解っていて持って行ったな?」
「……すまなかった。だけど同じ物がまだたくさんあっただろう?僕が頂いたのはその内の1つに過ぎない筈だよ」
「全部無くなっていたが」
「とすると、他の子だろうか?仕方ない、替わりと言ってはなんだけどここにあるものをいくつか持って行くといい」
「何が仕方ないだバカ者」
エアグルーヴはぶつぶつと文句を言いながら僕の部屋の棚を漁っていた。その様子を眺めるでもなく椅子に深く腰掛けて黙り込んでいたが、不意に彼女が話しかけて来た
「本気か?」
「うん?」
「ダイワスカーレットの事だ。随分惚れ込んでいるじゃないか」
「ああ、本気だ。彼女の言葉を使うなら、『そういう風になってしまったんだからしょうがない』と言った感じだろうか。本気になってしまったんだから、やるしかないのだろうさ」
「___『他人の夢を背負うなんて怖い事をやるのは御免だ』などといけしゃあしゃあに言っていた男が、随分恥ずかしい事を言ったものだな」
「ふふ、そうだね。よりによって君の前で口を滑らせたあの時の僕は、本当にバカだったよ。反省しているから、もう追いかけ回すのはやめてくれよ」
「そんな事はせん。これから真面目に働くならな」
「前までよりかはそうなるだろうさ」
僕のふざけた返事を聞いて彼女は呆れたように、それでも笑っていた。そういえば、いつの間にか彼女とは多少なりとも冗談が言い合える関係になっていたな。最近は怒髪天の彼女に追いかけ回される事も減り、少々寂しさもある。だが関係性とは常に変化するものだし、互いに成長したという事を喜ぶべきなのだろうな
「___おい貴様!ここにあるのはなんだ!?ゲーム機に漫画本の山……!しかもここにある扇子も見覚えがあるぞ。理事長が『紛失ッ!』と叫びながらあちこち探し回っていた筈の物だな!どういうことだ!?」
「おっと、そこに隠したんだったな。忘れてくれないかな?」
「……そこに直れ!専属トレーナーになるというのならその心根を叩き直してやろう!」
それは困る。彼女は本当に物理的に叩き直そうとする所があるのでね。僕は窓の下に事前に用意しておいたクッション目掛けて飛び降りた。やれやれ、明日は筋肉痛にならないといいけれど。2階から聞こえて来る怒号から一歩でも遠ざかる為、僕はよく管理された花壇を目で楽しみながらも全力で駆け出した
ウマ娘の皆さんの学年とか世代はアニメでもアプリでも結構違った感じがしたのでこのお話でも多分独自の設定で行くとか思います。ゆるしてね……