プリティダービーに花束を(本編完結)   作:ばんぶー

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おっとミキリハッシャマンここで足踏みか!天井まで後半分といったところで一度ストップ!これはどうしたことでしょう!アグネスデジタルさんのピックアップは9月いっぱいで終了ですからあまり余裕はない筈ですが!?



石が足りないのではどうしようもない、といった顔ですね。課金も限度がありますから



しかし天井の半分まで追っかけたのならもったくないですか?



もったいありませんねえ。意志さえあれば石はいくらでも湧いてくる筈です。甘えずにぶっこむ姿勢を見せて欲しい所ですが



そうですねー。あー行った!ここで行った!一万円を取り出すミキリハッシャマン!しかし周りに取り押さえられています!生活費を削ってまでの課金は控えたいところですがどうでしょうか!



まあ生活はどうにでもなるでしょ。いけるいける












秋はほのぼの、やうやう太くなりゆく腹際

 

 僕はカウンセラーを気取るつもりはない。いや、これまでいっぱしの相談家気取りで様々な悩みを抱える彼女達に対し偉そうな口を挟んでいたように見えるかもしれないけれど、ただあくまで『あ、なんかいけそうだな』って時にキメ顔をしながら彼女達の背中をそっと押してあげていただけだ

 

 

 つまりまあ大したことしてあげられないのだけれど、『どんな下らない相談をしても心が痛まない大人』としては絶大な信頼を寄せられている。そんな僕のスマートフォンには結構な頻度で色々なウマ娘達から様々なお便りが寄せられる。今夜のご機嫌なナンバーはラジオネーム『4気筒に恋するウマ娘ちゃん』さんからだ

 

 

[腹減った]

 

 

 これ悩み事か?違うだろうな。腕のいいラジオパーソナリティならこんな何気ない一言メッセージからご機嫌なトークで場を繋ぐのだろう、だけど生憎僕にはそんな責任は無い。しかも一応仕事中だった。

 

 どうでもいい仕事ならほっぽってウオッカの雑談に付き合ってあげる所なのだけれど、今に関してはちょっと難しい。しかも相談内容がこれでは猶更後回しにしたくなる。ただ無視というのはいただけない。どうしたものかと頭を捻った僕は、すぐさま適切な返事を思い付くことができた

 

 

 電気ポットのスイッチを入れると、棚から普段は食べないような少しお値段が張るカップラーメンを取り出す。蓋を開けてお湯を注ぎお箸で蓋をした様子を写真に収めて、メッセージを添えず無言で送信した

 

 

 現在時刻は深夜23時を少し回った辺りだ。いや僕にとって夜はこれからだが、寮生活を送るウオッカは既に消灯時間も過ぎている。かわいそうだとは思うが、僕の飯テロを喰らってむせび泣いて欲しい。これも教育なのだ。ああ、皆さんなんとなく察したかもしれないが僕は少々疲れていた。なので仕方ないんだ、うっかり操作を間違って……グループチャットに送信してしまった。チームの

 

 

 

〈ピロンピロンピロン〉

 

[急にこんなの送ってくるとかどういうつもりなんすか!?]

 

[ゆるせねぇ……これが大人のやる事かよ]

 

[トレーナー、こんな時間にインスタント食品とはあまり感心せんな。私生活全てに口を出そうとは思わんが、仮にも教育者の立ち位置だ。不摂生を控える姿勢を見せるのも大事だと私は思うが。そもそも何故こんな写真を送信したんだ?]

 

 

 これは参ったな。というより皆反応が早すぎないか?今は寝ている時間じゃないのか?

 

 

[それはそれ。これはこれ]

 

[今は私達が大和サブを攻撃してる番だから、終わるまでは守備に徹してもらえる?]

 

 

 別に彼女達を攻撃しようという意図はない。ただ寮で決められている消灯時間の後に凄まじい速度で返事を返したウマ娘達に対してエアグルーヴの説教が飛び火していく様子を見ると、まあなんというか申し訳ない気持ちになったので素直に誤爆の件を謝る事にした

 

 

 ちなみに秋になるとトレーナー達が気を付けなければならない事がある。夏の間に身体を鍛えたウマ娘達の食欲は、涼しくなっていく毎にうなぎ上りになっていくのだ。思春期の育ちざかり、食えば食う程強くなるとはいえ限度がある。僕の飯テロに感化されて食欲を暴走させるようなことが起きては事だが、まあ大丈夫だろう。皆自制心がとても強いからね

 

 

〈バァン!〉

 

 

「私にもちょうだい」

 

 

 問答無用のエントリー。白衣を肩に羽織ったホワイトレイヴンがトレーナー室へ飛び込んできた。いつもの美貌にも若干の疲れが滲んでいる辺り、仕事に追われているのだろう。チーム全員の練習メニューを担当する彼女の仕事量は実際凄まじい

 

 全員のデータを常に最新の物に更新し続け、各々の目標レースに向けてどのような調整が必要なのかを大丸さんと打ち合わせてから適切な負荷を導き出す

 

 それこそ1日の大半をウマ娘達の事だけに費やさなくては成立しない仕事量を数十人分問題なくクリアできるのは、彼女が常人離れの情報処理能力を持っているからこそだろう。尊敬に値するし、到底真似できない。手伝ってあげたいのは山々だけど、試しにスカーレットとウオッカの練習メニューを考えて提出してみたところ

 

 

『頑張ってるとは思う。70点』

 

 

 と非常にまじめな顔で突き返された。身内贔屓で甘めの採点なのか一流から見て真剣に評価した結果なのか、それを聞くことはしなかった。どうにせよ100点を頂けなかった以上僕がこの件に口を出すべきでない事は確かだった。彼女が自分のやるべきことをやり遂げているように、僕には僕のするべきことがある。そこで100点の働きができれば、顔も立つというものだ

 

「つまり僕がやるべきこととは、疲れている君の為にカップ麺を作ってあげる事だね。座りなよレイヴン」

 

「ありがとう。いただくわ」

 

「___おいおいトレーナーくぅん。人にはさっさと寝ろなんて言っておきながら……良い御身分だねぇ?」

 

 するりと部屋に入って来たアグネスタキオンがレイヴンの隣に腰を降ろした。彼女も一応寮住まいではあるが、消灯時間を守らなくても怒られたりはしない。それは本来彼女の学年であれば寮に住む義務から解放されるからだ。希望すれば学園外に自分の部屋を持つこともできる

 

 それでもタキオンが学園に所在を置いているのは、彼女の生活力が壊滅的なのと学園にいる時間が長い方が彼女の研究が捗るからである。夜遊びは許されないものの、学園内にいる限りは自由な行動が許されている。といっても限度はあるが。現にトレーナーであるレイヴンはあまり嬉しそうな顔はしていない

 

 

「カップ麺は塩分が多すぎるし身体に悪いわ。あなたそういうの嫌いでしょう?」

 

「確かに栄養バランスの面から見てアスリートが摂取するには不適切だと判断せざるを得ない。だからそういったものは私にとって全く必要のないものだ……そう考えていた時期が私にもあったのは認めよう

 

 しかしだ。食事とは栄養補給だけを目的に行われるものではなく、精神的なケアも兼ねるものだということだよ。食事をすることでしか得られない美味しい、楽しいといった感情は健全なメンタルを維持しモチベーションを引き上げ___」

 

「結論」

 

「私にも一口おくれよ。ねぇねぇ」

 

「……一口だけ。それだけよ」

 

「ふっふっふ!いいねぇいいねぇ!あ、美味しいじゃないか。ふぅン、インスタントもピンキリだねぇ……」

 

「タキオン。一口だけと言ったでしょ。食べすぎ」

 

「かたいこと言うんじゃないよ。半分こだよ半分こ」

 

 

 僕が学園に来る前のアグネスタキオンというウマ娘はあまり食に関心が無く、それどころか必要な栄養素が詰まった食料をミキサーにかけるなどといった食事で腹を満たしていたらしい。そんなかつての彼女の様子をいくら語られても、僕にはあまり想像がつかない

 

 

 ちょっとした差し入れの1つにも目を輝かせて感想を言ってくれる今の彼女が僕は好きだし、レイヴンもきっとそうなのだろう。1口と言わず半分、いやこのまま完食まで行きそうなタキオンを咎めるレイヴンの様子もどこか穏やかで楽し気で___いや穏やかかな。本気でキレそうになってないか彼女。大人気ないぞ

 

 

 やいやいとカップ麺を取り合う2人の争いに終止符を打つ為、僕は棚からもう一つカップ麺を取り出す羽目になった。これ結構高いし、期間限定販売で貴重なやつなんだけど。まあこうなるだろうな、とタキオンが姿を見せた時から解ってはいたんだけどね

 

 

 

 

_________________________

 

 

 

 

「……」

 

 

 ウオッカは右に一度寝返りを打ち、布団を抱き枕のように足の間で挟み込んで身体に押しつける。いい匂いのする柔らかな布団を抱きかかえているととても幸せな気分になる。なるのだが、問題は眠気を吹き飛ばす程の空腹感だ

 

 

「ハラ減った……」

 

「……言わないで」

 

 ウオッカの呟きに応えたスカーレットのお腹がぐぅっと小さな音を立てる。スカーレットにはそれを恥ずかしいと思える程の気力も無かった。2人は薄暗い部屋の中、ベッドに寝転んだまま互いに顔を見合わせた。時刻は日付が替わる直前ではあったが、2人の目はギンギンに冴えていた。寝転んだままウマホを眺めていたせいでもあるのだが、なによりお腹が空いて仕方がなかった

 

 

「トレーナーがあんなモン送ってくるのがワリぃんだよな。どうすんだよこれ」

 

「どうするって、水でも飲んで誤魔化すしかないでしょ。こんな時間に食べたりなんかしたら……」

 

 

 食べる、という言葉を発した途端脳内に浮かぶ色鮮やかな情景。あまりに暴力的な欲求に自制が吹っ飛びそうになったスカーレットは起き上がってベッドに座り込み深く深呼吸した。落ち着かなくてはならない。夜八時以降に食べるのはダメ、と母親に言い聞かされていた。ウオッカだって似たような事は散々言われてきた

 

 

「スカーレット。こんな時間にカップ麺はやべーよな」

 

「ええ。ダメ。絶対ダメ。やっていい訳がないわ」

 

「ああ、解るぜ。色々あるよな。消化に悪い、肌に悪い、体重が無駄に増える。ああ、色々あるよ。それでもだ」

 

「アンタ解ってんの?アタシ達の食事に関してはトレーナー達が一生懸命管理してくれてるのよ。それを裏切るってことになるのよ?トゥインクルシリーズに挑戦するウマ娘としての自覚が足りてないんじゃない?」

 

「『夜食』をするぜ」

 

「だから気に入ったわ」

 

 

 スカーレットもおかしくなっていた。人は時にお腹が空きすぎて眠れない時がある。ウマ娘にも当然ある。そしてこういう時は我慢こそ毒。どんな偉人だってお腹が空いたらカップ麺くらい食べるだろうと開き直った2人は布団を跳ね除けてベッドに腰掛け、枕元の電灯を点けた

 

 

「んでなんか食うモンある?」

 

「そうね……。うーん、レイヴンさんから貰ったプロテインならあるわ」

 

「腹には溜まるけどなぁ。でもやっぱカップ麺食いてえんだよな。まあここにあってもお湯がねえけど」

 

 

 2人が過ごす寮の部屋にはトイレとシャワーは設置されているが安全面を考慮して調理設備の類は無い。替わりに寮の各階に調理室が存在し、必要があれば自由に使う事ができる。昼間は趣味のお菓子作りや個人的な料理の練習を行うウマ娘などで賑わっているそこには、非常用のカップラーメンや冷凍食品等が常備されている事をスカーレットは知っていた

 

 

『横にある箱にお金を入れれば好きに持ってっていいからね。ただし消灯時間を過ぎてから部屋を出るのは禁止だから、夜中に食べたくなっても我慢しなきゃだよ?』

 

 

 案内してくれた先輩ウマ娘の言葉を思い出しながらスカーレットは財布を手に持った(先輩の教えの後半部分は都合よく記憶から消去された)。ウオッカは薄くドアを開けて廊下を確認する。シンと静まり返った廊下に人の気配はないし当然ウマ娘の気配もない。2人は揃って廊下に踏み出し___

 

 

「やぁポニーちゃん。こんな時間にどうしたんだい?」

 

 

 しかし一歩踏み出した途端2人に襲い掛かる重圧。いつものご機嫌な調子は鳴りを潜め、そのハスキーボイスには聞く者を震え上がらせる程の怒りが込められていた。トレセン学園にある2つの学生寮。その片方である《栗東寮》の管理を任されている寮長フジキセキがいつの間にやら2人の背後に立っていた

 

 

「こ、こんばんはフジキセキ先輩……」

 

「うん。こんばんは」

 

「……あの、その、何をしておいでで……?」

 

「私かい?はは、たまたま寮内の見回りをしていたら調理室でごそごそと物音がしたものでね。よもやと思って覗いてみれば、不届きを働いている者がいるじゃないか。少し私の部屋で話を聞こうと思ってね」

 

 

 にこにこと微笑みながらも機嫌が悪いことは明白だった。その両手で引きずっているものはウマ娘だろう。だが暗くてそれ以上は解らない。まさかムーンシャインの先輩な訳がない

 

「あ!スカーレットとウオッカだ!助けて!援護して!」

 

 まさか先輩達の訳がない。スカーレットとウオッカは全力で視線を逸らした

 

「敬愛すべき先輩達が困ってるんだぞ!助けろ後輩ー!モガッ」

 

「はいはいうるさいよ2人共。……それで君達は?ああ、私達が廊下で騒いでいたから気になってしまったんだね?ごめんよ、できるだけ静かにしようとは気を付けていたんだけど。それともまさか___」

 

「はい。気になってしまっただけです。はい」

 

 スカーレットとウオッカはお財布を全力で背中に隠した。それすら見透かされているような気がしたが、フジキセキは2人の言葉を聞いてにっこりと微笑んだ

 

「はは、そうなんだね。さて、私の両手はもう一杯なんだ。君達2人をベッドまでエスコートして寝かしつけてあげたいのだけど、今は少し難しい。もしここで待っていてくれるというのならすぐに戻ってくるけれど?」

 

「いえ、自分ですぐにベッドに戻ります。はい」

 

「うん、いい子達だ。じゃあまた明日」

 

 

 2人は回れ右をして部屋のドアを閉じた。嫌な汗が背中を伝う。閉じたドアの向こうからは引きずられていく先輩達が喚く声が僅かに聞こえて来た

 

 

『クックック……甘いなフジ寮長。我らムーンシャインの作戦に隙は無い。今頃後詰の連中が手薄となった調理室に突撃し暴食の限りを尽くしている筈だ……』

 

『そうだそうだ!私達2人は所詮捨て駒に過ぎないのだ!』

 

『……ふうん?で?』

 

『『捕まえるのに手を貸しますから私達2人だけは見逃して下さい……!』』

 

『あのねぇ……』

 

 

 情けない命乞いが聞こえたような気がしたがしかし2人は何も言わず、ただ静かに部屋の冷蔵庫から麦茶を取り出してコップ半分程注ぐとゆっくり呑み干し、黙って布団に潜る。遠くの方で何かが暴れるような音が聞こえ続けたがそれらは数分もしない内に収まり、そして栗東寮には穏やかな夜が戻って来た

 

 

 

 翌朝、廊下で正座させられている先輩達と視線を合わさないようにしながらスカーレットとウオッカは朝練へ向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





消灯時間後に部屋を出歩く行為は緊急時を除き指導対象です。夜はしっかり寝ましょう。正座させられている先輩達が誰かは皆さまでご自由にご想像してください


番外編のアオハル編を書いては納得いかず書き直し、みたいなの繰り返してたら1週間が経過しそうだったので取り合えず日常回をお出ししておきます。お月見回にするか迷いましたがこういうお話になりました


ちなみに前半の飯テロ周りのネタはこの小説を書き始めたくらいの頃からやりたいお話だったのですが、差し込むタイミングを逃し続けた結果今になりました。そういう「いつかやろうと思って途中まで下書きした結果お蔵入り」みたいなお話を今後ちょこちょこ入れながら時間軸を進めていきます。よろしくお願いします



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