プリティダービーに花束を(本編完結)   作:ばんぶー

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書いてる途中でハロウィンライスちゃんが来ましたのでびっくりしましたわ






噛まれたいですわよね。ふくらはぎとか噛まれたいですわよね






そんでわたくしもウマ娘にして欲しいですわ……





字余り


月より団子よりウマ娘

 良い月だ。この言葉は満月に限った誉め言葉ではなく、半月も三日月も総じて良い月だと言っていいだろうし、カラリと晴れた夜空にぽっかりと浮かぶ鮮やかな月も、はたまた薄い雲が被り朧げな姿の月もこれまた味わい深いだろう。つまりどんな形であれ、月とはいい物だということだ

 

 

 深く身体を預けているアウトドア用の椅子はこの間買ったばかりで今日が初使用になる訳だが、想定以上の座り心地だ。背もたれの角度を調整できるリクライニング機能とさらにもう1つ、足元のフレーム部分を前に引き出す事で脚を伸ばせるベッドのような形に変形できる優れものである

 

 身体を倒して脚を伸ばす。もたれかかった姿勢で目を閉じるとまるで自分が夜空に浮かぶ雲になったかのような素晴らしい安らぎを提供してくれる。うん、ここまで頑張って運んで来た甲斐があったというものだね

 

 

 僕はその姿勢でしばらく秋の虫の軽やかな鳴き声の合唱を聞きながら___

 

 

「わー!いいお月様だねぇ!ほんとにまん丸だね、ライスちゃん!」

 

「うん、そうだねウララちゃん。お団子みたいだね」

 

「ほんとだねぇ。お団子もっと食べたくなっちゃった。もらいに行こうよ!」

 

「ちょっとウララさん。あなたもう3つも食べたでしょう?これ以上食べたらお腹いっぱいで眠れなくなってしまうわよ?それにトレーナーさんにもあまり食べすぎないようにと言われているでしょうに」

 

「わわ、そうだった。ごめんねキングちゃん。……でも、もー1個だけ食べたいなぁ」

 

「……仕方ないわねぇ。あとでキチンと歯を磨くのよ?」

 

「うん!キングちゃんとライスちゃんの分も貰ってきてあげるねー!」

 

「こら走らないの!もうっ、ウララさんったら……」

 

 

 ___まあ虫の鳴き声とか殆ど聞こえなかった。そりゃそうだね。皆いるし。でも僕としてはいつでも聞こえる虫の声なんかは本当はどうでもよくて、なによりこの一瞬にしか存在しない青春を楽しんでいる彼女達の様子に聞き耳を立てる事に神経を注いでいた訳だけど

 

 

 我らムーンシャインのチームハウスの屋上はこういった催し事を楽しめるような設計がなされている。水道も電気も通っているし、景観を損ねないながらも安全にも十分に配慮された柵で囲われている

 

 まあ満月を見るだけなので別に寮の窓から静かに見るだけでも楽しめるのだが、このイベントに参加している子達は寮の門限を超過する事が許可されるのだ。高等部になればまた話は変わるが、中等部の子達は基本的には19時には寮に戻っていなければならない。義務教育の年齢である事を鑑みればまあそこまで厳しいものでもないのだけれど

 

 

 とはいえ夜遊びはいつだって幼心を踊らせるものだ。月を見て心を癒す、というよりも合法的に寮の外で友達と遊んでいられるという特別感につられて参加している子の方が多いのは当然といえるだろう

 

 

 

「まあまあキング嬢。君も今日ばかりは周りのお世話の手を止めて、自分の楽しい時間を過ごす事に集中すればいいさ。まあ君が楽しんでウララの世話を焼いているらしいと言うのは聞き及んでいるけれど」

 

「大和サブトレーナー?それは一体誰が言っていたのかしら。……まあどうせスカイさんでしょうけど」

 

「はは、そう怒らないであげて欲しいね。それにほら、お団子はカロリー抑えめになるようネイチャ達が知恵を絞って作ってくれているからね。少しばかり食べ過ぎてしまっても大丈夫さ」

 

「あらそう。それじゃあ向こうでポップコーンでも食べるような勢いでパクパク頬張っているスペシャルウィークさんも止めなくて大丈夫なのかしら」

 

「え、そんなことしてるの?それは止めてあげてくれるかな」

 

 

 上体を起こしてキングヘイローの視線を辿る。月を見上げながらお皿に盛られたお団子をハイペースで口に放り込み続けるスペシャルウィークと、そんな彼女を見ながらにこにこしているグラスワンダーの姿が目に入った。いやグラスも止めた方がいいか悩んでいる様子だったけど、心底嬉しそうなスペを見てなんとも言い出せずにいるみたいだった。彼女はつくづくスペちゃんには甘い

 

 

 溜息を吐いたキングがそちらへ向かってくれたので僕はやれやれと再び寝そべりの体勢に戻った。今宵のお月見会に参加してくれる子達の担当トレーナーの皆様から『くれぐれも食べすぎがないように監視しておくように』と何度も言われている。それなら来ればいいのに、と声をかけたのだけどどうも仕事が忙しいから少し遅れるとのこと。トレーナー業とは本当に大変な仕事だね。頭が下がるよ

 

 

「なんで他人事なのよ。アンタ仕事は?」

 

「今日はお月見の為に早上がりでね」

 

「いっつもそれじゃん。……それより大和サブ。いい椅子座ってるじゃん」

 

 

 僕の横に立ったナリタタイシンがそんなことを言いながら僕の座るアウトドアチェアの肘置き部分をそっと撫でた。吟味するような視線が熱っぽく、何気ないようなその言葉の裏側にもなんだか圧を感じてしまう

 

 

「別に圧なんてかけてないけど」

 

「……ほんとに?」

 

「……かけてないけど」

 

「……椅子、替わろうか」

 

「いいの?悪いね」

 

 やれやれだ。僕が椅子からどくのを待たずに靴を脱いだタイシンがするりと椅子に身体を乗せ、僕をぐいと押しのける。本当にやれやれだ。どっこいしょと僕は椅子から降りた。彼女はしばらく身体をもぞもぞと動かしてべストなポジションを探していたが、遂に落ち着く体勢を見つけたらしくふんと満足そうな鼻息を吐くと嬉しそうに耳をぴこぴこと動かした

 

 

「ふーん、いいじゃんこれ。アタシも自分用に欲しいかも」

 

「あー。ちょっとちょっとタイシン先輩。セイちゃんが座らせてもらおうと思ってたのにぃ」

 

「策を考えてるから掻っ攫われるんだよセイ。諦めな」

 

 タイシンは耳をぺたんと閉じてしまった。聞く耳を持たないといった先輩の態度にセイウンスカイは唇を尖らせた

 

「えーずっるいなぁ。ねね大和さん、もう一個あったりしないの?」

 

「こうなると思ってもう1つ買っておいたんだけど……」

 

「さっすがぁ!」

 

 

 まあ誰かに取られた時用に僕が座る用として買っておいたものではあるのだけれど、小躍りするスカイに差し出す事に躊躇いは無かった。優先順位はいつだって彼女達だからね。僕は横に置いておいた椅子を組み立ててタイシンの横に並べる。嬉しそうに飛び乗ろうとしたスカイだったが、傍で見ていたムーンシャインの先輩達がそれを許す筈も無くこちらへ殺到してくる

 

 

「おうおうまずは先輩からだぞぅ!私を座らせい!」

 

「ちょっ、ルル先輩!横暴ですよー!」

 

「上下関係の大切さを知らないと社会に出た時苦労するのはセイちゃんだからねぇ。私もほんとはこんな事やりたくないんだけど___」

 

「そういうならこういう時は一番の先輩からですよね。つまりグルーヴ先輩?いやタキオン先輩からですけど。どうにせよルル先輩も座れないですよ」

 

「……」

 

「黙り込みながら私をぐいぐい押すのやめてもらえます!?」

 

「こらルル。じゃんけんだじゃんけん」

 

 

 スカイに絡みだしたコットンルルはワンモアダイブがひょいと持ち上げた。じゃんけんに参加する子達を横目に見ながらナイスネイチャがこちらへ歩み寄ってくる

 

 

「ほい大和サン。お待たせしました。ナイスネイチャさんお手製お月見焼きうどんですよ」

 

 コトン、と僕の前のテーブルにお皿が置かれた。焼きうどんの上に申し訳なさげに乗っかった目玉焼きがお月見要素だろうか。まあ月を見ながら食べればなんでもお月見料理だ。大切なのは込められた真心であり、受け取る側が感謝して感動すれば道理が立つ。つまり、美味しいのでなんでもありという訳だ。用意しておいたクーラーボックスから缶を取り出し景気よく開封する。一口爽快感を味わった後に麺をすすれば、濃厚なソースの味わいが口いっぱいに広がる

 

 

「おや、ソースでの味付けなんだね」

 

「ん?あー、前作ってあげた時は醤油ベースの和風出汁っぽいヤツだったもんね。でもほら、目玉焼き乗っけるってなればソースでしょやっぱ」

 

「一理あるね。とても美味しいよ」

 

「お、ほんとに?冷蔵庫の余りを適当に使っただけだから自信無かったけど」

 

「君がやりくり上手だということさ。なんの不足も感じない、完璧な一品としか思えない。まさに極上だよ」

 

「いやいや、ササっと作っただけなのにそこまで大げさに言われるとなーんかバカにされてる感でちゃうんだけどー?」

 

 

 呆れたように手をヒラヒラさせる彼女だったが、耳の動きを見るに僕の賛辞はキチンと受け止めてくれているらしかった。『お腹空いてるなら何か作ろうか』と申し出てくれたネイチャに甘えた訳だけど、やはり彼女の腕前は賞賛に値する。料理の上手いウマ娘は学園にもチームにもたくさんいるけれど、家庭的な温かみを感じさせてくれる彼女の料理は何物にも代え難い。一重に彼女が持つ優しい温かな心が料理にも表れているのだろう

 

 

「なにか変なコト考えてらっしゃる顔ですけど、ちゃっちゃと食べないと冷めちゃうから。ほらほら食べて食べて」

 

「それはいけないね。いや、仮に冷めたとしてもこの料理からは決して美味しさは消え去ったりなんかしないだろうけど。しかし、物理的な温かみ以外にもこの料理からは食べた物の心を暖かくさせる何かが込められている気がするんだ。それが一体どういうものなのかを探求する為にも集中しなくてはね」

 

「隠し味にバター入れてるからソレじゃない?」

 

「ふーむ成程、優しさはバターの味がするのか……」

 

「あーはいはい!解ったから黙って食べてってば!没収するよ!」

 

「解った解った。取り上げるのだけは勘弁してくれ」

 

 

 

 さて。腹も満たされた後はしばらく月を眺めながら他愛ない会話を続けていた訳だけど、ここでおかしな事に気付いた。先程から姿が見えないなと思ったライスシャワーが私服とは思えない恰好で現れたのだ。その横には無表情でかぼちゃを手に持つミホノブルボンと、お菓子の入ったかごをもつタマモクロスが同行している

 

 

「……やぁライス。まさかとは思うけどお月見とハロウィンを同時に回収しようとしているのかい?」

 

「うん、お兄様。ヴァンパイアライスだよ?」

 

 吸血鬼をモチーフとしたゴシックなドレスを黒とオレンジで彩りハロウィンのイメージを重ねてある。そんな彼女は自分で名乗った以上確かにヴァンパイアなのだろう。ぱかっと開いた口の中には小さな牙が見える。妖艶な可愛らしさが秘められている。もしもこの衣装を着た彼女が限定ガチャに追加されでもしたら課金も辞さないだろう

 

 

「でも珍しい組合わせだね。ブルボンとライスの組み合わせはそうでもないけど、君が1人で一緒にいるなんて」

 

「ああ。ブルボンのやつが今年はハロウィンの実行委員長やるっちゅうんで、ウチとクリークがサポートに付いたったんや。今日は衣装合わせのついでに予行演習でもしよかって話やったんやけど……」

 

「ふむ。しかしスーパークリークの姿は見えないようだけど。まさか彼女は透明人間のコスプレでもしているのかい?」

 

「全身に包帯巻き付けて『マミーです~』とかゆうてうろうろしとったら、破廉恥すぎるってんで風紀委員に連れてかれたわ」

 

 なにそれ面白そう。是非とも現場を見て見たかったな。いや、決して破廉恥な感情は持ち合わせていないけれどね。僕はただほわほわした彼女が風紀委員に連行されて目を白黒させているであろう様子を見て見たかったというだけだ。決して他意は無い。そう説明しても尚ネイチャがジト目でこちらを睨むのを辞めてくれないので、話を先に進めて誤魔化す事にした

 

 

「それで、予行演習というと?」

 

「えっと……そういう訳でトリックオアトリートだよ?」

 

「ふむ。こういう時の為に僕の上着のポケットには常にお菓子が入っている訳だね」

 

 

 しかし上着のどのポケットを探ってもお菓子は出て来ない。一応ズボンのポケットも探してみるがでてこない。これはどうにもおかしな出来事だ。おかしだけに

 

「お兄様のポケットに入っていたお菓子はさっきライスが抜いておいたよ。お月見が始まった時点で……!」

 

「ふーむ。いっぱい食わされたという訳だね。ではいたずらという訳だ」

 

「うん!じゃあお兄様、手を出して?」

 

 

 言われるがままにはい、と腕を差し出した。ふむ、ヴァンパイアという事は噛みつきだろう。間違いなく、ほぼ100%そうだろう。僕はあまり痛いのは好きでは無いけれど、彼女がそうしたいというのなら受け入れるつもりであった。もし彼女にガブリと噛みつかれて『同族にしてあげる!』などと言ってもらえた日には人としての生き方を捨てるのもありかもしれない。いやこの場合僕もウマ娘になるということだろうか?うん、なんだかドキドキしてきたな

 

 

「いくよ?えいっ!」

 

 ライスは僕の手の平を両手で握り込むと、親指の付け根と小指の付け根辺りを指でぐいっと押し込んだ。ふむ、めちゃくちゃ痛いね。しかしツボを押されているような妙な気持ちよさもある。どうにも複雑な感情をどう表現していいか解らず、僕は小声で呻くしかなった

 

「……あの、お兄様?気持ちよくなかった?ロブロイさんに教えてもらったツボ押しマッサージなんだけど……」

 

「いや痛気持ちよかったよ。力加減も完璧だった。ライスはマッサージが上手だね。しかしこれだけ上手だと悪戯というより相手を喜ばせるだけの奉仕活動じゃないかな」

 

「え、でもイタズラって他に思い付かなくって……もしかしてお兄様、何かもっと他に良い考えがあるの?」

 

 きょとんとした顔で首を傾げる彼女の態度に裏は無いと思いたい。しかしもしかしたらこれは僕に『噛みついてくれ』と言わせる為の駆け引きではないのだろうか。だとしたら恐ろしい成長を遂げている。彼女から目を離したつもりは無いけれど、この年頃の少女の成長の速さを僕は心のどこかで見くびっていたのだろう

 

「成程ライス。天晴だよ。うん、君の眷属になる事もやぶさかではないとだけ伝えておくよ。いや天晴ってよくないか。ヴァンパイアに陽の光はよくないものね」

 

「けんぞく……?あ、違うよお兄様!別にライス、吸血鬼さんだけどお兄様に噛みつこうとか、そういうアレとかはなくって!!!」

 

「いやぁライス先輩の大胆さは凄いですなぁ。ネイチャさんはとても真似できませんです、ハイ」

 

「ちがっ、違うの!違うのー!!」

 

 

 

 何をしとんねんこいつらは、というタマモクロスのツッコミは夜風に乗って消えて行った

 

 

____________________________

 

 

 

 そんなこんなで満月が沈んで数日後。いつものようにチームハウスに集まってお茶を飲んでいたダイワスカーレットは大和が何気なく発した言葉に首を傾げた

 

 

 

「授業参観?」

 

「そうだよ。普段は生徒の肉親であったとしても学園内には簡単に入れない訳だけど、年に数度その門を開いて生徒達がどのような学園生活を送っているのかを見て頂こうというとても学生らしい素晴らしいイベントがもうじき執り行われるんだ」

 

 

 ふーん、とお茶をすするスカーレットはチラリとチームハウスの談話室を見渡した。どう見ても先輩達の顔色が悪い。いや一部の先輩達だけではあるが、なにか見られたらまずいものを隠していた子供がそれを親に発見された時のような顔色の悪さをしている。まあ例え話というか、多分それで正解なんだろうなと悟ったスカーレットは慣れっこな感じで落ち着き払って話の続きを聞くことにした

 

 

「レース以外での自分達の頑張りを見てもらう貴重な機会だからね。普通は胸に期待を膨らませるものだけれど。ふーむ、皆何故そんなに嫌そうな顔をしているのだろうね?僕には全く見当もつかないけれど」

 

「大和サブめ、他人事みたいな顔しやがって……!」

 

「こちとら毎年ヒヤヒヤしながら凌いでるんだよ!」

 

「おいおい、君達はどこに出しても恥ずかしくない素晴らしいウマ娘なんだよ?君達の事を誇りに思う事はあれど、恥じている親御さんはどなたもいらっしゃらないさ。実際毎年楽しそうに学園に来て下さるじゃないか」

 

 

 大和が半笑いでとぼけたことを言うのに対し先輩達がぎゃんぎゃんと吼える様子から目を逸らしながら、スカーレットも心の中で同意した。確かに先輩達は少々遊び心が過ぎるし、赤点を取ってる人も多いし、授業をサボったり夜に騒いだり問題を起こしたりしている。しているが、尊敬できる面もたくさんある

 

 

「おうスカーレットちゃん。尊敬できる点とやらを何か1つ言ってごらんなさいな」

 

「___先輩方、お茶のお代わりどうですか?アタシ、淹れてきますね!」

 

「逃げるなぁ!私達を褒めてみろぉ!」

 

「捕まえろー!」

 

 

 ツインテールが風に舞う。デビュー戦を終え、さらにその後1つレースでの勝利を重ねたスカーレットの素早さは決して先輩相手だろうと引けを取るものでは無かった。しかしここはレース場ではなく狭いチームハウス。こういった場所での追いかけっこは先輩達に一日の長があった

 

 

 左右から挟まれた先輩達にパワハラという名の可愛がりを受けているスカーレットに助け舟を出すか迷ったウオッカは、しかし巻き込まれる可能性を考慮し知らんぷりを決め込む事にした。スカーレットがどいた椅子に座りトレーナーと正面から向かい合う

 

 

「ウチもそうだけど結構遠くから来てる先輩達もいるだろ?簡単には来れない親も多いんじゃねーのか?」

 

「学園側から交通費が出るし、こちらで宿泊場所もご用意するのさ。未成年を預かっている学園側としても親御さん達の抱えている不安だったり、学生諸君の寂しさを少しでも軽減できるこの機会は是非とも活かしたい。全生徒の親に来てもらえるよう毎年頑張っているんだよ」

 

 

 まあその結果学園で好き放題やってる事がバレて怒られる子達もいるけどね、とトレーナーは笑った。彼自身はそこのところ上手に誉め言葉を添えて話すのだが、授業を担当する先生やら寮長、学園スタッフの面々や友人達全員の口を塞ぐのは不可能だ。愛され系で通っているムーンシャインのウマ娘達ではあるが、お灸を据えるチャンスを伺っている者達も少なくは無い

 

 

 その時、大和の懐から景気の良い電子音が鳴る。電話の着信を知らせるそれに反応してごそごそと端末を探り当てた彼はしかし液晶画面を見た瞬間ぷちっとボタンを押して着信を拒否した

 

「ん?でねーのか?」

 

「……うん。間違い電話だと思う。そうであって欲しい」

 

 

 少し間を空けて今度は少し離れた場所から電子音が鳴る。電話に出たエアグルーヴが訝し気な眼で大和を見ながら丁寧な口調で応対する

 

 

「はい。お世話になっております、エアグルーヴです。……はい、はい。ご子息でしたら目の前にいらっしゃいますが。はい、暇そうにしております。今替わります」

 

 

 ずんずんと部屋を横断してきたエアグルーヴが自らの端末を大和の方へ差し出す。全力で拒否の表情を作り上げる大和ではあったが、エアグルーヴの「諦めろ」の一言で渋々それを受け取った

 

 

「はい。……ああ、いや。ちょっと忙しかったんだ。うん、彼女は確かにああ言ったけどジョークだよ。……ほんとだって。後でかけ直すつもりだったよ。いやほんとに。ね、ちょっと一回切るからね。いや僕の電話からかけ直すだけから。……え、なに?なんで?なんで???いやそれはおかしい……切られた……」

 

 

 しばし力なくうなだれていた彼はエアグルーヴのウマホをゆっくりと差し出した。受け取ったエアグルーヴはため息をついて両手を腰に当ててあきれ果てた表情を隠そうともしない

 

 

「……お怒りだったぞ」

 

「……まあ、そうだね」

 

「自分の母親の電話くらいちゃんと出ろ。何故私が間に入らねばならんのだ」

 

「嫌な予感したからつい……」

 

「用件は、まあ察しはつくがな」

 

 

 大和は大きくため息を吐いて椅子に座り直した。しかし一方のエアグルーヴはどこか楽しそうでもある。一体どうしたのかと尋ねようとしたウオッカが口を開く前に、彼は重々しく言葉を吐き出した

 

 

「授業参観中止になんないかな……」

 

 

 トレーナーがなんか学生みたいな事を言い出したので、ウオッカも薄っすらとだが事情を察する事が出来た。思い切り笑ってやるべきかどうするか迷った結果、酷く落ち込んでいるトレーナーの肩をぽんぽんと叩いてやる事にした

 

 

 

 

 

 

 

 




たまには次回予告を匂わせる内容で締めようとおもったら長くなっちゃいました。すいません


ファン感謝祭と別で身内のみの学園開放とかあるんじゃないかなとか考えてました。次話はそれになるかもですし、ならんかもしれません



ちなみにわたくしは授業参観の時は張り切って手を挙げるタイプでした。その時先生に「あなたが積極的に手を挙げてる所初めて見ましたよw」とか言われたせいで母上にシバかれました。まじゆるせんでこいつは……


あとタマちゃんの関西弁、間違えるとヤクザさんみたいな口調で書いてしまったりします。文字だけだと関西弁って怖さがでちゃうんですよね。それでタマちゃん実装まだか?
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