とても不幸な事があったのです
爪切りをしたところ、中指がとても深爪してしまったのです
ショックで更新が大幅に遅れてしまったのです
すんませんでございます
字余り
授業参観当日を迎えた学園の雰囲気は妙にそわそわしていた。1年生も2年生も、ひいては3年生のウマ娘だろうと等しくそわそわしていた。高等部のウマ娘達は慣れたものであるが、一部の普段の行いに自信が無い子達だけはそわそわしていた。
別段ウマ娘達の本日の流れに変わった事はない。いつも通りの時間に登校し、いつも通りの時間割で授業を受け、トレーニングを行う。生徒会から配られたプリントにも『特別意識せずいつも通りに過ごすこと』と書かれているのだから、何も肩肘張る必要はないのだ
しかしそんな訳にはいかない。ウマ娘達はこの日に限ってはいつもよりずっと早く起床していつもより気合を入れて身だしなみを整え、そして昨晩徹底的に掃除した筈の自分の部屋をもう一度掃除してから寮を出る。授業参観の後に寮も見学される事を学生たちはよく知っていた
とはいえ日頃から優等生であることを心掛けているスカーレットは本当にいつも通りといった所だった。精々同室のウオッカに飛ばす小言が少し増えた程度である。普段は口うるさいスカーレットを鬱陶しく思うウオッカではあるが、今日ばかりは細かい所に目が届くスカーレットに頼もしさを覚えた
ちゃっちゃと身支度を済ませて教室へと向かう道すがら、生徒会の腕章を付けたエアグルーヴが後輩達に指示を出しながら校舎前に立っているのを見付けた。2人は元気よく挨拶をする
「おはようございますエアグルーヴ先輩。朝からご苦労様です」
「おはようございます先輩!」
「ああおはよう。2人は大丈夫そうだな」
「……え?大丈夫じゃない人もいるんですか?」
「___さぁ、さっさと教室へ入れ。今日は自分達の事だけに集中して、見に来てくれる保護者の方の想いに応えるように努めるんだ」
一瞬の間でなにを回想したのか、額に青筋を浮かばせ顔を歪ませたエアグルーヴだったがすぐにそれを消し去り後輩2人に優しいアドバイスを送った。彼女の精神はここ数日でとっても疲弊していたが、それら全ても今日で一旦の片が付く。そう信じて彼女は疲れた頭を無理に稼働させ、普段トレーナーがしているような余所行きの笑顔で接待モードを維持していた
この話題にはあまり触れるべきではないと悟った賢い2人は素直に校舎の中へと入った。普段より気合を入れて清掃された校舎は朝日で光り輝き新品の建物のようになっている。靴跡を付けないよう今日ばかりは皆静かに廊下を歩く
そして2時間目の授業が始まった辺りで遂に校舎に人影がちらほらと見え始めた。教師達はそれとなく後ろを振り返る生徒達に気付かぬフリをしながら授業を続けた。休憩時間になると久しぶりの家族との再会を待ちきれなくなったウマ娘達が教室を飛び出していく。ダイワスカーレットもこの日ばかりは年相応の無邪気さを見せるように母親の胸元に飛び込んだ
「ママ!」
「スカーレット。久しぶりね。元気にしてるみたいで何よりだわ」
「ママも元気そうでよかった。忙しいんじゃないの?」
「ええとっても忙しいわ。でもあなたより優先すべきことなんてないもの」
「ママ……!それじゃあこれからずっとレースは観に来てくれるの?」
「うっ。ごめんなさい流石にそれはちょっと……」
「まあそうよね。いや冗談だから気にしないで」
脇に追いやられたスカーレットパパは満足げに頷きながらひたすら写真を撮り続けている。というよりどこの家の父親も大概そんな感じではある。勝負の世界で生きるウマ娘達も思春期の女の子なのだ。そこに少し距離を感じてしまうというのが半分、妻と娘の様子を映像に納めるのに忙しいというのが半分だ。
ウマ娘の母親は大半がウマ娘であり、その中ではトレセン学園に懐かしい思い出を抱えている者も多い。彼女達は我が子が授業を受けている様子を見ながらかつての自分の姿を思い出していた。そしてその夫である男達も自らの愛した妻の若き日に思いを馳せ、静かに涙を流したりしていた
授業を見守る事数時間、当人たちにとってはあっという間にお昼の時間を迎えた。カフェテリアも今日は大入りである。普段より利用者数が数倍なのだから当然大混雑する筈ではあるが、そこは学園側が上手く取り仕切っている。学年で利用時間が分けられている上に、メニューも普段より簡略化されていてスピード重視。とはいえ味は普段から一切劣っていない。スカーレット一家も食事が乗ったトレーを受け取り空いている席へと向かった。
「「あ」」
ウオッカとスカーレットが食堂でばったり出会ったのは偶然という訳でもない。大概同じ場所で食事をとることが多い2人はいつも座る席の辺りに無意識に向かっていたのだ。2人は言葉を交わさずに瞬時に互いの想いを理解していた
「よ、よおスカーレット。奇遇だな」
「え、ええ。あ、初めましてダイワスカーレットです。ウオッカさんにはいつもお世話になってます」
「あ、俺ウオッカです。よろしくお願いします。んじゃまた後でな」
「ええそうね」
互いの家族に対し素早く挨拶を済ませそのまま離れようとするウオッカとスカーレットだったがそうは問屋が卸さない。娘の同室相手となれば聞きたい話は山程あるのだ。2人はがっちりと腕を掴まれ、有無を言わさず同じテーブルに座らされる運びとなった
「あらあらウオッカさんのところの!いつも娘がお世話に___」
「いえいえこちらこそ。スカーレットさんにはいっつも面倒かけてばっかりみたいで___」
2人は肩身が狭い思いをしながら互いの両親がわいわいと目の前で世間話を繰り広げる様子を聞き流しながら無言で相手を睨みつける。なんでここ来てんだよ!というウオッカと、アンタがこっちに来たんでしょ!と言いたげなスカーレットの視線がぶつかり合って花火を散らせる中、互いの母親が肩を突いて来る
「ちょっとウオッカ。あんた散々お世話になってるんでしょうが。態度悪いわよ」
「うーい……」
「もうこの子ったら。ごめんなさいねスカーレットちゃん。これでもウオッカったら、同室相手が面白くていい子で世話になってばっかりだーっていっつも___」
「ちょちょちょ、かーちゃん!!!!そういうのは言うなって……!」
ふーん?と鼻を鳴らしながらにやにやと薄ら笑いを浮かべるスカーレットから全力で目を逸らすウオッカだったが、続いて自分の母親が返した言葉にスカーレットの余裕も吹き飛んだ
「そんな事言ったらウチの子だって。しっかり芯が通ってて気持ちが良い子だって___」
「ママっ!?」
「あら、どうしたのスカーレット?何か聞かれて困る事でもあるの?いつも言っているけど、恥ずかしくても感謝の言葉は素直に伝えないとダメよ」
「そ、それはちゃんと言ってるから……!」
「へー?俺は感謝なんて言われた事ないような気がするけどなー」
「ウオッカアンタ覚えときなさいよ!」
騒がしいながらも楽しい時間はあっという間で(楽しんでいたのは親側だけかもだが)無事に昼食を終えた。午後は保護者に対しての学園からの説明会やトレーナー達との面談がある為一旦別れる事となる。名残惜しくも一旦の別れを告げようとしたスカーレットの所にその男は現れた
普段の抜けた雰囲気は一切なく、きっちりと整えられた髪とキリリとやる気に満ちた瞳。皺1つ無い濃紺のネイビースーツ姿でばっちりと爽やかで真面目な青年を演出する事に成功した大和その人だった
「初めまして、大和トレーナーさん。お電話では何度かお話させてもらってますが……」
「こちらこそ初めまして。ええ、こうしてお顔を拝見させていただくのは初めてにはなりますね。」
普段は少し猫背気味な背筋もピンと伸び、両親と握手を交わしながらいかにも『真面目です』みたいな空気を匂わせるその男が本当に自分のトレーナーかどうかスカーレットは訝しんだ。
というかそういう真面目な感じが出せるなら普段からそうすれば?とでも言いたげなスカーレットの厳しい視線も気にせず、大和は笑顔を絶やさない。彼はスカーレットの父と固い握手を交わしながら周囲に聞こえない程の小声で一言だけ言葉を交わした
『いつも素敵な写真をありがとう』『いえいえご主人。お嬢様の成長の様子を届けるのも我々の役目ですので』といった内容の会話内容をもしスカーレットが聞き取っていたならば両者に対し鉄拳が振るわれたかもしれないが、周囲の騒がしさも作用して奇跡的に彼女のウマ耳にはその会話は届かなかった。握手を終えた彼は次にスカーレットの母の方へ向き直った
「初めまして大和さん。スカーレットに聞いていたよりもずっとハンサムな方ですね。あの子ったら少しばかり言葉遣いが刺々しいから、何か失礼な想いをさせてないでしょうか?」
「いえいえとんでもない。私もまだまだ未熟者、むしろ彼女を不安にさせてしまってばかりです。ですがご安心を。スカーレットの横に立つに相応しい男になれるよう日々精進しておりますので」
「あら、ウチの子なんてそんな。まだちんちくりんですよ?」
「彼女の美しさは既に多くのファンを虜にしています。それに、お母様に実際にお会いして確信しました。スカーレットはこれからもっと魅力あるウマ娘へと成長する事でしょう。彼女はあなたにとても似ていますから。僕はそれが今から恐ろしいくらいです」
「まあお上手。口説かれてるのかしら?」
「僕は美しい方相手にはつい口数が多くなってしまう。悪い癖です。聞き流して下さい」
スカーレットはトレーナーの傍までずんずんと近寄るとその背中をバシンと力いっぱい叩いた。なんかムカついたのと、こっぱずかしいのとが入り混じり彼女のご機嫌はすこぶる斜めになっていた。一瞬呼吸が止まる程のダメージを受けたのにも関わらず大和は表情を崩さず、スカーレットに満面の笑顔を向けた
「ああスカーレット、すまないね。家族水入らずの所だったのに。ではまた後程、改めて。ああ、ウオッカのお母様とお父様!ええ、お世話になっております。いやいや自分は___」
最初は張り切って両親を紹介していたウオッカだったが、どういう話に転がったのか顔を赤くしてトレーナーを追い返そうとし始める。それを意に介さず楽しそうに喋るトレーナーとウオッカの両親。遠目からそれを窺っていたスカーレットは大体の流れを察した。溜息をついてそれから目を逸らし、両親と別れて一足先に教室へと戻る事にした
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「あー疲れた……」
談話室のソファーに溶けるように横になったルルの放った呟きにチームメンバー達が疲れ切った声で同意する。人気者である彼女達は人に囲まれるの自体は慣れっこであるが、授業参観は勝手が違う。普段の素行が特別悪い訳ではないネイチャやライスですらなんだか落ち着かない一日を過ごしたというのに、心当たりがあるメンツの疲労は推して知るべしといった所だろうか
「ルル、めっちゃ怒られてたもんな」
「うん。ママにめっちゃ怒られたぁ……いや褒めてももらったけど……1つ褒められたら3つ怒られるくらいのノリで怒られたぁ……」
「まあ私もこないだ勢い余って教室のドア破壊したヤツでお母さんに拳骨されたけど」
「ダイブは脳筋だもんねぇ……」
「お前は脳みそ自体ないけどなw」
「表に出なよ。キレちゃったわ」
「いい覚悟だ。行こうぜ」
とはいえ2人にもそんな元気は無い。ソファーの上でべしべしと軽く叩き合うくらいが精々だった。トレーナー達と保護者達の面談が終わるまで、ウマ娘達は練習着に着替えて待機するよう指示されている。今日の日程としては、後は練習をしている様子を見学してもらい夕方には解散となる。しかし何人かのウマ娘は練習前だというのに既に疲れきった表情でソファーに倒れ込んでいた
「しかし毎年の事だけど、余所行きモードの大和サブのキラキラ感を見てるとイラっとくるな……。あの人にとっては絶好のからかいタイムでしかないんだろうけどさ」
「つか大和サブなんであんな元気なんさ。昨日くらいまではなんか機嫌悪そうだったのに。ライス先輩知ってます?」
話を振られたライスシャワーは少し呆れたように笑いながら返事をする
「うん。お兄様のお母様が来るっていうお話だったんだけど、忙しくなって今回はやっぱり止めになったんだって。それで元気になったんだと思う」
「えーなにそれ。たわけだよねホント。あたしらには『育ててくれた親にきっちり感謝の気持ちを伝えるのは子供の義務だからね』とか抜かしてたくせに」
大和サブは決して自分達の悪口は言わない。褒める事しかしない。ただ手放しに褒め倒されるのもそれはそれとして恥ずかしい。彼に対してのちょっとした文句と今日の授業参観の感想が飛び交う中、ウマホをいじりながら暇を潰していたネイチャがふと気付いた
「たわけで思い出したけど、グルーヴ先輩おらんくない?」
「ネイチャちゃん、その思い出し方はちょっとどうなのかなって思うな。……でもほんとだ、どうしたんだろう?
生徒会のお仕事忙しいのかな?」
今日の練習はチームメイトの全員が参加する予定だ。当然普段は忙しいエアグルーヴも参加する予定の筈だが姿が見えない。しかしその時、ネイチャとライスの会話を聞いていたのかと思う程の丁度良いタイミングでエアグルーヴが扉を開けて姿を見せた
「なんだ、私の話か?」
「あーいや、そういやいないなーって思いましてね。決して悪口とかではなくですね」
「まあなんでもいいが。私は客人を迎えに行っていたんだ。ほら、全員立って挨拶をしろ」
エアグルーヴに導かれるようにして、もう一人チームハウスへと入ってくる人影があった。黒いスーツに身を包んだ長身の女性は一見どこかのチームのトレーナーのように見えるが、トレーナーバッチの代わりに首から来客用のカードを吊り下げている。という事は学園の関係者という訳では無いのだろう。ウマ娘達は慌てて立ち上がって元気よく挨拶した
「おっと、ごめんなさい。ちょっと様子を見に来ただけの部外者だから、そんなに固くならないでいいのよ?」
彼女はパッと明るく笑うとひらひらと手を振った。安心してほっと胸を撫で下ろすウマ娘達だが、彼女が誰なのかという当然の疑問が浮かぶ。よく観察してみれば、端正な顔立ちではあるがそこそこ年上だろうと言う事が解った。しかし彼女と面識が無いウマ娘達にどこか親近感を覚えさせるような、慣れ親しんだような不思議な雰囲気を放っている
「え、誰だろ?知ってる?」
「いやアタシも知らないけど」
んーと首を傾げて記憶を探ってみたものの、ナイスネイチャにはさっぱり見当がつかない。だが周りを見渡してみれば、高等部の先輩達は全員揃って様子がおかしい。口をぽかんと開けたり、あーと苦笑いをしていたり
取り合えず、ネイチャはすぐ傍で目をぱちぱちさせながら固まってしまっているライスの肩をゆすってみた。ライスはネイチャに肩をゆすられてもしばらく硬直していたが、来訪者である女性が自分に向かって手を振っている事に気付いてやっとこさ正気に戻り言葉を絞り出した
「お……お兄様の、お母様!?」
「「「!?」」」
全員の視線が一斉に来訪者の方へ向かう。彼女はちょっと照れたような笑顔を浮かべた。言われてみれば彼女がウマ娘を見る優しい目つきや、軽い調子の話し方がどことなくサブトレーナーに似ている。かもしれない。と中等部のウマ娘達はなんとなく思ったりした
「お久しぶり、ライスちゃん。ウチの子元気にしてる?」
「は、はいっ。元気です!」
「あらそう。真面目にやってるの?」
「……お、お兄様はがんばってると思います!」
「ああ……大体察したわ。やれやれね。それはそうと、半分くらいの子は初見よね。しっかりと名乗らせてもらうわ。私は
そういってにっこりと笑う彼女の表情は慈愛で満ちていた。だがしかし、ムーンシャインのウマ娘達は自分の母親に説教される時のような居心地の悪さを感じて耳をぺたんと後ろに倒した
週末に男祭りキャンプしたり風邪ひいたりしてました。すいません
これからはがんがん更新します!本当です!嘘だったら三女神様の銅像の下に埋めてもらっても構いませんよ!!!
あとトレーナーの苗字ですが、うまぴょい→うまはね→当て字で胡舞跳です。胡には『胡散臭い(うさんくさい』で使われるように『でたらめ。すじが通らない』という意味があるらいしです。色々候補はありましたが、この苗字になりました。読みにくいですがよろしくおねがいします