寒いなら寒いとはっきりして欲しいですよね。夏服を全てしまってしまったのを後悔していますよ
しかし外で動く分にはあったかい方がいいでしょう!この長いレースも中盤から終盤へ!年末の大一番にかけてしっかりと方針を立ててほしいところです!
風邪だけはひかないようにしてほしいですね。身体が資本ですからね
「むっふー!いやぁ、散々歩いた筈のこの道も久々とあって中々に感慨深いものがありますねぇ」
なむなむ、と手を合わせながらフクキタルはしみじみと呟いた。チームハウスへと続く道沿いの木々は鮮やかな紅葉をつけ、学園を吹く風は少々肌寒い。冬の終わりに日本を発ったフクキタルは冬制服を着てはいるがそれでも寒そうに身体を震わせる
学園に到着して荷物を置くのもそこそこに理事長室へ顔を出して帰国の挨拶を済ませ、その後職員室やら生徒会室やらを回って色々な手続きを済ませている内にすっかり日も暮れてしまっていた。上着を脱いで手渡すと彼女は少し気恥しそうに笑いながら羽織ってくれた
その後もぽつぽつと何気ない世間話をしながらチームハウスへとたどり着いた。フクキタルは目を細めて少し懐かしそうに建物をぐるりと見渡し、それからコホンと1つ咳払いをして喉の調子を確かめると勢いよく扉を開いて声を張り上げた
「じゃじゃーん!なんとなんとのマチカネフクキタルです!恥ずかしながら帰って参りましたっ!」
高々と名乗りを上げるフクキタルの声が響き渡る。チームハウス内のソファーで寝転んでいたウマ娘達がゆっくりと顔をこちらに向け、気だるげに手を挙げて返事を返した
「わー。フク先輩じゃん」
「おかえりっすー。戻るの今日だったんすね。わぁ知らなかった。知らなかったなー」
「ねー。知らなかった。お疲れ様ですー」
ちょっとわざとらしい程の気の抜けた返事が一通り。それで終わった。彼女達はまたソファーにぐでっと身体を投げ出し、ぽちぽちとウマホを弄りはじめてしまった。フクキタルは両手を挙げたポーズで固まり、そのままゆっくりと僕の方を向いた
「え、私が帰ってくるって伝えてくれてないんですか……!?」
「おいおいフクキタル。サプライズにしたいから皆には絶対黙っておくようにと、君が僕に言ったんじゃないか」
帰国に関しての打ち合わせの中でそういった話が出たのは嘘じゃない。しかしフクキタルは納得いかないように頭を抱えてぎゃんぎゃんと喚いた
「フリですよ!そう言っといて、それでも実はサプライズパーティを開催してくれるだろうなぁって厚かましくもそういう読みだったんです!肩透かしなんてもんじゃありませんよ!というか皆さん素っ気ないですよぅ!うぅ、無情です……」
がっくりと肩を落としてしまう彼女を見て罪悪感がないかと言われればそんなことはない。『皆忙しいだろから自分程度の事で煩わせるのは気が引ける。出迎えも歓迎も結構です』と再三言っておいて胸中ではそれなりに期待していただろうなとは解っていたけど、ここまで隠さず落ち込まれると中々心苦しい
寝転がっている子達もちらちらとこちらに視線を投げかけてくるし、薄く開いた奥の扉の間から差すような視線が僕を射抜いて来る。まあこういうのはひっぱり過ぎるのもよくない。落ち込む彼女の肩にぽんと手を置いた
「まぁしかしフクキタル。流石と言うべきか君の読みは外れていないよ。さあ皆、お願いできるかな」
途端にソファーで寝転んでいた子達が勢いよくごろんと転がりそのまま身体の下に隠していたクラッカーの紐を引いた。同時に部屋の死角に隠れていた子達も一斉に飛び出し、仰天して硬直するフクキタルに向けて一斉に声を上げた
「「「おかえりなさーい!!!」」」
「んぎゃー!び、びっくりした……!」
「お姉様、おかえりなさい!」
「おおーライスさん!お久しぶりですっ!」
どんより沈んだ表情が一瞬にして輝くような笑顔へと切り替わり、フクキタルは手を広げて飛び込んできたライスシャワーを受け止めた。僕は邪魔にならないようにすっと横にずれるとソファーに腰を降ろし皆が楽し気に歓迎する様子をしばし眺める事にした。ひとしきり騒ぎ終わったフクキタル達がソファーに座り、別の子達がチームハウスの奥から用意しておいたジュースやお菓子を用意し始めた
「もー大和さん、酷いですよ!ほんとにびっくりしたんですから!」
「ふむ、申し訳ない。しかし君がサプライズを望んでいるようだったからその想いをできる限りくみ取ってみたんだけど」
「うぐっ。確かに私が望んだ事ではありますが、なんというか別にびっくりしたかった訳では無いといいますか……。まあいいです、ありがたくサプライズを頂くことにしますよ」
「喜んでくれたようで何よりだ。さて、それじゃあ改めて___おかえり。マチカネフクキタル」
「はいっ。ただいまです」
にっこり笑う彼女の笑顔は観ている者を幸福にさせるような、そんな温かさで満ちていた。彼女がここに戻ってこれたことを心底喜んでいる、という事実が僕達をとても嬉しい思いにさせてくれる。それから門限ギリギリになるまでチームハウスは喧噪で溢れ返った。それは彼女が不在だった期間に溜まった寂しさをいっぺんに吹き飛ばしてしまう程に楽しい時間となった
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『___来た来た来た!スペシャルウィークッ!ダービーウマ娘が大外からかっ飛んでくる!セイウンスカイに迫る!もう残りは200を切った!一騎打ちとなった菊の花道!脅威の末脚だスペシャルウィーク!しかしセイウンスカイが落ちて来ない!なんということだ、まだ足が残っているぞ!』
声援が飛ぶ。自分の声なのか、他のコの声なのかはもう解らない。それくらい夢中になって声を出していた。アタシ達の熱意が追い風となったのか、セイウンスカイが加速した。この土壇場で更に伸びていく彼女の底力に思わずぶわりと鳥肌が立った
『スペシャルウィークぐんぐんと迫る!しかしここまで!逃げ切ったセイウンスカイが今ゴォールっ!クラシック最終レースを制したのは皐月賞ウマ娘セイウンスカイ!晴れ渡る青空が、まるで彼女の二冠を祝福しているかのようです!』
わっ、と湧き上がった歓声が地鳴りのように響きレース場を揺らした。会場中の大歓声を一身に受けてセイウンスカイがばんざーいと両手を上げている。アタシが涙を呑んだ菊花賞。あのコはそのレースを後続に完全な差をつけながら、芝3000mの歴代最速レコードを記録するという圧巻の走りで制したのだ
ここまでやれるコだなんて、初めて会った時には想像もできなかった。いや失礼なコトですけど、本当に驚いている。一緒に応援していた先輩達も度肝を抜かれたような顔をしてた。もしここにスカイがいたら『敵を騙すにはまず味方からってね。皆さんが驚いてくれてるって事は、上手に餌が撒けてたってことの証明だね』なんてへらっと笑って言ってのけただろう
「まあ僕にとってはなにも意外な事ではないけどね。なるべくして成った訳だ。うむ、彼女が凄いウマ娘であることは十分に知っていたとも」
ドヤ顔がウザい大和サンは放っておく。顔に出さないだけでこの人も内心度肝を抜かれているかもしれない。しかしセイちゃんならやれるだろうと本当に思ってもいただろうから、適当言ってる訳でも無いのだろう
「私にとっても想定内ですとも!ありがた~い開運グッズで高めた運気パワーの大盤振る舞いで、ハッピーラッキー完全勝利です!」
ドヤ顔が眩しいフク先輩も放っておく。さっきまで顔青くしたり赤くしたりしながらぎゃんぎゃん騒いでたくせになーにが想定内なんだか。まあ平常運転であることは確かだけど
……まあしかし、セイちゃんの頑張りを考えれば意外な勝利とは言えないのかもしれない。確かに最初に会った時のセイウンスカイは線が細くとらえどころが無く、時折どこか影を見せる不安定な面も合わせ持っていた。特に同期相手には仲良くしつつもどこか壁を感じているらしかった。どんよりウマ娘であるアタシからすればよく理解できる感情を抱えているらしかった
でもデビュー戦を応援しに行って、セイウンスカイが本当はどういうコなのかすぐ解った。持ってる手札でどうすれば勝てるか、張り合えるか。追及に余念がなく、ギラつく太陽を目指して走り続ける。普段のおとぼけも素だろうけど、挑戦者として燃え滾る熱を内に持っているウマ娘なんだ
だからこの勝利は成るべくして成ったものだ。セイウンスカイは頑張り屋で、情熱があって、きらきらウマ娘なのだ。直接言ったら絶対認めないだろうけど。ただ間違いないのは、今回の勝利はまぐれでも偶然でもない。間違いなくあのコが自分の力で勝ち取った栄光なのだ
「そんじゃ、次はネイチャ先輩だねー」
「はん?」
控室の椅子に座る汗だくのセイちゃんにタオルを手渡してやると、彼女は顔を拭きながらそんな事を言いだした。アタシは、はん?と首を傾げてみせる。まあ何が言いたいかなんて解っちゃいるのだけれど。タオルの間からセイちゃんの目がアタシを見据える。レース直後だからだろうか、その目は普段よりもずっと研ぎ澄まされた光を宿していた
「えーなんですそのリアクション。バトンタッチですよバトンタッチ。セイちゃんがあっためときましたから、秋天でもう一丁どーんと盛り上げちゃってくださいな。」
「……おおう、プレッシャーかけるねー。ま、僭越ながら精一杯やらせてもらいますよ」
なんておどけてみせたけれど。上手く目を合わせられなくてアタシは上手な作り笑いを浮かべながら目を逸らした
アタシはどうだろうか。勝ちたい、って気持ちが無い訳じゃない。それこそ人並に……ウマ娘並みにはある。でも誰よりも熱い気持ちがあります!なんてことはとても言えやしない。主人公のようにキラキラしてる子達に並べる自信なんて欠片も無いのだ
所詮逃げてるだけだ。一度は本腰入れてぶつかってみて、それでも勝てなかった。それからもケガを言い訳にのらりくらりと、厳しい戦いから距離を置いてきただけだ。だってアタシがもっている並程度の思いでは、GⅠの舞台で輝く事はできないだろうから。そんな諦めた思いを捨てられないクセに、それでも勝負の舞台に立とうとしている。なんて矛盾しているのだろうか
さっきまで胸の中は喜びでいっぱいだったのに、なんだかよくわからないもやもやしたものが邪魔をしてくる。それが顔に出ないよう、アタシは精一杯の笑顔でウイニングライブへ向かうセイちゃんを送り出すことしかできなかった
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「いや~お茶が染みますねぇ……。大和さぁん、おせんべいとかありません?」
「もちろんあるとも。お出しするよ」
ふにゃふにゃした気の抜けた声に思わず仕事の手も止まってしまった。やれやれと呟いて棚から貰い物のお煎餅の缶を取り出し、フクキタルの前に置いた。歓喜の声を上げ両手でお煎餅を持ちばりばりとかじり出した彼女の様子はとても微笑ましく見ていて飽きないが、仕事のBGMにするには少々不適切と言わざるを得ない
「えー?そもそもお仕事してます?」
「してるさ。秋の天皇賞についてのデータの整理をしていた。まあ今丁度終わったけどね」
「大和さん的には今回のレースはどうお考えなんですか?」
「当然ネイチャを推すとも。今回はとても仕上がっているし、前評判は悪くない。彼女以外に目を向けるなら、皆素晴らしいウマ娘ばかりだけれど……やはりスズカかな。彼女にとっては因縁のレースでもあるからね」
僕がそういうとフクキタルは新しいお煎餅の袋を開けながら遠くを見るような目を窓に向けた。去年の騒動を思い返しているのだろう
「去年は大変でしたねぇ……。スズカさんずっと左向いてましたし、めちゃくちゃ不機嫌でしたし」
前日入りした際に宿泊したホテルの枕が合わなかったらしい。寝違えて首を痛めたスズカはそれでも出走すると言い張り止めに入った轟さんとテイオーとスペシャルウィークを引きずりながらレース場へ歩いて行こうとしたが、最終的にどうにかこうにか説得に応じて出走取り消しを受け入れてくれた。
寝違え自体は深刻な物では無くその後すぐに治ったのだが、上手く首が回らない状態でレースを走らせる訳にはいかない。いくら前だけを見て大逃げをかます戦法を得意とするサイレンススズカといえどだ。一見クールで素直なスズカも、実のところ意地っ張りで頑固な面がある。特に自分の好きなものにはそれが顕著で、走りの邪魔をされると一気に機嫌が悪くなったりもする。そういう面も可愛げがあるんです!とスペシャルウィークが胸を張って語ってくれた。僕もそう思うよ
「しかしアメリカでは苦労しなかったかい?」
「それはもう。スズカさんったらすぐにあっちこっち行っちゃいますからね」
やれやれですよと溜息をつく彼女だが、僕の記憶が間違っていなければ放っておくとあっちこっちへ行くのはスズカだけの特権という訳では無い筈だ。僕の知り合いが向こうでサポートに徹してくれたとはいえ、彼女達が無事に遠征を終えて帰国できるまでに数え切れない程の奇跡が積み重なったのは確かだろう
「むーっ、なんですか?なんだか失礼なコトを考えていらっしゃいませんか?」
「考えていないよ」
考えていた。彼女は不満気に頬を膨らませてこちらをジロリと睨みつけて来る。話を変える為に僕は雑誌と新聞紙の束を半分程持って机を滑らせるようにして対面に座る彼女の前に置いた
「さて、お手すきなら次の仕事を手伝ってくれないかな。授業が無いんだし暇だろう?」
「まあ一応やる事はあるのですが、他ならぬ大和さんの頼みとあれば助力いたしましょう!」
先日開催されたセイウンスカイの菊花賞は僕の記憶に深く刻み込まれる素晴らしいレースとなった。当然言うまでも無く、ウマ娘達に関してはどんな小さなレースであっても果ては平凡な日常の何気ない会話なんかであっても大切で忘れがたい記憶として僕の脳には刻まれている訳だが、この菊花賞は少し特別な衝撃を僕にもたらした
ここ数日は空き時間の度にセイウンスカイのレースの録画映像とライブ映像を交互に流しつつ、インタビュー記事の書かれた雑誌や新聞を切り貼りしてラミネートにかけファイリングする作業に費やしている次第だ
「しかしお昼間から趣味に時間を使えるなんて、大和さんは相変わらず暇そうですねぇ」
「ふむ。僕が暇そうに見えるというのかい?アメリカの人々は随分忙しなく働いていたんだね」
「グローバルな価値観とか差し引いても暇そうに見えますが」
「成程、手厳しい意見だ。しかしこれも情報収集という大切な仕事の1つである事に違いないからね。是非ともご理解を頂きたいところだけど」
中々に手厳しい言葉を投げてくるフクキタルだが口調自体は柔らかで楽し気だ。半年以上ぶりの再会となった訳だが彼女だって相変わらずである。帰ってきたのは菊花賞の数日前なのだが、それからというもの出会うウマ娘全てに絡み倒し、会えなかった分まで騒ぎ倒した。最初は久々だからと柔らかな対応をしていたエアグルーヴが遂に我慢の限界を迎えて拳骨を奮うまでずっとそんな調子であった
「グルーヴさんは容赦ないですねぇ。せっかくアメリカの大地からフロンティアスピリッツを持ち帰ったというのに零れ落ちるところでしたよ」
「開拓精神は素晴らしいけど、君エアグルーヴのお土産に何を選んだんだい?彼女頭抱えていたけど」
「なにって、黄金のスカラベ像ですよ。手の平サイズのやつです」
「スカラベ……ってエジプトのピラミッド絡みの甲虫の事かい?彼女が虫嫌いなのは君も知っているじゃないか。だから怒られたんじゃないかな?」
「だってだって、スカラベの見た目はてんとう虫みたいじゃないですか。これなら運気も上がりそうだしお気に召すかなーと思いまして」
後でエアグルーヴに聞いて実物の写真を送ってもらった訳だが、手のひらサイズの金ぴかの丸みを帯びた虫型の置物だった。確かにエアグルーヴはてんとう虫だけは例外的に好意的だが、いくら形が似ていると言い張ってもこれは多分彼女的にアウトだろう。一応お土産である以上ありがたく受け取ったのだろうけど
そんな話をしていると、がらりとトレーナー室のドアが開いた。ひょっこり覗いた赤い耳当てが部屋の中の伺うようにぴょこぴょこ動いている。どうぞ、と声をかけると恐る恐るといった動きでネイチャが顔を出す。しかしフクキタルがいるのを見てそこで止まってしまった
「あー……お2人さんお取込み中ですかね?」
「いえいえどうぞネイチャさん。お喋りしているだけですから。込み入ったお話があるなら私は失礼しますよ?」
「あ、いやいや。どうでもいい世間話がしたいだけですから。お茶会に混ぜてもらえるならそれでいいですよ」
そういってネイチャは自分の分の椅子を用意し始めた。僕とフクキタルは顔を見合わせ、まあ多分世間話って訳じゃないだろうなという考えに互いが至った事を確認すると取り合えずお茶とお菓子を用意する事にした。どんなお話をするにしたって、その二つは欠かせないものだからね
ネイチャだけちょっとしっとりさせてしまいがちですが大丈夫です。多分からっと晴れると思います。もうしばらくお付き合い下さい
気が付けば年末ですね。皆さまいかがお過ごしでしょうか。年末にどでかいガチャをぶっこまれねーかとわたくし今からヒヤヒヤしています
育成キャラが追加されるたびにああ……この子もお話に参加させたいな……と思ってしまい頭の中で組み立ててる話がどんどんまとまらなくなってきそうです
まあほんとに見切り発車なので今後の展開はあまり決まってないんですけどねワラ