この小説はライブ感に溢れています
例えば今回誰が勝つかは前の話を書いている時は実は未定でした
そんなんでよくこれまでやってこれましたわね
あと『』で囲われているのは英語での台詞って意味ですわ
今更言う事じゃないかもですけれど
字余り
『___先頭に立ったのは1番ホワイトサンダー!そのままスーッと前へ。彼女がレースを作る形になるでしょうか。3バ身程開ける形で続くは黒い勝負服ライスシャワー!彼女もいつもの定位置!その後メクルメクアサヒ、ゴールドシチーと続きます。会場の拍手を浴びながら一団が第一コーナーを回って行きます』
スタート直後、先頭に立ったホワイトサンダーが後続に大きく差をつける逃げを見せた。それを無理に追わない後続が様子見と小競り合いを続けながら追走し、見守る側が思わず息を呑む程緊張感に包まれた慎重なレース展開が続く
ホワイトサンダーは前に付けるレース展開を好み、他に競り合ってくる者がいないレースであればそのまま逃げに移行する。そういう走り方をするウマ娘であった。把握してライスシャワーがその影に潜み、ゴールドシチーが僅かな差を維持しながらそれを追いかけていた
マヤノトップガンは中団内側で後半まで脚を溜める作戦を選んだ。眼前でペペロンディーノの尻尾が揺れているのを視界で捉えながらペースを乱さず第2コーナーを過ぎ、自分に残っている体力が想定通りである事を確認しながら前と後ろに意識を飛ばした。マチカネフクキタルは焦る事無くやや後方、集団の中で風を浴びながら足場を確かめるようなしっかりとした走りで息を潜めている
変わって後ろ。緊張のあまり思いっきり出遅れて無念の最後尾を走らされることとなったイギリス出身ウマ娘、クルセイダーは事前に立てたプランが完全にぶっ壊れた事実に頭が真っ白になった状態でここまで走ってきた。そして3コーナーを通過し、そして第4コーナーまでの中間地点を迎えたこの時点でスパートをかけることを決心したのだ。特に理由はない。ただ、このままレースが終わると絶対に後悔するだろうという予感があったのだ
あとさっきチラっと観客席に目をやって自分のトレーナーの様子を見てみたらめちゃくちゃ怒ってる顔だった。あの口の悪いトレーナーのことだから、なんとか挽回しないと『だからレースが終わるまで食べ歩きに行くのは我慢してねって言ったのよ。なんでこっそり行っちゃうかな?』『君、これだと日本にご飯食べに来ただけになっちゃったね』『イギリスへのお土産は体脂肪ってワケ?まじ面白い』とかねちねち言われる事だろう。それだけは絶対阻止する必要があった
ちなみにクルセイダーのトレーナーはクルセイダーの緊張を開始までに取り払ってやれなかった自分の失態にマジギレしていただけなのだが、どうあれレースの転機を巻き起こしたのはクルセイダーとなった
『ここで動いた銀色勝負服!風に乗って10番クルセイダー!ポーカーフェイスな戦略家で知られるイギリスウマ娘です!今回は普段とは違い後方から攻めるレース展開をとっていましたが、このタイミングで勝負をかける作戦だったのでしょう!さぁ後方の動きを察知して全体に一気に火が付いた!独走状態のホワイトサンダーにライスシャワーが迫っていく!ゴールドシチーもそれを追う形!これ以上好きにはさせまいと日本のウマ娘達が先頭を奪いに行く!』
最終コーナーを真っ先に駆け抜けたホワイトサンダーだったが、直線に入った時点でその横に完全にライスシャワーが並んでいた。ライスシャワーはここからだ。ただホワイトサンダーも当然ここまでではない
『ホワイトサンダーとライスシャワー!並んで先頭を行く!固まって追い上げる集団から飛び出したマヤノトップガン!ペペロンディーノはまだ集団の中だ!クルセイダー伸びきらない!集団を抜けきれない!ゴールドシチーも前へ出ようとしている!』
横に並んだ黒い影の圧力を感じながらスタミナを振り絞るホワイトサンダーも、ステイヤーの真骨頂である肺活量を活かしてロングスパートを維持するライスシャワーも。両者共に解っていた。今自分の横に並んでいる相手が問題なのではない。それに全ての意識を持っていかれる訳にはいかない。最後の最後、自分達の脅威になる存在が本領発揮を開始したのを背中で感じ取っていた
コーナーを曲がり切り最後の直線。極限下でぐっと狭くなる視界の先にゴールラインが横たわっているのが見えた。それと同時、どこからか聞こえてくるは徐々に大きくなる地を蹴る音。迫る荒々しい息遣いが、気が付けば紙一重の位置まで肉薄して2人の背中をひりひりと焼き付ける
『ただ___やっぱり来ている!当然このウマ娘が大人しくしている訳が無い!大外からぐるっと回って来ましたマチカネフクキタル!一番外には福がある!ぐんぐん上がって5番手4番手3番手!あっという間に先頭に届く位置!脅威の末脚が世界を獲りにやって来た!』
集団の真ん中で紛れていた筈だった。それがいつの間にか外へ抜け、考えてみればここしかないという位置に陣取って好き勝手にスパートをかける。綿密に練り上げられた作戦によるものか。長年培った勘か。はたまた神のお告げなのか。答えは誰にも解らない。ただ確かなのは、キラキラまん丸な目をキリっと吊り上げ、牽制し合う集団をかき分けるように飛び出したマチカネフクキタルの姿に会場のボルテージは今日一番の騒がしさへと至ったという事実だ
『先頭は未だホワイトサンダー!しかし限界が近いか!ライスシャワーはまだ伸びるぞ!抜けるか!ライスシャワー抜け出した!先頭はライスシャワー!しかしマヤノトップガンが怖い!恐るべき嗅覚!このタイミングで上がってきた!ライスシャワー耐えられるか!抜け出したペペロンディーノはもう間に合わないか!外からマチカネフクキタル!遂にライスシャワーに並ぶ!マヤノトップガンが3番手!』
最終直線、ゴールまではおよそ500m。ウマ娘であればそこを駆け抜けるのに40秒とかからない。その中の最後の1ハロン200mとなれば、極限状態のウマ娘達にとってほんの一瞬の出来事である。その最後の200mに突入した時点で、ライスシャワーが一歩抜け出した。マヤノトップガンとマチカネフクキタルがそれに続いたのはほぼ同時。この時点で僅かに遅れていたホワイトサンダーが後方から来たゴールドシチーに押し上げられるように最後の意地を見せもう一度前と差を詰めた
無我夢中で走りながら思う。まだ終わりたくない。体の中は焼き尽くされたような熱で溢れかえり、手足の感覚は無くなり、それでも負けたくないものだから無理やり脳が指令を出し続ける。苦痛でしかないこの瞬間は何度やっても慣れる事が無く、二度と味わいたくないと思いながらも何故かウマ娘達をレースへと駆り立ててしまう衝動の正体でもあった。自分が積み上げてきた物の価値が証明されるこの至高の一時を味わう為だけにレースに出ていると言っても過言ではないのかもしれない
(でも、ここまでね)
ホワイトサンダーはそう判断した。当然、力は抜かない。ただ現実、彼女の眼は既に先頭に食らいつかんとしているマチカネフクキタルの背を追っていた。さらにその前、黒い勝負服。フクキタルが可愛い後輩だと嬉しそうに話していた彼女。共に走ってその強さは解った。次は是非とも自分のホームグラウンドに引きずり込んで負かしてやりたいものだと心で呟きながら三番手を奪い合うマヤノトップガンを抑え込む為息を吸い込んだ
『200を切った!会場の盛り上がりは最高潮!前は大接戦!誰が抜ける!マヤノトップガン追い込む!ホワイトサンダーが咎めるか!ライスシャワー懸命に粘る!いいやしかしどんどん伸びるぞマチカネフクキタル!もう誰にも止められない!完全に先頭!先頭だ!これがマチカネフクキタル!福を運ぶ力強い走り!祝福を受けて今、マチカネフクキタルがジャパンカップ1着の栄誉をその手で掴んで見せました!』
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「おぼふぅ……」
掲示板を見上げたマチカネフクキタルの焼けついた喉から変な声が絞り出された。隣に駆け寄って来ていたライスの顔から笑顔が消え、心配そうな顔へと変わる。ただ疲れただけだから大丈夫ですよ、と慌ててフクキタルが告げると安心しきったライスシャワーが今度こそ満面の笑顔でフクキタルに抱き着いた
「おめでとう!フクキタルさん……!」
「はい!私やりました!ありがとうございます」
抱擁を返し、目を閉じて喜びを噛みしめる。出し切って完全に空っぽになっていたフクキタルの中に温かなものが湧き上がり、会場から飛んでくる祝福の声が彼女達に降り注いだ。思ったような走りができず、もっとやれたのにと後悔を僅かに残すウマ娘もいる。期待に応えきれなかった事を悔いるウマ娘もいる
ただ、良いレースであった。走っているウマ娘達も、そして観ている者達も皆同じ想いだった。それを証明するような割れんばかりの声援が収まることなく会場に満ち溢れていた。勝者を称える為集まってきたウマ娘の中で、唇を尖らせたマヤノが額を流れる汗を拭ってふうっと可愛く息を吐いた
「うーん、フクキタルさんの伸びが相変わらずメチャクチャ過ぎてひっくり返されちゃったや。でも次はマヤが勝つからね。サンダーちゃんにも!」
『生意気ね、おちびさん。英語喋れるんならあんたもアメリカに来なさいな。いつでも挑戦受けてあげるわよ』
『マヤ、まだ背伸びてるから今度一緒に走る時は追い越してるかもね。それに今もスタイルだけならサンダーちゃんより大人かも』
『あたしの煽り方は誰から教わったのかな?ん?あんたも後でフクキタルと一緒に控室来なさいね?いや一緒に今から裏行きましょ?』
「マヤ英語わかんないや」
『どいつもこいつも……!』
憤慨して地団太を踏む元気もないホワイトサンダーは呆れたように笑いながらマヤノの頭をぽんと叩いて、フクキタルの前に立った。2人は何も言わず握手を交わし、そして別れた。後でまた会えば色々言い合う事もあるだろう。ただ今この瞬間、サンダーなりに最大の賛辞を現す方法はこれ以上に存在しなかった。それを解っているフクキタルも何も言わずその背を見送った
(よかった、これで荷物をお部屋に置いてきた件は許されましたね)
『その件は後でガンガンに詰めるから』
「ご無体な!?」
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お疲れ様会である。祝勝会とはまた別だ。勝者1人を祝うのではなく出走ウマ娘全員を労う集まりである。トレセン学園敷地内にあるVIP用の食堂は今日の為に豪華絢爛に飾り付けられていた
海外からやって来たウマ娘やスタッフ達も今ばかりは張り詰めていた神経を緩ませ、帰国までの僅かな隙間ではあるが楽しい時間を過ごしてもらえたらと思う。みたいな事を理事長が言ってた気がする。ちょっとあんまり聞いてなかった。僕(と異国の地での生活に疲れがたまっていたトレーナー各位)の意識は既に手に握ったグラスに注ぎ込まれていたからだ
「「「「ちあーず!!!!!!」」」」
勤勉な諸君であればご存じの通り、乾杯を意味する言葉が高々と叫ばれた。がつん、と打ち合わせたグラスから泡が飛び散る。おかまいなしで僕達トレーナーは一気にそれを___
「注意!一気のみは危険だぞ!」
___とのお達しだったのでゆっくり味わう。日本が誇る大手メーカー製造のビールの味に感動したのか、イギリスから来ているクルセイダーのトレーナーさんが感激の涙を流しながら僕の肩を叩いた。とても名誉な事である
学園敷地内である以上飲酒はどうなのかという意見もあるだろう。しかしながら海外からの来賓である彼女達を学園外のお店に連れて行くのも責任問題とか色々とアレだし、宿泊場所でもあるトレセン学園で騒いだ方が楽だし、なんやかんやあってVIP用の食堂は無法地帯となっていた。正しくは、法はあるが全てが黙認された場所だ。そこんとこ、ギャグ小説なので細かい倫理観は水に流して欲しい
『ハーイ大和。いやぁ、良いレースだったわね。ホワイトにも私にもいい経験になったわ』
『やぁシルクサンダー。フクキタルの勝利は君が鍛えてくれたお陰なのかな?』
『私はちょっとアドバイスしただけだよ。フクキタルはこっちに来る前から素晴らしいウマ娘だったわ』
乾杯が終わると同時に声をかけてきたシルクサンダーは、ニヤリと口角を吊り上げながら輝く金色の髪をかき上げて短いウマ耳をぴこぴこと動かしながら楽しそうに笑った。彼女はかつてGⅠを制した実力者であり、ホワイトサンダーのトレーナーであり、ホワイトサンダーの年の離れた実の姉でもある。さらに彼女は今回フクキタルとスズカの留学に際しアメリカでの責任者を請け負ってくれた恩人でもあり、案の定昔からのちょっとした知り合いである
ホワイトサンダーの事もデビュー当時から知っているけれど、ジャパンカップに招待される程のウマ娘へと成長を遂げた事はとても感慨深い。時の流れの速さをしみじみと感じていれば、当の本人がこちらに歩み寄ってきた
『ヘイ大和!お久しぶりね。丁度いいわ、こちとら迷惑かけられっぱなしだったの!責任者であるあんたに山盛りクレームデリバリーよ!』
「ハローホワイトサンダー。ないすとぅーみーちゅ」
『ガツンといくわよ』
『おっと勘弁して欲しい。やぁサンダー、相変わらず鮮烈で可憐な走りだったよ。君の太陽のような輝きを自分の目で見る事ができた幸運な日本のファン達を代表して、感謝の意を表するよ。この国に来てくれて本当にありがとう』
大げさな誉め言葉を甘んじて受け入れて胸を張りながら握手に応じてくれるのはお国柄か、彼女の生来の性格か。ついでに差し出したブロマイド(売店で購入済み)にも流れるようにサインをしてくれた。流石ファンサービスに興じすぎて飛行機に乗り遅れたという逸話を持っているだけの事はある
トゲトゲした性格だと思われがちだが、彼女の本質は人懐っこく面倒見がいい優しいウマ娘だ。切り替えの早さも流石歴戦といった所だろう。日本に来た最初の頃は勝負の前だからか目付きが今の3割増し鋭く、触れる物全てに噛みつかんとばかりの威圧感を放っていたホワイトサンダーも今は楽しそうにパーティを楽しむ年相応の女の子であった
フクキタル達との楽しい日々について少々感情を込めて語った後、彼女は共に走ったウマ娘達に挨拶をする為手を振って離れて行った。見送る僕とシルクサンダーはどちらともなくグラスをぶつけ、しばしそれを空にすることに集中した。会場はウマ娘達で溢れている。国は違えどウマ娘。一度共に走れば通じるものがあるのだろう。通訳のできる子が間に入り段々と輪が大きくなっている
食欲を誘う香りが漂い、喜びで弾むお喋りの音が僕の心を暖かくしてくれる。見れば、海外のトレーナーや付き添いのスタッフ達も落ち着いた様子で自分の国のウマ娘が輪に入っているのを見守りながら交流を行っていた。彼女達の成長を常に考える立場の者からすれば、この光景が心地よいのは当然の摂理だった
『勿体ない。引退だなんて』
『惜しむような話ではないさ』
祝いの席でするべき話題として適切かどうかは解らないものの、まあ素面では言いにくいことだったのだろう。シルクサンダーの表情はそういった思いを浮かばせていた
『惜しいわよ。ここにいる皆がフクキタルを心から祝福している。彼女の経緯を考えれば応援したくもなるわ。ケガを乗り越えて、以前よりもっと力を付けて結果を残し続けた。明るく元気で、おバカに見えて色々考えちゃう面倒で落ち込みやすい子で、それでも前を向ける健気な努力家でもある。そんな子をずっと見ていたいのよ。誰だって同じように思うでしょう?』
『彼女の道は彼女が決める。今までもそうだったし、これからもね。その在りようを見守ってあげればいいさ』
『トレーナーであるあなたの本心を聞きたいの』
『彼女なりにゴールを見つけたんだ。祝福してあげるのが僕の仕事さ。それに引退なんて大げさだね。フクキタルは走る事自体を辞める訳じゃないんだ。それに___』
僕はサブトレーナーだからね。そう言うと彼女はフンと鼻を鳴らして机の上に並んだ瓶をひっつかんで僕にぐいっと突き出した。開けろ、ということらしいが彼女の方が腕力がある。それを指摘する勇気も無いので、懐からマイ栓抜きを取り出して蓋を引っぺがし彼女と僕の空のグラスに注いだ
『そのスタンスを貫いているのは好きよ』
『ありがたい言葉だね。そんな怒った顔で言われたのでなければ100点だったけれど』
『私達トレーナーは自分の理想を押し付けずにはいられない。ただのファンであればウマ娘のあるがままを愛する事が出来るけど、指導者だからそうはいかない。ある意味であなたのやり方は理想的ね』
『簡単にできることさ。へらへら笑って肯定するだけだ。やろうと思えば誰にでもできる。無責任な大人として生きる事に対する罪悪感を捨てられるかがコツさ』
『上手に煽ってウマ娘を誘導するでしょうが。こズルイわ』
心外だ。国際問題に発展する程の言いがかりである。僕をそんな知的でダークなキャラだとレッテルを貼るのはやめて欲しい。あくまでそう、背中をそっと押しているだけだ。僕は彼女達が自分の本心と向き合える環境を用意して、その上で僕のわがままをお伝えしている。それ以上の思惑は無い
『あの子は選んだわよ。あなたはどうするの』
こっちを真っすぐ見つめてくる彼女の瞳は僕を焚き付けるような熱がこもっていた。勘弁して欲しいな。上手に諦められると思ったのに
少し離れた場所で仲良くなったクルセイダーとお喋りしているフクキタルを見つけた。彼女も僕が見ているのに気付いたようで、笑顔で手を振って来る。手を振り返し、僕はシルクサンダーを見つめ返した
『___取り合えず、お腹が空いたからご飯を食べてから考えるよ』
『あなたのそういう所嫌い』
彼女は僕のふくらはぎを尻尾でぺしんとはたき、グラスをぐいっと傾けた
みたいな雰囲気は10分くらいしか保てなかった。ちょっと、めちゃいいお酒揃ってない?え、やばくない?みたいなノリと、心の敷居が下がった事による熱の入った談義がもたらす高揚感。担当ウマ娘のレースが終わったのを見てこれ幸いとアルコールのペースを加速させる。今日集まったトレーナー達は皆そういう固有スキルを持っていたらしい
各々の理想とすべきウマ娘への指導法があり、理想のトレーナー像がある。海を越えた高潔で真摯な話し合いの場はいつしか自分のところのウマ娘が一番可愛いんじゃい文句あるんか!という大人気無いわがままトーク(もっと言うなら酔っ払いのぐだぐだ駄弁り)会場へと移行した。スマートフォンに保存された秘蔵動画を見せてくれようとしていたクルセイダーのトレーナーさんが、顔を真っ赤にさせたクルセイダーに担がれて部屋の隅へと運ばれていった。無念だ
では次は僕の番かな。ああ、秘蔵の動画をお見せしよう。え、なんですって?プロジェクターあるんですか?本当ですかたづなさん!素晴らしい……ええ手伝います。すぐに準備に取り掛かりましょう
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「お姉様、お隣いいですか?」
「ライスさん。ええどうぞ」
快い承諾を受けてライスはしずしずと彼女の隣に座った。散々喋り倒して少々話し疲れていたフクキタルは喉を潤すため椅子に腰かけてオレンジジュース片手に一息ついていた。それを察してか、ライスシャワーも手にしたグラスの中身をちびちびと飲み始めた
「いやぁ、アメリカのトレセン学園の皆さんもパーティ好きでしたが、こっちも負けてませんね」
自分に話したいことがあるのだろう、と察したフクキタルから話題を振ることにした。ライスシャワーは耳をピンと立てた
「そうなんだね。ライスも一回海外のトレセン学園を見に行きたいな」
「ライスさんの実力なら向こうからどんどこ招待が来ますよ。今回はなんとか勝たせてもらいましたが、次は解りませんね。ライスさんはどんどん強くなっていますから。いやぁー、若い子の成長って怖いですねぇ」
「ふふっ。お姉様ったらおばさんみたいだよ?……ねえお姉様、またライスと一緒に走ってくれる?」
「ええ。いつでもご一緒いたしますよ。遠慮せず誘ってください」
「それはおんなじレースに出たいって言っても?」
少し震えそうになる声を上手に取り繕えただろうか。結局、ライスシャワーが投げかけた問いに答えは無かった。ライスシャワーは視線を足元に落とし、押し黙ったままのフクキタルの様子を伺う気にはなれなかった
(ライスには教えてくれないんだね)
そんな言葉を口にしようとしている自分に驚いたライスは危うくグラスを落っことすところであった。恨みがましい事を言うつもりでここに来た訳ではなかった。ただ、寂しかったのだ。ずっと追いかけてきた先輩だった。不幸に塗れ悲観に生きて来たライスシャワーにとって、彼女は光だった。背中を押してくれるのが大和であれば、道標がフクキタル達だった。先輩達の中でも最初に面識があったフクキタルはほんの少しだけ特別と言える。そんな彼女を困らせるような発言をしようとしている自分に驚いてしまったのだ
「レース前に困らせてしまってはいけないと思って黙っていたんですが……いえ、だとしても私から切り出すべき話でした。ごめんなさい。ただ、ちゃんとお話したいとは思っているんですが、もう少しだけ待っていただけませんか?」
「……」
「我慢せず自分の言いたいことを言ってください。少なくとも私に対しては。……ずっと前にそう言った私がこんなコト言うのは、おかしな話だと思うんですけどね」
「ううん。ライス、ちゃんと待ってるから。大丈夫だよ」
ライスは顔を上げてフクキタルの方を向いた。彼女は不安そうに耳をへにゃっと倒していたが、ライスシャワーの表情を見て安心したのだろう。フクキタルはふんわりとはにかみながら手元に握りしめたオレンジジュースに視線を落とした
しっとりしてる所悪いけどちょっとヤバイよ、というシラオキ様の囁きが聞こえた気がしたフクキタルはふと視線を上げた。見れば何やら大和達がプロジェクターをセッティングしているではないか。なんだか嫌な予感をビンビンに感じ取ったフクキタルは椅子から立ち上がろうとしたが、しかしその瞬間を抑えるかのように膝の上に可愛らしい重みが乗っかった
「お姉様、お膝の上に座っていい?」
「え、今このタイミングで!?ちょっ……お待ちくださいライスさん!止めないとヤバイ感じのやつなんですが!」
「ライスはまだまだお姉様に甘えたい年頃だから……」
「もしかして怒ってます!?私を辱めることで仕返しを謀っていらっしゃる!?」
「うん」
「ぐぉぉ……これが罰だというのなら甘んじて受け入れるしか無いのでしょうか……!」
そうこうしている内に『ウイニングライブ後に応援に来てくれていたお姉ちゃんに頭を撫でられてしばらく騒いでいたものの結局照れ臭そうに受け入れて大人しくなるマチカネフクキタル』の映像がでかでかと映し出された。フクキタルは絶叫した。ライスシャワーは笑顔になった。そんな感じで夜は更けて行った
シルクサンダーさんは大和サブと大体同い年です。学生の時分日本のトレセン学園に留学に来ていて、トレーナー職を志した時にも日本に研修に来ていました。どちらも大和の祖父に教えを乞う為であり、その繋がりで大和ともちょいちょい顔を合わせていた……みたいな経緯があります
トレセン学園のトレーナーたるもの、多分皆英語とかペラペラなんだと思います。エリート以外いない学園ですからね。当然サボリ癖持ちのトレーナーとか、お酒の勢いで暴露動画を公開しようとして担当ウマ娘に叱られたりするトレーナーなんていないでしょうね。流石ですね