春が来てる!春が来てるぞミキリハッシャマン!年末で時間が止まっているが大丈夫なのか!節分ネタとかバレンタインとか追い越して桜の季節だぞ!
いやー焦るのはよくないですがちょっと時間かかってますね。一度ペースが落ちると取り戻すのは大変かもしれませんが暖かくなってきたので頑張って動いて行きたいですね
話は変わりますが暖かくなってきてビールが美味しくなってきましたね(プシュッ
間違いないですね(プシュッ
『少し体調を崩したので今日はトレーナー室に引きこもって仕事しています。用件があればメッセージを送ってもらえれば対応します』
早朝練習を終え、登校前の身だしなみを整えている時の事だった。ムーンシャインのグループチャットにトレーナーから送られてきた連絡は自らの体調不良を報せるものだった
またコタツで昼寝でもしたのか、とメッセージを送るも返事は無い。こちらの送った文章を確認した履歴は表示されている。返す言葉に困っているという事は、何か隠したい事があるという事だ。だから無理をするなと言ったのに、とエアグルーヴはため息を1つついてからウマホを机に置いて着替えに戻った
『うつる可能性があるので誰も立ち入らないようお願いします』
続けて送られてきた内容も身勝手極まりない。普段好き勝手こちらの世話を焼こうとしてくる癖に。そういった非難の声がチームメイト達から続けざまに飛び出しメッセージが流れて行く
普段はちょっと疲れただけで大げさに不調をアピールしてくるというのに、いざその時となれば壁を張るようにしてこちらの介入を拒否する姿勢は意地っ張りというか、恥ずかしがり屋というか
いつも飄々を気取っている彼の根っこが見えるようで少し愉快な気分になりかけたが、いささか不謹慎かとエアグルーヴはその考えを振り払った
なにがなんでも見舞いに行かせろ、と全員から突っ込まれたメッセージに対してトレーナーは『眠いので寝ます』などと舐め腐った返し文句を決めて黙り込んだ。こうなっては少々ムキになる面子も出て来るだろう。さてどうしたものかと考えながらエアグルーヴは鞄を手に寮の自室を出た
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来るなと言われて引っ込むような素直な性格してないんでね。ナイスネイチャはそうニヤリと微笑みウマホをポケットに突っ込むと、是非とも見舞いに行ってやらんと意気込んで部屋を飛び出す。授業が始まる前に顔だけでも出そうと道を急ぐ彼女だったが、トレーナー室へ続く道すがらばったりエアグルーヴに出くわし慌てて脚を止めた
「ウゲッ……おはようございますグルーヴセンパイ」
「ああ、おはようナイスネイチャ」
ネイチャが思わず狼狽の声を漏らしながら足を止めたのも無理はない。何故かエアグルーヴの小脇にはヘッドロックの要領で捕縛されたセイウンスカイの姿があった。うめき声を上げながらぺちぺちとエアグルーヴの腕をタップするスカイの存在などまるで無い物かのようにエアグルーヴは爽やかに挨拶を返してくる
あと数分早くこの道を通ろうとしてたらあの技の餌食になっていたのは自分かもしれない。ネイチャは少し顔色を悪くしながら、じりじりと間合いを測りながらも自然な笑顔を意識して会話を繋げた
「しかしどうした?中等部の教室はこっちでは無い筈だが」
「えーっとその、道に迷いまして……あぁいや、トレーナー室に忘れ物しまして」
「スカイと同じ言い訳をするんじゃない」
成程、そうなのか。諦めてネイチャは両手を上げて少し深呼吸した。溜息を吐きながらスカイを解放し、少し制服の乱れた彼女の身だしなみを整えてやりながらエアグルーヴは流し目で2人を交互に見た
「ネイチャ、スカイ。心配する気持ちは解るがトレーナーの意を汲んでやれ。あ奴はお前達の晴れ舞台に水を差さないよう相当に気を揉んでいるんだ。真に身を案じるのであれば今自分が成すべきことを精一杯やり遂げ、その成果を報告してやればいい。何よりの薬になる」
目を伏せるスカイの頭を撫でて跳ねた髪を落ち着かせ、エアグルーヴは鞄を持った。優しく叱られて少し冷静になった2人は一度だけトレーナー室の方に目をやり、それから諦める事にした。2人の様子に安心したようにエアグルーヴは小さく頷き、教室の方へ歩き出した。ついて来る2人の方を肩越しに振り返り、少しからかうようにエアグルーヴが声をかけた
「しかし、意外だったぞ。スカイがこういう時に真っ先に動くとはな」
「いやーあはは……。でもほら、こういう時くらいしか大和さん相手に一方的に優しく甘やかしてドヤれるタイミングって無いですから。ちょっとはしゃいじゃいまして」
「その様子だと夜の散歩でいくらかすっきりしたらしいな」
「あー……ご存じで。じゃあ、私のせいかもしれないって事もお分かりでしょ?」
「スカイ。体調管理は本人の問題だ。……と、そうトレーナーも言うだろう。気に病むな」
はーい、と少し申し訳なさそうに返事をしたスカイは自分の横からビシビシと視線が飛んできているのに気付いてはいた。しかし全く気付かないフリをしてネイチャと反対の方向に何気ない感じで顔を向けた
その視線の先ではじたばたするライスシャワーを後ろからフクキタルが抱きしめるように優しく羽交い絞めするというちょっと面白い光景が広がっていた
「ほらダメですよライスさん。授業に遅れちゃいますよ?」
「放してお姉様っ!お兄様が……お兄様が!」
「えぇ……リアクションのシリアス深度がおかしくないですか?ただのお風邪ですから平気ですよ」
「ライスはお兄様の為に何もしてあげられない……」
「大丈夫です。ライスさんが元気に楽しそうにしている、その姿を見るのが大和さんの一番好きな事ですから」
「……でもライス、ちょっとだけ会ってお話したいな」
「治ったら存分に___」
「お姉様……。ライスね、熱で苦しんでるお兄様に一言、頑張ってって……言いたいの」
あれは押し切られるな……と呟いたエアグルーヴがその場に割って入るのと、フクキタルがしょうがないですねぇ……と拘束を解除しようとしたのはほぼ同時だった。まあ結局、エアグルーヴに説教されて落ち着きを取り戻したライスも耳をぺたんと後ろに倒して少々不安そうな顔のまま教室へ向かうことにしたのだった
一方その頃スカーレットは様子を見に行きたい自分とレースに集中するべき自分とが心の中でせめぎ合い、教室の椅子に座ったり立ったりと挙動不審な様子を見せていた。それをからかったウオッカは脳天に一撃を貰い机に倒れ伏した
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さて。慣れない仕事を頑張りすぎたのが功を奏したというべきか。はたまた彼女に貸した上着をそのままに薄着で外を移動したからだろうか。満を持して僕は体調を崩した
『またコタツで昼寝でもしたのか』
と飛んできたメッセージには返事を返さないでおく。嘘をついてもホントの事を言っても小言が続くだろうから。その後にもどんどんメッセージが送られてくるが、画面を見ていると視界がぐるぐると周り身体の奥底から吐き気が湧き上がって来た
しばらく眠る旨を皆に伝え、スマホを机に転がし横になっていたソファーから立ち上がった。一応体温くらいは測っておこうかなと考えた訳だ。えっちらおっちらトレーナー室を徘徊し体温計を探したのだが、棚に置かれた救急箱の中にも机の引き出しにもどこにも無い
おかしいな、と思い部屋を見渡しながら記憶を探ってみると1つの心当たりに辿り着いた。ただあまりにもバカバカしい心当たりだったし、流石に記憶違いだろうと思いながらも壁の方に目をやる
案の定、部屋の壁に掛けてあるダーツ板に体温計がぶっ刺さっていた。電池を取り換えても機能せず、故障したそれを捨てる前に遊びで投げたらど真ん中に刺さったので何かの縁を感じてそのままにしてあったんだった。我ながら少々道化が過ぎるが、引っ張りぬく元気も無いのでそのままにして再びソファーに倒れ込んだ
ここを出てトレーナー寮に戻るのも面倒だ。幸い手洗いはすぐ傍だし、トレーナー室の中にはある程度の飲食料は揃っている。軽い風邪程度食事をして眠ればすぐに治るだろうし、取り合えず部屋のドアに『本日入室不可』と書かれた札をぶら下げておく
チームの皆には伝えはしたが、時たまフラリと遊びに来てくれる他所のチームの子達が誤って入り込まないよう配慮する必要があった。彼女達に万が一の事があってはならない。教え子看病シチュエーションは誰もが一度は妄想するものだけれど、1分1秒が黄金のような価値を持つ彼女達の青春に泥を塗る可能性が1%でもある以上所詮は妄想に留めておくべきものなのだ
『そんな訳で私が来たわ』
とんとん、とドアがノックされる音で僕は意識を取り戻した。少しうとうとしていただけのつもりが、今は丁度学園の昼休みの時間になっていた
ドア越しに聞こえてくる声は我が愛すべきいとこ、ホワイトレイヴンの声だ。自称『お見舞いのプロ』である。(正しくはお見舞いしてもらうプロである)彼女は妙に自信に溢れた声で入室許可を求めて来る。彼女は紛れもないウマ娘であり、扉に引っ掛けてある看板を見て気後れしない理由がまるで解らない
『身内の危機よ。仕方なく、といった所ね』
「うきうきの所悪いけど、替えが効く僕とは違って君が体調を崩したらムーンシャインは大打撃だ。そうなったら僕の居心地が悪くなる。気持ちだけ頂くから……」
『誰かが様子を見た、という結果を用意しないとあの子達がずっと落ち着かないでしょう。大丸叔父さんも出張で今日はいないし、となればもう私くらいしか居ないし』
「だから尚更だ。緊急時に対応できるウチのチームの大人は君なんだから。……それに、万一にでも君が体調を崩す羽目になったらと思うとゾッとする。君が床に伏せているのを見るのはもう二度と御免なんだ」
僕がそう言うと彼女はふーん、と言ったきり黙った。こちとら大人なのだから自分の面倒は自分で見れる。そう言い張る僕の強情さが気に障ったのだろうか。それとも、熱にうかされつい言ってしまった突き放すような余計な言葉が気まずさを与えてしまっただろうか
しばらくの後、ドアの向こうからガサガサとビニール袋の擦れる音が聞こえる
『扉の前に差し入れ置いておく。あと夕方に様子を聞くから、それにはちゃんと返事をして。……大和、あなたが抱えている気持ちと同じくらいのものをこちらも感じているって事、解っておいて欲しい』
静かな足音が遠ざかって行く。胸に浮かぶ申し訳ない気持ちを整理しながら身体を起こし、ドアの前に置かれた支援品を回収しようとドアを開けた
「ほいほい。お暇なコットンルルちゃんですよぉ」
「えぇ……」
ビニール袋を持ったピンク髪のウマ娘、コットンルルが満面の笑顔で(顔半分はマスクで隠れてはいたがそれでも僕には彼女の表情くらい声の調子から読み取れる)そこに立っているではないか。彼女は僕が何か言う前にさっさと部屋に押し入り、投げつけるようにして僕をソファーに転がした
「ルル。あのね___」
「私は引退済み。同室のダイブは遠征中でしばらくいない。レース練習が無い私は午後はどーせ暇だし、この後も部屋で勉強するだけで誰にも会わないようにする。立派な言い訳もちゃーんと考えてきたんだから。それに大和サブさぁ、これ以上意地張って後々大事になったらどーすんのさ」
「___解った。ありがとう。お世話になるよ」
「うむうむ。存分にうつしてくれちゃってダイジョブだかんねぇ。ヒマ娘だし」
いやうつさないけど。部屋を換気してお湯を沸かし、持ってきてくれた差し入れを机に並べてと忙しなく動いてくれる彼女をぼーっと見つめる。引退してしばらく、ルルは卒業後の進路を考えて勉強に取り組む日々だと言う。顔を合わせる頻度は少し減ったけれど、それでもたまに練習に参加しているし相変わらずだらける時はチームハウスを利用しているので寂しさは感じない
それにレースに出ないからといって彼女の事を他の子より軽んじて扱ってもいいなどと僕は微塵も思ってはいない。ただ、ドアを開けた時の彼女の顔はとても張り切っているのが容易に見て取れたのだ。面と向かって拒否する事などできなかった。正直、とても嬉しい。心に空いた穴がじんわりとした温かさで塞がれるような心地よさを感じる
「さーて、後は何するんだっけ……。あ、そうだそうだ、大和サブ、お熱測った?え、体温計無いの?……んん!?なんで壁に刺さってんの!?まあいいや、一応看病グッズ一式を持ってきたんだぁ。ほら脇に挟んでね。……え、39℃!!?激やばァ!!!!!」
「大げさだよ。僕の平熱は38℃くらいだし。ほら、いつも君達の魅力に熱が上がちゃってるから……ね」
「くだらないジョーク言ってる場合じゃないでしょぉ!え、どうしよ……!?保険室行って先生呼んでくるね!」
「注射と粉薬はNGだって伝えておいてくれ」
彼女は大慌てで駆け出して行った。しかし、僕は本心で少しばかり元気になっている気がしているのだ。彼女達と顔を合わせない朝を迎えた事が何よりの不調の原因だったのかもしれない
ルルが用意してくれたおかゆでお腹も満たされた。いい気分になった僕は毛布を被り今一度横になるのだった
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なのでここからは所詮妄想に過ぎない。設定上都合よく弄るのであれば、人の風邪はウマ娘にうつらない。そういう前提をもってすれば彼女達に看病される夢を見ても罰は当たらないだろう
「そういう訳で、ナースネイチャ。よろしければリンゴを剥いてくれないかな。勿論、身体が弱って腕が上がらない僕に食べさせてくれるサービスもお願いしたい」
「そちら特別料金になっております」
冷たい目つきに晒されて火照った熱が少し引いた気がする。彼女の看病は特別な効果があるのだろう。こうなったら金に糸目をつけず行けるところまで行くべきだ。勿論、看病的な意味で
「オーケー、料金表を見せてくれるかな」
「はいはい。お元気そうなので実家に帰らせて頂きましょうかね」
「いいや元気なんてとんでもない。だから今しばらく僕のうわごとに付き合って欲しい。我儘かな?」
「我儘な人ですねぇ。いい年なのに」
やれやれ、と肩をすくめて彼女はえっこいさと立ち上がり台所へ行く。とんとん、と小気味良い包丁がまな板を叩く音が聞こえたかと思うと綺麗に小皿に盛られたりんごが目の前に置かれた。僕は重たい身体に鞭を打って財布に手を伸ばす
「あー、大人しくしててってば!んもー……」
渋々、といった顔でつまようじを手にした彼女が座ったままの姿勢でこちらに詰め寄り、その手を僕の顔の前に差し出した。よく見ればその頬はりんごのように紅に染まっており、恥ずかしさに揺れる尻尾が床を叩く音がかすかに耳に届いてくる。困ったな、まだ食べてもいないのに既に甘酸っぱい気持ちで胸がいっぱいに___ちょっと待ってくれネイチャ、今いい所なんだ。いいじゃないか所詮は夢の話で___
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「ま、私がふらふら出歩いてたせいでもありますので」
「カッコつけたがった僕が悪いのさ。しかしまぁ、役得ではある」
「大手を振ってサボれるのが?」
「それは普段でも出来る。こういう時にしか見れないものを観させてもらえたからさ」
珍しく真面目にてきぱきと、非常に献身的に世話を焼いてくれるスカイの様子を面白がって見ていた事がバレたのだろうか。彼女はムッと不機嫌そうな顔で冷たいおしぼりを僕の顔にぐいっと押し付けてくる
「いくらセイちゃんでも、こういう時くらいちゃんとしますよ。ほら、他に何かして欲しいことあります?」
「ふぅん……そうだね。君達にしてあげたい事はたくさん思い付くんだけど、その逆は出て来ないな。普段君達から多くのものを貰って十分満たされているからね」
「……そーいうの、よくないですよ。折角私が柄にもないこと言ってるんだから素直に頼ってくれなきゃ」
お礼する折角の機会ですし、とごにょごにょ小声で言いながら恥ずかしそうに下を向いて耳をぺたんと倒して黙り込んでしまった
「___ごちそうさま」
「人が真面目に喋ってるんですけど!?」
冷たいおしぼりが叩きつけられ、もう少しこの時を楽しみたいという想いとは裏腹に残念ながら僕の意識はそこで途切れてしまった
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「すまないねぇライス。苦労をかける」
「それは言わない約束だよ、お兄様」
ライスは傍にあるリンゴを手に取る。剥いてくれようとしているのだろうが、生憎トレーナー室には包丁が無い。先程のシーンではあったかもしれないが、とにかく今は無い。困ったように首を傾けて思案していたライスだったが、何か思いついたようで目をパチっと見開いた
「あのねお兄様。この間ブルボンさんが教えてくれたリンゴさんの剥き方があってね。こうするとトレーナーさんがとっても喜んでくれたって言ってたんだ。いくよ?……えいっ!」
おもむろに手にビニール手袋を装着したかと思うと、その可愛らしいお手ての中でぐしゃりとりんごを握りつぶし、グラスに注いでくれた
「はいお兄様っ。リンゴさん剥けたよ?」
これでリンゴジュースの出来上がり。素晴らしい。ライスシャワー1秒クッキング。ご視聴はお手元の端末から。
「剥けたというかなんというか……とにかく、ありがとう。リンゴのすりおろしは風邪をひいた時のお約束だからね。ブルボンと彼女のトレーナーの特殊なプレイについては次会った時に僕から詳しく聞くことにしようかな」
この辺りから僕の意識がふわふわしてきたからか、変なイメージが実現されているような気がする。意識の彼方から「ライス、こんなにパワフルな看護はしないよぉ!」と悲鳴のようなクレームが飛んできている気がする。でも皆真面目に看病してくれるシーンばかりだとネタが被るというか___あぁすまない怒らないでライス。解った次に行こう次に
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「占いによるとぉ……」
「フクキタル。看病は正しい医学知識に基づいた教科書通りの手順で行って欲しいのだけれど。博打じゃなくて」
「梅干し!梅干しが大和さんの風邪を取っ払ってくれます!」
「ああシラオキ様……僕が梅干しを好まない事をご存じな上でのお達しだというならあまりにも無情だ」
「これを機に好き嫌いを解消なされてはどうでしょうか大和さん。梅干し美味しいですよ」
「大人の好き嫌いは治らないものなんだよ。食べられなくはないんだけど、独特の酸っぱさに馴染まなくってね」
僕の嫌いな食べ物を把握する数少ない友人である彼女が差し出す梅干しを1つ口に入れる。あらかじめはちみつ漬けにして少し甘味を加えてくれておいたらしく、独特のすっぱさが抑えられ食べやすい味わいになっていた。看病はお姉ちゃん相手で慣れてまして、と軽い調子で言ってから、ちょっと重たい空気になりそうな予感がしたのか関係ない雑談にすぐさまシフトする
彼女の軽快なトークを聞きながら、これが夢ではあるが妄想ではなく、追想だという事に僕は気付いていた。いつだったかは曖昧だが、確か彼女が高等部に上がる前の出来事だった筈だ。あまり体調が良くないがどうしても片付けたい仕事があり渋々トレーナー室で仕事をしていた僕の顔を見るなり風邪と見抜いた彼女は問答無用で僕をソファーに投げ飛ばした
最初は丁重に断ろうかと思ったのだが、普段は見せない震えるような声で懇願されたのと、何より本当に辛そうな目をしているものだからどうしようもなかった
「___って訳でして、いやぁほんと驚きましたよ。なんせまさか鞄の中からネコちゃんが飛び出してくるなんて!エアグルーヴさんなんか2mくらい飛び上がってましたね!……ん、なんです?じーっと見つめて。もしかして私顔になんかついてます!?」
「いや、ただ君が楽しそうに話しているのを見るのが好きなだけさ。さぁ続けて、フクキタル」
「あ、そうですか?んん、なんかハードル上げられちゃって喋りにくくなっちゃいましたねぇ」
少し恥ずかしそうに頭を掻いて、それでも僕が楽しそうにしているのが嬉しいみたいでまたクラスの出来事を事細かに語ってくれる。聞いているだけで彼女達の楽し気な学園生活の様子が頭の中に浮かぶようだった。熱でふわふわする意識が再びすっと奥深くへと落ちていく
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「はい、濡れタオル。顔拭くとすっきりするわよ」
「ほいうどんいっちょ上がり。ゆっくり食えよ」
息の合ったコンビネーションだ。そういうとムキになった2人の喧嘩が勃発して穏やかな空気が破壊されてしまうだろう。普段はその空気のジェットコースターを楽しみたいところだけど、今日の所はこのまま静かな場を維持する事を僕は選んだ
「すまないね。大切な時期だというのに」
「ホントよ。貴重な時間使って面倒見に来たんだから、ソッコーで治しなさいよね」
フンと鼻息を荒くする彼女の教科書に乗っていそうなテンプレ語録で心配されると元気も出るというものだ
「偉そうにしてっけどさ。スカーレットのヤツ、トレーナーの事が心配で授業中もぼーっとして先生に怒られてたんだぜ?」
「バッ、そんなんじゃないわよ!ただ、ほら、アレよ!大人しく寝ないで変に仕事したりゲームしたりしてないかしらって考えてただけよ!」
「それが心配してるって事じゃねーのか……?」
「うるさいわよ!そういうアンタだってお母さんに電話して風邪の時の対処法聞きながらメモとってたでしょうが!真面目でお優しいわね!」
「んだよアウトローだぜ俺は!カッケェ治療法を聞いてたんだよ!ほらトレーナー、へそに10円玉貼るといいらしいぜ!」
「あんたのカッコイイってなに……!?」
ウオッカが僕のへそに10円玉を本気で貼ろうとしているのを抑え込むスカーレット。ウオッカの手から飛び出した10円玉が僕の額を撃ち抜く。あっ、とハモる二人の声を合図に僕の意識は再び深く沈んで行った
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「で、これも夢なんだろうなって思ってる訳さ」
「そうか。頬でも抓ってやろうか?」
「優しく頼むよ」
フン、と鼻を鳴らしたエアグルーヴが換気の為に窓を開ける。オレンジ色の光が差し込む窓の外から練習に励むウマ娘達の騒ぎ声と、熱気のこもった部屋をさっぱりとさせてくれる涼しい風が飛び込んできた。僕は身体を起こしてソファに座り込み、火照った身体が冷えていく心地よさを楽しみながら大きく伸びをした
「たわけ、身体を冷やすな」
飛んできた上着が頭に被さった。ふわふわと着心地の良い服を羽織ると、僕の前に暖かいお茶の入った湯呑が置かれる。至れりつくせりでありがたいけれど、無言で横に突っ立っている彼女から当てられる圧力は少し居心地が悪かった。ただ言葉に出して怒って来ないという事は、今回の件については仕方ないと思てくれているみたいだ。だからと言って機嫌が良い、訳では無いのだろうけど
「ありがとう、頂くよ。……んん。君の淹れてくれるお茶は天下一だねぇ」
「そうか」
「……しかしあれだね。んん、この恩はどうにかして返さないと。今度是非とも買い物に付き合わせてくれ。荷物持ちは得意なんだ」
「そうか。丁度生徒会室の冷蔵庫の調子が悪いと後輩から相談が来ていてな」
「軽い買い物の時に呼んで欲しいかな」
「頼りにならん男だな。……恩返しと言うなら、精々体調管理に気を付け___いや、いい」
「ふーん……怒られないとは、やはり夢だね。思い切り抓ってもらっても大丈夫だよ」
「秋の件もある。しつこく言うのは性に合わんし、お前を責めるとスカイに悪いからな」
そういうと彼女は少し困ったように笑って、自分の分のお茶を淹れ始めた。しばらくここに居てくれるらしい。話し相手が欲しかった僕は呑み終えた湯呑を机に置き、横になりながら何を話そうかと考えながら彼女を待つ事にした
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「___ふぅ」
ソファに横になったまま寝落ちていたトレーナーを置いてエアグルーヴは部屋を出た。ウマホを見れば予定より随分と時間に余裕がある。生徒会の仕事がある、と言って少し早く練習を上がって来た手前今更合流するのも変な話だし、今日仕上げないといけない用事は無いが生徒会室に寄ろうかと考えながらトレーナー室がある棟を出た
「「「あっ」」」
いかにもクールダウンを終えた帰りと言った顔でこちらに向かっていたムーンシャインの面々とばったり出会ってしまった。一瞬しまったと表情を歪めたエアグルーヴだったがすぐさま毅然とした顔を作り直し
「あ、あの、グルーヴさ__」
「今日の分は終わりか?お疲れ様。身体を冷やさんようにな」
「いやいやいやグルーヴせんぱ___」
「ではな」
「ではな、ではなく!」
押しきれなかった。下からぐいっと見上げて来るライスから全力で目を逸らす。エアグルーヴの視線を沈みゆく夕陽が迎えてくれる。あの夕陽を追いかけて地平の果てまで逃げてやりたいな、と思った。視界の下端にライスの大きな耳がぴょこぴょこ揺れている
「グルーヴさん、お兄様のお見舞い行ったんですか?」
「いや。生徒会室と間違えただけだ」
「その言い訳私のより酷いと思いますが!?」
スカイのツッコミももっともだな、と思いながら視線を逸らしていたエアグルーヴだったが夕陽を見つめるその視線にフクキタルが軽く背伸びをしながら割り込んできた
「グルーヴさん、大和さんのお見舞い行ったんですか?」
「行ったか行ってないかで言うと……まあ……行ったが」
「へー……」
「……ウィンタードリームトロフィーは2月だからな」
あとコットンルルが予定外の補習を喰らってしばらく動けない、との事で様子見のバトンが回って来た以上仕方が無かった。同室のファインモーションも今は国に帰っているし……などと言った言い訳を言う前に、スッとフクキタルの視線が細くなったのが解った
「総員出走準備!」
「待て待て待て!」
「ずるいじゃないですか!妄想ネタで尺稼ぐ流れだったのにおひとりだけ抜けがけですか!?」
「お前だって過去回想だからどっこいだろうが!ああ待て、他の者達を許可した訳じゃない!」
少し負い目がある以上全員を抑えるのは中々難しいことだったが、最終的に全員で大和とテレビ通話をする時間を設けるということで一応は収まりを見せた
※上手くお話に絡められなかったナリタタイシンちゃんとは
『風邪?』→「知恵熱だよ」→『w』みたいなメッセージのやり取りがありました。ちょっとだけ心配してるのでメッセージを送ってくれた訳ですが、秒で返信が返って来たので安心して普段通りの生活に戻った、という感じです
今回は1万文字こえました。ちょっとした番外編でお茶を濁そうと思ったら時間はかかるわお話は長いわで大変な事になってしまいました
次回はホープフルステークスの始まり辺りまで書く予定です。書けたらいいな、と思ってます。多分そうなります