最終コーナーを回り勝負は最後の直線!ミキリハッシャマン先頭で踏ん張る!歯を食いしばり突き進む!
来るところまで来ましたからねぇ。崩れず頑張って欲しいですが
ここで最後の給水場です!迷わず取り上げるは銀の缶!一気に飲み干し千鳥足!
これでこそですねぇ。最後までふわふわした勢いでいきましょう
一番になりたい、と君は言った
それがどれだけ険しい道か、君は理解したつもりで踏み入ったのだろう
だがその覚悟すら容易に飲み込んでしまうような荒れ狂う嵐を前にプライドは擦り切れ、揉まれに流され
彼女は痛みを持って世界を知った
「その上で、もう一度聞きたいな。君の夢を」
「1番。変わらず、目指す場所はそこだけよ」
1番とは何なのか
負けない事だ。と言うのであれば挑まなければいい。自分の殻に閉じこもり、オンリーワンを叫べばいい
勝ち続ける事だ。と言うのであれば勝負の場を見極めて挑めばいい。勝てる勝負だけを勝てばいいのだ
今日この時から毎時毎分、世界中で開催されるあらゆるレースに出て勝利し続ければ誰にも解る形で1番を名乗れるのかもしれないが、流石に僕も(スカーレットも)現実は見えている。というよりこれ以上ない程現実を見据えながら1番という目標を立てているからこその過酷な道なのだ
つまるところ僕と彼女の旅の果ては、『1番』を名乗るに相応しい存在とは何かを探り当てる事にこそある
明確な答えを持たない1番という抽象的で漠然とした目標はダイワスカーレットの中で完結している。どれだけの結果を残そうと、彼女が満足しない限り果たされる事は無い。果てしなく無謀な旅に挑むスカーレットの瞳は今日この日を迎えて尚爛々と輝いていた
「全てのレースは等しく唯一無二だ。模擬レースも、GⅠも変わらない。相手が居てゴールがあって……君達はその何れも100%を尽くすべきだ。崇高なアスリート精神というやつだね。だが間違いなく、GⅠレースだけが引き出すテンションというものが確かに存在する。君が今感じているようにね」
「そうね。今までにないくらいめちゃくちゃに緊張してるわ」
「だろうね。そうでなくっちゃ。それが君を120%の世界へ引き上げる起爆剤だ」
少々そわそわと落ち着かない様子のダイワスカーレットはその身に鮮やかな青の勝負服を纏っている。その衣装はただ彼女の美しさを飾り立てるだけでなく、内に秘める強さを目に見えるよう引き出してくれる。レース場に立てば尚のことそれは引き立つだろう
これまでファンの前では少々大人しく礼儀正しいキャラを意識していたスカーレットではあるが、今日はその殻をぶち破る必要があるかもしれない。突然彼女の全開を浴びて高低差に耐え切れず心が破裂するファンもおられるかもしれないが、それは必要経費だ。むしろお礼を言って欲しいくらいである
可能ならば僕も一度記憶を消してダイワスカーレットというウマ娘が秘める魅力をGⅠレースを通して知るという非常に贅沢な体験をしてみたいものだ。まあ叶わない訳だが、それでも僕は度肝を抜かれるであろう世間に対して腕組みにやけ面でマウントを取る権利を有しているので不満は無い。故に僕は非常に落ち着いてレースを応援する事ができるのだ
「ちょっと、1人で勝手に解決してんじゃないわよ。こっちは緊張してるんだけど」
「いいことじゃないか」
「よかないわよ」
「まあ確かに、緊張の根っこにあるものがネガティブでストレスを与えるものであればパフォーマンスに影響する。しかも厄介な事に抑えようとしても深まるばかりだ。心理的な圧に起因するからね。結局それを取り払うのは徹底的な脱力で状況に対する感情を0にしてしまうくらいしか方法が無いのだろうけど、そんなことしたら結局100%以上は望めない」
己のベストを尽くせば勝てる。そうアドバイスするのは楽だ。スカーレットはそれができるだけの実力がある。しかし、ただ勝つだけでは足りないのだ
「大舞台だ。目的としてははりきって勝ちに行く訳だが、目標はそれに留まらない筈だ。堂々と胸を張って、ダイワスカーレットこそ新時代を代表する強者であるのだと世に知らしめる。君にはその次元を期待している。それだけの走りをする為にはGⅠの熱を取り払うのではなく利用する必要がある。僕が求めすぎだというならそう言って欲しい、スカーレット」
「……ふん、任せなさい。確かに折角のGⅠで、ただ『1着のウマ娘』って結果だけを残してハイ満足なんてもったいない事はしたくないわ。あたしがどういうウマ娘なのか、それを走りで証明してみせる。しっかりと見てなさい!」
「それでこそ僕の愛すべきスカーレットの在り方だ」
今日はウオッカとの対決だが、ウオッカだけが相手ではない。彼女はしっかりと全てのライバルに意識を割いている。一度勝った子、前評判では自分より格下とされている子。もろもろ、彼女には関係無い。この瞬間、1着を争う相手であれば皆平等にライバルなのだから
今更作戦の振り返りは必要ない。今日という日に向けて積み重ねて来た力は既に研ぎ澄まされ、披露されるのを待つだけである
「ま、堅く重く背負うのもいいけど。しっかり楽しんでおくれ、スカーレット。勝利した暁には素敵なご褒美を用意してあるんだ。君にこそ相応しい極上の品だよ」
「あら、なにかしら?私に相応しいって事は……」
「焼肉食べ放題」
「ちょっと!あたしを腹ペコキャラ扱いするのはやめなさい!」
目を吊り上げブチギレる彼女から憤怒の声が叩きつけられ、控室のドアが僅かに揺れる。それに乗って緊張が吹き飛ばされたようで、彼女の肩に僅かに入っていた余計な力が抜けるのが見て取れた。僕の完璧な選択肢によりスカーレットはこれにてベストコンディションと言えるだろう。ちょっと好感度が下がったらしいのが若干手痛いのだけど
「……どこのお店よ」
かと思えば目を逸らしながら小声でごにょごにょ呟いた。この提案に乗って来る辺り彼女は素敵なレディでありながら食べ盛りのアスリートである。無論、行きつけの良い店を予約してある訳だ。チームの打ち上げは有マが終わった後にまとめてドカンと一発の予定だが、それと別で彼女との焼肉デートの時間を確保してある。抜かりはない
「それは当日お楽しみ。さあ、時間だ。行こうか」
控室を出ると丁度隣の部屋からウオッカも顔を出す。彼女とは先程打ち合わせを済ませている。軽く目配せするが、彼女は先程別れた時と同じように自信に溢れた目付きだった。それをスッと横に滑らせスカーレットに視線を合わせると不敵に微笑んだ
「ようスカーレット。気合入れてもらえたみてぇだな。そうじゃなくっちゃあな……。腑抜けてるお前をぶっ倒しても、俺の伝説に箔が付かねえってもんだ」
「……あんたあれね。昨日遅くまで何をノートに書いてるのかと思ったら、それっぽいセリフを考えてたワケ?」
「は?いや別に?そんなことする訳ねーだろ?俺くらいになるとそんなコトしなくてもその場その場でかっけえ台詞が口を突くのよ。解るか??」
「勝利パターンと敗北パターンの決めゼリフも考えてあるの?」
「……フン、負けた時のセリフなんてのはハナから考えてもねーよ。俺はぜってー勝つ」
「つまり勝った時なんて言おうかは考えてあるのね」
「……」
「というか今の返しのセリフももしかして考えといたやつ?アンタ暇ねー。そんだけ余裕ぶっこけるの、ある意味尊敬するわ」
「あぁぁぁ!もうやめろ!今からそういう事言うな!終わった時何言っても気まずいだろうが!」
「負けパターンのセリフ、楽しみにしとくわね」
「お前こそ今から考えとけよ!じゃあなトレーナー!行ってくるからな!」
ぶりぶり怒るウオッカと並んで半笑いのスカーレットが手を振って歩いて行く。まあその調子なら大丈夫だろう。2人の背を見送りながら思い出すのは、僕がスカーレットをスカウトした後の2人の対決の際の記憶だ。あの時は短気を拗らせたフリをしたスカーレットの後を呆れた様子のウオッカが追いかけていくもので、少し今とは違う状況ではあるがそれでも僅かながらの既視感があった
だがしかし。あの頃の未熟で幼い2人とは見違える程に逞しい背中だ
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「いやぁー盛り上がってますなぁ」
ぽつりと呟いたネイチャの声は周囲のざわめきに呑まれ消えていく。12月の寒さもこの会場の熱気に跳ね返されるかのようだ。まあ実際は寒いのだが。新世代の代表達の激走を一目みようと集まった観客達により本日の中山レース場も満員御礼である
「先輩方ー。お1つどうです?これ」
「ん、なにこれ」
「売店で売ってたんですよー。ロングポテトです」
買い物から戻って来たセイウンスカイが差し出した透明なカップにぶっささっているのは、食べやすいように細長くカットされた芋。バターできつね色に揚げられたスティック状のお芋の表面にはきらきらと輝く砂糖がちりばめられている。ネイチャは吸い寄せられるように手を伸ばし、いざ掴まんとした所で正気を取り戻した
というのは、スカイの視線に何か薄暗いものを感じ取ったのだ。じろりと睨んでやると案の定彼女はすいっと空に視線を上げる
「……あー。ごめんごめん。今お腹いっぱいだしセイちゃんが全部食べちゃっていいよ」
「えっ。いやぁ全部なんてそんなー。先輩に食べて欲しくて買ってきたんですよ。食べてくれないなんて傷ついちゃうなぁ」
「カロリー爆弾でしょうが!有マまであと何日ってタイミングで食べていいものじゃないでしょ!」
「しょうがないなぁ……。じゃあ、スペちゃ___アッ、スイマセン」
後ろの席に座る同級生に差し出そうとしたところ、その左右に座るサイレンススズカとグラスワンダーの凄まじい視線に挟まれ思わず縮み上がった
「だからやめとけって言ったんだよ。ほら渡せ、スカイ」
「あい……」
近くに腰掛けて様子を見ていたワンモアダイブが席から手を伸ばしてスカイの持っているカップを取り上げる。自分が食べたくて買ったのだが、スカイがちょっとしたいたずらに使いたいと言うので貸してやったのだ。まあこうなる事は解っていたのだが。縮こまるスカイに目を向けたまま薄っすら微笑むグラスワンダーがおっとりと、しかし静かな怒りを感じさせる声で追撃する
「いけませんよセイちゃん。まさにライバルに砂糖を贈るような真似、見過ごすわけにはいきません」
「や、やだなぁグラス。そんな邪な意図は無いったら。ただスペちゃんがあんまりにもひもじそうだから……」
実際、スペシャルウィークは反射的に伸ばした手を空中で制止させながら失意に塗れた瞳で空を見上げながらお腹を鳴らした。その様子は鉄の意志で武装しているスズカとグラスをもってして一口だけなら……と思わせるような程悲劇的なものだった。しかし本日のスペシャルウィークが摂取していいカロリー量はとうに規定値を僅かに超えているのも事実なのだ
本日もレース場内には様々な魅力的な屋台が並び、初挑戦とはいえGⅠに出走するウマ娘達を盛り立てる為の斬新なコラボメニューも目白押しだ。ウオッカのブラック焼きそば、ダイワスカーレットのいちごクリームサンドを筆頭とした新メニューを制覇せんと殴り込みをかけるスペシャルウィークに引きずられる事1時間と少し、流石のグラスも少々頭に来ていた
「スペちゃんは今日はもう晩ごはんまでお水だけですからね?」
「ありえんたい……」
「それ北海道弁じゃないと思うのだけれど……」
静かに突っ込むスズカだが、そもそも今日は練習詰めのスペシャルウィークの息抜きと新世代を偵察する事でのモチベーションアップの名目でここまで来ている。食べすぎには気を付けるよう己のトレーナーに言われている以上、スズカも仕方なくスペシャルウィークを応援席に釘付けにすることに尽力せざるを得なかった。グラスワンダーも休息日を有意義なものとする為新世代の偵察に馳せ参じていた
そしてムーンシャインは勢揃い。レースが無くて暇な者も、先輩後輩のGⅠ出走を応援してやらんと全員が学園に残った。中には諸事情があり地元に帰りたくない者もいるのだが、そこらへんの事情は割愛しよう。ともかく盛り上げ命の応援団は赤と黒の応援法被を上から羽織り万全の体制を敷く。その場に似合わないような、少々呑気な声が1つ響いた
「おー美味そうだな。ダイブ、1つくれないか」
「いいっすよ大丸リーダー。どぞどぞ」
「ありがとよ。……甘いけど、食べ応えあるな。ビールに合う。俺も買いに行くかなぁ」
スキンヘッドが冬の陽を浴びてつるりと光る。冬だというのに軽く羽織っただけの上着から飛び出した太い腕で空になった缶ビールをカシャッと小さく潰し、足元のビニール袋に放り込んだ。隣に座るエアグルーヴの眉がぴくりと跳ねる
「大丸リーダー」
「なんだエアグルーヴ。俺は今日有給で来てるからな。一般人だぞ一般人」
「いえ、その袋は先程フランクフルトの包み紙をお捨てになった袋です。分別はきっちりお願い致します」
「ん、そりゃまずいな。ありがとよ教えてくれて」
すわ雷かと耳を伏せていたスカイが恐る恐るエアグルーヴの顔を覗き込む。彼女は珍しく眉間の力を抜き穏やかな調子で売店で買った砂糖菓子を頬張っている。むしろ鼻歌でも歌い出すんじゃないかと見える位にご機嫌だ
「どうしたスカイ。1つ欲しいのか?」
「なんというか怒ってないグルーヴ先輩……珍しいですね……」
「ほー、なんだスカイ。私を怒らせようという魂胆か?」
「すいませんなんでもありません」
「私とて無意味に不機嫌を振りまいたりはせん。特に休暇中の人間の過ごし方にケチなどつけんさ。細かい事は気になってしまう質ではあるがな」
今のセリフ録音した端末、大和サンにいくらで売れるかな。そう言うか言うまいか、迷って結局口に出さなかったスカイは賢明だったと言えるだろう。スカイの言いたい事を表情から大体読み取ったエアグルーヴではあったが、実際に口に出さなかった事を配慮し
「大丸リーダーは年中忙しいし、大晦日や年始もチームリーダーとして挨拶周りやイベントの出席が目白押し。今ぐらい休んでいただくべきだ。年中サボっている男とは訳が違う」
「まあまあエアグルーヴ。ここ最近アイツも頑張っているのはお前も認めているだろう?俺がこっちに側に座るのは久しぶりだが、安心して飲んでられるのはアイツがそれ程の男になったって証拠でもある。今回のレースに際して俺から2人には特に指示を出してないからな」
大丸がレースについて口を出さない、というのはムーンシャインにとっては非常にとっても珍しい事だった。さしもの彼も多忙である故時にはレイヴンや大和に少し任せる事はあるが、基本的にレースに関しては全員の面倒を見るのが彼の信条だ。大らかな方針を良しとする人徳者だが、レースに関する嗅覚は並々ならぬ鋭敏さを誇る。スカイはそんな彼の考えを聞きたかった
「大丸リーダー的には今日はどう見てるんですか?」
「んん。そうだなぁ……。経験と自信をそれなりに積んだ面子が揃ってる。番狂わせも無くは無いが、一歩抜きんでているように見えるのが5人程。ウオッカ、スカーレット、ホープスペンサー、ダークネスシュガー、ユーミースプレンディッド。この5人を中心に進むだろうな」
大丸が名を挙げたのはデータ収集に付き合っていたスカイも注目しているウマ娘達だ。どのウマ娘もここまで負け知らず、なおかつ後続にしっかりと差をつける勝ち方を見せている。確かに注目すべきポイントになるだろう。しかし、とここで大丸が言葉を切った
「後はそれぞれのトレーナーがどういう指示を出したかで決まる。作戦って意味じゃ無くこのレースをどこまで『勝ち』に来ているかだ」
そりゃ全員が全員、全力で勝ちに来てるでしょ。話を聞いていたムーンシャインの大半のメンバーは反射的にそう思ったが何人かは違った感想を持った。特にスカイは彼の言いたい事がよく解った。大丸は新たな缶を取り出しながら話を続ける
「GⅠレースはそりゃあ勝ちたい。勝てば生涯の誇りだ。それに何度も挑めるレギュレーションじゃあない。出走条件を満たすだけで大変だし、運も絡む。ただ、各々がトゥインクルシリーズをどう捉えているかにより多少話は変わってくる」
「どこに焦点を当てるかって話ですよね」
スカイの言葉に大丸が頷く。何を隠そう、昨年のホープフルステークスに挑んだ際のスカイも同じような考えを持っていた。彼女が焦点を当てていたのはクラシック三冠を担うレース。そこに焦点を絞ったスカイはそこに至るまでの全てを布石とするにしたのだ
ジュニア級のGⅠに挑戦するウマ娘の中にはまだ身体が十分に出来上がっていない、所謂『本格化』の問題を抱えているウマ娘も少なくない。周囲の熱に中てられ限界を超えやすいGⅠという環境が与えてくれる経験値は逃すにはあまりに惜しいが、リスクが無い訳では無い
その辺りを踏まえた作戦をとる、という勇気もトレーナーには必要なのだ
「まあ手を抜くって訳じゃあない。出し切るのはここじゃあないって考えならそれ相応の作戦を仕上げるのがトレーナーの仕事だ。特に今後クラシックで当たる相手が多い中でウオッカにどう走らせるか、大和の奴がどう考えたかは少し気になってる。……だがまあ、十中八九全力で勝ちに行かせるだろうけどな。今後の為に、今も全力。アイツならそうする筈だ。だから今日はきっといいレースになる。迸る情熱が目に見えるような、そんな熱いレースにな」
彼が飲み干した缶を丁寧に手の中でぺしゃんこに潰すと同時にレース場を大歓声が覆う。本日の大一番に出走するウマ娘達が遂にターフへその姿を現したのだ
スカーレットとウオッカ、どっちが勝つか見物ですね。ちなみに今の時点ではレース展開は未定ですわ!がはは
この作品を書き始めて1年と少しが経ちました。大きく環境が変わった方もいらっしゃれば、そうでないかたもいらっしゃるでしょう。わたくしも変わらないようで少し変わって少しだけ忙しくなりましたが、そろそろ時間を作れそうなので一気にいきたいです。いければですが