プリティダービーに花束を(本編完結)   作:ばんぶー

77 / 88

当然両方愛します




何故なら腕が二本あるから




それはそうと早くホーム画面の待機ウマ娘を2人にできるようになりませんかね




そしたらウオスカ待機画面で無限に眺めてられますのに




いつまでも待ってます





追伸。皆様暑さにお気をつけて





字余り


愛すべきは勝者か敗者か

 

 

 レース結果を示す掲示板にはいくつかの数字が羅列されているが、肝心の1着が誰なのかに関してはだんまりを続けている。焦らされた観客の視線を独り占めにしようというのだろう。僕はそんな憎たらしい掲示板にはチラリと視線を向けるだけにとどまり、芝の上に視線を戻した

 

 

 勝負の後だと言うのに、いや後だからこそだろうか。彼女達はギラギラと輝き、遠く離れていてもまるですぐ傍に居るかのように感じさせる熱いオーラを放っている。勝敗の行方を見るより、僕は彼女達の今を感じていたかった

 

 

 もしくは一度結果発表までにクールダウンの時間を設けたかっただけかもしれない。僕の教え子___教え子って言うとなんかちょっと背伸びした感じが出るし、正直恥ずかしいのだけれど___まあとにかく、愛すべき友である2人がGⅠレースで1着と2着を独占したという事実は正直インパクトがあり過ぎた

 

 

 びっくら扱いて空を見上げている僕の下に、ちょっと出来過ぎじゃない?というお便りが届いた。そこにはご都合ハッピーエンドを主題としたギャグ小説であるという保険を張っているにしてもちょっとやりすぎなんじゃないか、などと言った説教が長々としたためられている

 

 

 さっきまで僕も同じ気分だったはずなのだが、目を通している内に段々ムカついてきたのでお便り粉砕してレース場に設置してあるごみ箱に放り込んだ。出来すぎでもなければ非現実的な奇跡でもない。これは2人が積み重ねた努力に見合った十分な報酬なのだから

 

 

 この結果を誇らしく思わないトレーナーがいるだろうか。胸を張らずに居られるだろうか。僕の手柄じゃない、と謙遜する前に、こちらに顔を向け何事か叫んでいる2人に対し人差し指を立てた手を突き出し僕の想いを2人に伝える。僕の人生において最高の時間だった。その感謝を何より伝えたかった

 

 

 少し遅れてスカーレットの勝利が天高く宣言され、固唾を呑んで見守っていた観客達が一気に爆発し空気が歪む程の熱気がレース場を揺らす

 

 

 普段ならのんびりと観客の一部として感傷に浸るのだが、今日はそうはいかない。ウィナーズサークル……勝利したウマ娘の為に用意された表彰台へ向かう必要がある。今日のGⅠを制したダイワスカーレットの専属トレーナーとして立ち合う役割を果たさなければならない

 

 

 ウキウキで歩き出した僕はしかしその足の向かう先を変えた。お色直しの為スタッフに囲まれているであろうスカーレットが解放されるまでの間、僕にはやる事がある。滑るように人波を走り抜け、レース場から戻って来る彼女の前に立った

 

 

「……よぉ。トレーナー」

 

「おかえりウオッカ。さあ、何も言わず僕の胸に飛び込んでおいで」

 

「疲れてっからパス」

 

 

 慈愛溢れる笑顔でウオッカに駆け寄ったのだが、両手でぐいっと押し留められ僕のハグは拒否されてしまった。まあもしほんとに何も言わず飛び込んでこられたらちょっとどうしたらいいか解らなくなったかもしれない。そんな事を考えながら二人して控室まで続く道を一緒に歩く

 

 

 しばしの無言を置いて僕が切り出したのと、彼女が何かを言おうと口を開いたのはほぼ同時だった

 

 

「いいレースだった」

 

「……ん」

 

 

 吐き出そうとした言葉を呑み込みながら彼女は小さく頷いた。適当な相槌という訳では無く同意してはくれたのだろうか。ただ僕は彼女の想いを聞き届ける前にまるで言い訳でもするように言葉を続けた

 

 

「ウオッカ。僕は君のトレーナーなんだ。君の前に居る時は、必ずそうあろうと全力を尽くしている」

 

「……」

 

「だから怒らないでくれると助かる。約束を守らない男は何より軽蔑されるべきだが、だからといってレースを終えた君を放っておくようでは君のトレーナーを名乗る資格を失うのと同じだ」

 

 

 負けたら自分の所は後回しでいいと2人から散々言い含められていた。僕はその約束を守る気は無かったし、多分2人共僕が約束を守らない事を察していた。とはいえ彼女達のプライドの問題であり、或いは勝者に対しての敬意でもあるだろうこの約束は軽んじていい訳では無い事も承知していた

 

 

 しかし彼女はフンと鼻息を吐きながら笑うと誰かのマネでもするように肩をすくめる

 

 

「まあ怒っちゃねーさ。トレーナーはどっちかってーと負けた方に来るだろうってアイツと話してたし。アンタがそういうヤツだってことくらいもう解ってるよ」

 

「そう言ってもらえると安心だ。で、どうだったかなウオッカ。初めてのGⅠの舞台は」

 

「おう。最高だったぜ!楽なレースじゃなかったし勝ちきれなかったけど、今は正直やり切ったって気持ちでいっぱいだ。いっぱいっつーか、出し切ってからっぽか。悔しいとかそういうのは、今は出て来ねーよ」

 

「そういうのは夢に見るものだからね」

 

「あー……同室相手に慰めてもらえないってのは寂しいもんだぜ」

 

 

 ケラケラと笑う彼女は、しかしいつもと違って少し上の空のような雰囲気を持っていた。彼女は僕が向ける視線に気付いたのか、ふいと顔を逸らした

 

 

「でも、悪かったなトレーナー」

 

「何を謝る事があるんだい?君を勝たせてあげられなかった僕こそ___」

 

「そっちじゃねーよ。スカーレットが勝ったのを喜びてーだろうアンタの気分に水を差しちまった」

 

「なんだって?」

 

「いやだから……」

 

「よしてくれ、ウオッカ」

 

 

 彼女の言いたい事を察すると同時に強い眩暈が僕を襲う。彼女の肩に手を乗せ、驚いて脚を止めたウオッカの前に回り込んだ

 

 

「そんな罪悪感を感じるのはお門違いだ。君と同じ夢を見て、共に歩む。そう誓った。スカーレットの勝利は嬉しい。君の敗北は悲しい。確かに相反する感情かもしれない。でもそれを抱え込む事を厄介だなんて今更思ったりしない。むしろ光栄だ。贅沢だとすら思える」

 

「……」

 

「僕は君のトレーナーだ。あの日君の話を受けた時からだ。これからもそうありたいんだよ。勘違いしないでくれ、怒ってるとかそういうんじゃなくって……君にそんな事を言わせた自分が恥ずかしいし、悲しいんだ。君が僕と組んだ事を後悔しているっていうなら___」

 

「ちげーって!そうじゃねえ!ただ……」

 

 

 肩に置いた手をゆっくり離す。目を伏せっていた彼女は大きなため息をつくと頭を手でガシガシと掻いて、ゆっくりその顔を上げた

 

 

「ごめん。ダサイこと言った。……負けて弱気になってるからこんな事言っちまったんだろうな」

 

「いいのさ。君の弱気を受け止めるのも仕事の内。だから僕にぶつけてくれるのは全然オッケーだからさ」

 

「……しっかし、まああれだな。作戦通りって感じで上手く行くと思ったけど楽じゃねーなぁ。スカーレットの最後のヤツ、あんたが仕組んだヤツなんだろ?」

 

「その通り。あのまま逃げるだけなら君に差し切られるのは明白だったからね。意表を突いて、五分。そういう読みだった。最終的にどっちが勝つかは……開けてからのお楽しみってね」

 

「おいおい、運任せかよ」

 

「女神様のご機嫌取りが上手なトレーナーが歴史に名を残すのさ」

 

 

 いつの間にか控室の前に辿り着いていた。レース後のクールダウンは専属のスタッフに任せ、僕はそろそろ向かわなければならない。彼女は気にすんな、と言いながら手をヒラヒラ振りながらドアを開け、背中越しにこちらに顔だけを向けた

 

「ま、ライブもあるし切り替えねーとな。シケたライブやってアイツに蹴飛ばされてもたまらねぇし」

 

「楽しみにしておくよ」

 

 まだ話し足りなかったが、彼女にも1人の時間が必要だった。少なくともその背中はそう語っているように見えた。僕は閉められた扉の前で数秒立ちすくみ、直ぐに踵を返した

 

 

__________________________

 

 

 

 

『歓声に包まれてダイワスカーレットがウイニングラン!新たなGⅠウマ娘がここに誕生しました!』

 

 

 どくん、どくんと鼓動の音が頭の中に響く。その音の合間に響くのは会場に鳴り渡った大音量の勝利宣言。繰り返される歓声はスカーレットの心を熱く躍らせた。レース場から裏へ引っ込むと会場の熱気とは隔絶される。陽の光とは違い温かみの無い電灯の明かりはいやに頼りなく薄暗い。だがそのどんよりとした加減がショート寸前のスカーレットの頭を冷やしてくれた

 

 

 駆け寄ってくるスタッフ達からタオルと水分を受け取り、身体の調子に問題が無いかをチェックされながらウィナーズサークルへ出る準備を整える。会場の準備が終わるまでの僅かな時間、目を閉じながら勝利に酔いしれていた。この後のインタビューでもライブでも毅然とした態度が求められるだろうし、僅かながら貴重な時間であった。そんな彼女の耳が聞きなれた足音を捉えピクリと前後に動く

 

 

「やあ、スカーレット。おかえりなさい」

 

「ただいま。……なによ、随分落ち着いてるのね」 

 

「おっと、ご期待に応えないとね。じゃあ胴上げを失礼」

 

 

 ひょっこり現れたトレーナーが両手を広げて変な事を言いだした。スカーレットは呆れたように差し出された手をパシンと払う。払いながら、もしほんとにほっといたらこんな場所で胴上げする気なのか?という疑問がスカーレットの脳裏をよぎった。はたかれた手をプラプラさせながら大和が肩をすくめる

 

 

「ま、実の所僕の心は花火のように炸裂したっきり、そのまま空の彼方へ飛んで行ったみたいでね」

 

「はぁ?どーいうことソレ」

 

「ここに来てめっちゃ平静。凄いよこれ。君とウオッカの勝負の判定が出る間一種の走馬灯を味わっていたし、結果が解った時に心臓がキチンと動いてくれるか自信が無かったくらいだ。しかしここに来て落ち着いた。一周回ったって感じだね」

 

 

 不思議不思議、と軽く笑うトレーナーの様子を見てスカーレットは大体察した。ウオッカとのやりとりで何かしら抱えていた物を吐き出して、受け止めて来たのだろう。満足したのか、トレーナーはすいっと笑顔を引っ込めゆったりとした調子で語り掛けてきた 

 

 

「さてスカーレット。かつて君は言ったかな。自分が抱える壮大すぎる夢に対し現在地が確認できないのが不安だと。そして僕はその不安を抱えて長い道を進み続ける事こそ、君の強さになるなどと宣った訳だ」

 

「ええ、覚えてるわ。はっきりと」

 

「今もう一度聞くよ。君は今どこにいる?」

 

「アタシは___アタシはあんたの前にいる。GⅠウマ娘として」

 

「ああ___その通りだ。ほんとに、よく頑張ったね。良いレースだった。堂々としていて冷静で、かつ観る者を引き付ける力強い熱のある走り。努力だけでも、才能だけでも得られない……GⅠウマ娘になる者は、そういった特別な風格が必要だ。会場中を虜にしたのが、君が持っている者である証拠だ」

 

 

 手の平を上にしてスッと差し出された手に応じるようにぺちっと軽く叩いてあげれば、彼は嬉しそうに微笑んだ

 

 

「これが見たかった。皆が君が1番である事を認めてくれる瞬間を。僕は今最高の気分だよ。君もそうであればと願うよ」

 

「ええ。アタシも最高の気分よ!」

 

 

 パッと浮かび上がった気持ちを口にした途端、身体の奥でくすぐったいぞわぞわした感情が弾けた 

 

 

 

 

__________________________

 

 

「___まだまだ駆け出しですが、来年はトリプルティアラを目指し頑張っていくので皆さん応援よろしくお願いします!」

 

「ありがとうございます。ダイワスカーレットさんの勝利者インタビューでした。では続きまして___」

 

 

 ウィナーズサークル。黄金の光が降り注ぐ場所。勝者だけが立てる場所。スカーレットが見事な応対を繰り返すのを横目に僕は物思いに耽っていた。GⅠレースのサークルに立つのはなんとも久々で……いやかなり久しい。エアグルーヴを担当していた時に一度立たせてもらう機会があったくらいだ

 

 少し前まで、僕はここに立つに相応しい人間になれるなどと予想だにしていなかった。感傷に浸る僕の足に小さな衝撃が伝わってくる。何事かと思えばスカーレットが急かすように尻尾を叩きつけていた。気が付けば前にマイクが突き出されていた

 

 

「ん?なんだいこのマイク。まるで僕のコメントを求めているみたいじゃないか」

 

「インタビューだったら。ちゃんとしなさ……してくださいよトレーナーさん」

 

 

 彼女は笑顔だったが、僅かに目の上がピクピクと痙攣している。優等生キャラを守りながら僕をしかりつける、という縛りプレイに挑む彼女をからかうのも楽しいかもしれないが彼女の晴れ舞台に水を差す訳にもいかない。咳払い1つ、喉の調子を整えてスタッフさんに微笑みかける

 

 

「いやぁ、どうにも緊張してしまいますね。これだけの観客の皆さんの前でも立派にやり遂げた彼女の凄さが改めて身に沁みますよ」

 

「はは、全くですね。では、そんな堂々たる走りにて見事栄誉を勝ち取りましたダイワスカーレットさんですが、専属トレーナーである胡舞跳大和トレーナーとして手応えはいかがだったのでしょうか」

 

 

 手慣れた慣れた様子でインタビュアーがマイクを向けて来ると、彼の後方でカメラのシャッター音が一斉に鳴り響く。フラッシュ撮影を行うような礼儀知らずのカメラマンはGⅠの会場には入り込めない。高価な映像機器が一斉に自分の方を向いてまだ少し緊張しているのかスカーレットが落ち着きなく姿勢を正すのが横目で解る。こういう時は大人が堂々とした空気を引き立ててあげるべきなのだ

 

 

「ええ、そうですね。前を塞ぎに来る展開になるであろうことは粗方予想できていたのですが、思った以上に速いペースでレースが進んだので少し焦りはありましたね。ただ彼女が取り乱すことなく冷静に対処してくれていたのでその後は安心して観ていられました」

 

「ありがとうございます。専属トレーナーとしてはかなり間を空けてのGⅠ制覇になるとの事ですが、それについてのお気持ちをお聞かせ下さい」

 

「感無量です。ただただ嬉しい。担当ウマ娘にGⅠレースを勝ってもらうというのは、トレーナーとして最大の名誉です。かつて私がそれを成し遂げた際は、優秀なチームのサポートとウマ娘自身の努力によるものが殆どで私は席に座っていただけでした。

 

 ですが今回、ムーンシャインのサブトレーナーとして積み重ねた経験を存分に活かし未熟ながらもダイワスカーレットの勝利に貢献できたと、勝手ながらそのように考えています。ですので満足の行く結果に辿り着くことができて本当に嬉しく思います」

 

「想いがこちらに伝わってくるような熱い返答ですね。今回、2着となったウオッカさんの指導も併せて行っているとのお話を伺っています。最後の1瞬を競り合う2人をどのような想いで見ておられていましたか?」

 

「2人はライバルとして友人として高め合い、ぶつかり合う場を求めていました。2人の頑張りを間近で見て来た立場としては両者共に勝利を掴んで欲しい、という贅沢な想いを抱いていましたが、現時点でしっかり決着をつける事も大切だと思い応援していました。今回はスカーレットが成果を出しましたが、次はどうなるか解りません。ただ言えることは___ウオッカとダイワスカーレットはこれからも鎬を削り合い、新たな伝説を僕達に見せてくれるでしょう」

 

 

「ありがとうございます。ではお二方、ありがとうございました!ウイニングライブも楽しみにさせていただきます!では一度インタビューを終了いたします」

 

 

 2人揃って頭を下げ、回れ右をして会場に背を向ける。歩きながら小さな声で話しかけると彼女も笑顔のまま小さな声で答えてくれた

 

 

「上手だったよ。堂々としてて」

 

「フン、当たり前でしょ」

 

「こっそり練習してたんだって?」

 

「……誰に聞いたの?」

 

「なんだ、本当に練習していたのかい。隠れずに誘ってくれたらよかったのに」

 

「カマかけてんじゃないわよ!」

 

 

 裏へ続く通路へ入った途端こちらへ噛みつかんばかりの眼を向けて来る彼女を宥めながらしばし歩いていると、トレーナーに連れられたウマ娘達と出会う。顔見知りの方もいれば、初めて言葉を交わす方もいる。勝負が終われば恨み無し、とまですっきりとはいかない想いもあるだろうけど大人の処世術という奴で皆愛想よく挨拶を交わしてくれる

 

 

「おのれ大和さん……次は絶対負けませんからね……!覚悟しておいでくださいよ!」

 

「いや怖いな。スポーツマンシップ足りてませんねカナミさん」

 

 

 小柄ながらも溢れんばかりの闘志を隠すことも無い熱血女性トレーナー、カナミさんは3年前にストライダーズというチームのリーダーとして独立した若手のホープでもある。昔はサブトレーナー仲間として交友を深めていた筈だが、最近は何かと目の敵にされる。まあ苦労も絶えないだろうから心の余裕が無いのも仕方がないのだろうが

 

 

「忘れたとは言わせませんよ数々の蛮行を。粉末ワサビの件とか」

 

「いえ。忘れました」

 

「……トレーナー?何の話?」

 

「いや、何でもないよ」

 

「大和さんにお茶だって言われてもらったお土産をお客さんとして来たたづなさんにお出ししたら、中身が粉末ワサビだったの」

 

 

 あんたそんなコトしてたの?って顔をしたスカーレットがこちらを見て来るがちょっと待って欲しい。これに関しては色々事情がある。彼女とはそういうジョークグッズをお土産に渡し合う遊びをよくやっていただけで、その延長線上の事故みたいなものだ。もう何度も謝ったし掘り返されるのは困る(当然たづなさんにも死ぬ程怒られた

 

 

「癖のある味だから最初に自分で確かめて下さいねって丁寧なフリを散々したのに……まあほら、教え子の前ですから。今度愚痴は聞きますので今日のところは爽やかな感じで締めましょうよ」

 

「……ふふ。ま、ちょっとした憂さ晴らしですよ。全然怒ってはいませんって。今はそれを言いに来たんじゃなくって……ウチの子が挨拶があるって言うんでね。ほらバンブル」

 

 

 カナミさんの後ろに半分隠れるようにしてもじもじしていたバンブルエースが手を引かれるように前へ出て来る。本日6着、中々の好走を見せてくれた彼女が何か言いたげにスカーレットに近寄った。よく解らないけれどスカーレットも耳をピクリと動かし何か思う事があるようだった。僕は何も言わず見守るだけにした

 

 

「えー……本日は、お相手頂き、まことに……ありがとうございました」

 

「えぇこちらこそ。それでどうしたの?朝のご挨拶の続きを聞かせてくれるのかしら?」

 

「え!?あぁいやぁその……それがあんまりよくなかったので……」

 

「なにがかしら?」

 

 

 笑顔のスカーレットに圧されたバンブルは後ずさりしながら再びカナミさんの後ろに隠れようとしたが、ぬっと伸びた手が彼女の後頭部をがっしり掴んでその動きを止めた。カナミさんである。さっき僕に向けた冗談交じりの時とは比べ物にならない程怒気に満ちた顔で彼女はバンブルを見下ろした

 

 

「負かされた相手にわざわざ挨拶に行きたいなんてな~んか珍しいと思ったらさぁ……バンブル?あなたなんか失礼なことしたの?」

 

「……し、したかしてないかで言うとぉ……したかなぁって。あいたぁっ!?」

 

 

 ごん、と鈍い音が廊下に響く。反射的に背筋が伸びたのは別に僕が罰を受けるのに慣れた悪い子だった過去があった訳ではない。現にスカーレットも思わず背筋を正している辺り、抗えぬ本能というものが根っこにあるのだ。軽く浮かせた拳で小突いただけなので大して痛くはないのだろうけど

 

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「誰に謝ってんのよ誰に」

 

「ごべんなざいすかーれっとさん……」

 

「あ、いや、そこまで気には___」

 

「だから言ったでしょうが!礼節を欠く行為はしない!あとメンタル太そうな子相手にいらんことしてもあなたのへなちょこハートが砕けるだけだって!ほんとごめんなさい、スカーレットさん!大和さん!」

 

 

 涙声のバンブルと一緒に頭を下げてくれるのだが、正直レース前のちょっとした口上のぶつけ合いなんかはある程度のラインさえ守ってくれれば僕としてはいちいち気に留めない。メンタルが太い、というワードに若干引っかかって首を傾げているスカーレットに代わり、気にしなくていいですよと2人をなだめた

 

 

「バンブルエースの気持ちも解りますよ。ストライダーズを代表してのGⅠ初挑戦、なんとしてもという気持ちが彼女にはあったのでしょう。あなたとチームの為を想ってのことでしょうし、怒らないでやって下さい」

 

「まぁ……それはそれですよ。理想論ですが、胸を張れる勝ち方を目指して欲しい。いや……違いますね。自信を持たせてやれなった私が未熟なんです。ごめんなさい、バンブル……」

 

「んな……なんでそうなるんですか!?失礼なコトした私が怒られて終わりな話ですよこんなの!やめてください……!私が勝てなかっただけなんですから!」

 

 

 しおらしさから反転、食って掛かるように感情を噴出させたバンブルの様子にびっくりしたカナミさんはしかし申し訳なさそうに笑うと黙って彼女の頭をぐりぐりと撫でまわし、それから2人揃ってもう一度こちらに頭を下げて去って行った

 

 

「……まあ、色々とあるのよね」

 

「そうさ。これからはもっと色々ある。君はこれから挑戦者を迎え撃つ側として戦うことになる。君の進む道には茨が横たわる事も多々あるだろうさ。レースの場で君は1人でそれに立ち向かわなければならない」

 

「解ってるわよそれくらい。目立つ事の意味は理解してるわ」

 

「ふむ、なら安心だ。酷だが、立ち向かうことでしか得られない物もある。ただね、スカーレット。君に降りかからんとする邪な火の粉は僕が全て払ってみせよう。君の歩む王道には華だけがあればいいからね」

 

「……ふーん。お手並み拝見ね」

 

「任せておくれ。君の傍に居させてもらうんだ、それくらいやってのけるとも」

 

 

 少ししてからやって来たウオッカと合流し、しばしの間僕らはインタビューと挨拶周りで慌ただしい時間を過ごしながらウイニングライブの開始を待つ事となった

 

 

 

 

 

 

 

 





至急チアガール衣装を全員分用意してくださいまし。命にかかわることですわよ・・・!!!




今月か来月で締めでございます。もうしばらくお付き合い願いますわ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。