まあでも20代も後半なのですが
あれ?お肉たくさん食べるとしんどくなる?という事に
最近気づいてしまいました
若人よ
いける時にいっといた方がいいですわよ
字余り
描写は割愛する。ウイニングライブは鬼マジ激ヤバ神降臨って感じで全ての観客の感情を押し流した。詳細をバラしてしまうとライブ映像を収録したBDの売り上げが落ちる可能性も出て来るので発売日までは我慢して欲しい
とにかく僕はイントロからずっと泣いていた。泣きながらも視線をそらさず余す事無く応援を続ける事ができた自分を褒めてあげたい。センターにダイワスカーレット、並ぶようにウオッカが立ち始まったウイニングライブが僕に与えた衝撃はあまりにも大きかった。千切れんばかりにサイリウムが振られ、照明に照らされたステージの上は星の海のように華やかで儚げな輝きが行き交う夢の世界を演出し観客は完全に引き込まれていた
「ええ、実に良いライブだったわね。さあ乾杯しましょう大和」
「……ああレイヴン。いいとも。しかし一言だけ物申してもいいかな」
「不粋よ。盃を前に問答なんて」
「僕が握らされている缶はノンアルコール。君が持っているのはイエスアルコールだ。この問題に対し議論の余地があるんじゃないか?」
「あなたは仕事。私は休暇。理解できた?はい乾杯」
彼女はこちんと缶をぶつけ、喉の奥で唸り声を鳴らす僕の抗議など意に介さず景気よくそれをあおった。こうなると仕方がない。溜息混じりにプルタブに指を引っ掛けた
帰りのバスは安全重視に、しかし景気よく夜の高速を滑る。車内は興奮冷めやらぬ若きウマ娘達の声で溢れかえっていた。後ろの様子を時たま振り返ると皆楽しそうに騒いでいる。エアグルーヴも注意するかどうするかで悩む様子を見せていたが、結局は今日のところは皆のテンションに目をつぶる事にしたようで一緒になってお喋りに興じているようである。とても微笑ましい光景だ
だが僕の隣で意気揚々と酒を飲むこの従姉妹の存在はあまりに鬱陶しい。目を逸らしてもこれ見よがしに缶を僕の顔の前でふりふりとかざしてくる。ちょっと許せんよねこれは。僕の憤りを感じ取ったレイヴンは僅かに火照った顔を歪ませ悲しそうな顔を下手糞に演出した
「あなたはこの後学園に戻ったらスカーレット達と理事長に挨拶に行くのでしょう?我慢した方がいいわよ」
「僕が我慢していると解っているなら君も気を遣うべきだ」
「ご存じの通り……我慢している人を見ながら呑むビールの味は最高なの。私のおつまみとしてそこで喚いていて」
「なら君が持ちこんだおつまみは全部僕が食べても問題ないね」
「おっと、病弱な私から栄養分を奪うだなんて非人道的ね。許せないわ」
取っ組み合いのゴングが鳴る。わちゃわちゃとお菓子の取り合いを続ける僕達の騒がしさに嫌気が差したのか、後ろの席から身を乗り出したネイチャの声が頭上から降り注いだ
「まま、大和サンにレイヴンサン。落ち着いて落ち着いて。お菓子ならアタシのあげるからさ」
後ろの座席から身を乗り出したネイチャがさきいか袋を差し入れてくれた。女子中学生らしからぬ差し入れはしかし大人にはとても良く刺さる
まあしかし、レイヴンから目を逸らしその向こうを覗く。通路を挟んだ反対側の席では休日を存分に楽しみ尽くしたらしい大丸さんが1人で2人分の席を占領しながら呑気に眠っている。こちとら疲れを押して引率業務の役目を果たすため気が抜けないというのになんという無様な恰好だ。家に帰るまでがレースだとあの様で子供たちに教えられるのだろうか。2人は一度自分のトレーナーとしての在り方というものを深く反省するべきである
「わ、ブーメラン警報が発令されましたよ大和サン!」
「やぁネイチャ、テンション高くて可愛いね」
「あんがとさん。でもそういう大和サンはなんか疲れ気味で可愛げないね。だいじょぶ?また無理してない?」
「んふふ、心配ありがとう。疲れているだけさ。僕にも青春エネルギーが無尽蔵に湧き出す君達のような時代があったんだけど、今じゃそれについていけないだけだよ」
バスに乗った途端、張り詰めていた気が緩んだのか疲労が急激に全身を襲い缶を持ち上げるのも億劫なくらいだ。認めたくないがもしかしたら僕も若くないのかもしれない。20代を折り返した時、周りのおじさん方から「こっからはすぐ」「後は坂道を下るだけ」と散々ネガティブキャンペーンを受けたがあながち間違いでもないのだろうと最近自覚を持ち始めて来た訳だ
「大人の魅力、というのを手にできるので老いていくのも存外悪くは無いのかもしれないが」
「えーっと?それなら大和サンはまだまだお若いって事だ」
「酷い言われようだね」
「大和、あなたはまだまだ子供って事よ。そうでしょうネイチャ?」
「……っすね」
髪を振り乱しながらお菓子を取り合うレイヴンの姿はとても落ち着いた大人の女性像からはかけ離れているし、ネイチャも大体そう思っていそうな顔だった。だがそんな失礼なコトを口にする程彼女は礼儀知らずでは無かったという事だ
座席の後ろの方は騒がしい子達で埋まっている。前の方の席は大人の特等席
「しっかし、お酒好きだねぇ」
「ゲン担ぎの意味も込めて最近控えていたからね」
「えー?それじゃあアタシ達の有マの前にその担いだゲンを下ろしちゃう訳だ」
「ふむ……まああれだよ。これはそういうんじゃない。今日の勢いを当日にもお願いしますと女神様に捧げる神聖な献杯をしようかとね」
「そういうのってビールじゃなくて日本酒なんじゃございません?」
細かい事は良いんだよ。我慢して徳を積むのも、ぱーっと盛り上げて運気を向上させるのも。どちらも意味がある。今宵はゲボ吐くまで飲む覚悟だ
「ちょwww大和サブこれ見てこれwww」
しばらくぽつぽつと雑談に耽っていると後ろからバカ笑い混じりの呼びかけが飛んできた。この声はワンモアダイブだろう。僕は軽く立ち上がるようにして後方へ顔を向ける。一番後ろの席には本日一番の功労者、スカーレットとウオッカが座っていて、バスに乗った瞬間からずっと興奮冷めやらぬチームの先輩方からの質疑応答(という名の雑絡み)を受けていた筈だが
今2人は疲れがピークに達したのか遠目でも解る程にうとうとと船を漕いでいる。近くに座っていたセイウンスカイがお菓子を持った手をすーっと伸ばしスカーレットと口元に近付けると、スカーレットはふんふんと匂いを嗅ぐ動作をした後ゆっくりとした動きでそれを口にくわえた
「今なんでも食べるわこの2人……」
「お腹が空きすぎているのとレースが終わって食事制限を解除してもいいという二つの気持ちが混ざってブラックホールになってるよ」
「なんだいそれ面白すぎるでしょ。僕もやりたい。次止まったらそっち行くから誰か席変わってくれない?」
「残念なお知らせなんですけど、もう到着しますよ大和サン」
無慈悲なネイチャからのお告げに従い窓の外を見れば見慣れた景色。そのまま止まる事無くバスは学園内に乗り込んだ。僕は天を仰いだ
どやどやと皆が降りるのを確認しているとウマホを持ったスカイがするすると近寄り、内緒話をしたそうに小さく手を振る
「動画撮ってあるんだなぁこれが」
「パーフェクトだスカイ。で、君の望みは?」
「んー?むしろ何してくれます?」
試されている。財布の中身を全部投げても構わないし、秘蔵の洋酒を譲ってもいい。だがどちらも年下の女の子相手に差し出すにはオシャレな材料とは呼べない。取り出しかけた財布をポケットにしまい、少し腕組みをしてふぅんと鼻息を漏らす。スカイはウマホを後ろ手に隠し左右に身体を揺らしながら楽しそうだ
「___解った。悩んでいたんだけど今決めたよ。有マ当日は君の応援法被を一番上に羽織っていく事にしよう」
「ん?んん……まあいいや。それもありがたいんですけどさ、もっと簡単な事でいいよ?」
なんてことない、みたいな顔をしながらそれでいてちょっと視線をさ迷わせながら彼女は意を決したようにささやかな願いを口にした
「有マの日はさ、私の控え室に一番最後に顔出しに来てくれたらなーってさ」
「……いいとも。他の子の所を回って得た情報を持って、君の背中を押しに行こう」
「ちょっとセイちゃんさぁ!それはじゃんけん案件って言ってたでしょうが!なにを抜け駆けしてくれちゃってんかねぇ!」
約束だよ、と指切りをしようとした所にネイチャが大胆にエントリーして来た。間に割って入った彼女の顔はこちらからは見えないが、スカイの耳が後ろにぺたんと倒れた辺りそれなりに怒っているであろうことは容易に理解できる
「あー、ネイチャ先輩。そういやそんな話してましたっけ?でもほら、正当な取引が行われましたので___」
「おーいスカーレットとウオッカやい。アンタらの寝ぼけ動画が交渉の材料に使われてるよー」
「それチクるのは反則っ!」
「___どういう事ですかスカイ先輩?」
「ちょ、こんなダサイとこ撮ってたんすか!?」
「あ、いや、その……」
スカイはそのまま2人に挟まれて連行されていった。個人情報だからね、致し方ない。でもあの……消す前に少し、見せて欲しかったな……。あと理事長室に結果報告を兼ねた挨拶に行くから戻ってきて欲しいんだけどな……
_______________
そんなこんなで一夜明け。吹きすさぶ冬風が窓を揺らす今日この頃。バカみたいに温められた部屋で僕は久々に暇を持て余していた訳だが、とんとんとドアを叩く音はそんな僕にとって丁度良いものであった。どうぞ、と高らかに返事を返すと緑の帽子がひょこっと現れた
「あの~失礼致します」
「お疲れ様ですたづなさん。いやに丁寧ですね。ささ、どうぞ中へ。寒いでしょう?お茶を淹れますよ」
「いえ私はすぐに失礼します。大和さんに御用のある方をお連れしただけなので」
「お客人?どちらさまかな」
言い終わるかどうかといったタイミングでするりと部屋に入って来たのはグレーのスーツに細身の男性だった。帽子で顔を半分以上隠してはいたが手の甲の枯れ具合や佇まいなどから老人である事は想定できたし、それと合わさり独特の威圧感を放っている彼が誰なのかは容易に察しがついた
「先生。急にいらっしゃると何も用意できませんよ」
「それがいいんだ。誰も彼も私が行くと無駄に豪華にもてなそうとしてくれて堅苦しい。孫と会う時くらい気軽にいきたいものなんだよ」
すとんと椅子に座り疲れきったように息を吐く我が祖父、泡斎先生の姿は以前よりずっと細く頼りない。愛用の杖をソファに立てかけて手をさする様は、風が吹けば飛んで行ってしまいそうな儚さを漂わせている。たづなさんは気をきかせたのかすぐさま立ち去ってしまった。緑茶を用意し簡単な茶菓子を彼の前に並べる
「理事長やルドルフの所には?」
「うむ、理事長殿には既に挨拶に伺ったよ。彼女は随分君を褒めておいでだった」
「ええ、まあ。たくさん褒めて頂きました。正直気まずいくらいには」
昨夜の出来事ではあるが。珍しく彼女は僕を褒めちぎった。一切の小言も無しに。僕はそれを甘んじて受け入れ、つつがなく挨拶を終えた。年末とあって管理職の頂点である彼女もたづなさんもさぞや忙しいだろうに、だがGⅠを走り切ったウマ娘を労う事を決して疎かにしない誠実さこそ秋月理事長が若いながらも尊敬と信頼を集めているカリスマの所以なのだろう
「で、ルドルフの所には?」
「それで大和よ。どうだったかな?この1年は」
「え、話逸らす要素あります?……どうもこうも、毎度のことながらのんびり好き勝手に……いえ、少し頑張りました。ご存じでしょうが、分不相応に担当を持たせてもらい、トレーナーとして奔走した次第です」
「上手く行ったかい?」
「はい。充実した一年でした」
僕は素直に思ったままを答えた。謙遜を求められている場面では無いだろうから。泡斎先生はいつだって建前も言い訳も求めない人だった。彼がトレーナーとして、人として求めているのはいつだって壁の奥に隠された物だ。それを引き出す事が上手な人で、だからこそ多くの伝説に携わって来れたのだろう
僕は名声を求めないが、彼のように多くのウマ娘と本音を交わし合える大人に憧れていた。それは指導者として必須項目であるかどうかは別として、僕が目指すトレーナーとしての形だった
「難しいんですね。トレーナーという物は」
「そうだよ大和。私は引退するその日まで、ずっと君と同じ悩みを持っていた。そして常に悩む事こそ我々の役割なのだと今では理解できる」
「では、先生は今は楽に生きておられるので?」
「楽ではある。でも、寂しいね。数年経ったが、慣れないものだ」
のんびり過ごす彼の下を尋ねる友人は少なくないだろう。以前はあちこち出かけてレース観戦に精を出していたが、身体を悪くしてからはそうも自由が利かなくなったと聞き及んでいる。身内に心配されるのが嫌いな事は知っているので口にはしないが、こうして学園を尋ねて来たのもどうせうまいこと逃げ出してきたのだろうと察しは付いていた
「短い一生、不出来ながらも悔いの残らないよう生きてこれた。だがね、テレビでレースを観る度新たな宝石のような輝きを目にして胸が躍る。ああ、あと100年トレーナーをやりたかったねぇ」
本当に惜しむようにそう口にされた言葉の重みに圧し潰されそうな切なさを感じ取った
「で、だ。大和。トレーナーの真にあるべき姿とはなんだと考えるかな?」
「今更……と言いたいですが。そういえば先生に面と向かってそれを聞かれたのは初めてですね」
「んむ。お前が一人前になった時に聞こうとずっと思っていたんだよ」
トレーナー養成学校で最初に与えられる課題であり、卒業前の最後の課題でもある。『あなたの考えるトレーナーとしての正しい在り方について述べなさい』そう言われて与えられるのは一枚の原稿用紙だ。1回目のレポートを書く時、未熟な学生達は1週間という期限の中で200文字からはみ出さないように、それでいて出来るだけ文字数を稼ぎながらあの手この手でそれらしいものを書き上げる
しかし学び終えた頃になれば皆この課題の意味を理解する。卒業間近に配られた原稿用紙を簡潔に、短い文章をものの数分で書き上げ提出するのだ
「トレーナーとは『隣にいてあげる者』です。前でも無く後ろでも無く。競争の世界で生きる彼女達と並んで歩んであげられる存在はトレーナーだけなのです」
時には引っ張る事もする。背を押す事もある。いつかは旅立つ彼女達を見送る事になる。ただ、トレーナーである限り僕はこうあるべきだという信念を抱いている
だがしかし、僕の答えは正解では無い。もっというならばこの問いに解は無い。或いは生涯探し続ける事こそがトレーナーの役割である、というのが先人達が僕ら新米に与えた課題の意味なのだろう
皆が皆、自分の芯を見つめ直し簡潔な言葉に纏められるようになったことを自覚する為の課題なのだ。トレーナーとしての資格を得て実際に働く中でその考えに変化が訪れる事も有る。ただ自らが最初に抱いた信念を忘れないでいる事はとても大切なことだ
僕が辿り着いた答えは資格を持ってトレーナーとして過ごす中で大きく変化する事はなかった。この答えは、祖父が……先生が辿り着いた物とは違う考えになるだろう。ただ彼はとても満足した様子だった
「成程。私の好きな答えだよ。成果を求めなければならない立場にあって、されどその成果を目に見える形に拘らない。優しいだけでは貫けない、厳しい道だ」
「はい。僕は優秀で無くとも……良きトレーナーであろうと日々思い努力しています。僕なりにですが」
互いにお茶を啜り、一時の静かな時間が流れた。1つ質問に答えたのだから、僕からも1つ問いかけても悪い事は無いだろう。ただ同じ質問を返す気は無かった
「……先生は、何故トレーナーに?」
同じ質問を返す気は無かった。彼がどんなトレーナーであったかは、彼の教え子であったウマ娘達から散々聞かされているし僕自身の眼からも散々に見て来た。今更言葉で表現されなくても、憧れとしての彼の姿は生涯僕の中に刻まれている。それよりそのルーツに触れてみたいという好奇心を解消したかった
「うん?モテたかったからだよ」
「は?」
は?いや、マジか。彼のインタビュー記事だとかなんだとかはある程度読み込んでいるし、ウマ娘達の歴史を語るついでに彼自身のちょっとした伝記めいたものが書かれているくらいだ。そこには当然、観る者を感動させ奮い立たせるような熱い物語が仰々しく並べられている。僕は僅かに湧き上がった動揺を抑える為お茶で一息ついた
「マジだよ大和。うん、私がトレーナーを志したのはなんだかんだもう50年以上前の事になるが……。いや、本当に聞きたいかね?大した話じゃないよ?」
「い、いえ。聞かせて下さい。なんというかとても貴重な話な気がします」
「私には幼馴染のウマ娘が居た。切れ長の瞳が美しく、クールでいて冗談も上手い素晴らしい子だった。私達は親友だった。だが彼女もウマ娘、レースの世界に魂を惹かれ中央トレセン学園を目指し地元を離れる事になったんだ
『僕がウマ娘なら君と一緒にいられたのにね』そう言うと彼女は怒った顔で『そんな情けない言い訳を口にするような男とは一緒に居たくない』と言って去って行ってしまった。……僕はとても後悔した。今でも、彼女を追いかけなかった事を悔いている」
彼は湯呑を握ったまま遠くを見つめている。確かにとても素敵で酸っぱい青春の物語だが。問題はこの後だ
「私は実家のコネを活かし必死に勉強しトレーナーバッジを手にトレセン学園に乗り込んだ。いやぁ、当時は楽しかったなぁ。メチャクチャモテるんだよウマ娘のトレーナーって。特に中央所属で結果を出せると、メディア露出も多いし給料も多い。ほら今はコンプライアンスなんて単語があるだろう?私が若い時にはそんなもの無かったからね。昼も夜も楽しい時間を体力の続く限り過ごせたものだ」
「当時にも節度とか規律という言葉は存在したと思いますが……」
「冗談だよ。法に触れたりするような事は一度もしていないさ」
「……ええっと、結局さっきの話題に上がったウマ娘さんとは再会しなかったのですか?」
「ん?したよ」
「あ、したんですね」
「私がトレーナーになる頃には彼女はレースの世界からは引退していた。私が真摯にウマ娘に尽くしていたのは、かつてのあの子の影を重ねて罪滅ぼしをしたかった……とかじゃなく。単純に楽しかったからだ。多少なりとも才能もあったらしく、彼女達が結果を出すお手伝いができたからね
んで好き勝手していたら同じくトレーナーとしての資格を得た彼女が学園にやって来た。出会って一発言ってやった訳だ。『今の僕でも君に相応しくはないかな?』って」
「おおぅ、流石ですね先生。ラブコメから引っ張ってきたような台詞だ」
「そうだろうとも。実際彼女、真っ赤になって固まったからねぇ」
「その後どうなったのですか?」
「まあ色々あったとも。一途に君を追いかけてきました、みたいな雰囲気のセリフを吐いておきながらド派手に女遊びをしていた事がバレて、何度も追いかけ回された。彼女から逃げる為に教え子達と一緒にトレーニングをしていた期間もあるくらいだ」
「はは、罪な人だ。そういう女の子を弄ぶような所は尊敬できませんね」
彼は達観したような目つきで「色々聞いているけど、お前も私の血を引いてるみたいだけどね」と小さな声で呟いた。まるで何のことだか解らない。僕はそれっぽい冗談を飛ばす事はあるけど、年頃の女の子に誤解させないよう細心の注意を払っているのだから
「で、結局の所は?」
「ん?ふふ……その後の話は君の祖母に直接聞くといい。恥ずかしがって全部は教えてくれないだろうけども」
彼はからからと笑った。まあ途中から大体察したけれど、そういうことらしい。というかおかしいな、なんで彼の惚気話を聞かされているのだろう。よく解らん。だが折角だ。夕方からは用事もあるが、今はまだ昼を少し過ぎただけ。久々に会えて積もる話もあるだろうに、このままお茶だけを啜るというのも盛り上がりに欠ける
「先生、僕の部屋に貰い物のワインがあるのですが……」
「ほう。実は土産にいいトコのチーズとベーコンを持参していてね」
「結構なお手前で」
「恐縮だよ」
先生が差し出した紙袋をうやうやしく受け取り、では寮の部屋まで行きましょうかと立ち上がった途端僅かな振動が足元から伝わってくるのを僕と先生は同時に感じ取った。長年の経験上、これは怒れるウマ娘が廊下を蹴りつけながら疾走している特有の反応だとすぐさま判断できた
心当たりを互いに聞き合う前にドアをけ破るようにして1人のウマ娘が転がり込んでくる。スーツを着て首から入校許可証を下げているのは先生のお付きであり運転手でもあるドリルロールさんだ。
「はぁ……やはりこちらでしたか先生。あ、こんにちは大和くん。騒がしくてごめんなさい」
「こんにちはロールさん。お忙しそうですね」
「ええ、ほんっとに大変。……先生!わざわざ私を撒く必要ありますか!?」
「別にそういうのじゃないさ。ただちょっと、孫と積もる話もあってね」
「……で?お話は終わったみたいですけど。どちらへ?」
「ああいや、君を呼びに行こうとね」
ロールさんの抉るような視線が僕の方を向く。僕が物心つく頃から先生の運転手であった彼女には幼い頃から長くお世話になってきた。基本的にはおおらかで優しい性格だが、元競技者であり警備の役職もこなしていた過去を持つ彼女は気性の荒い一面も持つ。教育、と称して嘘つきにはすぐ手を出すタイプだ
「部屋で一緒に呑もうかと……」
「……ほーん。先生、今日病院でなんて言われたかもうお忘れですか?」
ロールさんは短めのウマ耳をビリビリと震わせながら腕組みをして大げさにため息を吐いた。病院?と横目で先生の方を向くと「今日は以前やった健康診断の結果を聞きにこっちの病院に来ててね」と小さな声で呟いた。それは聞いてなかったね。あまり良くない事を言われたのだろうか
「いえ。お年の割にはとても健康だとお医者様も太鼓判を押してくださいました。ただお酒は少し控えるように、との事でした」
「まぁまぁロール。久方の孫との再会である訳だしね……」
「年末年始の付き合いで呑む事になるだろうし、それに備えてお酒は一切我慢する。つい一時間程前に私と奥様相手に約束なさったばかりですよね」
「……うむ。そういう訳だから、じゃあね大和。そのワインは正月に家に持ってくるようにね」
「何がうむですか何が。まあ……挨拶には伺います」
名残惜しそうにお土産を見つめた後、先生はふっと寂しそうに笑いゆっくりと去って行った。ちなみにこの後アポ無しで生徒会室に殴り込みをかけルドルフを心底びっくりさせてやったと楽しそうにメッセージが送られてきた
___________________
そうこうしている内に日が暮れる。とは言ってもまだ17時少し前だ。待ち合わせ場所である北門の傍へ行けば外行の格好をしたスカーレットとウオッカの姿が見える。約束通り勝利祝いの焼肉パーティーだ
「……なぁ。やっぱお前等2人で焼肉行けよ」
「何よお腹痛いの?」
「いやちげーって。あのなぁ、お前の祝勝会だろうが。なんで俺まで……」
「んじゃ部屋で1人ぐずぐずしてるアンタをほっとけっての?お肉が美味しくなくなるじゃない」
「してねぇが!?」
「まあいいじゃない。アタシの勝利を祝う会の盛り上げ要員として張り切りなさいよ」
「お前めちゃくちゃ言うじゃんかよ」
少しイラついたように頭を掻き、声を上げようとしたウオッカに先んじて腰に手を当てたスカーレットがぐいっと顔を近づけてウオッカをのけぞらせた
「あたしとあんたはこれから何度も競うの。その度に気を遣うのも遣われるのも嫌。いや、負ける気は一切無いけどね。……あんたは違うの?」
ウオッカは言い返さずに視線を逸らした。要はスカーレットはウオッカを励ましたいのだろう。いちいち落ち込むな、と面と向かって言うと厭味ったらしいだろうから切り出せない。有マの観戦前にケリをつけたいのだろう。ウオッカもそれは理解したらしかった
「まあ、ウオッカ。これはスカーレットの提案でもあり、僕の希望でもある。僕はスカーレットの一着を祝いたいし、君の二着も祝いたいんだ。……ああ、確かに君は負けた。勝者では無い。それの反省会は昼間にもやったし、君の中でも散々にやっただろう」
よく頑張ったね、と。そう言いたかった。悔し涙で枕を濡らした君は受け入れたくないかもしれないけれど。でもGⅠの舞台で力を出し切り、十分な結果を残した。僕はレースが終わった瞬間から、慰めるでもなく当然叱るなんてこともなく。ずっと褒めてあげたかった
「今日は君達2人のお祝いの席なんだ。決して君に気を遣った訳じゃない。だからウオッカ。是非とも一緒に来てくれないかい?」
「___しょーがねぇなぁ。わーったよ。……ご馳走になるぜ」
少し恥ずかしそうに、でも明るく笑って彼女は顔を上げてくれた
「つか嫌々言っときながらアンタお昼ご飯ちょー少な目にしてたわよね。絶対焼肉行く前提だったでしょ」
「うるせぇなお前ホント!」
やいのやいのと言い合う2人を連れ、予約通りに門の前に迎えに来てくれたタクシーに乗り込んだ
この後めちゃくちゃ食べまくった
あっつい夏が始まってしまいましたね。暑さに負けず更新をがんばり……え!?前回の更新から二週間以上たってますの!?うそでしょwww
すいませんすいません……はい……次はすぐ……すぐ……