プリティダービーに花束を(本編完結)   作:ばんぶー

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暑さに負けたくないあなた



ウマ娘zoneを買うのです



ばりばり元気になれちまいますわ!!!!



そうめんを食べ飽きたらzoneをつけ汁にして食べればよいのです



どうですか?




暑中見舞い


僕らはきっと黄金の夢を見る

 

 

 星の輝きはあまりにも儚い

 

 

 流れる雲に紛れて見えなくなることもある

 

 

 次々と産まれて来る光に呑まれて消えてしまうこともある

 

 

 どこまでも広がっているようで限りある空にひしめく星々

 

 

 例え刹那の輝きであれど、その一瞬を見逃すまいと僕らはただ空を見上げる

 

 

 それが夢を見るという事なのだ

 

 

 

「お兄様お酒くさい……!」

 

「君達の夢舞台を前にして___素面ではいられなかったのさ」

 

 

 出走前日、ホテルの一室。ミーティングの為部屋へ訪れてくれたライスを出迎えると彼女はきゅっと顔をしかめた。後ろに続く他のメンツも呆れたように笑いながら思い思いの場所に腰掛ける

 

 

 優しさと慈愛と純朴を炊飯器でやわらかく炊き上げたような彼女の一面しか知らなければ、このように厳しい言葉を叩きつけられたショックで卒倒したかもしれない。だが彼女は意外にもジョークが好きだという一面も知っている僕は耐えられた。いやジョークではないかもしれないが。顔をしかめるライスが室内用スリッパを履いた足のつま先で僕のすねをつんつんと突いてくるがどうにせよ程よく盛り上がっている今の僕は無敵だった

 

 

 怒涛の一日だった。前日入りした彼女達の調整は勿論の事、当日のタイムスケジュールの確認、インタビューやら打ち合わせやら、販売されるグッズなんかの確認作業や搬入も手伝った。途中から明らかにいいように使われたと思うが、明らかに人手が足りていない様子が見えた以上文句もこぼせず、しかもレイヴンは途中でぐずって動かなくなったので余計に作業が増えた

 

 

 かなり遅い時間までかかった作業の最後の一工程、会場に設置されているモニターで当日会場で上映されるPVを試聴した。その出来栄えの素晴らしさを目にした僕達は流れた涙の分の水分を補充する為夜の街でささやかな打ち上げに興じてからホテルへ戻って来たという訳だ

 

 

「まぁまぁライスさん。お偉いさんとのお付き合いとかもありますから大和さんは」

 

「そうとも。接待は立派な仕事なんだよ。フクキタルは解ってるねぇ」

 

「……」

 

「わ、ライスさんの厳しい視線がこっちに向いちゃったじゃないですか。大和さん庇うんじゃありませんでしたね……」

 

 

 見捨てられて少し傷ついたよ僕は。それはそうと、ここ最近ちょっとライスとフクキタルの関係性がふわふわしてる。というかライスは一度振り上げた拳を下ろせないままでいる。甘えたがりの彼女は一度フクキタルから独り立ちして、節目となる別れを受け入れて。それがうやむやになって気持ちはまだ宙に浮いたままだった

 

 

 前日入りに用意したホテルは2人部屋で、中等部であるネイチャとスカイ、フクキタルとライスの二組に分けてある。まあ別に喧嘩してる訳でも無いし大丈夫でしょ。フクキタルはライスを膝の上に乗っけて後ろから抱きしめてぐらぐら左右に揺れるが、ライスはつーんと唇を尖らせた顔でだんまりだ。耳は倒れていないので機嫌は悪くないらしい

 

 

「よし、最後のミーティングといくか」

 

 

 笑いながら聞きに徹していた大丸さんが壁の時計に目をやり、膝をバシンと叩く。その音を合図に全員の視線が彼に集まり、場の空気がすっと引き締まる。ベッドで横になっていたレイヴンもむくりと身体を持ち上げた

 

 

「各々体調は大丈夫か?目覚ましもセットしたな?」

 

 

 元気良く返事が返ってくる。僕は枕元に放り投げてあったスマホをチェックする。アラームは設定されていなかった。ふむ、と鼻を鳴らし設定を済ませて姿勢を正した。皆がもの言いたげな視線をこちらに向ける。その隙にレイヴンがアラームを設定している姿が見えた。ずるいだろあれ。誰か注意しろ。ごほんと咳払いをして大丸さんは話を再開する

 

 

「よろしい。本番に備えて今更追加の指示は無い。お前達は物覚えが良いからな、改めて言い直す必要もないだろう。まさか忘れてないよな?……うむ、よろしい。ケガ無く、後悔無く。全力。楽しむ事を徹底しろ。……じゃあ、レイヴン」

 

 

 全員が頷いたのを見て大丸さんは少し離れた場所に座る姪っ子に手を向ける。促されたレイヴンが切れ長の瞳を鋭く尖らせ、その後柔らかく微笑みをこぼした

 

 

「出来る事はしてきたわ。私も、あなた達も。私が保証する。だから何か悩んでいることや後ろ髪引かれる事があるのなら一切忘れて、バカみたいに楽観的になって、明日レースの後何食べたいかでも考えながらすっきりと寝なさい。私からの要望は以上。それじゃ、締めて」

 

 

 皆の視線は彼女から僕へと移る

 

 

「ふむ。明日は晴れるようだし、誰かの出走取り消しの報も無い。良いレースになるだろう。見る方だけでなく、走る君達にとっても実のある時間になる筈だ。いい思い出になるよう、悔いなく___という言葉で無難に済ませるにはもったいない程のステージな訳だ。有マに出走する者は全員が挑戦者であり、チャンピオンだ。競技者としてそういう舞台に立てる事の特別性を存分に味わって、楽しんで欲しい」

 

 

「うむ。どれ、皆も一言ずつ意気込みを聞くか。すっきり寝る為にもな」

 

 

「はいはーい。それじゃ私から。ご存じセイちゃんは一番下っ端ですし、皆さんに張り合うにはまだまだ未熟者です。でも……勝負する機会を貰えたので。明日は対等なつもりで行かせてもらいます」

 

 

 スカイは最後の言葉を言う前にぐっと息を呑み、それでも吐き出した。追う者でありながら追われる者のプレッシャーを背負う宿命を持つ彼女が明日の舞台で成長を掴むのか、それとも立ち直れない程の挫折を味わうのか。こればかりは彼女次第だろう。ただそれだけの大勝負に挑む覚悟を抱いた経験がマイナスに働く事は決してないということは確かだった

 

 

「あたしも、選んでくれた皆に応える為に覚悟決めて突っ走りますので。先輩方も後輩方も、なにとぞお手合わせ願いましょうかね」

 

 

 ネイチャは澄んだ瞳で口角を吊り上げた。一年越しの初挑戦。人知れずため込んだ後悔もあるだろう。ただ彼女の言葉に込められた想いこそが真実だ。誰かの期待に応えたい。それを何より望んでいる。きっと強い走りを見せてくれるだろう

 

 

「皆を笑顔にする為に……私自身が胸を張れるように。力いっぱい走ります」

 

 

 一度は止まりそうになった彼女は、それでも前へ進み続ける。そうする事で幸せになってくれる誰かの為を想って。だが彼女ならきっといつか、誰も彼もを幸せにできるだろう。こんなにも気高く美しい顔が出来るのだから

 

 

「えー……皆さんの気合に負けないよう張り切っていきます!……あ、ちょっと待ってください。なんかちょっ……違うんですよ、違うんです。皆さんがどんどん言いたい事言っちゃうので被りを回避しようとしてたらなんか言う事なくなっちゃ___」

 

「よし解散!寝坊すんなよ!」

 

「「「お疲れ様でした」」」

 

「ああああああ!やり直させてくださいぃぃぃいいい!」

 

 

 フクキタル。それでこそ僕の愛したウマ娘だ

 

 

 しかしまぁ。ちょっぴり寂しがりで、まだちょっと甘えたがりで、ほんの少し自分の輝きに自信が無くて、諦めと挑戦の狭間に挟まってもがく青春タイム真っ盛りな君達は明日、トゥインクルシリーズを代表するウマ娘として相応しい実力者としてターフに立つんだ。ふと押し寄せる感傷が僕の眼から熱い想いを流させた

 

 

「いつの間にこんなに大きくなっちゃって……」

 

 

 静かに涙を流す僕の前にレイヴンがスッと銀色の缶を差し出した。僕はそれを受け取り彼女と同じタイミングでプルタブを引く。閉じ込められた空気が解放され景気の良い音が鳴り、僕らは間髪入れずそれを煽った

 

 

「「栄光を!!!」」

 

「おい俺の分は?」

 

「あの、トレーナーさん方。ちゃんと明日頼みますよ……?」

 

 ネイチャの鋭い睨みが部屋の気温を少し下げた気がした。ええじゃないかええじゃないか、前夜祭だ前夜祭。愛すべきウマ娘達としばらく談笑すると彼女達はそれぞれの部屋へ戻って行った。レイヴンにも寝坊しないよう散々言い含めた後部屋へ返し、僕と大丸さんは最後にもう一杯だけ呑み交わすと布団に入った

 

 

 

______________________

 

 

 

 懐かしい夢だった

 

 

 まるで記憶の領域に焦げ付いたみたいに、時の経過により色褪せない思い出というのは人にいくつかあるものだ。何かの拍子にふと思い出したり、深い眠りの中夢に見たりする。かくいう僕も大きなレースの前には古いアルバムをめくるように鮮明な記憶の劇場を体験する事が多々あった。洒落た言葉を使わずに言うなら、回想イベントが頻繁に発生するって事だ

 

 

 両親は責任ある立場の人間で、幼い僕達の為に精一杯時間を作ろうとしてくれていたが多忙に追われる日々。ただ胡舞跳グループに勤めているウマ娘さん達が会社を兼任している我が家をよく出入りしていて、そんな彼女達が僕達兄弟の面倒をよく見てくれたので寂しさは感じなかった

 

 

 歳にして7つか8つの頃の話だ。クリスマスシーズンこそなんとか家族の時間を作ろうと両親が鬼気迫る顔で仕事を片付けている横で、僕は当時よく世話を焼いてくれていたウマ娘さんの膝の上に確保され(家のどこかに隠されているであろうプレゼントを見つけようとうろうろしているのがバレて捕まった)テレビ画面に映し出された映像に意識を奪われていた

 

 

 何かのレースに出走するであろうウマ娘さん達を取り上げた1分程のCM。腹底に重く響く声でウマ娘達が紹介され、刺激的なギラギラとした映像に子供心を引き込まれた

 

 

『はぇー』

 

『お。どしたの大和ちゃん』

 

 

 優しくおっとりとした声が返ってくる。僕を逃がさないよう腕を回しながら本を読んでいた彼女が僕の背後で顔を上げる気配がしたので、質問を続ける

 

 

『ね、おばさん。有マ記念って___』

 

『ほーこのあたしがおばさんに見えちゃう訳だ』

 

 

 突き刺すような荒々しい声が返ってくる。僕を逃がさないよう回されていた腕が首元に迫って来た。僕は静かに両手を上げて素早く謝罪した

 

 

『すいません、あねさん』

 

『その呼ばれ方はなんか柄が悪そうでやだな……』

 

 

 そういうのは偏見って言うんですよ。僕がそう言うと彼女は「難しい言葉知ってるなぁ」とからからと笑いながら僕の頭をうしろからぽんぽん叩いた

 

 

『それでですね、有マ記念ってすごいレースなんですか?』

 

『そりゃあもう。GⅠレース……ほら、こないだ泡斎センセのとこに遊びに行くついでにレース見に行ったでしょ。あれのもっとド派手なやつなの。特にこのレースは凄いのよ。日本中から大好きだって応援されてる子だけが集まった凄いレースなの』

 

『じゃああねさんも出たことあるんですか?』

 

『あたしが?あはは、残念ながら出れなかったよ。出てみたかったけどねぇ』

 

 

 それはおかしいだろう、と僕は思った。彼女はちょっと……かなり……めちゃくちゃ怖いけどすっごくいいウマ娘さんだし、おじいちゃんも「彼女は本当に素晴らしいウマ娘なんだよ。すぐ手が出るけど」と何度もあねさんの武勇伝を聞かせてくれた。そもそもおじいちゃんが褒めないウマ娘さんはいないけれど

 

 

 彼女の事を大好きだって人は、僕とおじいちゃん以外にもたくさんいるに違いないのに。だというのに何故、そんな寂しそうな声をしているんだろうか。僕が投げかけた疑問に彼女は答えてくれなかった

 

 

『大和ちゃんは将来トレーナーさんになりたい?』

 

『……わからない』

 

『そ。まあ、向いてないかもねー君は』

 

 

 彼女は僕の頭を撫で続けた

 

 

『優しすぎるからね』

 

『もしかして僕のこと口説いてるんですか?』

 

『君そういう余計なのどこで勉強してくるのかな』

 

 

 勿体ない、と思った。こんなに素敵な彼女の事を知らない人が大勢いるなんて。大勢のライバル達の中で埋もれず頭角を出す彼女達の辛さに配慮するだとか、勝負の世界に同情はご法度だとか、そういう複雑な考え方のできない子供ながらにそう思った。祖父がやっている仕事がどういうものなのか、言葉では無く心で理解できた気がした。だからそれが原点なのだろう

 

 

 

 とても懐かしい夢だった

 

 

_____________________

 

 

 

「そろそろ到着だ。降りる準備をしろ」

 

 

 エアグルーヴの凛とした声でうとうとしていたウマ娘達は意識を覚醒させ、慌てて膝にかけていた上着を羽織ったり隣に座った子を起こしたりと騒ぎ始める。スカーレットも隣でぼけっと口を開けて寝ていたウオッカをでこピンで優しく起こしてやると窓の外に視線を移した

 

 

 レース場周りの道路は本日のレースについての広告や看板で飾り付けられており、行きかう人々や乗り物で少々の混雑を見せている。隣のウオッカが突然の刺激に困惑し騒いでいるのを完全に無視している内にバスは静かに降車場に入った

 

 

 降りたウマ娘達はホワイトレイヴンが出迎えた。学園ではジャージに白衣を羽織ってうろついたり、かと思えば1人ファッションショーを開いたりと好き勝手な彼女も今日ばかりはどこに出しても恥ずかしくないよう白のスーツを着こなし凛とした雰囲気を放っている。そんな彼女は実の所とても多くの視線を集めていた

 

 

 普段外に出て来ない彼女の名前は知る人ぞ知るものであり、しかもその美貌は異性同性問わず注目止む無しなのである。事実、昨日は事あるごとに取材を申し込まれかなりストレスを感じていた。だが今の彼女の周囲にはあまり人が寄り付いていない

 

 

 というのもストレス解消と緊張を紛らわすのを兼ねて少々呑みすぎ寝不足で足元がおぼつかない状態なのだが、それが奇跡的に儚げで幻想的なオーラに磨きをかける結果となっており逆に近寄りがたい存在へと昇華していた。普段彼女を見慣れていなければ見破れないその張りぼての威圧感は、案の定バスからエアグルーヴが一発で見破り眉間に皺を寄せた。レイヴンはすっと目を逸らし、続けて降りて来る子達への挨拶に徹した

 

 

「おはようございまーす!」

 

「おはようハルウララ。お寝坊はしなかったみたいね」

 

「寝坊したけどキングちゃんが起こしてくれました!」

 

「反省が見られないわねウララさん。おはようございます、レイヴンサブトレーナー」

 

「おはようキング嬢」

 

「……あの、その呼び方真似しないでいただけたらと思うんですが」

 

 

 呆れたように溜息をつくキングヘイローと申し訳なさそうに笑うハルウララ。彼女達以外にもムーンシャインに所属こそしていないが本日出走するメンバーと関わりのあるウマ娘達もバスから降りて来る。点呼を取り全員が揃った事を確認したエアグルーヴは、最後にバスから降りて来たスーツ姿のウマ娘に頭を下げた

 

 

「ハナフダさん、本日は早朝から引率頂きありがとうございました」

 

「ま、可愛い後輩諸君の為だからね。しかしグルーヴちゃんみたいにしっかりした子がいればいらなかったかな」

 

「学生だけでの移動は許可されていませんから。本当に助かります」

 

「まあ警備の仕事は休みだし、あたしも観戦くるつもりだったしホント気にしないで。……あ、レイヴンちゃんお久しぶり。元気だった?」

 

「快調」

 

 

 ぐっと親指を立てる彼女の顔色はとっても不健康的で、あまりの透明感に冬の朝日がすり抜けるんじゃないかとエアグルーヴ達が錯覚する程だった

 

 

「いやこの状態のレイヴンちゃん1人寄こされてもな……。そういえば大和ちゃんは来てないの?」

 

「後ろに居ますよ」

 

 

 2人が話している所にぬるりと割り込んだ大和が引率を担当してくれたムーンシャイン、もとい先代チームのOGであるナガレハナフダに軽い調子で笑顔を向けた

 

 

「あねさんおはよ。今日もキレイだね」

 

「余計な事ばっか覚えたねほんと……」

 

「そういう環境で育ちましたから。あ、ご主人とは先程お会いしたんですけど、会場入り口のお手洗いに置いてきました。乗り物酔いが酷いみたいで」

 

「なんでどいつもこいつもKO寸前なの!?なんで新幹線で酔うんだあの人……まあいいや、そんじゃまた後で大丸ちゃんとこにも挨拶行くから」

 

 

 悪態をついて去って行く彼女を見送り、ふらつくレイヴンというお荷物を抱えながら大和は合流したメンバーとお喋りを交わしながら会場までの引率を開始した

 

 

 それからしばらく。出走するメンバー達の下へ戻って行った大和と別れたムーンシャインのメンバー達は思い思いに散って会場で時間を潰していた。肝心のメインレース自体は15時頃に予定されているのだが、今年最後のレース観戦という事で開場時間に合わせて到着し午前から執り行われるレースを観戦したり、気合の入った出店を回ったりと緊張感を抱きながらも息抜きを楽しんでいた

 

 

「っぱ凄いねぇ人の数」

 

「はぐれんなよちっこいの」

 

「脳みそはダイブよりでっかいからw」

 

「……」

 

「ツッコミないとめちゃ恥ずかしいじゃんか!」

 

 

 ふわふわした桃色ボブヘアーを揺らしながら、コットンルルは出店で買ったシュークリーム(スペちゃんのふわふわ北海道クリーム入りシュー。1個400円)をぱくぱくと口に放り込み、隣で微笑むワンモアダイブのお尻をしっぽではたいた。レースから身を引いて体重制限が緩くなった彼女はカロリーを恐れない心を手に入れておりお財布の紐も緩い

 

 

 その2人にくっついて歩くのはスカーレットとウオッカの1年生コンビ。この間までは節制を義務付けられていた2人もレース終了後のご褒美タイムとして食べ歩きを許可されている。彼女達はウマ娘用の帽子を被り空いた穴からウマ耳を出しながら会場をうろついていた

 

 

 スカーレットとウオッカがちょっとした変装を試みているのには少々訳がある。会場の入り口をくぐった途端、朝一番に会場に乗り込んでやらんと気合を入れて張り込んでいた観客達の一部が2人の姿を見つけるや否や音も無く静かに列を形成し、サイン色紙を差し出して来たのだ。気付いたルルとダイブが自分の頭にのっけていた帽子を2人に被せるとファンの人達は静かな溜息と共に冬の朝の靄のように消えて行った

 

 

「レース場で変装しているウマ娘にはサインを求めたり握手を求めたりするのはマナー違反。暗黙の了解だけど、ファンの人がそこの所気を利かしてくれてるから覚えとけよ」

 

「君ら立派なGⅠウマ娘なんだからね。その辺りの自覚をもつよーに」

 

 

 そういうルルとダイブの2人はマフラーで口元を軽く隠す程度の私服姿でぶらぶらと歩いている。先日遂に人生初のGⅡレースの勝利を手にしたダイブはマフラーを緩めている時はちょいちょいサインを求められはするがスカーレット達程一目は引かない。今更そんなことに嫉妬する2人では無く、むしろ誇らしく思っていた

 

 

「でも、こういう時もファンの方にはちゃんとご対応した方が……」

 

「ウオッカ、その気持ちは大事だけどプライベートだって私らには必要なんだよ。で、ファンの人達もその辺の線引きが欲しい。街中で見かけた時声をかけていいのか、ダメなのか。だからこうして変装してますよーってアピールするのもファンの人のためなんだよねぇ」

 

 

 喋りながらルルは下から見上げて来る視線に気付いて視線を落とした。幼いウマ娘がお母さんに手を引かれながら、そしてもう片方の手にさらに同じくらい幼い男の手を引きながらじっとルルを見つめている。ルルが何か尋ねる前に少女が口を開いた

 

 

「こっとんるるちゃん?」

 

「え、そうだけど」

 

「今、へんがおしてない」

 

「変顔は基本してないけどなぁ……え、そういう芸風だと思われてるのかな」

 

「あ、へんそう。へんそうしてない」

 

「ああそういう。そうだね、別にしてないけどぉ」

 

「じゃあさいんください」

 

 

 ぐいっと女の子が突き出したのは色紙とペン。会場の至る場所で売られている。ルルはぱちぱちと目をまたたかせた後、少し恥ずかしそうに彼女の差し出した物を手に取った。隣に立つ母親が申し訳なさそうに眉をひそめがら自らの頬に手を当てた

 

 

「ごめんなさい、この子あなたに絶対会いたいって聞かないもので。今日はムーンシャインの皆さんで応援に来るとSNSで伺ったものですから……。あの、今は大丈夫でしたか?」

 

「えぇっと、はい。大丈夫ですけどぉ……。君、お名前は?」

 

「ハイパームテキ」

 

「めちゃくちゃ強そうなお名前だねぇ」

 

「うん。小学校出たらトレセン学園に入るの」

 

「お、そうなんだ。頑張んなねぇ」

 

「うん。頑張る。ルルちゃんも、頑張って」

 

「ええー?あたしもう引退したからなぁ。もう走らないかもだよ?」

 

 

 そう言ってからから笑いながらサイン色紙を差し出したルルの手をぐっと握り返し、小さなウマ娘はまん丸な目でルルを強く見つめ返した

 

 

「走ってなくても、これからもずっと応援してる。るるちゃんがなにしてても、うまくいくようにずっと応援してる。ファンだから」

 

 

 ルルが差し出した色紙を受け取った女の子はぺこりと頭を下げると母親と弟の手を引いて去って行った。ルルはしばらく固まった後、マフラーをぐいっと顔に巻きなおした

 

 

「照れてんのか?」

 

「照れるでしょうが……。なんだよスカーレットウオッカその眼はぁ!」

 

「「いえ、かわいいなって」」

 

「ぼけどもめ……!」

 

 

 ルルのしっぽが生意気な後輩2人の尻を叩いた

 

 

 会場で推しを見つけたとしても、当日のレースに関係の無い子に派手に群がるのは控えるべきだとウマ娘ファン界隈では定められたマナーではある。とはいえ大舞台であれば現役を退いたウマ娘達が会場に応援に来る事も有り、それを見て見ぬフリするのはいささか難しい。応援してもらっている立場であるウマ娘もタイミングを見て適度に交流を行うべきだと指導されている

 

 

 会場を歩いていれば時折そういった光景を見る事ができる。お祭りの空気はレース以外の場所でも温まっていた

 

 

 

 

 





ダスカちゃんのフィギュアあみあみで予約しました。サポカ完凸よりずっと安ーい!


長すぎたので前編後編に分けました。後編すぐあがると思います(当社比


本編あと2話予定です


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