ナイチンゲールのメンタルケアのために森を案内してほしい──そうドクターに頼まれたメテオは、彼らを故郷のカジミエーシュの森へ案内する。休憩中、ドクターがナイチンゲール読み聞かせた絵本を聞いて、メテオは自分たちの居場所について思い悩むことになる。

ここへ投稿するのは初めてです。
今後はアークナイツの他にPSYCHO-PASS二次創作とかも投稿していきたいなと思っております。
まだまだ文は拙いですが、精進していきたいと思います。

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居場所

 メテオは鉱石病(オリパシー)に感染するまで、カジミエーシュで森林火災監視員(ファイヤーウォッチ)を担当していた。だから植物や野生動物に至るまで、森に関してなら誰よりも詳しい。

 そんなわけで、自分はいまカジミエーシュの森林地帯に来ている。

 ここに来た理由は、ドクターの個人的な頼みからだった。

 いまドクターの隣で、赤と青の医療警備ドローン──ヘンゼルとグレーテルに付き添われている白い服の女性──ナイチンゲール。彼女のメンタルケアのために森林ガイドをしてほしいの言うのが、彼からの依頼だった。

 曰く、彼女は三年前にとある違法薬物を摂取させられ、そしてかなりひどい境遇に合わされたらしい。それ以来、彼女は閉所恐怖所に陥り、さらには当時摂取していた薬物の影響で幻覚をよく見るのだそうだ。

 だから彼女の部屋は、投影装置(ホログラム)を駆使して自然を再現した部屋にしているのだという。しかし、機械で作られていない本物の自然を見せるのも彼女の心のケアに必要だということで、ケルシー先生から感染者の外出許可を貰ったのだ。

 そのことに、メテオはかなり好感を持っている。──けして自分が機械が苦手だからというわけではない。たぶん──機械では為しえない、自然の利点を理解しているのだ。

 森には多くの鳥が生息している。ナイチンゲールはそれを見つけると、

「あれはなんていう鳥なのですか?」

 と聞いてくる。そのたびにメテオは教えてやった。説明を聞いた彼女の表情は乏しかったが、目には少し光が灯っていた。

 ドクターもまた、森の散策を楽しんでいた──というより、ナイチンゲールが楽しんでいる様子を温かく見守っているようだった。携帯端末を用いて彼女の精神状態を見ているらしく、安定な状態であることを確認すると、フード越しで朗らかな笑みを浮かべていた。まるで、子供の成長を喜ぶ父親のように。

 しばらく歩いたあと、ドクターが昼食にしようと言った。比較的日差しが当たるところに向かい、メテオとドクターでブルーシートを引き、手持ちのピクニックバスケットをそこに置いた。

 ヘンゼルとグレーテルは、ナイチンゲールをシートに座らせた後、周囲警戒のためその場を離れていく。

 バスケットには、サラダやベーコンなど色とりどりの具材が挟まれたサンドイッチが多く詰め込まれていた。これはドクターがマッターホルンにお願いして作ってもらったものらしく、とてもおいしそうだった。

 味のほうもとてもよかった。トマトとジューシー加減とレタスのシャキシャキ感、そしてマヨネーズが絶妙なハーモニーを奏でている。これほどのものを作れるのなら、彼はきっとレストランでもやっていけそうだ。

 ドクターのほうは鶏肉と野菜が挟まれたサンドイッチを食べていた。フードを外し、何の特徴もない外見をさらした彼は、まるで子どものように口元をほころばせている。その顔は何とも微笑ましい。

 ナイチンゲールのほうも、少しづつではあるがサンドイッチを頬張っていた。

「美味しい?」

 ドクターが聞いた。ナイチンゲールは無表情ながら、こっくりとうなずいた。

「もっと食べていいわよ」

 メテオはバスケットを彼女のほうへと持っていく。

「でも、みなさんの分が……」

「いいのよ。今日はあなたが主役なんだから」

「そうだよ。もっといっぱい食べて」

 困惑していたナイチンゲールだったが、二人に押し切られて、もう一つのサンドイッチを口にする。それはまるで娘のようで、メテオは何だか愛おしくなった。きっと結婚して母親になったら、こんな気分になるのだろう──メテオはドクターのほうを見やる。彼もまた、父親のような微笑を浮かべていた。

 

「……ドクター、またあの絵本を読んでくれませんか?」

 食べ終わったあと、ナイチンゲールはドクターにそうねだった。ドクターは微笑んで、リュックから絵本を取り出す。

 題名は〈みにくいアヒルの子〉

 それを歌うようにドクターが読み上げる──むかし、ある小さい池に、アヒルの一家が住んでおりました──。

 話を聞いていると、メテオは最初、感染者に対する差別のようだと思った。けれど、見方を変えるとドクター自身の話のようにも思えた。

 鉱石病(オリパシー)に感染したものは、例外なく差別され、かつてあった居場所さえも失う。それはこの世界ではだれでも知っている話だ。だが彼のような先民(エーシェンツ)の特徴を持ち合わせていない存在は今まで聞いたこともなかった。自分のようなクランタでも、ナイチンゲールのようなサルカズでもない。そんな人種はロドスに来てから初めて知った。

 感染しているかしていないかに関わらず、この世界から居場所を奪われた存在──それはまるで、この絵本に出てくるアヒルのようであったし、しかしそれとはまったく異なっている。

 ドクターの朗読が終わったとき、メテオは終始思い悩んでいた。ナイチンゲールは太陽の光の温もりのせいか、ドクターの膝の上でぐっすり眠ってしまっている。閉じた目にはなぜか涙が流れ、彼の膝を濡らしている。

 自分たち感染者は、治療法が確立されれば元の居場所に戻ることができる。話に登場したあのアヒルの子も、最後は自分の居場所を見つけることができた。

 しかし、ドクターのような人たちの居場所はどこにあるのだろう? たぶん、それはどこにもない。この世界はそれを許してくれない。

「どうしたんだい?」

 ドクターが心配そうに見つめてくる。

「……いえ、ナイチンゲールが泣いているんだけど、どうしたのかなって……」

 メテオは話をそらした。これ以上ドクターに不要な心配をかけさせないように。

「……この絵本を読み聞かせると、いつもこうなんだ」ドクターは悲しげに、黄金色に輝くナイチンゲールの髪をなでる。「シャイニングの話だと、過去の事件に関係しているらしいんだ。昔から彼女が絵本好きだったというのは、なぜか僕も知ってるんだけど……今じゃこの〈みにくいアヒルの子〉しか読みたがらないんだよ」

「……そうなの」

 ドクターは過去の記憶を失っていると、オペレーター同士のうわさで聞いたことがある。それでも記憶に残っているということは、きっと大切な人だったのだろう。

「たまに、こうして絵本を読み聞かせていると、おぼろげだけど思い出すんだよ。そのたびにどうして自分が守ってやれなかったのかって考える。〈違う選択〉をしていれば、リズだってこうなることもなかったのにって……」

 目に涙を浮かべ、後悔を口にするドクター。涙はそのまま眠っているナイチンゲールの頬へと流れ落ちる。

「だから、今度こそ彼女を守りたいんだ。仲間として、そして一人の友達として、彼女の居場所になってあげたいんだ」

 しかし、彼の青い瞳はとても綺麗な輝きを宿していた。それは自らの正義を象徴しているかのように美しくて、尊い。

「あなたなら、きっとできるわ」

 メテオは嘘偽りのない言葉を口にする。ドクターは無垢な照れ笑いを浮かべ、

「そうかな。そうだと、嬉しいな」

 ドクターはきっと、どんなことが起こっても正しさを失わないのだろう。そんな人だからこそ、彼にもちゃんと帰る場所が、この世界に天災や鉱石病がなくなっても存在してほしい。醜《みにく》いといわれたアヒルの子が、最後には白鳥となり、本当の居場所を見つけたように。

 メテオはドクターとナイチンゲールの方を見やる。

 ドクターの膝で眠る彼女。その顔は今は泣いておらず、居場所を見つけた子どものように安らかな寝顔だった。きっとなんとかなる。メテオはそう思った。


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