凍てつくような風が肌を刺し、満月の光が墓に眠る死者たちを優しく包み込んでいた。
鈍く光るショベルを持った少女のような影は、土を掘り起こすのにせわしなく動く。
雲はゆっくりと移動するが、しかし、月明かりを隠してはくれない。
街の住人も、角のパン屋の番犬もとっくに眠って動きはしない。
土も、墓石も、死者たちも、もはや動くことはないだろう。
鈍く光るシャベルは、せわしなく動いている。
三日前、街の少女が一人行方不明になった。
少し前に慕っていた兄が死に、失意の底にいた彼女は努めて明るい姿を見せようとしていたという。
兄妹の両親は二人が幼いころに流行り病で亡くなり、近所の肉屋で働きながら居候をしていた。
内向的ながらも誰に対しても優しく振る舞う兄は、小さいながら多くの子供に慕われ、活発な妹は、近所の人々によく可愛がられていた。
しかし、兄は病気で死に、妹の方は行方不明である。
この不運な兄妹についての不吉な噂話で街は持ち切りとなり、彼女の捜索は未だ懸命に進められていた。
太陽が目を覚まし、雲たちが眠りについたころ、街の人々は墓場の周りに集まっていた。
墓は掘り起こされ、死体が一体消えていれば、噂好きの住人たちはどこにだって集うだろう。
彼らが眠っている間に、死者は目を覚ましていたのだろうか。
太陽にはわからない。
同じように、角のパン屋の番犬にもわからない。
ざわつく彼らを横目に、風は土埃を巻き上げて立ち去って行った。
暫くすると、太陽は再び眠りについた。
すべてを知っている月は目を覚まし、彼らを探した。
月明かりが映し出したのは、土埃と腐りかけた肉塊だけで、鈍く光るシャベルは、終ぞ見つからなかった。
「動く死体が人を襲うらしい」
と、隣町では噂が広まっていた。
「死体が動き回っている」
と、この街では噂が広まっていた。
そして、町外れで置き捨てられた小屋には、腐臭が漂っていた。
小屋には二人の男女が居た。
男の肉にめり込んだ鉛玉を、女が包丁で摘出している。
からん、と弾頭が床に落ち、悲しい金属音を打ち立てると、女は口を開いた。
「人間なんて、あんがい脆いものだね。」
「にしても、撃たれたら痛いものだね。」
怒るような、嬉しいような微笑みを浮かべる女に対して、男はため息交じりにそう返す。
「兄ちゃんは私が守るからね。」
握りしめた手斧には既に死者のものとなった体液が付着し、てらてらと鈍く光る。
「私達、誰にも見つからないから。」
「俺はみおが無事ならそれでいいんだ。」
微笑みを交わした二人は、見つからないため、再び朽ちることのないよう、武器を握っている。
噂好きの住人は、夜が来る前に眠り、再び墓場に集うだろう。