前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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実質一日とちょっとで2-5、5-2、5-5、6-4行けって正気なのでしょうか?


第102話 連携

 腹痛やらなんやらで苦しみながら行われた哨戒任務。それは無事終わった。しかし、帰投しようと機雷原を抜けた所で問題が発生した。

 そこを抜けた瞬間、卯月がなにかの声を聞き取ったのだ。

 

 『卯月』と、彼女を呼ぶ声が。

 余程恐ろしい声だったのか、卯月は腰を抜かして動けなくなってしまった。

 しかもそれが銃爪になって発作が起きる。自分を抱えながら震えることしかできない。

 

 このザマだ。幻聴に違いない。

 そう思いながら満潮は卯月を抱きかかえる。何度も何度も卯月の面倒を見ているので、介護の仕方は慣れている。

 嫌悪感は一切消えないが。

 今更だが、何故わたしは、こんな奴の面倒を見ているのだろうか。

 

 考えると胃に穴が空きそうなので止めておこう。無心で卯月を前科戦線まで運ぶ。

 

 緊張が解けない。

 卯月があんなことを言い出したせいで、この安全地帯にも何かが潜んでいる気がする。

 

 嫌な汗を流しながら、満潮はなんとか施設まで辿り着く。真っ先に工廠へと向かった。

 入ってくるのに気づいた北上が、二人に向かって手を振る。

 

「おー、お疲れ様ー……って、感じじゃなさそうね」

「ええ、そうよ、このバカのせいでね」

「うーちゃん、バカじゃ、ないぴょん……」

 

 ここまで運んでくる間で発作は収まっていた。とはいえ壮絶な感覚を味わった直後、まだメンタルは不安定なままだ。顔は青ざめているし、目の焦点はあまり合っていない。

 

「バカはバカでしょ、あんな妄言でわたしを惑わせて」

「妄言、なにそれ?」

「水中から声が聞こえたって言うのよ。機雷原の内側、ありえないでしょ」

「うーちゃん嘘は嫌いぴょん。聞こえたから聞こえたって言ったんだぴょん!」

「あー、落ち着いて二人とも、どーゆーことなのさ」

「聞く必要ないわよ」

「満潮ー、それを決めんのは、わたしの方だよー」

 

 満潮はただの前科持ち。北上は非戦闘員だが正規艦娘。どちらの方が権限があるのかは言うまでもない。

 意見を黙殺されて満潮は機嫌を悪くする。

 その辺でふてくされている間、北上は卯月からことの詳細を聞き取る。幻聴かなにかと思っていた北上も、異様な話に顔を曇らせていく。

 

 そのことを話し終わった後、北上は困ったようにうめき声を上げていた。

 幻聴と片付けるには、色々と妙だった。満潮のソナーにも何かがいた記録はない。それでも尚疑ってかかるのは、卯月にはそういう事象の『前例』があるからだ。

 

 数日前、藤鎮守府で行われた、金剛たちの艤装の回収作戦。

 襲撃してきた秋月の弾幕と、真っ暗闇という環境のせいで艤装捜索は難航を極めると思われた。しかし卯月の活躍により、かなり早めに発見することができた。

 その時も、卯月は『声』を聴きとっていた。

 悲鳴とも、うめき声ともつかない、異様な声を聞いた。その音源を辿っていったら艤装を発見したのだ。

 

 卯月の聴力が優れているのは、ここ数日の特訓で明らかになっている。それでもこれは耳が良いとかそういうレベルの話ではない。

 明らかに、聞こえてはいけない部類の音が聞こえる。

 何故そのようなことが起きているのか。疑わしいのはやはりD-ABYSS(ディー・アビス)だが、このシステムにそんな力があるのか。

 

「何にしても、前の艤装の時みたいに、何かがあるかもしんないねぇ」

「ど、どうするぴょん。もう一回出撃するぴょん?」

「いんや、卯月はまた訓練しなきゃいけない。所長──間違えた中佐に頼んで、対潜が得意な人たちに捜索して貰うようにするよ」

「フン、随分そのクソガキに優しいのね。特別扱いってことかしら」

「ガキって、お前も十分子供ぴょん」

「お子ちゃまと比べないでくれる?」

 

 卯月は直ちに飛びかかり攻撃を始めた。馬乗りになり頬を全力で引っ張る。

 子供扱いした罰だ。痛い目見せてやる。

 しかし満潮もカウンター。逆に卯月の頬っぺたを掴み、同じく全力で引っ張った。頬が伸ばされ痛むが、お互い引く訳にはいかなかった。

 どっちもどっちだった。二人とも子供そのものだ。

 

ふぁいっふぁふぁ(参ったか)!」

ふぉういうふぉころよ(そういうところよ)!」

「何してんの二人とも」

 

 このままでは話が進まない。北上は工廠の機械を使い、卯月を掴んで持ち上げる。結構持ち上げたので中々の高さにぶら下がる形になってしまった。

 

「下ろすぴょん!」

「暴れると落ちるよ」

「下ろしてくださいなんでもするぴょん」

「はいはい」

 

 クレーンをゆっくり動かして地面に下ろされた。

 いきなりでちょっとビビったが、良く考えれば大した高さじゃなかった気がする。

 膝が笑っているのは気のせいだ、見間違いに違いない。

 

「満潮の意見に関係なく哨戒はしとくよ。どっちにしても午後もしなきゃいけないんだから」

「ああ、それもそうね」

「入渠の準備はできてるから入ってきな。お昼の後は、また特訓だからねー」

 

 特訓、なんと恐ろしいな響きか。

 ここ最近の過激な練習のせいで、特訓という単語を聞くと身体が震えるようになっている。特訓アレルギーになってしまったに違いない。

 サボりたい。滅茶苦茶サボりたい。

 いやまあ、強くなってる実感はあるから、それは嬉しいんだが……でも辛い。

 

「あ、そうだったぴょん! うーちゃんお腹の痛みがまだ収まってないから、特訓はムリだぴょ」

「いや、そういうの関係ないよ?」

「……ガチで体調不良なんだけど?」

「うん、だからやるんだよ?」

 

 戦闘中に体調が悪くなっても、敵は攻撃を緩めない。

 ましてやここは前科戦線。

 人権とかは基本二の次。腹痛だろうがなんだろうが、卯月の特訓が免除されることはあり得ない。

 

 むしろ逆。体調不良の状態でも戦えるようにする目的で、更に苛烈な訓練が行わることになる。

 ……根本的な話、実戦で体調を崩すような、自主管理のできてない卯月がアホな訳だが。

 

「……マジか、ぴょん」

「発作がまだ後を引いてると思うけど、同じ理由で配慮はしないよー、ドンマイ」

「酷すぎる、どーしてうーちゃんがこんな目に!」

「暴飲暴食以外のなにがあるのよ」

 

 卯月は満潮を指差す。

 

「ストレスとか」

 

 満潮の華麗なフックが腹を抉る。

 

 胃に穴が空く激痛(物理)を味わった卯月は、海面へ叩き込まれて沈んでいった。

 

「ちょっと、工廠の機械に傷がついたらどーすんのさ」

「ごめんさない、北上さん」

「誰かうーちゃんの心配をしろっ!」

 

 満潮は首を傾げる。

 する必要があるのだろうか。そんな時間があったら腕立て伏せでもしてた方が有意義ではないか。

 

 頭からびしょ濡れになってしまった。

 卯月はプリプリ言いながら立ち去ろうとする。

 不快感はマックス、相変わらずお腹も痛い。さっさとお風呂入ろう。

 

「あ、ちょっと卯月」

「なんだぴょん」

「満潮から貰った胃薬は飲んだんだよね?」

「アレ? とーぜんだぴょん、それでも痛いんだぴょ……あ、やばい、また、ひぎいいい!」

 

 おおよそ女の子が出してはいけない声を上げてお手洗いへダッシュする卯月。

 要件があったのだが、流石に引き留めるのははばかられた。あの必死な形相を見たら、とてもそんなことはできない。

 

「……おっかしいなぁ」

 

 頭をポリポリ掻きながら、北上は不思議に思った。

 飛鷹から聞いた話だが、彼女が卯月に渡した胃腸薬は、かなり強力なものだった筈。効かないなんてことがあるのだろうか。

 

 

 *

 

 

 風呂に入り昼食を取り、一休みしたら大分お腹の痛みが治まってきた。腹をさすりながら卯月はホッとする。この痛みが一日中続いていたら、本当にショック死してたかもしれない。秋月よりも強大な敵だった。

 こいつを倒したわたしにもう敵はいない。全てに勝ったも同然だ。

 

「でも午後からも訓練よ」

「ちくしょう!」

 

 特訓という最も強大な敵が立ち塞がる。倒しても更に強くなって蘇る恐ろしい敵だ。なぜこんなのと戦わなきゃいけないのか。

 ぶっちゃけ逃げたい。

 しかし満潮に首根っこを掴まれているので逃走不能だ。そんなにわたしが逃げると思っているのか。

 

 尚この訓練が始まってから、逃亡を試みた回数は既に二桁に到達している。勿論全て失敗済である。

 こいつ本当に仇討ちする気があんのか? 

 全員が抱く至極当然の疑問であった。

 

「あ゛ー、で、今日もボッコボコにされんのかぴょん」

「ちっっっがぅよ──!」

「ギャア!」

 

 突然耳元で超がつく程の大声。

 聴力に優れている卯月にとっては、紛れもない致命傷である。耳から血を噴き出して白目を剥き死にかけた。

 ギリギリでこの世に帰ってくる。卯月はこんな大声を出した那珂にキレた。

 

「いきなり大声だすなぴょん、死んじゃうぴょん!?」

「ごめんごめん、だって那珂ちゃんアイドルだから!」

「理由になってねぇぴょん」

 

 アイドルといえば歌。歌といえば肺活量。つまりそういうことだった。卯月は微塵も理解できなかったししたくなかった。

 

「……他の連中はどうしたの?」

「球磨ちゃんは、飛鷹さんと一緒に近海哨戒。海中を調べるとか言ってたよ」

「あの二人になったのかぴょん」

 

 卯月が聞いたという水中からの声。それをきちんと調べるために対潜能力を持ってる二人が選ばれたのだ。

 

 実のところ、対潜能力が一番高いのは那珂だ。

 那珂が出撃するのが一番良いのだが、彼女は卯月を鍛える仕事が入っていたので、そちらまでムリ。

 なので、次点で能力の高い球磨に仕事が回った。加えて空からの目も加える為に飛鷹も参加している。

 

「それでもなんでポーラとか熊野がいないのよ」

「今日のはね、タイマンでやった方が良い内容だからなの!」

「……どんなんだぴょん?」

「久々の奴だよー、これです!」

 

 じゃじゃーん、と言いながら取り出したのは一振りのナイフ。それと小さな小瓶だ。

 取り扱い注意を示す警告色のラベルが貼ってある。

 これは知っている、確かに久々だ。

 

「修復誘発材、かぴょん」

「そう! 二人が藤鎮守府に行ってる間に、再発注ができてねー、届いたってこと」

「また使えるのは、心強いぴょん」

 

 生憎というか、もうそういう艦なので諦めるしかないのだが、卯月は弱い。滅茶苦茶弱い。陣形によってはイ級の撃破に手間取る程に弱い。

 

 これで相手が姫クラスになると悲惨だ。

 よっぽど良い所に当たらなければダメージにならず、弱点に当てても、掠り傷ぐらいの損耗しか与えられない。

 そんな有様。攻撃しても有効打を与えられないから牽制にならない。無視されて終わりだ。

 

 しかし、修復誘発材があればそれが変わる。

 この誘発材では、絶対に止めを刺せない。ただ数秒だけ装甲を解かしたりできるだけ。

 

 それだけだが、相手に大きなプレッシャーをかけることができる。

 下手をしたら、その数秒が致命傷になりかねないのだ。警戒を余儀なくされる。それだけで十分な価値が生まれる。

 

 駆逐艦の装甲で、ナイフを突き立てられる至近距離まで迫らないといけない。

 危険なリスクを払わなければならないが、そうでもしないと、牽制さえできないのだから仕方がない。

 

「……これを使うのは分かったけど、なんでタイマン?」

「えっとね、卯月ちゃんには、この修復誘発材を徹底的使いこなせるようになってもらうの。その使い方を教えます! 皆と戦って実戦で使えるようにするのはその後です!」

「訓練ってか、授業に近いわけね」

「そーゆーことだよ!」

 

 まず使い方を教える。その段階からの話なのだ。複数人数で関わる価値が余りないから、タイマンでの特訓なのだ。

 ここで満潮が気づく。

 じゃあわたしも要らないじゃん。よし帰って自主練しよう。発作の面倒? 那珂に任せればいいじゃない。

 

「じゃあわたし帰るわね」

「へ? 満潮ちゃんも参加するんだよ?」

「わたしは修復誘発材使わないわよ、参加してなにをどうすんのよ」

「何を言ってるの? 満潮ちゃん帰ったら卯月ちゃんとの連携誰がやるの?」

 

 場が静まり返った。

 卯月と満潮は眼を合せる。

 連携って、戦闘的な連携か。それを誰とやるって、こいつとやる? 

 二人は全く同時に叫んだ。

 

「「何言ってんの」ぴょん!?」

「あれ? 言ってないっけ?」

「聞いてないぴょん、連携って単語自体初耳ぴょん!」

「そっか、じゃあ今話しとくね。卯月ちゃんが修復誘発材で戦っても、攻撃する誰かがいなかったら効果は激減。だから、ちゃーんとそれを活かそうって訳!」

「それがどうして私になるの!」

「そーだぴょん、満潮じゃうーちゃんの足を引っ張るだけだぴょん!」

「アンタでしょーが!」

 

 こいつと一緒に生活しているだけでも死にそうなのに、今度は戦闘もタッグを組んでやれだって。中佐は何を考えている。ストレスで本当に死んでしまうぞ。

 本当にタッグは嫌だ。

 なので卯月と満潮は全力で抗議する。しかしその意見が聞きいられる筈もない。

 

「だって二人とも駆逐艦じゃん。武装の射程距離、航行速度、基本となる戦術も一致しているんだから、満潮ちゃんと組むのが一番簡単だよ。だいいちそれができなかったら、那珂ちゃん達と組んでも上手くいかないよ?」

 

 ド正論で言い返されて、卯月と満潮は黙り込んだ。

 

 どうしてこんなことになってしまったのか。そもそも卯月がここに来る原因になった『敵』が全部悪い。このストレスも全部そいつにぶつけてやろう。

 そう思わなければ、とてもじゃないがやっていられなかった。

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