前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第106話 調査

 深夜の海の空を輸送艇が飛行する。

 ライトなんてつけたら狙われる。光源一切なしでのフライト。普通なら自殺行為もいいところだが、秋津洲はそれを可能としていた。

 

 飛行機の飛ばし方なんて知らないが、とんでもない無茶苦茶をしてるのは分かった。

 ここまで操縦技術が突出していれば、艦娘としての能力なんて問題にならない。

 

『今日はお客さんがいっぱい! 大艇ちゃんも嬉しそうかも! わたし特製の機内食もあるから堪能するかも、残したら大艇ちゃんから蹴り落とすかもー!』

 

 これさえなければ。

 

 格納庫一杯に響き渡るハイテンションボイス。

 二式大艇に機内食なんてあっただろうか? 

 そもそもこれはコンバットタロンではなかろうか? 

 

 時間は深夜。そして大好きな二式大艇。俗に言う深夜テンションに秋津洲は突入している。

 ただでさえ酷かった大艇への狂気は留まることを知らず、むしろ加速していた。

 

『深夜のフライトはヒヤヒヤするけど、この二式大艇ちゃんと秋津洲がいるからご安心ください! なんなら零戦も目を剥くアクロバティック飛行をお披露目するかも、いやします! まずバク転からゴー!』

「全員どこかに捕まって!」

「ぎゃーっ!?」

 

 二式大艇で変態マニューバーをする秋津洲。止める暇もない。

 というかこれは輸送艇だ、輸送艇で戦闘機ばりのアクションをするんじゃねぇ。

 そんなこんなで、目的地近くに来た頃には、全員疲労困憊になっていた。

 

『秋津洲の安全安心のフライト、楽しめたかも?』

 

 機内から怒涛のクレームが噴出。

 

『そんなに感激してるなんて……二式大艇冥利につきるかも!』

 

 駄目だコイツ会話が成り立たない。秋津洲の狂気を知ってる飛鷹さんは死んだ目で全て諦めきっていた。

 

「よ、夜明けだぴょん……」

「こんなんで戦えるの私達……疲れた」

「うーちゃん頭ぶつけたぴょん、痛いぴょん!」

 

 バク転の時掴まるのが間に合わず、輸送艇の中を転がったせいだ。こんなんでダメージとか勘弁して欲しい。

 

 そんな状況だが、一応作戦通りには進んでいた。

 戦艦水鬼より更に奥の海域だ、距離は結構遠い。その上夜間突入は危険度が高い。

 第一夜間では見通しが効かず、海域調査は難しくなる。昼間の方が遥かに良い。

 そのため前日の夕方から、早めの出撃となった。

 

 お陰で予定通り、夜明けと同時に作戦海域付近に到着。日没まで長い時間調査ができる。

 

「じゃあ行くわよ、総員降下!」

『星になってくるかもー!』

「それを言うなら鳥だぴょん! お星さまじゃ死んでるぴょん!」

 

 ツッコミへの返事はなかった。

 星ではなく鳥になって落っこちていく卯月たち。

 これで卯月も、通算4回目のパラシュート降下。最初は散々だったが流石に慣れた。

 適切な高度になった後に装置を起動。ちゃんと整備してたので故障もない。

 

 でもやっぱり緊張はする。艦娘を空から突っ込ませることが非常識ってのもある。

 水面にちゃんと着地できたことに、卯月は胸を撫で下ろして安堵する。

 

「ぷぁー、無事降りれたぴょん!」

「油断しないで。降下直後に潜水艦にやられた子も昔いたんだなら」

「もちろん、この耳を澄ませているぴょん!」

 

 耳が良い、という卯月の特性は対潜戦闘でもっとも役に立つ。ソナーがなくても、装備している時と同程度に水中の音を聞き取ることができるからだ。

 但し向こうから音を発してくれなければ分からない。その穴を埋めるためにアクティブソナーも装備してきている。

 今日の卯月の担当は、潜水艦の奇襲を防ぐことだ。

 

 全員が降下し終えると、空高くにいた輸送艇が去っていく。回収しにくるのは日没直前。海路で帰ったら基地の位置を捕捉されるリスクがあるから、それまでは泣いても撤退は許されない。

 

「じゃあ早速海域調査を始めるわ。と言ってもやることはいつも通りの威力偵察だけどね」

 

 羅針盤の向いた先、向かなかった先に片っ端から出撃して、そこへ至るための条件を調査。同時に『特効』が働いている艦を特定し、中枢となっている姫級の場所への、最短ルートを特定することだ。

 

 その為に必要な、色々な艦の破片を内包した式神も持ってきてある。前科戦線の任務には必要不可欠だ。

 

 一回で全部できれば理想形だが、今回は今まで調べた海域の中でも特に未知の要素が多い。場合によっては複数回の出撃も考えられる。

 

 そういう大義名分は用意されている。

 

 この複数回の任務の間に秋月を発見、捕縛することが最大の目的だ。

 

「こちらから極力仕掛けられるようにしたいけど、秋月は艦娘だから、羅針盤の予測から外れた動きをするかもしれない。それに向こうはうーちゃんの命を狙ってる、どこかで必ず、最大戦力で仕掛けてくる筈よ」

 

 羅針盤で検知できるのは深海棲艦だけ。悪意を持った艦娘が接近してきても迂回ルートを示したりはしてくれない。いつ向こうから奇襲されてもおかしくない。

 

「報告で聞いただけだけど、秋月の戦闘力は姫級以上よ。本格的に艦隊を引き連れて襲ってきたら勝算は薄い。出撃前にも説明があったけど、今日はあくまで地形や海流、羅針盤調査がメイン。もし戦闘になったら時間稼ぎを徹底して、秋月の情報を集めてちょうだい」

 

 秋月と相対したら発狂しそうな怒りが湧き上がるだろう。けどそれで暴走するのはゴメンだ。カッコ悪い姿を晒すのはもう嫌だ。

 殺す為の最善をしよう。

 卯月はそう、自分へと言い聞かせた。

 

 飛鷹が話し終わると同時に、一行は羅針盤を頼りに海域の奥へ進み出す。

 

「偵察機は私が飛ばしておきますわ、飛鷹さんは特効を調べるのに集中してて良くてよ」

「いや、わたしも索敵はしておく。秋月の索敵範囲は大型電探並みらしいわ。そうだったんでしょ?」

「そうだぴょん、戦艦と同じ索敵能力と射程距離がある相手だぴょん」

 

 夜間であれだけ見渡せるということは、昼間なら更に見渡せる。こうしている間にも、もう電探に引っかかってるかもしれない。

 飛鷹と軽空母の熊野。空母二隻が常に索敵していても尚先手を取られる危険性は高い。だから偵察の出し惜しみはしない。使える『目』は全て使う。

 

 二人がかりの偵察機が周囲を見渡す中、卯月たちも周辺の状況に気を配りながら、奥へ奥へと進む。

 

「敵影はないわ、うーちゃん水中はどう?」

「なにも。うーちゃんの耳にもソナーにも反応なしだぴょん」

「よし、次に行くわ」 

 

 今回の参加メンバーは多め。

 卯月に満潮、熊野に飛鷹、那珂にポーラ。球磨は留守番。適正人数最大の六隻編成だ。

 

 警戒陣を維持しながら早めの速度で航行を続ける。のんびりゆっくりなんてしてられない。秋月に遭遇したら調査は即終了で戦闘開始。そうなるまでになるべく情報を集めたい。

 

 またできればだが休憩できそうな陸地も見つけたい。そこをベースキャンプにできれば調査できる期間を伸ばすことができる。

 あんまり何回も偵察してたら余計に警戒される。少ない回数で多く調べられるのが理想。今回は数日分の食糧を持ってきてないから日帰りしかないけど。

 

 そこを探す目的も兼ねて、卯月たちはより深い場所へと潜っていった。

 

 

 *

 

 

 度々立ち止まり偵察機がうろついてないか確認。

 卯月はソナーを駆使して水中を調べる。

 他のメンバーも水上偵察機を飛ばしたり、潜望鏡がないか、敵影がないか、見逃さないように注視。

 

 安全が確認できたら、再び羅針盤の方へと向かう。その度に、どの艦種、誰の因子が反応していたか確認。勿論それだけじゃなく地形や海流も調べる。

 そうやって、後続の部隊が攻略しやすくなるようにする。これが前科戦線本来の仕事だ。

 

 時には羅針盤の挙動を無視するので、阿鼻地獄のような場所へ放り込まれることもある。

 今回もそうなるだろう。前もそうだったし。卯月だけではなく全員が身構えて突入した。

 

 だが、行き着いた先に敵はいなかった。

 

「またかぴょん」

「またぁ?」

「これでぇえー、確か〜4回目でしたっけー?」

 

 ワインを煽りながら呟くポーラ。

 そうこれがもう何回も続いていた。羅針盤の挙動を無視しても、その先になんにもない。

 行ってはならない場所を避ける為なのに、そっちには何一つない。

 

 戦闘狂って訳じゃないけど肩透かしを食う。

 こっちは命を賭けるぐらいの覚悟をしてんのにコレだなんて。満潮はポーラも微妙な気持ちになっていた。

 

「奇妙を通り越して、不気味ですわね」

「誰も那珂ちゃんを見てくれないなんて、まさかもう死んじゃってるとか?」

「深海の蛆虫どもが何人死のうが知らんぴょん」

「はいはいそうね」

 

 敵が少ないのは良いことだ。

 しかしここは敵の中心。そこに誰もいないなんてあり得ない。熊野の言う通り不気味な気配がする。

 

 誰もいない何もない。所せましと深海棲艦がひしめきあっている筈なのに誰もいない。稀に強力な艦隊と遭遇するだけ。

 敵の領域なのに敵がいない。

 事前の情報通りだが、いざ目の当たりにすると困惑する。

 

「でも本当に、敵はどこに行ったのかしら」

「最初からいない──はないか。逃げてるか隠れているか、はたまたやっぱり死んじゃっているとか?」

「死んでるって、誰が殺すのよ」

 

 海域解放が成されていない時は誰も立ち入れなかった。解放されてもこの状態なので、どの艦隊もまともな戦闘はしていない。

 解放前に、艦娘が立ち入ることは不可能だ。

 例外はD-ABYSS(ディー・アビス)の秋月や最上(仮)だが、彼女たちにイロハ級を虐殺する理由はない。戦力低下を招くだけだ。

 

「もしかして、アレかっぴょん」

「何か分かったんですの?」

「顔無しを作る材料集めに殺しまくっていたとか」

 

 戦艦水鬼との戦いで現れた、顔の無い深海棲艦だ。

 その実態は深海棲艦に艦娘が混ぜ込まれているという悍ましい兵器。こいつらを作る為の材料集めに、イロハ級を殺し回っていた。

 そして狩り尽してしまったから、個体数が極端に少ない。卯月はそう予想する。

 

「バカ言ってんじゃないわよ。そもそもあの顔無しはD-ABYSS(ディー・アビス)以上に何なのか分かってないのよ?」

「知ってるぴょーん、予想として言ってみただけだっぴょーん。なーに真に受けてんだぴょんおバカかぴょん」

「何の根拠もない予想で皆を混乱させてるのは何処のアホかしら」

「お゛お゛ん゛?」

 

 頬をつねり合う愚者二名を放置して飛鷹たちは来た道を戻る。

 

 敵とは中々遭遇できないが、それでも海域の調査そのものは進められている。はなから戦闘目的で来てる訳じゃない。

 ただこうなると、敵の罠の可能性を警戒しなければならない。

 呑気に進んでいたら、何時の間にやら機雷原に誘い込まれていたとか、空爆から逃げられないキルポイントまで誘導されてた、なんてこともあり得る。

 

 それを未然に防ぐ為に、しきりに偵察機を飛ばしたりしているのだが、未だに敵影の一つも捉えることができない。

 いつ敵襲があっても良いよう身構えているが、緊張を緩めることはできない。早朝からこんなことをやっている、集中力は限界に近づいた頃、偵察機が小さい諸島を見つけた。内一つは木々に覆われうっそうとしている。

 丁度良い、ここにしよう。飛鷹はそう判断した。

 

「ここらで休憩にしましょう」

「休憩? どこでだっぴょん」

「ここから先のところに諸島がある、そこの一つに隠れるわ」

 

 油断は禁物だ。そういう所に限って島と島の間に機雷とかが敷設されてたりする。偵察機と卯月のソナーに肉眼。全部を使って警戒しながら、目的の孤島へ接近していく。電探への反応は島々の物しかない。

 

 目視できる範囲まで接近したら、その島々が()()()()か確認する。

 昔の話だが、今回のように適当な島で休憩しようと思い上陸したら、そこが木々等で偽装された陸上型基地だったなんて恐ろしい話がある。

 そうならない為にも確認は必須。幸いこの諸島のはどれも陸上型ではなかった。

 

 だが、それとは別の問題が発生した。

 

「……これは」

「どーしたぴょん、飛鷹さん?」

「戦闘の痕跡がある、無数の弾痕が島中に刻まれているみたい」

「敵がいるってことかぴょん! よっしゃ皆殺しにしてやる!」

「いえそれはないわ、結構前のみたいだし。ちょっと調べてみても良いかもしれないわね」

 

 この海域に入ってやっと見つけた戦闘の後。多少古くても関係ない。どっちにしても休憩はしたいので、一同はその島々へ近付く。

 目視できる範囲に入ると、飛鷹の言っていることが分かった。

 確かに、無数の砲弾や爆撃の後が残っている。しかしその上には新しい砂や草が乗っかっていて、パッと見ではもう痕跡とは分からない。確かに昔できたものだった。

 

「安全なのは確かね、上陸して休みましょう」

 

 休憩できるのは良いが、これはいったいなんなんだろうか。痕跡も色々だし大きさもまばら。ここで一体何が起きたのか。

 休むついでに、それも調べなければならなかった。

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