前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第107話 禁足地

 秋月が潜んでいるとされる海域調査へ赴いた卯月たち。

 しかしそこは、探せど探せど敵の影も見当たらない不気味な場所だった。

 そんな中、休憩場所に使おうとした孤島にやっと敵の痕跡を見つける。休憩兼ねそれの調査のため、卯月たちは島へと上陸する。

 

 休むといっても、海岸でのんきにピクニックなんてやらない。

 見当たらなくても、空から見つかる危険性がある。島の奥にある鬱蒼とした森へと進んで、その中に身を隠すことになった。

 

 ずっと動きっぱなしで疲れた。やっと休める。

 地面が湿気っていることなんて気にせず、卯月は地面へ腰を下ろす。

 

「ぷいー、疲れたぴょん」

「お昼持ってきてあるから、全員食べてていいわよ」

「ぴょーい!」

 

 冷めても美味しいように作られた飛鷹さんのお弁当だ。実に素晴らしい。水筒に入れられたお茶と共に塩付の強いサンドイッチを口いっぱいに頬張る。

 疲れた身体に濃いめの味付けが良く染みる。量は少ないが高カロリーに作られているから、お腹も満足だ。

 

 しかしそうゆっくりもしていられない。調査に使える時間は有限。多少談笑していたが、他のメンバーはさっさとそれを食べきる。皆の様子を見て卯月もサンドイッチを口に放り込み、お茶で流し込んだ。

 

「むむ? 飛鷹さんは?」

「さっきの砲撃跡を見に行ってるわ。交代で警戒するからアンタ寝てなさい」

「眠くないぴょん」

「寝かせて上げるわ、さあその首を出しなさい」

「スヤァ!」

 

 満潮に任せてたら永遠にグットナイトである。しょうがないから寝ころんで目を閉じる。疲労と食後のお蔭で眠気はすぐに訪れ卯月は眠りに落ちた。

 球磨や那珂も寝ている。

 その中で満潮は周囲の警戒を行う。

 

 ジャングルの中は薄暗く日が刺し込まない。背が高い植物が無数に生え、様々な生き物の声が常に鳴る。隠れる側としては楽だが、周囲を探るのには最悪の環境だ。周囲に地平線しかない海で警戒するのとどっちがマシと聞かれたら回答に困るが。

 

 暫くそうしていると、海岸の方から足音がしてきた。一応警戒するが、やって来たのはやはり飛鷹だった。

 攻撃跡を見てきたのだろう、サンドイッチを頬張って戻ってくる飛鷹に満潮は問いかける。

 

「どうだった、やっぱり攻撃跡よね」

「ええ、遠くで見た通り最近できたものじゃなかったけど、間違いなく砲撃の跡よ」

「この島で戦闘があったってことね」

「茂みに隠れているけど、そこら中に跡がある。というか満潮ちゃんたちが座ってるそこもそうよ」

 

 言われて見ると確かにそうだ。土が抉られてクレーターの形になっている。周囲より植物の量が少なめなのは、最近また生えたからだ。

 見渡すとそれらしき跡が幾つもある。海岸だけじゃなくこの諸島全体で戦闘が起きていたということだ。

 

「ここで休憩とって良かったのかしら」

「戦闘が起きたのは長くて半年前。それ以降の新しい跡はない。用事があるならもっと人の痕跡がある筈。それがないってことは、敵はここにはもう用がないってことよ」

「それもそうね」

 

 しかし敵は、何の戦闘をここでしていたのだろう。陸上型の基地って様子でもない。追いこまれた深海棲艦──または艦娘──が此処へ逃げ込んで、更に徹底的な追撃を仕掛けたのだろうか。

 

「ただ、ちょっとだけ」

「なに?」

「砲撃の跡だけど、あれは駆逐クラスだけじゃない。重巡級のや戦艦級のヤツも混じっているわね」

 

 これが何を意味するか。

 この砲撃跡を作ったのがD-ABYSS(ディー・アビス)の艦娘だとした場合だ。駆逐クラスのは秋月、重巡は最上(仮)だろう。

 それだけではなく、戦艦級の誰かもいるということになる。満潮はそれに気づきうんざりとした様子で呟いた。

 

「駆逐艦でさえあの強化度合なのに、戦艦がD-ABYSS(ディー・アビス)の恩恵受けたらどんな化け物になんのよ……」

「砲撃で発生したソニックブームで周囲の艦隊が全滅するとか」

「止めて本当に、止めて」

 

 ありそうなのが困る。どう転んでも異次元の強さには違いない。こんな頭おかしい化け物との交戦が確約されてしまったことに、満潮はげんなりした。これ以上考えるともっと疲れそうだ。

 

「あー、わたしもそろそろ寝ていいわよね」

「良いわよ、代わりに私が見張っておくわ」

「頼むわ」

 

 こっちだって眠いし頭も痛い。土や葉っぱで汚れた地面だろうと気にならない。満潮も目を閉じて休みだす。

 

 全員が一先ず寝静まったのを確認して、飛鷹は頭を抱えた。

 その原因は島に残る砲撃跡──ではない。

 もっと、もっともっと恐ろしく、異様なモノを飛鷹は見つけてしまっていた。

 

 周囲の島にも痕跡がないか探しておこう。そう思い敵に発見されないよう偵察機を飛ばした。

 その判断を後悔する程に、恐るべき何かがあった。

 どうすれば良いんだ。判断に迷い飛鷹は小声でぼやく。

 

「言わない方が良いわよね……」

「なにが?」

「ッ!!」

 

 突然声をかけられて驚く。

 振り返ると卯月が起きていた。眠たそうにしているが、今の一言はバッチリ聞かれている。

 寝てても聞こえていたのだ。卯月の地獄耳は相当なものだった。

 

「なんでもないわよ、気にしなくて良いわ」

「なんでもないなら話しても大丈夫っぴょん。嘘は嫌いだけど隠し事も好きじゃないぴょん」

「困ったわね……」

 

 ぶっちゃけ見せても大きな問題にはならない。ただ卯月のメンタルがまたゴリッと削れる危険がある。一発で発作のトリガーを引くかもしれない。

 

「飛鷹さーん、どーしたっぴょーん」

「しょうがないか……悲鳴を上げたりしないでね、みんな起きちゃうから」

「小声だぴょん安心するぴょん」

 

 しつこく食い下がってきてもそれはそれで厄介だ。飛鷹はため息をつくと、懐から式神の一つを取り出してみせた。

 

「これは?」

「これは艦載機の視界と連動してるの、ある程度近くないと駄目だけどね。これをおでこにつけると、うーちゃんでも光景が見られるわ」

「へーってなにを見てんだぴょん」

 

 艦載機は一定の距離を維持しながら()()を監視し続けている。諸島の一つを今見ていると説明してから、飛鷹は式神を卯月のおでこに貼り付けた。

 

「目を閉じれば見える。けど、驚くのは仕方ないけど……悲鳴は堪えてね」

「ふぅん、このうーちゃんに今更怖いものなんて存在しないぴょん。ドッキリさせようたってそうはいかないぴょん」

「……本当に見るのね」

 

 しつこいな、見ると言ったら見るんだよ。

 卯月はちょっと機嫌を悪くした。

 自分から見るって言ってるんだから、何があっても後から文句なんて言わない。

 しかしそこまで言うとは。本当に何があったんだ? 

 

 卯月は興味本位で見たことを心の底から後悔した。

 

「……は?」

 

 悲鳴はなかった。混乱もしない。驚かない。頬を一滴の汗が流れ落ちる。

 

 これはなんだ。

 

 分からない。何故こんなものが出来上がっている。理解できなくなり卯月の思考は停止した。

 

 飛鷹の偵察機が映す別の孤島にあったものは、大きな『池』だった。

 

 だが『池』を満たすものは水ではなかった。

 

 それは無数の『肉片』だった。

 

 卯月にはそれが『死体』とは思えなかった。肉屋に無造作に置かれた肉のパークにしか見えない。

 砕かれた艤装、折られた四肢、砕かれて破裂した頭部、磨り潰された砲弾──そういった状態になった深海棲艦の残骸が、池のように積み上がっていたのだ。

 

 これ以上の直視に耐えられない。卯月はおでこの式神を剥がす。理解できない光景を前に崩れ落ちる。

 

「これ、は、なんだぴょん」

「……まず、遺体が消えてないのがおかしいのよ。死んだ深海棲艦は消えるのに」

「あれで生きてる、訳がないっぴょんね」

 

 あんなんで生きてたら別の意味で理解できない。そして自己再生する様子もない。肉片たちは間違いなく死んでいた。なら何故消えないんだ。分からない。

 

「考えない方が良いわ、だから言ったでしょ。周囲の警戒はわたしがやっておくから安心して寝ててちょうだい」

「ごめんなさいだぴょん……うええ」

 

 完全にR-18Gなスプラッター画像を見てしまったせいで顔色は真っ青だ。こんな状態で寝れる自信がない。そう思いつつも卯月は横になった。寝ころんでいるだけでもある程度は体力回復になる。見なきゃ良かったと本気で後悔した。

 

「全くこの子は……」

 

 げっそりしている卯月を憐れみながらも、飛鷹は思う。今度は口には出さない。また卯月が聞くかもしれないから。

 

 あの死骸、引き千切られたり砕かれたり削がれたりしていたが、火傷のような傷跡はなかった。

 砲撃も雷撃も爆撃も使わずに殺されたのだ。

 

 代わりに刻まれていたのは──そうだ、あれは間違いなく()()()だ。

 

 ならあの死骸は喰い残しなのか。

 

 艦娘や深海棲艦の主武装が使用されていない。

 

 そして無数の捕食痕。

 

 これらに符合する深海棲艦を飛鷹は一隻だけ知っていた。

 

 

 *

 

 

 それぞれ仮眠をとった所で部隊は再び調査へ赴く。時間にして数分ぐらいだがそれでも休まったしお腹も膨れた。

 立ち寄った諸島についても調査は完了。あのクレーターはやはり多様な艦種による攻撃だった。

 このことから、敵は秋月や最上だけでない可能性が浮上。より警戒度を上げることになる。

 

 この孤島をベースキャンプに使えないか。

 そういう意見が上がったものの、流石に戦闘が起きた場所を拠点にしたくない、という飛鷹の意見によりお流れになった。

 

 それが表向きの理由だ。

 本当の理由はあの死骸の山にあるのだろう。卯月は勘付いていた。しかし追求はしない。思い出すだけで吐き気のする場所の近くに二度も来たくない。

 

 他に使えるベースキャンプがないか。それも含めて再び未解明の海域を捜索する。

 相変わらず敵は出てこない。偵察機もレーダーも総動員している。見落としは考えづらいし隠れてる可能性も低めだ。

 

「ホントーに敵さんいないねー、那珂ちゃん結構ショック」

「どうなってんのよコレ」

「わたしに言われても困るんだけどね」

 

 これでは調査にならない。

 というか秋月をギタギタにできない。

 卯月としてはそこが不満だった。せっかく奴を死に目に合わせられると思ったのに。

 

「油断は禁物ですよ〜、こーゆー時こそ、敵さんは仕掛けてくロロロロロ……」

「こっちに来んじゃねぇっぴょん!」

「最低、本当に最低」

 

 たまにまともなことを言ったかと思ったらこれだよ。バカは死ななきゃ治らないという。本当にコイツ一回死んでくれないか。卯月は割とマジで考えた。

 

「みんな注意して」

「敵かぴょん? 殺すぴょん!」

「いえ、渦潮が発生してるから。足を取られないようにね」

「なんだ……ガッカリだぴょん」

 

 しかし、この瞬間に敵が攻撃──は、流石に考えづらい。今の所周囲に敵はいない。それは明らかだ、間違いない。

 潜水艦がエンジンを切って隠れていても、こっちにはアクティブソナーかある。それも無反応ということは、そういうことだ。

 

 だが戦場に絶対はない。卯月も一応警戒しながら渦潮近くを行く。近くを通るだけでも引き込まれそうになる。卯月は使用燃料を増やして速度を上げて力押しで進む。それでも波は荒れて不安定だ。

 

「おっとと、ぴょん!」

「アンタ! わざとぶつかってくんじゃないわよバカ!」

「オイオイ、満潮の下手くそ操艦を人のせいにすんなぴょ──」

 

 じゃれている場合じゃない。本当にこの子達は仲が悪いんだから。呆れながらも飛鷹は二人を止めようとする。

 

 

 瞬間、事態が動きだした。

 

 偵察機の視界が暗転し、そして見えなくなった。

 

「やられたっ!?」

 

 何が起きたのは気づいたのは飛鷹だけだった。次に気づいたのは熊野だ。

 

「どうしたぴょん!?」

「ヤバイですわ、()()()()()()()()()()()!」

「は!? 何やってんの間抜け!」

「違います、周囲にはいなかった、何かに襲われた、どうなっているんですの、何も見えなかった!?」

 

 飛鷹と熊野の偵察機は、左右上下全てを警戒していた。何かが接近すれば必ず気づける。しかし現実はこうだった。一切気づかれず接近され、視界に収めることもできずに、一方的にやられてしまったのだ。

 

「どうやってそんな真似を」

「今はもうどうでも良い! とにかく警戒して、目をやられた、攻撃が来るわ!」

「どこぴょん、何処から来る、秋月ぃ!」

 

 偵察機を落とされた。すぐさま再発艦を行うが、飛び切るまでは見える範囲が大幅に狭まる。敵はこの隙を見逃さない。すぐにでも攻撃が来るだろう。厳戒態勢に移行、全員が主砲を構えて神経を尖らせる。

 

「砲撃! 秋月が来──ッ!」

 

 地獄耳が砲撃音を捉える。超高速の砲弾が卯月の大声を吹き飛ばす。秋月との二戦目は、再び先手を許す形で始まった。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 秋月との交戦が始まった頃。

 卯月たちが休憩していた孤島。その中にあった残骸が積みあがった死体の池。

 

 そこへそれは()()()()()

 

 着陸の衝撃で残骸が吹き飛ばされる。

 

 あまりの質量に地形が粉砕される。

 

 地盤が引っ繰り返り島全体が地震に襲われる。

 

 舞い上がる砂埃の中に()()はいた。

 

 

「ギャォォォオオオンッ!!!」

 

 

 金色を纏う三本首のような『何か』が、天に向かって咆哮した。




金色と言えばflagship級のオーラですが、果たして。
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