前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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タイトルの2文字制限撤廃しようかな……もう作者の語彙力が限界でち。


第114話 悔恨

 秋月との戦闘は、結果的に戦略的勝利に終わった。

 空中砲撃というとんでもない隠し玉を出させることもできた。他にも察知できない艦載機や、異常な挙動をする瑞雲を確認した。それ以外にも地形把握、強化された顔無しelite。

 更に秋月に大きなダメージを与えることができた。それだけでも十分な戦果と言えよう。

 

 ただし、仕留めきれなかった当人たちの心境を除けばだが。

 

「んがー! 悔しいぴょん!」

 

 秋津洲の操縦する輸送艇の中、腕を治療を受けながら卯月は不満全開で叫ぶ。あれだけ追い詰めておいて、結局叩き切れなかったことが悔しくて仕方がない。

 

「仕方ないでしょ、あの状況じゃ秋月を倒していても私たちが死んでいたわ」

 

 満潮が助力してくれれば気絶まで持っていける。

 そう思った直後、卯月たちも察知できない艦載機の奇襲を受け、顔無しeliteの追撃もあり、攻撃を断念せざるを得なかった。

 

「んなこた分かってんだぴょん。こんな所で命を張るつもりはさらさらないぴょん」

 

 それに対する文句はない。秋月を殺すために一切の手段は選ばない。卯月の持つ『殺意』は命を捨てることに躊躇しない。

 しかし、今捨てるのは合理的ではない。

 秋月は過程に過ぎない。最終目的はD-ABYSS(ディー・アビス)を作った『敵』の打倒にある。此処で死んだら意味がない。

 不満があるのは、もっと別の所だ。

 

「でもこれで、また秋月の犠牲者が出続けると思うと、頭がおかしくなりそうだぴょん」

「……それは、そうだけど」

「誰も殺されなければ良いんだけど、そう上手い話があるとは思えないぴょん」

 

 あの言動から察するに秋月はかなりの数の艦娘を沈めているだろう。今回卯月たちが倒し切れなかったせいで、更に犠牲者が増える。それを止められなかったことが悔しくて仕方がない。

 満潮も同じ気持ちだった。あそこまでやって倒せないなんて。自分たちに存在価値はあるのか分からなくなってくる。

 

「……意味ないわね、私たち」

「いや意味はあるぴょん」

「は?」

「悔しいけど、最善は尽しているぴょん。出し切るものは出し切ったんだから、恥じる要素は何処にもないぴょん」

 

 教わったことは全部出し切った。連携も不意打ちもやった。それでもダメだったのだから、今回は仕方がなかったのだ。

 故に、他の誰もこの撤退を非難することはできない。()()()()も含めて。この撤退を無意味として捉えることは何人たりとも許されない。虚勢を張ってでもそこは肯定しなければならなかった。

 

「うーちゃんたちの頑張りを、うーちゃんたちが否定してどうすんだぴょん。私たちの『誇り』はどうなるんだぴょん」

「でも敗北じゃない。努力したって結果が出なきゃ意味がないのよ」

「そりゃ結果は全てに優先されるけど、自己否定するトコまで行っちゃダメだぴょん!」

「任務を達成できない艦娘には価値なんてないわ」

 

 何なんだコイツは。卯月のこめかみがピクピク震えだす。わたしはそんなに気に障るようなことを言ったのか。しぶとく自分を無価値と言い張るのは何でなんだ。わざわざ誇りをけなしていく満潮の思考が全くもって理解できず怒りが募る。

 

「いい加減にするぴょん。無価値だのなんだの。うーちゃんプッツンしてやろうか?」

「……勝手にしなさい」

「よし、死ねッて(い゛だ)い!」

 

 殴ってやろうと腕を振り上げた。よりにもよって秋月に破壊された方の腕だった。本気で攻撃された結果筋肉も骨もメチャクチャ。間接に至っては骨が砕け、その一部が皮膚を突き破り複雑骨折となっている。

 激痛に引っ繰り返る卯月。戦闘のアドレナリンが引いた今、卯月は全身の痛みをモロに受ける羽目になっている。良く考えれば最近戦闘直後はシステムの反動で気絶していた。意識のある状態で帰還するのは久々だ。

 

「何やっているんですの、傷口が開いて死にますわよ」

「だってー、満潮がー、クソみたいなこと言うんだぴょーん」

「考え方は人それぞれですわよ」

「ぬぐぐぐ……」

 

 それを言われてしまうと何も言いようがない。これ以上痛むのも嫌だ。腹の虫はあんまり収まってないが、グッと堪えることにする。良く考えたら満潮のことは割とどうでも良いんだし、一々突っかかる必要性は薄い。無駄なことは止めておこう。

 

「これ、そのまま帰投するのかぴょん」

「ええ、でも行きより時間はかかる見込みですので、寝ていた方が良いですわ」

「痛くて寝れないぴょん」

「備え付けの睡眠薬と痛み止めがあったと思いますので、それを持ってきますわ」

「法外なお金は請求しないで欲しいぴょん」

「人を何だとお思いで?」

深海金金棲姫(しんかいかねかねせいき)

「押し入り強盗がお好みで?」

「サーセンぴょん」

 

 これ以上話すと余計に痛みそうだ。満潮と阿呆な論争したって意味はない。熊野が持ってきてくれた薬を痛みに堪えて胃へ流し込むと、卯月は背中を向けて瞼を閉じた。今はまだ痛いがその内眠くなってくるだろう。

 

 

 *

 

 

 出撃の時は深夜に出て早朝到着。6時間ぐらいかかっている。帰りも同じぐらい、夕方離脱したので帰投するのは深夜頃になる。時間は7時ぐらい。まだ時間は掛かる。

 

 疲労のあまり卯月と満潮は寝たまま動かない。加えて卯月は片腕が潰れる重症、無理に起こす必要はない。起きている面子だけで簡単な夕食となった。

 

 もっとも談笑はおろかブリーフィングもできない。こうしている間にも追撃部隊が迫っているかもしれないのだ。残り僅かな偵察機を飛ばして、各々が警戒を維持している。

 

『ふっふふーん、敵さん来ないかなー、偶には二式大艇ちゃんも思いっきり飛びたいだろーし』

「怪我人いるのにそんなことしたら叩くわよ」

『分かってるかも、でも敵さんが来たら実行するかもー!』

 

 むしろ敵襲を望む狂人が一名。しかし秋津洲の言うとおり、本当に追撃部隊が来たら、アクロバティックな飛行もやむを得ない。

 来ない、と思いたいが、そうとも思えない。

 あれだけ悪辣な存在と成った秋月が、別働隊を用意してないとは思えない。挟み撃ちを狙っている可能性は高い。

 

「いつになっても撤退戦は慣れませんわね……」

「否応なしに、背中を向けるしかないんだから、慣れる方がおかしいわよ」

 

 何時の時代も、最も難しいのは撤退戦と言われる。何世紀戦略が進んでも、被害を限界まで減らして逃げることはそれ程困難なことなのだ。

 生きて帰ることについては、どんな部隊にも追従を許さない前科戦線だが、犠牲者が出るときは何時も撤退の時だった。

 

「今回は誰も死なないと、那珂ちゃん嬉しいな」

「そうね……って、那珂大丈夫?」

「だいじょばない」

 

 那珂の目は疲労で混濁して……いなかった。むしろ深海棲艦めいて真っ赤に血走り、瞳孔が限界まで開かれている。客観的に言ってアイドルの目ではない。

 

「夜のライブを寸止めされて、アドレナリンがヤバい」

「寝なさい。索敵はわたしたちでやっておくから」

「ごめんなさーい、那珂ちゃん休憩入りまーす……スピー」

 

 と言って秒で眠りに入る那珂。どんな緊張状態でも即座に眠れるのは優れた兵士だ。もっとも彼女は兵士ではなくアイドルだが。

 

「寝て良かったですわ。本当に良かった」

Giusto(その通りです)ね~」

「アンタたち……気持ちは分かるけど」

 

 那珂が大人しく寝たことに心の底から安堵する二人。言葉に出さないが飛鷹も似たような気持ちだ。この前科戦線でもっとも制御不能になる()()()()彼女だが、寝ている時は流石に暴走しない。このまま朝まで寝ててくれれば良い。

 

「うん、でも安心しないで、那珂が寝ている分索敵の目は減っちゃう、気張るわよ」

Capito(了解です)~、任せてください~」

「当然ですわ」

「よーし、偵察機は飛ばせないから目ん玉開いて頑張るぴょん!」

 

 四人はそれぞれ輸送艇の窓に張り付き外の様子を伺う。偵察機の目だけではなく目視も重要だ。撤退戦で慢心したら絶対に死ぬ、油断してはならない。見えない敵に注意を払い続けるという、異様な緊迫感が機内を覆う。

 

「……って卯月さんなんで起きてるんですか!」

「ぴょん?」

 

 緊迫感は熊野の一声で霧散。その突っ込みにいつの間にか起きていた卯月はキョトンと首を傾げる。

 

「なんでって、寝れないからだぴょん」

「寝なさいって、その片腕見えてないの。骨出てるわよ」

「それが痛すぎて寝れないんだぴょんッ!」

 

 当たり前だろ察しろよと言わんばかりの態度で憤慨する卯月。何せ骨が皮膚を突き破る複雑骨折だ。枕で穏やかに寝れるようなダメージではない。

 だから、それを抑える為に鎮痛剤と睡眠薬を処方したのだ。なのに眠たげな様子もない卯月に熊野は首を傾げた。

 

「お薬はどうしましたの」

「ぜんっぜん効いてないんだぴょん! だから眠くならないし、痛みも治まらないし! 寝たフリも飽きたぴょん……」

「そうですか……まあお薬には効く効かないもありますからね」

 

 根本的には違う生命体だが、人間に近い存在だからだろう。効果の大小こそあれど人間の薬も艦娘には効く。卯月に処方されたのは有効性が十分確認された薬品だ。それでも個人差はある。卯月には効かないレアケースだったということだ。

 

「うーん、どうしても痛みが我慢できないなら、麻酔を注射でブスっとすることもできますが」

「……ここ麻酔置いてあるのかぴょん」

「ええ、使い道は多いので」

 

 例えば入渠が間に合わず、外科手術を強行しなくてはならなくなった時。その際の痛みをマシにする為に使うこともある。もしくは今回のように、飲み薬や塗り薬では手に負えない激痛を抑える時。そして手遅れの時、安楽死を行う時用に。

 

「いや、我慢できるぴょん……注射は嫌だぴょん」

「我慢できずにショック死されても困るので、辛かったら言って下さいまし」

「心配してくれてるって思っておくぴょん……」

 

 痛み故に卯月はかなりのローテーション。秋月を仕留めきれなかったことも絡んでいるのだろう。今更どうにもならない訳だが。

 飛鷹から簡単な夕食として受け取ったブロック型の食糧をモソモソ齧りながら、卯月は死んだ目で周囲の警戒を続けた。

 

 

 *

 

 

 更に時間は進み、深夜と言うべき時間に差し掛かった頃、輸送艇の機内に秋津洲のアナウンスが鳴り響く。

 

『はーいみんなお疲れかもー、二式大抵ちゃん、無事に危険空域を抜けて安全地帯に戻れたかもー』

 

 その声に全員一斉に安堵した。慣れてはいるがずっと緊張状態を維持するのは疲れるのだ。最低限度の警戒心は残しているが、ようやく肩の力を抜くことができる。中でもこういったことに慣れていない卯月は特に疲労が酷い。

 

「ぴょぁぁぁぁ……あっ!?」

 

 気の抜けた声を出しながら床に崩れ落ちる。と同時に腕の痛み。卯月は悶絶した挙句、そのショックをトリガーに『発作』まで起きた。全身を引き千切られ侵される幻に正気を失い、頭を抱えて蹲る。

 

「卯月さん?」

「ぎっ!? あっ、が……う、う……」

「発作ですわね」

 

 熊野も一度これに対応したことがある。自傷行為を抑えるのが優先だ。腕がぐしゃぐしゃなのにそれで暴れたら余計に酷くなる。変な細菌が入る可能性もある。背中に回り込んで四肢を拘束するように、かつ優しく抱きしめる。

 

「卯月さん、大丈夫ですわ、誰も襲ってきませんから」

「……うぅ」

「落ち着いて下さい、ご安心を」

 

 幻聴があるので聞こえているか分からないが、それでも声をかけておいた方が良い筈。熊野はそう信じて耳元で語り掛ける。その甲斐かどうかも分からないが、卯月の震えは少しずつ収まっていく。このまま抱きしめていれば落ち着きそうだ。

 

「……卯月、また、発作?」

「あら満潮さん。起きてしまいましたか?」

「発作起こしてんでしょ……貸しなさいよ……私が面倒見るから……」

「満潮さーん?」

 

 満潮は熊野に割り込むようにして、卯月を背中から抱きしめていく。熊野の言葉が聞こえている様子はない。寝ぼけているのは明らかだった。僅かな卯月の呻き声に反応して、殆ど条件反射で動いていたのだ。

 卯月も卯月で、対応しているのが満潮になった途端、一気に落ち着いていく。発作が収まるのに安堵したのか、満潮は抱きしめたまま二度寝に突入。

 

 自分が面倒見た時と反応が滅茶苦茶違う。

 熊野は若干微妙な気持ちになるも、二人揃って眠る姿を微笑ましく見ていた。その方が良いなら文句を言う理由はない。

 

「これは良い傾向、なのかしらね」

「……それは満潮さんのことですの?」

「熊野、詮索はタブー、暗黙の了解を忘れちゃダメよ」

「ならば今のは失言では?」

「……ま、結構長いこと、満潮ちゃんは見ているからね」

 

 前科戦線において、何をしでかしたか探るのはタブーとされる。しかし正規艦娘の飛鷹は個々人の前科を知っている。

 満潮の前科を思うと、卯月に心を許していそうなことは、飛鷹にとって喜ばしいことだった。

 

 

 

 

「ぎゃあ変態だぴょんッ!」

「ギャッ! 何すんのこのバカ!」

「ゴッペバ!?」

 

 尚、目が覚めた時の卯月のやらかしで、微笑ましい光景は爆散した。




黄金の三本首にはエンカウントせず。運はマイナスだけど悪運に限ってはプラスということでしょうか。
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