前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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前も言ったんですが、もう作者の語彙力が限界なので、二文字制限を撤廃していこうと思います。


第116話 未作動ではなく

 秋月との戦いがあった翌日、お昼ぐらいになって卯月は漸く目を覚ました。若干寝すぎた気もするがまあいい。入渠した上でたっぷり寝たおかげで、疲れはすっかりとれた。軽くなった身体を動かして、卯月はまた布団に入った。

 

「さあ二度寝の時間だぴょん」

「許すか」

「あ痛たっ!?」

 

 布団ごと引っ繰り返されて床に叩き付けられる卯月。おでこをさすりながら満潮を睨み付ける。

 

「ぷー、何すんだぴょん」

「何時だと思ってんの、散々な戦いの翌日だからって、二度寝はないでしょうが」

「ダラダラ気だるさが残るぐらい寝るのが二度寝の醍醐味だぴょん」

「よーしそこにいなさい、今永眠させてあげ」

「おはようございます、良い朝だぴょん!」

 

 真上を向いて輝く太陽に向かって挨拶する卯月。満潮は呆れてかける言葉もない。

 いつになれば起きるのか。発作に備える必要があるので碌に部屋も出れず自主練もできなかった。食事も全部この部屋だ。やっと起きたと思ったら二度目。いい加減にしてほしい。

 

 そんな満潮の気持ちを考える筈もない。さっさと着替えた卯月はお腹が空いたと訴え食堂へ向かう。

 対して腹も減っていないが、付き合わざるをえない。多分な不満を抱えながら満潮も食堂へ向かった。

 

「おはようだっぴょん!」

「はいこんにちはうーちゃん、お昼できてるわよ」

「ひょぉ、流石は飛鷹さんだぴょん!」

 

 さぁご飯タイムだ。適当な席に座ると、飛鷹がプレートを置いてくれた。

 ただし、何故か『ガチャン』と凄い大きな音が鳴るぐらい勢いよく。なんか威圧感がある。

 卯月はそっと顔を上げる。飛鷹は笑顔だが若干こめかみがピクピクしていた。

 

「私も昨日出撃だったけどキッチリ人数分の朝食用意したわ、昼ごはんもね。流石でしょ、うーちゃんどう思う?」

「ひょっとしなくても怒っていらっしゃる?」

「うふふ」

 

 飛鷹は何も言わない。ただ微笑んでいるだけ。卯月は首元に鎌を添えられているような恐怖を覚えた。

 

「ごめんなさいだっぴょん」

「寝坊するなとまで言わないけど、朝ごはんの時間ぐらいには起きて欲しいわ。せっかく温めて用意してるんだから」

「ぴょえん」

 

 丹精込めて作ってくれたご飯が冷めるのは確かに勿体ないし、作ってくれた人に失礼だ。卯月は自らの行いを反省した。

 反省したのでもう食べても問題あるまい。卯月は『いただきます』と言うと間髪入れずに食べ始めた。

 

「こいつ反省とかしてないわよ絶対」

ふぉんなふぉとふぁいふぉん(そんなことないぴょん)

「呑みこんでから話しなさよ!」

「ダメだわコレ」

 

 苦笑いする飛鷹。

 ハテ私は何かしたのだろうか。ちゃんと反省したし何も変なことはしていない。じゃあ気のせいだな。卯月は再び昼食を胃の中へ流し込んでいく。

 散々酷使して、かつ睡眠をとったせいで全身が栄養不足だ。

 食欲が止まらない──が、食べ過ぎまい。前の悲劇を繰り返してはならないのだ。

 

 満腹になった時点でそれ以上のお代わりを止め、残った漬物をポリポリ齧りながら緑茶を啜る。

 

「うひゃー、やっぱり日本人は緑茶だぴょん」

「それは、まあ、同意するけど」

「よし砂糖を入れよう」

「何でよ!」

「あら、海外では緑茶にもお砂糖を入れるって言うけど」

「本当なのそれ、飛鷹さん騙されてんじゃないの……?」

 

 本当である。緑茶は海外の人にとっては渋いため、砂糖を入れてそれを和らげることがあるのである。

 

「保守的なお頭だぴょん、そんなんじゃ錆びてっちゃうぴょん。いやでもそのツインフレンチクルーラーは先鋭的か……?」

「そう言ってたって金剛さんにも言っといてあげる。古ぼけた屑鉄ツインフレンチクルーラーって」

「やめてください死んでしまいます」

 

 と他愛のない雑談をしている最中、卯月は一番聞かないといけないことを思い出す。そもそもこれを聞くために食堂へ来たようなものなんだから。ゴホンと咳払いして、真面目な空気にして話題を切り出す。

 

「あのね飛鷹さん。ちょっと聞きたいんだけど」

「どうしたのうーちゃん」

D-ABYSS(ディー・アビス)、あの時、作動してたか、分かるかぴょん?」

 

 少し意外な質問だったのだろうか。飛鷹は眼を丸くして固まる。そして目を伏せたあと、一言を端的に告げた。

 

「作動していたわ。間違いなくね」

「そっか、良かったぴょん!」

「逆にあの時、何か自覚はあったの? なんか掛け声的に作動条件を分かっていたような雰囲気だったけど」

「あ、うん。うーちゃんあの時、溜め込んだ怒りをドバーっと解放したんだぴょん。それで解放されると思ったから」

 

 逆に、作動して良かったと卯月は胸を撫で下ろす。あれだけドヤ顔で『解放っ!』と言っておいて、作動していなかったら色々とカッコ悪すぎる。

 これで一つ答えが出た。

 D-ABYSS(ディー・アビス)の解放条件は『怒り』だ。

 理性を打ち壊す程強い憤怒、それがトリガーになっているということ。それで間違いなさそうだ。

 

「ふふふー、これでいよいよ、このスーパーモードを使いこなせるようになるぴょん」

「でも全然こいつ強化されてなかったわよ」

「そうね、それが謎なのよ」

「もしや話を聞いていない?」

 

 無論誰も聞いていない。卯月の妄言に付きあっている程暇ではない。

 

 しかし実際謎ではある。

 飛鷹の持っていた計測器は、確かにシステムの作動を検知していた。だが誰が見てもシステムによる強化はされていない。卯月の動きは平時のままだった。作動しているのに効力を発揮していないという矛盾があった。

 

「立て続けに悪いけど、何か変わった感覚とかなかった?」

「ええ……分かんないぴょん。あれかな、いつもより音が良く聞こえた感じはあるけど、単に集中力が高まってただけかもしれないし」

「音、ね」

 

 優れた聴覚を卯月は持っているが、あの時はいつも以上に良く聞き分けることができた気がする。ただしその程度。気のせいかもしれない。調子が良かっただけかもしれない。システム解放との因果関係までは導き出せない。

 

「それ以外には、なさそうね」

「なんかゴメンだぴょん」

「全くよ、あれだけ調子に乗って『解放っ!』とか言ってたのにこのザマだもの。ふざけるのもいい加減にしてほしいわ」

「貴様、良くも一番言われたくないところを!」

「何よ、事実じゃない!」

 

 二人揃って頬を引っ張り合う。どうしてこいつはこう癪に障ることばかり言うのか。いっそ死んでくれないか。二人は同じことを思った。

 

「本当に仲が良いわね」

「「どこがだ!」」

「ふー、そろそろお終い、メッ」

 

 そこそこの所で喧嘩を(物理的)に諫められる。二人は頭にたんこぶを作った状態で、残ったお茶を啜った。

 結局、この辺りの謎は北上に一任するしかない。今こうしている間にも艤装のデータを漁り、ブラックボックスの解析をしてくれている。

 少しでも良い情報が得られれば良いな。卯月は北上に期待を寄せていた。

 

 

 *

 

 

 丁度、北上のことを考えていたからだろうか。二人は基地内通信で工廠へ呼ばれる。急ぎ足でそっちへ行ってみると、卯月の艤装の前に座り込む北上が二人を待っていた。座っているといっても、工廠の天井からぶら下がるクレーンに座っている訳だが。

 

「おー二人とも来たかー」

「なんか用事って聞いたけど何だぴょん」

「私まで来る必要あったの?」

「……保護者枠?」

「ふざけないで吐きそうになる」

 

 なんてことを言うんだ満潮は。隣の卯月は目一杯睨み付ける。満潮はまったく気にしていない。

 

「用事はあるけどさ、ま、秋月との戦いお疲れさまー、かなり大変だったみたいだねぇ」

「かなりじゃ済まないわよ、とんでもない強さだったわ」

「完全に化け物の類だぴょん、満潮といい勝負でモンスターだったぴょん」

 

 ドゴッと鈍い音が鳴る。

 垂直に地面に突き刺さる卯月を放置して会話は進む。

 秋月の戦闘力は狂っていた。高速砲撃はまだしも、空を飛ぶとかもう軍艦の括りさえ超えている。あんなのどう勝てば良いのか。

 真の『化け物』を知っているお蔭で、満潮は絶望こそしなかったが、頭を抱える羽目になるのは変わらない。

 

「それでも生きて帰ってこれたんなら上々さ、後がない訳でもあるまいし……相変わらず卯月は無茶をしたみたいだけど」

「ああ……片腕がミンチだったわ」

「前よりマシだと喜ぶべきなのかなー、分からん」

 

 殺意に引っ張られて、自分の身を顧みないのを北上は心配していた。

 全身の穴という穴から血を噴出して、骨も筋肉も内蔵もぐっちゃぐちゃ。応急処置をしなければ直ぐにでも死ぬ。前回の出撃ではそうなった。今回は片腕が木端微塵に潰れただけ。

 改善していると言えばしている。

 しかし、そもそも砲塔を突き刺して痛めつけようとしなければ、ああはならなかった。現場にいない以上断定できないが、もう少し良くなって欲しい。未だに心配で仕方がない。

 

「魚雷……は切れてたし、そもそも起爆したら秋月の頭部が爆発するし。あそこで突き刺せるのは代えの砲塔しかなかったって思うわ」

「やっぱりそっか。でもやっぱ、あとちょっと引き際を弁えてくれれば良いのに」

「北上さん、あんなの良くそこまで心配できるわね」

 

 満潮的には北上が何故ここまで気を遣うのかいまいち理解ができない。いや、理由については察しはついている。

 今現在、藤提督の元にいて、その時にお世話になった彼女だ。彼女もまた自分を顧みない戦い方をしていた。北上は大井と似た戦闘をする卯月が心配なのだ。

 

「大井さん、いったい何があったの?」

「そりゃノーコメントだよ満潮。アンタだってそうでしょ?」

「……そうね、悪かったわ」

 

 聞かれたくないことがあるのは満潮も同じ。この話題は早々触れないことに決めた。

 

「まー、でも結局、卯月がもっと強くなる他ないんだけどねー」

「そうね。弱い奴は何もできないものね。そこのソレみたいに」

「さっきから好き放題! いい加減にするぴょん!」

 

 埋まっていた地面から顔を出して卯月は憤慨する。

 もう少し安全に戦えだの、もっと強くなれだの、必死に頑張ったのに酷い言い草だ。卯月は腕を組み、頬を膨らませてプリプリと怒る。

 

「でもそうでしょ。もっと強ければ、身体を張る必要性はなくなってくるんだから」

「身も蓋もないこと言うなぴょん」

「それに、もっと回避特化にならないとヤバいんじゃない。わたしはそう思うよ」

「どゆことぴょん?」

 

 確かに片腕が死んだりと、身を削る戦い方をしているが、一応どうにかなっている。何故更に攻撃を捨ててまで、回避に専念しなければならないのか。

 北上の回答は完結で、もっともなものだった。

 

駆逐艦(秋月)でアレだよ?」

「うん」

「もし戦艦クラスのD-ABYSS(ディー・アビス)艦娘がいたら、どんな威力になると思う?」

 

 卯月はちょっと顔を上げて考える。

 秋月の時点で直撃=即死の次元である。これが元々の威力が高い戦艦だったら。

 掠っただけ。否至近弾で破片が当たっただけ。否、近くを通った際の風圧だけで全身がミンチになるのではなかろうか。

 兎肉のネギトロと化す自らの姿がありありと想像できる。掠めるぐらいならまだどうにかなる──のは、今の内の可能性は高い。

 

「うん、頑張るぴょん。そんな死に方嫌だぴょん。うーちゃんはお布団で大往生を迎えると決めているのだぴょん」

「艦娘って寿命ないわよ」

「先のことは分からんぴょん」

 

 どっちにしたって、そんなグロテクスな死骸になるのはゴメン被る。まだ安全な今の内に、本当に一発も当たらないような立ち回りを意識しなければ、この先ダメかもしれない。本格的な危機感を抱いた卯月は、珍しく真面目にそう決意した。

 

「なら良かった、回避力アップってことは、筋力と体力向上だからねぇ」

「また筋トレと走り込みかぴょん」

「いんや、もっと普段から恒常的に鍛えられる奴を作ったからさ」

 

 北上が手を動かすと、クレーンに乗せられて何かが運ばれてくる。それを手に取り広げる。彼女が持ってきたのは服だった。

 

「黒い、全身タイツ?」

「これ渡したかったのが呼んだ理由の一つなの。いやー泣き叫んでも着せるつもりだったけどね、どうせならやる気ある方が嬉しいじゃん。その気になってくれて良かったよ」

「あの、回避特化頑張るとは言ったけど、それ着るとは」

「おお、直ぐにでも着たいって? よし此処で着替えて良いよー、男の目なんてないからさー」

「はぁ」

 

 気の抜けた声を出しながら卯月はそれを受け取る。

 

「はぐぁっ!?」

 

 瞬間、それを持った手が地面に減り込んだ。

 

「なっ、お、重!?」

 

 重い。余りにも重すぎる。

 油断していたのもあるが、力を入れなければとても持ち上げることができない程、とんでもなく重い全身タイツだ。

 というか、手触りが布じゃない。

 

「これって鉄!? 金属の触感だぴょん!?」

「そりゃ繊維一本一本が針金だからねー」

「鎖かたびらじゃねぇか!」

 

 バシーンと卯月はそれを地面に叩き付けた。そして北上を見て突っ込む。

 

「え? 着るのコレを?」

 

 北上はニッコリして頷いた。つまりはそういうことであった。色々言いたいことはあるが――卯月は思う。

 こいつ思った以上に脳味噌筋肉だ。

 今日こそ死ぬかもしれない。

 そう察しながら服を脱がされる卯月へ、満潮は合掌したのであった。




亀仙人の修行で甲羅背負うのあるじゃないですか。でも乙女に甲羅背負わせるのはどうかと思うんです。なので全身黒タイツにしてあげました。金属アレルギーとかは妖精さんの謎技術でどうにかしたってことで。
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