前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第118話 誤認

 秋月戦の時厄介だったのが、絶え間なく降り注ぐ空爆である。制空権を完全確保できれば良いのだが、これ以上空母を増やす余力はない。

 飛鷹と熊野、水戦が積めるポーラと球磨。

 彼女たちだけではどうやっても、制空拮抗が限界だった。

 

 そうなれば後はやれることをやる他ない。そんな理由で卯月と満潮は空爆の訓練をしようと思っていた。防空と回避の訓練をすればマシになる。だが、訓練相手をしてくれる予定の熊野はいなかった。

 

「熊野なら、一日外出をしています」

 

 そもそも基地内にいないというオチがついた。約束を反故されたことに卯月はキレた。

 

「つーか、そもそも一日外出なんてできたのかぴょん」

「できます。給料代わりの交換券ありますよね。あれの最上位グレードの商品として設定されています」

「ますます炭鉱券めいてるぴょん……」

 

 勿論有事の時は金があっても許可は下りない。全員外出してて防衛戦力がゼロとかあってはならない。

 今は秋月戦の直後で、すぐには戦闘状態にならないと、不知火と中佐が判断したので許可が下りた。

 それでも緊急事態があった時の為、行き先と連絡先とGPSは必須となっている。

 

「いったいどこ行ってるぴょんあの成金は、ぶってやるぴょん。不知火どこだぴょん」

「個人情報なので回答は拒否します」

「ファッキンだっぴょん!」

 

 当然である。例え前科持ちのクズ集団でも基本的人権は(一応)ある。結局基地を彷徨って疲労しただけ。歩き損。卯月はやり場のないイライラに叫び散らす。

 「ただし」と不知火が言った。

 

「外出の理由は漏洩しても良いと、この不知火は思います」

「へ、なんでよ」

 

 さっき個人情報とか言っておいて何を言うのか。満潮の突っ込みに対して不知火は答える。

 

「約束を反故したのですから、それぐらいはあって良いかと。でなければ不満でしょう」

「さっすが不知火話が分かるぴょん!」

「それで良いの……?」

 

 後ろで執務をしている中佐を見る。彼は一切反応しない。即ち知らぬ存ぜぬを通してくれるという意思表示。

 でもまあ、約束を一方的に破られたんだから良いか、と考える満潮もいたので、それ以上突っ込んだりはしなかった。

 

「今から独り言を話します。熊野さんですが、彼女はある人物の行方を捜しに外出しました」

「……ある人物? それってだムグ」

「卯月独り言って言ったでしょアホ」

 

 独り言に返事をするバカがどこにいるのか。卯月の口を物理的に抑える満潮。

 

「名前は『鈴谷』。彼女がまだ前科持ちでなかった頃、同じ鎮守府に属していた艦娘。熊野さんから見れば一番近しい姉妹艦です。しかし現在は所在不明と()()にはなっています」

 

 話を聞いている二人はふと思った。

 『アレこれ聞いたらヤバい話じゃない?』

 公的、と言っていることは、表ざたにはできない状況下にあるという意味だ。そんなこと知ったらかなり不味いのでは。

 

「おおーっとうーちゃん用事を思い出したぴょん忙しい忙しい」

「奇遇ね私も仕事を思い出したわ」

「そうでした危険な独り言なのでドアロックをかけなければ」

 

 不知火が謎のリモコンをピッと押す。するとなんということか、扉が内側からも開けられなくなってしまった。ドアノブをガチャガチャしてもビクともしない。ちなみに本来は対侵入者用の緊急装置である。

 

「ねぇ満潮危険な独り言って」

「止めて、勘づきたくない」

「続けますね」

 

 既に手遅れである。二人は自分たちの無謀な好奇心を呪った。

 

「今鈴谷は、大本営技術研究局……技研にいるとされています。当然表面上はいませんが、いるのは確かです。熊野さんは外にも多くの部下を持っていますが、彼女についてだけは、自分自身で動かねば気が済まないようです」

 

 鈴谷が姉妹艦、姉妹のことだから他人任せにはできないのだろうか。卯月は以前、同じ姉妹艦の『最上』について熊野と話したことを思い出す。

 秋月と同じD-ABYSS(ディー・アビス)を搭載した艦娘。最上(仮)との激突は不可避だ。

 姉妹同士の戦いは苦しいものだが……決して動揺したり迷わないと、熊野は言っていた。実際相対したらどうなるか分からないけど。

 

「そして、何故今、その鈴谷さんを捜しに行ったのか」

 

 不知火は懐から写真を取り出し、卯月たちの方へ投げる。それをキャッチして写真を見る。画像はかなり荒い上ピントをずれている。

 

「航空機越しに撮った写真かしらね。それも戦闘中っぽいけど」

「ピントなんて調整している暇なかったのかっぴょん」

「でしょうね」

 

 そりゃ戦っている真っ最中にのんきにピント合わせしている暇はない。プロのカメラマンならできるかもしれないけど。

 写真に写っていたのは一人分の人影だった。

 画像が荒く細かい判別はつかないが、おおざっぱな外見的特徴や装備の判別はできる。

 

「なるほど全く分からんぴょん」

 

 尚卯月は艦娘への知識が乏しい(懲罰部隊暮らし&怠慢)せいで、それが誰だか皆目見当もつかない。

 逆に色々な鎮守府に在籍しており、艦娘として暮らした期間も長い満潮はそれが誰なのか気づいた。

 

「この写真は秋月から撤退する寸前に、飛鷹さんが撮影したものです。あの戦闘海域の近くにこいつがいたんです」

「……全然気づかなかったぴょん」

「不意を突いて撮影できたものの、即座に艦載機を落とされてしまったようで。画像の荒さはそれも原因です」

 

 ならこいつが最上(仮)なのか。あの戦闘海域に無関係な奴がいる筈がない。秋月以外に近くにいる敵としたら、もう最上(仮)以外には思い浮かばない。

 

「──待って、おかしいでしょ」

「何がだっぴょん?」

 

 卯月は全く分かっていない。鈍感さに苛立つが無視して話す。

 

「最初の、そう私たちが秋月と戦った時は、瑞雲と甲標的の妨害が入った。今回も瑞雲の妨害があったって聞いた。その二つを使える特性から、秋月以外にも、最上が付近にバックアップとして潜んでいるって話だったじゃない」

 

 そういった話だった。卯月もそう覚えている。しかしこの写真に写っている人物はそれをひっくり返すものだった。

 

「こいつは、最上じゃない」

 

 卯月は知らないが、最上という艦娘は、()()()()()()()の制服を着ており、航空巡洋艦の艤装を装備している。

 しかし写真の人物はその特徴と合致しなかった。

 

「え、最上ってこの写真の、()()()の髪の毛をした奴じゃないの?」

「断じて違う」

「そういうことです、近海に潜んでいた、秋月のサポートをしていたのは最上ではありません」

 

 ()()()の髪の毛で、()()()()()の制服を着こみ、航空巡洋艦の艤装を装備している艦娘だった。

 

 その特徴を持つ艦娘は、現状一隻しかいない。

 

「こいつ『鈴谷』じゃないの!」

「…………ホワイ?」

「だから鈴谷! 最上型の三番艦の鈴谷よコイツは!」

 

 こいつは鈴谷? 

 最上じゃなくて? 

 薄緑の髪の毛は最上じゃなくて鈴谷? 

 秋月のバックにいるのは最上じゃなく鈴谷だって? 

 

「にゅ、そーいえば、最上って予想したのは、不知火だったよね」

「そうですが」

「予想外してんじゃねぇかこのマヌケ!」

 

 これで最上じゃなかったらぶってやる──卯月はその決意を忘れていなかった。決断的に飛び上がり飛び蹴りを叩き込む。黒タイツの重量が乗ったその一撃は、艤装未装備の艦娘ならば一撃で大ダメージだ! 

 

「イヤー!」

 

 しかし視界が暗転。

 

「確かに予想を外したのは、申し訳ないと思っています」

 

 天井に頭から刺さった卯月。不知火は手に付いた汚れを落としながら謝罪した。

 謝罪相手は天井に刺さっているのだが、わたしに言われても。でも突っ込むのも面倒だったので満潮は「ああうんそう」と誤魔化す。

 

「ただ画像が荒く、おおざっぱな特徴しか分からないので、これが『鈴谷』と断定できないのが残念なところです」

「変装……つったってそんなことする意味ある?」

「事前の対策を無駄にできるのであれば、戦略的価値はあるでしょう」

 

 同じ航空巡洋艦にしても、『最上』と『鈴谷』ではかなりの違いがある。二隻とも熊野や球磨のようなコンバート改装ができる艦娘だが、改造先は『特殊改装航空巡洋艦』と『軽空母』と、全く違ってしまう。

 特にD-ABYSS(ディー・アビス)はデタラメに強い。対策を誤っただけで致命傷になりかねない。そういった意味では変装も有効だ。

 

「特に彼女が『鈴谷』だとすると、卯月さんに攻撃を仕掛けた甲標的が誰のものだったのかが分からなくなります」

「そうよね、鈴谷は甲標的運用できないし……」

「別に潜水艦が潜んでいた、という可能性が高いかもしれませんが」

 

 以前の戦闘時は夜だった為、潜水艦を探知できなかった。けど鈴谷以外に甲標的が運用できる艦は限定される。あの時一番いた可能性が高いのは潜水艦である。

 しかし相手は荒唐無稽を地でいくD-ABYSS(ディー・アビス)。秋月が戦艦級の破壊力を持たされているように、搭載能力のない艦に甲標的の運用能力が持たされているかもしれない。

 

「で、話を戻すけど……こいつが最上じゃなくて鈴谷だったから、熊野は外出して行ったってことなのね」

「そうです」

「まさか、熊野は、この鈴谷が熊野の知っている『鈴谷』だって、思ってるのかぴょん?」

「それ以外に、所在を確かめに行く理由があるとお思いで?」

 

 何故離れ離れになったのか、片方は前科持ちへ、片方は技研に行く羽目になったのかは卯月には分からない。

 けど、再会した生き別れの姉妹が、虐殺を喜び侵略に悦楽を感じる深海棲艦そのものに成ってしまっている。

 それは間違いなく、最悪と言って良い。

 

「独り言はここまでです。ああ二人とも空襲の練習相手が欲しいんですね。では不知火から飛鷹さんに言伝しておきますので、演習エリアで待っていてください」

「助かるわ」

「あ、ちょっとミッチー!」

 

 満潮は卯月を引っ張り執務室から退室する。無理矢理連れていかれた卯月は文句を言う。不知火に聞きたいことがまだ合ったからだ。ただ、彼女はそれに対して首を振る。

 

「これ以上はダメよ。この話は私たちが勝手に深入りしちゃダメな話」

「そういうもんかぴょん?」

「アンタね……一言も話してないのに、自分の過去を全部知られてたら、良い気はしないでしょ」

 

 艦娘がそんなこと言うのはちょっとおかしな話だが、それでも満潮はそう考える。ここにいるのは全員何か過去に傷を負った面々ばかり(一部例外あり(アル重))。聞くのさえタブーなのに、勝手に嗅ぎまわるなんて持っての他だ。今回不知火が話したことだって本人に知られたらどうなることか。

 

「いや別に。聞かれて恥ずかしい生き方してないぴょん」

 

 ところが卯月はこの調子。満潮は空いた口が塞がらない。

 

「やらかしてるけどうーちゃんの場合は、敵のせいだからなー。第一艦艇としての史実が知られてんのに、過去過去言うのってナンセンスだぴょん。いや無理くりほじくり返す気はないけど。でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()だぴょん」

 

 所詮過去なんぞ個人的感傷に過ぎない。それで本来の目的──人類や仲間たちを護ることだ──がおろそかになったら意味がない。自分から話さなくても良いけど、作戦に支障がでるなら問答無用。過去でもトラウマでも暴きだして、どうにかしなければならない。

 

 だから卯月は、勝手に訓練を放棄した熊野に苛立っていたのである。最も今回の場合は、不知火に事情を聞き、多少気持ちは収まっていた。でも未だに釈然としない感情もあった。

 

「だからって、アンタだって、神鎮守府の虐殺について触れて欲しくはないでしょうが」

「だからあれは敵の作戦だぴょん。うーちゃんは何にも負い目を感じてない、本当、だぴょん……!」

「軽く発作起こしながら言うセリフじゃないわね」

 

 強がりだとは知っている。その証拠に卯月の目の焦点が合わなくなっていた。発作により何らかの幻を見ているのだ。転ばれても面倒なので身体を支える。初期段階で対処できたお蔭で、深刻化する前に発作は落ち着いた。

 

「うーちゃんは、意見は変えないぴょん。個人の意志なんて優先順位は最低。結果を残せなければ艦娘失格だぴょん」

「……洗脳された姉妹とかを前にして、同じことが言えるならね」

「それは分かんないぴょん」

 

 裏切った時の菊月の顔は知っている。もし敵が鈴谷だったのなら、今度は熊野が同じ顔をしなければならないのだ。任務優先。それは理解している。だが辛いことに変わりはない。

 

 満潮もこれ以上、この件について言及するのは控えた。

 意味もない上に罪悪感がある。

 『敵』が最上ではなく鈴谷だと知った時、確かに胸を撫で下ろした。

 仲間だった彼女でなくて良かったと思ってしまった。

 そんなこと思ってしまった自分に嫌気が刺す。 




艦隊新聞小話

 前科戦線では給料の代わりに交換券が使用されています。はい完全に炭鉱券ですね、違法の代物ですね!
 まあそれはさておき。
 この紙幣のデザインですがどうなってると思います?
 なんと高宮中佐の顔が描かれているんですよ! 1円基準で横顔が、10円基準で正面、100で全身。更に1000円になると前科戦線の創設者の顔が書かれていてですね!
 高宮中佐はきっとこれを国中に広めて、『円』を乗っ取るつもりではないかと私は疑っています。
 これは一大事! 早急に広めなくてはnピンポーン
 「どうも青葉さん。波多野曹長です。低俗なフェイクニュース摘発すべし、慈悲はない」
 「アイエエエエ! 憲兵!? 憲兵隊ナンデ!?」

 ……ニュース記事はここで途切れているようだ。
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