前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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わぁいデボルーション参戦だぁ……俺の知らないスコープドッグだとぉ!どうしよ、買おうかな、どうしよ。


第119話 三隻目疑惑

 訓練の約束をしていたのにそれをすっぽかしてしまった熊野。しかしそこには深刻かもしれない事情があった。

 秋月の他に潜んでいるD-ABYSS(ディー・アビス)の艦娘。それが最上ではなく鈴谷である可能性の浮上。

 熊野は、その『鈴谷』が自分の知る『鈴谷』と同一でないか確かめるために出かけていたのだ。

 

 そんな事情を知ってしまったので、これ以上責めたてることができなくなってしまった二人。

 ただ卯月はちょっと責めるつもりだ。

 どちらにしても、このままでは訓練ができない。不知火の口添えで飛鷹に手伝って貰うことになった。

 

 この訓練は飛鷹にとっても望ましいものだった。

 敵が最上であれ鈴谷であれ、デタラメな瑞雲を操ることは変わらない。一切の旋回運動なしで前後左右上下に、ドローンめいたモーションをする化け物瑞雲。しかも火力は超一級品。

 

 更には()()()()()艦載機の存在もある。

 何故だか分からないが、襲い掛かってくる寸前にならないと気づけないという奇妙な艦載機。アレにも苦しめられた。

 

 次の戦いでもその化け物艦載機は襲ってくるだろう。卯月たちだけではダメだ。自分自身の練度も上げて、それに対処できるようにしなければならない。

 

 そんな事情があったので元々練習する気だった。そこへ卯月と満潮の申出。渡りに船ということで、喜んで訓練を手伝うことにしたのである。

 

 訓練を続けている間に、二人の練度は確かに上がっていく。さっきまでの動きでは撃ち落とされていく。飛鷹自身も常に制御を意識し、より複雑な、より正確な動きでコントロールするように成長を試みていく。

 

 結果、主に卯月への負担がえげつないことになっていた。

 

 最大の原因は北上に着させられた鎖帷子だ。つま先から指先まで鋼鉄で包まれているせいで、迎撃のため主砲や機銃を上に向けるのさえ、通常の何倍も筋力を使う。

 

 トリガーを引くのも辛い。指先まで包まれているせいで、指の関節にも莫大な負荷がかかる。

 何せ針金だ。

 針金は簡単に曲がるが、力が必要だ。

 少し考えれば分かること。指間接の力だけで針金数十本を曲げようとしたら、どれだけの力が必要か。

 

 同じことが全身の関節にも言える。まるでオイルを一切刺さずにほったらかしにした機械のよう。腕を曲げるにも走るにも、とにかく力を入れなければならない。

 お蔭でここ数日ずっと筋肉痛。ちゃんと入渠してマッサージをしているにも関わらず。負荷が回復力を越えてしまっているのだ。

 

 卯月はこの仕打ちに対して、常に文句を言っていた。そのお口にチャックがかかることはなかったが──でも特訓をボイコットしたり、適当に済ませようとはしなかった。

 

 次で秋月と接触するのも四回目。恨みと言うより、流石にうんざりしてきていた。

 もうあいつの醜悪なニヤケ面を見るのも飽きた。いい加減次でお終いにしたい。だから確実な決着をつけるべく、真面目に訓練に勤しんでいるのである。

 

「でももう嫌だ脱ぎたいこの拘束具!」

「バカ余所見したら!」

「隙あり」

「あー!?」

 

 油断した瞬間飛鷹の艦載機が殺到。嵐が過ぎた後、卯月は全身ペイント塗れとなっていた。

 

「一旦、休憩にしましょうか」

「お願いするぴょん限界だぴょん辛いぴょん苦しいぴょん苦行地獄悪夢で苦行だぴょん」

「黙って訓練できないの?」

「真面目にやると反動が来るんだぴょん」

 

 訓練の過酷さ故にむしろいつもより愚痴が酷い。飛鷹は苦笑いする程度だが、傍でずっと聞いている満潮は心の底からうんざりしていた。しかし訓練自体は珍しく真面目なので、正面切って非難もできず。

 

「一日訓練だから、お弁当持ってきたわ」

「食堂の仕事は良いの」

「今日一日訓練するって不知火に言ってあるから大丈夫。みんなの分のお弁当と晩の下ごしらえもすんでるし」

「流石飛鷹さん仕事ができるぴょん!」

「褒めてもなにもでないわよ」

「使えねぇなテメーデザートの一つでも用意してけってんだっぴょん!」

 

 スッと取りだされた小さな重箱に詰められた甘いオバギ。卯月は深刻な中毒患者の瞳でオハギを凝視した。

 

「何か言うことは?」

「ごめんなちゃい」

「よし満潮全部食べて良いわよ」

「やったわ」

「あああああ!?」

 

 この後ちゃんと謝ってオハギにありついた卯月。その甘さは正に麻薬的。血液にまでアンコが溶けだしそうな甘い恍惚感に卯月は蕩けた顔を晒す。疲れた身体には尚強烈だ。後勿論お弁当も食べた。そっちも美味しかった。

 指先に残ったアンコも残さず舐める。甘い物を食べると疲労が吹っ飛ぶ──と言いたいけど午後も同じ訓練をしないといけないと考えるとげんなりする。

 

 食後の冷たいボトル茶を飲みながら、もう少しだけ休憩時間を堪能する。それでも化粧だのファッションだと、そういった会話とは無縁。結局戦闘関係の会話になってしまうのはなんと言うか。

 

「飛鷹さん、気づけない艦載機とか言ってたけど、それって本当なの?」

「本当よ、わたし自身信じがたいけどね」

「単に死角を突かれてたってだけの話じゃないの。私にはそう思えるけど」

 

 三人分の視界を突くことができるか、と言われれば『不可能ではない』。理論的には実行可能だ。

 しかしそれはとても難しい。

 ただ死角を突くだけじゃダメ。空母の二人は艦載機の視界も持っている。そちらの『目』も掻い潜らなければならない。それだけの視界を完全にすり抜けるのは不可能に限りなく近い。

 だが、敵は実際すり抜けている。

 そうなったらもう本当に、気づけない()()()があるとしか考えれない。

 

「とは言ってもうーちゃんたちはそれ見てないからなー、飛鷹さんを疑う訳じゃないけど」

「……それに襲われたら、私たちなんて一撃で死ぬわ」

「言わなくても分かってるぴょん。だから飛鷹さんと一緒に、そういうタイプの対策も頑張ってるんだっぴょん!」

 

 気づけない艦載機の対策訓練は卯月たちも行っている。あれも瑞雲同様、異常な破壊力を持っている。軽空母の二人でさえ直撃すれば死あるのみ。より装甲の薄い卯月たちが喰らえば結果は明らか。

 幸い飛鷹はとても技量が高い。

 卯月と満潮、二人の視界の穴を潜って艦載機を接近させることで、ステルス艦載機の疑似シミュレーションをすることができた。

 

 直前までどうやっても勘付くこともできない以上、撃ち落とす訓練は碌にできない。それよりもギリギリで気づけた時に対処できるよう、瞬発力や一瞬で照準を合わせるような訓練を並行して行っていた。接近される前に撃ち落とすのが本来の理想だが、気づけないんだから仕方がない。尚、気づけたら意味がないので当然電探はなしだ。

 

「そもそもこんなことしなくても、気づけないカラクリさえ分かれば、どうとでもなるのにって思うぴょん」

「そりゃそうだけど。それができないのよ」

「少し考えれば分かるでしょド低脳」

「分かっているけど言わずにはいられないだけだぴょん。ホント最上、じゃない鈴谷か。鈴谷はどんな艦載機を使ってんだぴょん」

 

 悪態をたれる満潮だが、卯月の気持ちが分からないこともない。

 常識的に考えて、あそこまで気づけないことなんてあり得ない。空気も乱れもあれば、接近に伴う音もある。全部攻撃寸前になって気づくなんて。

 しかし何か原理があるとすれば、それはなんだんだろう。別に技術者でもない満潮には一切分からない。飛鷹も卯月も同じ。

 

「……まさかとは思うんだけど」

「ぴょん?」

「あ、いや、ごめんねなんでもない」

 

 ただ逆に戦士だから気づけることもある。

 

「飛鷹さん言って。うーちゃん嘘は嫌いだけど隠し事も嫌いだから」

 

 ヘラヘラした笑顔が消える。代わりにハイライトの消えた瞳となる。その表情で顔を近づけて卯月は問いかける。異様な圧迫感に飛鷹は唾を呑む。

 

「うーん、証拠はないわよ」

「別にいいぴょん。隠し事が嫌いってだけだから」

「……今回は同意。ただでさえわっけ分かんない敵なんだから、推測でも情報は欲しい。何に気づいたの?」

 

 満潮からまで同意が来てしまった。余計な心配をかけそうだから胸の内に仕舞っておくつもりだったけど、ここまで言われたら仕方がない。推測の情報だけ、暴走はしないだろう。飛鷹はそう信じることに決めた。

 

「あの艦載機、気づけない方を制御しているのは、多分鈴谷じゃないわ」

「え、じゃあヲ級とかその辺ってことかぴょん?」

「いいえ、それでもない」

 

 何故断定できるのか。その答えも飛鷹は続けて説明してくれた。

 

「こんなこと言うのはアレなんだけど……()()()()って言うのかしら。艦載機の飛び方には必ず飛ばす側の癖がで出てくるんだけどね」

「クセ、かっぴょん?」

 

 艦載機を飛ばしているのはAIとかではなく、意思を持っている艦娘(もしくは深海棲艦)だ。特に熟練されればされる程、分かる人には分かる()が現れてくる。自意識が希薄なイロハ級でさえ、飛ばし方は少し違ってくる。

 もっともそれは素人の卯月には分からない話。理解できるのは空母だけ。水偵を飛ばせる艦娘も多少は分かるだろうが、それもできない卯月と満潮にはさっぱりだ。

 

「で、その飛ばし方の()が違って見えたのよ」

「瑞雲とその……気づけない方で?」

「ええ。ああでも、気づけない方は飛ぶとこまともに見れてないから、何となくって話になっちゃうけどね」

 

 存在に気づいてから攻撃されるまでのコンマ数秒しか飛ぶ所を見てない。判断材料としては心もとなかった。

 逆にそれしか見てないのに、違和感に気づける方が凄いではないか? 

 卯月はそう思った。

 

「あんな特殊な艦載機を使うイロハ級や姫級って」

「聞いたことないわよ、長いこと艦娘やっているけど、ただの一度も」

「やっぱり鈴谷なんじゃ。それぞれで、癖が違ってるとか」

「あり得るけど……根本的な話、鈴谷でも最上でも、『瑞雲』と『艦載機』を同時に運用できる筈がないのよね。艦種が違うから」

 

 鈴谷は熊野同様、航空巡洋艦と軽空母のコンバート改装ができる。故に水上爆撃機も艦載機も使用できる。しかし()()にはできない。

 だがあの戦場では、確かに両方が、同時に襲い掛かって来ていた。

 システムにより、同時に使用できるよう強化されている可能性はあるものの、D-ABYSS(ディー・アビス)はあくまで強化装置。艦種の括りを越えるような力は、現在確認できていない。

 

「まさか、()()()?」

 

 同時に飛ばす方法はそれ以外に考えられない。

 秋月、鈴谷(仮)に続いて、三人目のD-ABYSS(ディー・アビス)の眷属がいるかもしれない。

 

「次は、確実に殺しに来るために、三人でくるかもしれないわ」

 

 考えたくもない悪夢に二人は天を仰ぐ。

 

「いや死ぬ、ムリムリ、絶対殺されるっぴょん」

「アンタ、何てこというのバカ」

「バカはお前だぴょん、現実的に何処にどう勝算があるんだぴょん無理ゲーだっぴょん!」

 

 卯月はプライドが高い。だがそれで目を曇らせたりもしない。その上でD-ABYSS(ディー・アビス)が三隻同時にエントリー。勝ち負け以前に生存の可能性がゼロに等しくなる。次がそんな戦いになるかもしれない。クソ極まった未来図に卯月は頭を抱えた。

 

「だから言いたくなかったのよ。こういう空気になるから」

「納得したわ……頭が痛い」

「うーちゃん頭痛で病欠します」

「はい頭痛薬」

「ちくしょう、用意周到だっぴょん!」

 

 実際に軽い頭痛がしてたのでそれを飲んでおく。

 

「その可能性、不知火とか中佐には言ってあるの?」

「当然でしょ」

「有効な対策を立ててくれることに期待するしかなさそうだっぴょん……」

 

 そもそも実在さえ不明な三人目。現れてしまったとしても、打てる手は限られてくる。それを考えるのは中佐たちの仕事。卯月たちが生き残るためには、今やれることをやる他ない。即ち特訓である。

 ここらで秋月を仕留めて、少しでも戦力を削らないとエライことになる。色々な意味でも次が重要な局面になるだろう。

 

「今更言うのも何なんだけど」

「む? どーしたぴょんアバズレ」

「『敵』は、なんでD-ABYSS(ディー・アビス)なんて物を使ってるのかしらねって思ったのよクソガキ」

 

 息をするように罵倒しながら、「確かに」と卯月は思う。

 あれは艦娘の洗脳装置──もしくは強化装置だと予想されている。だがだ、何故そもそも、洗脳なんてする必要があるのだろうか。

 ドロップ艦を捕まえて洗脳してから工作員として送り込むとしても、艤装を調べたら一発でアウトだ。

 

「友軍のフリして接近して、ズドンッ! ってのはどうだぴょん」

「もう私たちにD-ABYSS(ディー・アビス)知られている時点で意味ないじゃない。第一そんなことしなくても、ヲ級とかレ級に適当な変装させれば十分よ。態々システムを詰め込む手間暇をかける意味はないわ」

 

 だとすれば、このシステムは何の為にあるのか。

 

 その答えが出るのはもう少し先のこと──しかし、『真相』が暴き出されるのは、まだまだ遥か先のことなのだ。




ファンネル瑞雲と、ステルス擬き艦載機を操っているのは別人の可能性が浮上しました。軽空母のパワーを同時に振るえる『鈴谷』という可能性もありますが、果たして。
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