前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第124話 三度目の激突

 北上より供給された対秋月用の秘密兵器──というよりビックリドッキリメカ的な代物。エネルギー吸収を阻害する布を発射するランチャーに、友人(妖精)ハンドガンを貰った卯月と満潮。

 

 二つの武器はどちらも最大射程が短い。至近距離での使用が望ましい。否応なしに接近することになる卯月たちが使い手としては最適だった。

 

 出撃までの残された時間を使って、照準合わせやリロードの練習を行う。こういう練習をしておかないと、いざという時に失敗する。その隙が命取りになる。武器を使うアクションに慣れなくてはならなかった。

 

 普段使っている主砲や魚雷に比べて反動がかなり小さい。そのせいで感覚が違い思うように当てられなかった。

 とは言え、感覚の違いが埋まれば習熟は速い。

 ある程度の練習でそれなりに狙いを合せられるようになっていた。後は接近すれば当たるだろう。そう思うぐらいには上達した。

 

 しかし卯月には、未だに心に残る気がかりがあった。

 

「やっぱり作動しないぴょん……」

 

 それはD-ABYSS(ディー・アビス)の解放についてである。

 

 システムは『憎悪』により作動する。卯月はそう推測し、作動記録からもそれは合っていると証明された。

 だから強烈な憎悪があれば、基地周辺(ここ)でも解放できると思った。普段から運用できれば、システムを使いこなす為の訓練が可能になる。

 

 なのだが、結果はご覧のとおり。憎しみで心を埋め尽くしても上手く作動してくれない。

 

 今回の出撃は秘密兵器の訓練のためだけではない。システム解放のテストも兼ねてだったのだ。

 

「謎ですね。条件は満たしていると思うんですが」

「何故だぴょん。推測が間違っていたとか?」

「だとすれば、作動記録が残る筈がありません。トリガーは憎悪で間違いないかと」

 

 だったら原因は何なんだ。二人揃って首を傾げる。

 

「もう一度だけやってみましょう。卯月さんの憎悪が不足しているのかもしれません」

「は? テメーなんて言ったぴょん。うーちゃんの憎悪がぬるいだって?」

「敵を前にした時と比較してみてはいかがですか」

 

 あまり指摘されたくないことに顔を顰める。

 言っている通りだからだ。

 いやだって実際そうだろう。思い出したりするだけで憎悪を理性が焼き切れるまで吹き上がらせるのは困難だ。

 

「とにかくもう一度。どうぞ」

 

 駄目元でもう一回挑戦してみる。

 卯月は眼を閉じて、記憶を掘り起こしていく。それはD-ABYSS(ディー・アビス)に浸食され、仲間たちを虐殺した記憶。

 敬愛し心酔していた戦艦水姫が塵のように壊された記憶。暗闇の中聞こえてきた波多野曹長の部下たちの悲鳴。

 

「う、うう……ううッ!」

 

 どれもこれも例外なく最悪の記憶。思い出すだけで罪悪感に吐き気がする。同時に噴出する怒りの感情。

 何故。こんな目に合わなければいけないのか。どうして皆が死ななければならなかったのか。

 不条理で、邪悪な敵への憎悪が滲みだす。怒りが理性を焼き、憎しみが心を真っ黒に塗りたぐる。

 

「もっと、もうちょっと、どんどん怒り狂ってください」

 

 身体が熱い、頭が割れそうだ。何本も欠陥が浮かび上がり、瞳孔が収縮していく。暴力衝動が暴れ狂い、気が狂いそうになる。心がシンプルになる。殺すこと以外考える必要がなくなり──『殺意』へと……至らなかった。

 

「ダメですね。未作動です」

「──ッああ、ダメかっぴょん、チクショウ!」

「御愁傷さまです」

「心にもないことを言わんで欲しいぴょん」

 

 理性が焼き切れる寸前までは持っていける。が、そこまでだ。その先、理性も感情もいっしょくたに呑み込んだ『完全なる殺意』へはそう簡単に辿り着けない。

 その証拠にD-ABYSS(ディー・アビス)も未解放。無駄に怒りを高めた弊害で、卯月はかなりイライラしていた。

 

「役立たずで悪かったぴょん」

「お気に召さらず。仇を前にせずに、殺意を高めることができる人は稀です。卯月さんは稀な方ではなかったというだけのお話。気に病む必要はありませんよ」

「それはそれで腹が立つ言い方だぴょん」

 

 才能ないんだからしょうがないね、気にしなくて良いよ! と言われたも同義。

 これでもプライドが高い卯月は、イライラと合わさって更に機嫌が悪化する。しかしこんな理由で怒り狂うのもプライドが許さない。結果ムスッとした仏頂面になっていた。

 

 しかし、何故憎悪をそこまで持っていけないのか。

 卯月は疑問に思うが、それは当然のこと。敵を前にしていない状態で、怒りを限界まで溢れさせられる人間はまずいない。思うように制御できたらそれはもう感情ではないからだ。

 前提として、無茶なことをやろうとしているのである。

 

「解放できないのであれは仕方ありません。普通の練習に集中しましょう。結局のところ解放せずに討伐できれば、それに越したことはありません。無駄なリスクを負う必要はありません」

 

 不知火は正論を言ってくれた。使わずに勝てるならそれが一番。

 けど、そんな理論が通じるような相手ではない。

 なのに解放できないから練習できない。今の身体ならどの程度の運用に耐えられるのか、どれぐらい強化されているのか。どれも確かめられないまま出撃というのは、卯月に大きな不安を残してった。

 

 

 *

 

 

 残された少ない時間で、できる限りの訓練を行った卯月と満潮。

 そろそろお昼。休憩の時間だ。そう思った所で訓練を見て貰っていた不知火に呼び止められ、「休憩は30分だけです」と言われた。

 二人は思った、「来たか」と。

 その予想は当たった。既に基地の湾岸部には見覚えのある二式大抵が停泊していたからだ。

 

「あれが止まっているってことは、そういうことかっぴょん」

「そうです。休憩後直ぐに出撃になります」

「予想通りだったわね」

 

 つまり特殊兵装を練習できるのはこれでお終い。後は実戦でどうにかする必要がある。もう少し練習していたかったが、元々再出撃までの余力はそうなかった。仕方がないと諦める他ない。

 

 それから暫くして、休憩を終えた仲間たちが続々と集まってきた。

 既に全員艤装装備済。卯月と満潮も装備済みだ。かなりの少数部隊だから、緊急の連絡でも直ぐ部隊を組むことができるのは前科戦線の強みでもある。

 

 しかし、卯月は周囲を見渡して呟いた。

 

「不知火、ポーラはどこいったぴょん?」

 

 数日前から姿を見かけなかったポーラだが、ついぞ影も形も見つからなかった。この出撃メンバーの中にさえ見当たらない。

 

「ポーラさんは那珂さんと一緒に鎮守府の防衛に当たります」

「へー、まさか嘘じゃないぴょん? うーちゃん嘘は嫌いだぴょん?」

「当然、真実です」

「へぇぇぇぇ……」

 

 いや絶対嘘だろが。卯月は思った。

 だが以前推測した通り、今はポーラが基地内にいると思わせる必要があるのかもしれない。

 その為の工作かは分からないが、部屋の電気が灯っていたり、酒を飲んだ跡があったりと、いると思わせる為の工夫も見受けられる、

 そんな理由が考えられる以上、余計な口出しは作戦失敗に繋がりかねない。極めて訝しむ目線をぶつけながらも、それ以上は追及しなかった。

 

「皆さん既にご存知だと思いますが、敵は秋月以外にももう一隻。もしかすれば更に一隻、合計三隻存在する可能性があります」

 

 秋月で一隻、瑞雲を扱う鈴谷(仮)、ステルスの艦載機を扱う何者かで三隻だ。

 

「秋月一隻でのあの戦闘能力。D-ABYSS(ディー・アビス)には『共食い』の特性があるので考えにくいですが、同時に出てこられたら勝算は皆無です」

 

 共食いとは、システム同士によるエネルギーの奪い合いのことを示す。相手が三隻まとめて来たら卯月と併せて計四隻での取り合いと化す。そうなったら殆ど強化はされないだろう。不知火の言う通り可能性は極めて低い。

 だが、何事にも例外は起こり得る。ましては敵は未知も未知、警戒するに越したことはない。

 

「今回の目的は秋月の捕縛です。繰り返します、捕縛です。撃破ではありません。貴重なシステムのサンプル、決して殺してはいけません。艤装だけを持ち帰るのもダメです。秋月自身と一緒に研究する必要があるからです。困難は承知ですが、何としても秋月を連れ帰って下さい。それ以外の敵が現れても、余程のことがない限りは無視してください」

 

 今の戦力であんな化け物たちと同時に撃ちあう予定はない。狙いは秋月一隻。その為の対策も練習もしてきた。

 

「鎮守府の防衛は那珂さんとポーラさんに任せます」

「勿論! 那珂ちゃんがバッチリ護っちゃうからねー! でもホントのところ那珂ちゃんも夜戦に参加したかったかなー!」

「夜戦の予定はないので見送りです、また次の機会を待ってください」

 

 どうして那珂は夜戦狂なのか。川内型の血でも騒いでいるのか。まあどっちでも良い。ポーラと二人……とか言っているが、多分ポーラは基地内にいない。だから防衛は実質那珂単独となる。

 

「ん? どーしたの卯月ちゃんそんな顔して」

「いや、一人で防衛って、大丈夫なのかぴょん。いくら敵が殆ど来ないって言っても……」

「全然大丈夫! 夜の那珂ちゃんはキラッキラだからね!」

 

 桃の口癖がちょっと移っていた。それはさておき。少し不安になる卯月の肩を球磨が叩いた。

 

「本当に大丈夫だから安心するクマ」

「ホントかぴょん?」

「事実だクマ、夜戦の那珂は本当に()()だクマ。安心して良いクマ」

 

 無敵だと球磨は告げる。ここまで強い言葉を聞くのは初めて。その発言をこの場の全員が肯定している。

 そこまで強いのか。

 よく考えれば、卯月は那珂と一緒に夜戦をしたことがない。駆逐艦や軽巡は夜戦こそ本番だと言う。なのに一回も共闘したことがないのは作為的なものを感じる。

 

「卯月ちゃん早く()()()()()()、那珂ちゃん、卯月ちゃんと一緒に夜のライブをしたいから! それに新人ちゃんにも見て貰いたいしー、絶対生きて秋月ちゃんを連れて帰ってね、那珂ちゃんとの約束だよ!」

 

 約束をしない理由が特にない。卯月は差し出されたその手を強く握り返した。

 ──でも、一緒の夜戦をするのに、どうして強くなる必要が? 

 その疑問を言う時間はもうなかった。輸送艇から『早く乗り込むかもー!』と秋津洲の声が響いてくる。

 

「ちょっと卯月、薬は飲んだの」

「一々うるさいぴょん。効果は知らんけど飲んだぴょん。戦闘中に発作は起きない……筈だぴょん」

「起こしたら気絶させて良いわよね?」

「オーケーぴょん。起きる訳ないけど」

 

 精神安定剤は服薬済み。戦闘状態に突入すれば、安心して戦える筈だ。

 艤装は装備した。貰ったハンドガンも腰のホルダーに入れた。首輪型の気絶装置もキッチリ装備。最後に欠かせない物。形見のハチマキで髪を纏めて準備完了。

 満潮もまた、マフラーのような長い布を首元に巻いた。これで全員準備完了だ。

 

「では出撃致します。皆さまご尽力を」

 

 淡々とした不知火の一言と共に、卯月たちは輸送艇へと乗り込んだ。

 

 

 *

 

 

 輸送艇で送られている間、不知火により簡単なブリーフィングが行われた。

 秋月のいる位置は既に絞り込みが完了しており、確認でき次第そこへ降下するということ。以前交戦することになった渦潮のある海域は避け、戦い易い場所での接触を予定している。

 

 また前回同様、多数の顔無しが出現すると想定されている。空母級も出る上に、索敵外の場所から鈴谷(仮)が空爆を仕掛けてくるのは明白だ。

 まず相手取るのを秋月一隻にしなければならない。その為に、迅速に顔無し共を始末するのが重要だった。

 

 勿論顔無しはそう簡単に始末できる相手ではない。だが、数回の交戦を得て大まかな動きは把握できている。

 

 問題はそれが終わるまで、秋月を抑えることができるか否かだ。結果、かなり苦しい選択をせざるを得なくなる。

 

「卯月さんと満潮さん、二人で秋月の注意を引いてください」

 

 あのバケモノをたった二人で抑えなければならない。秋月の戦闘力を知る卯月たちは、その任務の困難さに黙り込む。下手に『はい』と言えるような相手ではない。だが、『いいえ』という選択肢は最初からない。

 

「秋月と最も戦闘しているのはお二人方、囮として動けるのは貴女達だけです。良いですね」

「無茶言うわね。了解するけど」

「うーちゃんも了解だっぴょん」

 

 何も撃破する必要はない。時間を稼げば良いだけの話。貰った対策武器を使えばそれなりに戦えるだろう。

 でも、それなりでは満足できない気分でもある。

 

「……殺したいぴょん」

 

 聞かれないよう小声で呟く。戦艦水鬼を殺された時から秋月への憎悪は高かったが、何度も退けられたせいで、屈辱による怒りまで上乗せされていた。捕獲任務だから殺す気がないだけ。そうでなければ殺す道以外考えられなかった。

 

 以前と比べれば卯月は成長しているように見える。前の卯月だったら秋月の名前が出ただけで怒り狂い暴走していただろう。殺意が剥き出しになるのは秋月を目の前にした時だけ。感情のコントロールが上手くいくようになっていた。

 

 しかし、これは成長なのか。

 普段は表に出さないだけで、その実、一応は被害者の秋月を、救おうとする気が絶無となっているのは、艦娘としてどうなのか。

 

 この疑問に答える者は、この場にいる筈もなかった。

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