前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第125話 物量降下作戦

 秋津洲の操縦する輸送艇に乗せられて秋月の潜伏する海域に挑む卯月と満潮。同時に出撃していたのは、前回から引き続き熊野と飛鷹。加えて前回いなかった球磨と不知火。計六隻が狭いカーゴ内に詰め込まれていた。

 

 全員戦場には慣れているが緊張している。秋月と正面戦闘しないといけない卯月と満潮はかなりこわばっている。だが一番緊張しているのは他の誰でもなく、熊野だった。

 

「熊野さん、めっちゃ動揺してるよね……」

「……当たり前でしょ。もしかしたら実の姉と戦わないといけないのよ。どれだけ苦しいかアンタ分からないことはないでしょ」

「だよね……」

 

 彼女に聞こえないよう小声で喋る。原因は満潮が言っていた通り。秋月の後方にいる鈴谷(仮)が出てきて交戦する可能性があるからだ。

 システム同士で()()()をする以上、出てこれない可能性は高い。しかし既に敵がこの欠陥に対処してしまっていることはあり得る。

 

 それが、早めに決着をつけなければいけない理由だ。あんなレベルの怪物二隻に挟まれたら勝ち目がない。生還の可能性さえ激減する。基本は各個撃破。それを最速でやる。時間経過と共に成功率は下がっていくのだから。

 

「……出てきたら、熊野戦えるのかしら」

「それは心配してもどうにもならないぴょん。でも大丈夫。前聞いた時戦えるって言ってたから」

「そんなの、実際相対しないと分からないじゃない」

「うーちゃん散々嘘は嫌いって言ってるぴょん。熊野さんもそれは知ってる。だから嘘は吐かない。戦えるって言った言葉に嘘はないんだぴょん」

「そんなメチャクチャな」

 

 むしろこれで嘘だったら殴ってやる。グーでぶっ飛ばしてやる。私の前で嘘を吐いたのだからその代償は大きい。

 ましてや熊野とは以前()()()()()()と約束までしているのだ。絶対に虚偽は言わない。言わせない。

 そう話している時、不知火がゴホンと咳ばらいをした。

 

「お二人ともそろそろ戦闘準備に入って下さい。お喋りは終わりです」

 

 もう秋月のいる海域が近づいていた。しかし不知火の言い方に卯月は疑問を覚えた。

 

「はーい、降下準備に入るっぴょん」

「いえ戦闘準備で」

「……ぴょん、なんで?」

 

 降下ではなく戦闘。これはどういうことか。ふと嫌な予感がして卯月は窓から外を見た。空はもう夕焼けに染まっている。地平線に沈んでいく太陽がかなり眩しい。加えてかなりの高高度を飛んでいるようだ。

 そして眼下の海域は紅く染まっている。深海棲艦の支配海域となってる証拠だ。とはいえ周囲に敵影はまだ見えない。

 

「この先に秋月の率いる艦隊がいるわ。偵察機を出して確認してある。もう撃墜されちゃったけど」

「えっ、じゃあこの輸送t……二式大艇も不味いんじゃ」

「ギリギリ秋月の索敵範囲外です」

 

 一応セーフ。しかしいつ戦闘状態に入ってもおかしくない状況だ。

 

「良いですか、まずはあの取り巻きの空母を沈めます。イロハ級の空爆に構っている余力はありません。目一杯の火力を叩き込んで下さい」

「……一応聞くけど、どうやって?」

「奇襲です」

 

 と言った途端、突如輸送艇にあるまじき爆発的な加速が起きた。いきなりの勢いに卯月は輸送艇の後方へ叩き付けられる。

 何をしたのかと言うと、機体を一気に下へ向け、重力加速を行ったのである。同時に秋月の射程距離内に入る。攻撃が始まったことを示す閃光が煌めく。

 

 あり得ないと卯月は叫ぶ。

 いくら秋津洲が天才的なパイロットでも、輸送艇で防空駆逐艦に接近するのは自殺行為でしかない。これでは奇襲が成り立たない。

 だが、そんな心配は杞憂だった。加速をかけたのは輸送艇を接近させる為ではなかったからだ。

 

「総員戦闘準備、パラシュートは合図があるまで解放禁止!」

「まさか!」

『行ってらっしゃいかもー!』

 

 輸送艇が突然180度ターンを描き、遠心力で更に吹っ飛ばされ──同時にカーゴが解放された。

 

 加速と遠心力がかかった状態で、そのまま遥か上空に放り出されたのである。

 輸送艇を加速させたのはこの為。

 中にいる卯月たちを高速で撃ち出すための加速。本当ならカタパルト等があれば良かったのだが、残念ながら用意できる時間がなかった。

 

「おぁぁぁぁ!?」

 

 この前科戦線に来てから何回も空中降下をさせられた。そのどれよりも速い高速降下を受けて卯月の顔面が酷いことになる。

 しかしそんなことを気にしている暇はない。

 この一瞬で卯月たちは秋月の射程距離内に入ってしまったのだ。

 

「敵の対空砲火来ます! 備えてください!」

「空中でどうやれとっ!?」

「砲撃すれば多少は動けます! やってください!」

 

 空中なら踏ん張ることはない。反動で動くことはできる。だが秋月のようには動けない。あれは主砲の威力が異常だったからできた芸当だ。一二発なら回避できるが、それ以上はムリだ。無茶振りに卯月は泣き喚く。

 

「総員、斉射準備! 合わせて一斉射、空母を纏めて沈めます!」

「いやー!?」

「卯月さんいい加減静かにして下さい! 給料減らしますよ!」

 

 強烈な脅しに卯月は沈黙した。

 ただそれでも、無防備な状態で秋月の防空網に突っ込むのは自殺行為でしかない。そんなのは不知火たちも理解している。無策で突撃をしかけるつもりは毛頭ない。既に戦術は構築されていた。

 

『この秋津洲からプレゼント・フォーユーかもー!』

 

 秋月とは反対方向へ撤退していく輸送艇から、秋津洲の快活な声が響く。同時に輸送艇後方からミサイル弾が高速で撃ち出された。尚艦娘の兵装ではない。ただのミサイル、けれども本物のミサイル。

 自由落下する彼女たちを余裕で追い抜き、ブースターを吹かしながら真っ直ぐに飛んでいく。

 

『これが二式大艇ちゃんの力! 思い知るかもー!』

「ミサイルを発射できる二式大艇なんぞある訳ねーだろっぴょん!」

「舌噛みますよ卯月さ」

「ひぎぃ!?」」

 

 遅かった。思いっ切り舌を噛んだ。痛みで卯月は涙を流す。でも突っ込まずにはいられなかった。秋津洲はあれでまだ輸送艇を二式大艇だと思っているのか。狂人ここに極まり。

 しかし、それでも秋月には届かない。

 本来ミサイルは目視で迎撃できるような代物ではない。だがD-ABYSS(ディー・アビス)により超強化された秋月は、動体視力のみで補足してくる。

 

 馬鹿ですね──とでも言うように高角砲が火を噴く。次の瞬間ミサイルが全て撃ち落とされた。一瞬で無力化されてしまう。

 だが秋月は油断しない。この程度の兵器迎撃されると分かっている筈。更に何かを仕掛けてくる可能性は高い。

 

 秋月の考えは当たっていた。予想可能だった。

 

 しかし回避不可能なものだった。

 

 迎撃されたミサイルから()()が飛び出してくる。中に爆発物はなかった。三式弾のように代わりの物が詰め込まれていたのだ。

 入っていたのはスモークグレネードだった。

 ──但し、それこそ、三式弾の如く、無尽蔵に突っ込まれていた。

 

「在庫処分も兼ねてますから。どうぞお気遣いなく堪能ください」

 

 深海棲艦との戦争が始まり、すっかり消費量が落ち込んだスモークグレネード。故に安価で仕入れることができ、贅沢に使うことができた。

 秋月の砲撃は精密。掌サイズのグレネード弾でさえ、正確に撃ち抜き次々に迎撃する。しかし、それでも多過ぎた。技量云々の問題ではない。物量的に押し切られてしまう。

 

 嵐のような防空網をゴリ押しで突っ切り、グレネード弾が着弾する。次々に湧き上がる煙幕があっと言う間に秋月達の視界を覆い尽した。

 これで視界は封じられた。

 対空電探を持っている秋月は例外だが、他の空母たちの行動は制限された。上空から見ていた卯月たちには、直前の位置が頭に叩き込まれている。

 最早良い的でしかない。

 

「総員、撃ち方始めッ!」

 

 不知火の号令と同時に、この戦闘において最大火力を全員が叩き込んだ。

 

 主砲、機銃、艦載機、挙句空中から魚雷を投げつける。それでも秋月は迎撃してくる。高性能な電探のせいで、視界が使えなくても狙いが正確だ。

 だから、更に物量を増やしにかかる。

 

「軽巡以下はWG42、熊野さん三式弾、飛鷹さん三号爆弾投下!」

「了解……潰れなさい!」

「たっぷりとお浴びなさいな!」

 

 ロケットランチャーに、内部に大量の弾子が詰め込まれた三式弾。更に三号爆弾を投下できる艦爆が突撃。秋月がそれを迎撃した瞬間、爆発と同時に弾子がばら撒かれる。

 秋月の電探は、それら全てを正確に捕捉してしまう。

 敵影の大きさで、弾子か砲弾かは判別できる──しかし、物量が酷過ぎた。結果、レーダーは弾子を示す光点で埋め尽くされてしまった。卯月たちの光点はそれらに紛れて分からなくなってしまった。

 

 そもそもの話、弾子や機銃なんて本来なら捕捉しなくて良い存在である。

 だが秋月はそれら全てを迎撃する戦術を取っていた。

 それを成立する為、砲弾や機銃も捕捉できる程レーダーの精度を上げていた。それが仇になったのだ。

 

 だったら視界を開けば良い。目視で迎撃すれば良い。

 

 秋月は砲撃の風圧でスモークを払おうとする。そこへ追加のグレネードが突っ込んで来る。三式弾と三号爆弾の中にもスモークグレネードが紛れていたのだ。

 

「追いグレネードはいかがですかー!」

 

 卯月の奇怪な叫びに苛立つが、実際打つ手がない。次々と撃ち込まれるスモーク弾のせいで視界を確保できない。レーダーもばら撒かれた弾子のせいで役に立たない。防空もクソもない。いくら秋月と言えども捕捉できていない状態での砲撃は、低精度にならざるを得ない。

 

「パラシュート開放! 減速したら落とされる前に着地、視界を確保される前に降りて下さい!」

「サーイエッサーっぴょん!」

「いい加減叩き潰してやるわ、秋月!」

 

 その勢いのまま一同は降下しようとする。しかし、そこで秋月が動いた。パラシュート解放により減速した。つまり他の弾子と違う動きになる。そこを見破られた。秋月は卯月たちを捕捉してしまった。

 

「見えました。全員空で散って下さい!」

 

 卯月の地獄耳がその一言を捉える。自由に動けない空中で、しかも至近距離で砲撃が来てしまう。回避は不可能だ。

 逃げられない、死んでしまう! 

 大慌てで卯月は不知火目がけて叫んだ。

 

「ばばばバレたっぴょんどうするぴょん!?」

「問題ありません、熊野さん!」

「お任せくださいまし。主砲一斉射、とぉぉぉうッ!」

 

 その合図と同時に、熊野が主砲を秋月周辺へ放つ。しかしどれも当たらなかった。

 今のは一体。何故一発も当たらなかった。

 肌を撫でるだけに終わった爆風を受けて疑問を覚える秋月。だが答えは、直ぐに現れた。熊野の砲撃がスモークを吹き飛ばしたからだ。

 

 これにより秋月の視界が確保された。命中精度は更に上がる。

 これで確実に仕留められる。

 そう考えた秋月は、照準を上空の卯月たちへ向け敵を凝視した。それが仇になるとは知らずに。

 

 次の瞬間、秋津は何も()()()()()()()

 

「な!?」

 

 確かに熊野はスモークを吹き飛ばした。秋月は視界を確保できた。

 だが、卯月たちの背後には──強烈な光を放つ『夕日』があったのだ。視界不良の状態からいきなり強力な光源を直視したせいで、秋月の目は一瞬だけ潰されてしまったのだ。更には卯月たちの影が夕日に覆い隠され、更に視認困難となる。そのショックで電探を確認する余力さえなくしてしまった。

 

「着地成功!」

「戦場へ到達だクマ!」

「ふう、一仕事完了ですわね」

 

 秋月を無力化した一瞬を突いて一気に着地。秋月の防空網を物量のゴリ押しで正面突破してしまったのである。

 見事な三転着地を決めた不知火は、頭をゆっくり上げながら彼女に話しかける。

 

「何事も戦いは物量です。強力な個は、物量で圧殺するに限ります。そうは思いませんか、秋月さん」

「……タイマンでは私に勝てない。そう認めたってことですか」

「はい。戦場ですから。タイマンなんて考えはイ級に喰わせました」

 

 着地の衝撃も加わって、広がっていたスモークが完全に晴れる。

 大量の弾幕を用いた空中からの奇襲作戦。

 その前までは、空母のイロハ級がかなりいた。正面からぶつかれば確実に制空権まで奪われた。しかし今ここにいる空母は、たったの2隻だけだった。

 

 空母だけではない。空中からの攻撃をまともに受けて、連れてきた顔無したちもかなり沈められてしまった。戦いが始まってさえいない時点で、戦力を大幅に減らされた秋月は、苛立ちを隠そうともしない。

 あろうことか、その残骸へ、主砲を向けた。

 

「なんてザコ、汚物共が、こんな奇襲でくたばるなんて、地獄へ落ちて下さいよ」

 

 残骸の顔無しを撃ち殺そうとした瞬間、満潮が走りだそうとした。卯月は無感情にそれを眺める。いずれにせよ間に合わない。一歩踏み出した瞬間、その顔無しだった残骸は塵芥へと帰ってしまった。

 

「ああちょっとスッキリしました……おっとお待たせしました、少し掃除をしてまして」

「掃除って……仲間でしょ、それでも」

「は? 満潮さんこそ何を言っているんですか。こんな物のは手足の生えた特攻兵器です。突撃して自爆もできないんじゃ、死ぬしかないですよね? むしろわたしを少しスッキリできたんですから、ソレも本望でし」

「隙ありぃぃぃぃ!」

 

 と卯月がいきなり主砲をぶっ放す。同時に魚雷も放つ。ついでに機銃も一斉射。

 構えるまでの動きが見えていたから秋月はすぐ反応、砲撃は迎撃、魚雷は踵卸からの津波で無力化、機銃は回避するまでもなく艤装で受け止める。当然無傷だ。

 

「いきなり何するんですか。秋月は満潮さんと話していたんですが」

「満潮オメーバカかっぴょん!?」

「な、なによ」

「今更対話の余地なんてあるか! 雑談はもう十分してきたぴょん。こいつがクソ下衆ビチグソ女ってのも分かりきったこと、なのに何悠長に馬鹿な会話してんだぴょん!」

 

 凄まじい暴言の嵐に呆気にとられる満潮だが、確かにと自戒した。

 この秋月がクソなのは今に始まったことではない。言葉で確認しようとした私は確かに愚かだった。会話の必要性は全くない。

 

「もういい加減たくさん……今日でお終いだ、ケチョンケチョンにしてそのニヤケ面をデスマスクにしてやるぴょん! 顔無しも、お前も、全員皆殺しだぁ!」

「それはこちらのセリフです、裏切り者は今日こそ始ま」

「ファイヤァァァァ!」

「ああもう!」

 

 宣言通り。聞く気ゼロ。秋月の妄言なぞに耳を貸す必要は絶無。奇襲は成功、しかしまだ航空戦力が潜んでいる可能性は大。

 油断ならない状況下の元、秋月との三度目の戦いが幕を開けた。




三式弾+三号爆弾+WG42+スモーク弾+砲撃+魚雷+機銃+爆雷+艦載機の機銃アンド爆弾アンド魚雷の一斉投下。
ここまで一斉に放り込めばレーダーなんてないも同然。
戦いは数だよ兄貴!

……秋月のレーダーが鈍感だったら詰んでたのはナイショ。
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