前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第126話 秋月壊①

 空中からの奇襲を成功させ、航空戦力を大幅に削ることに成功した卯月たち。しかし更に奥に控えているであろう鈴谷(仮)は健在。後方に他の空母がいる可能性も大。顔無しもまだまだ健在。油断ならない状況の中、卯月の砲撃を合図に戦闘が始まった。

 

「脳漿弾けて、くたばれぴょん!」

 

 殺意を抑える気はゼロ。

 任務だから救出はする気はある。逆に言えば死なない程度なら何をしても良いということ。洗脳されている被害者だとか、そんなことはどうでもいい。徹底的に痛めつけなければもう気が済まなかった。

 

 しかし、憎悪だけで勝てるのなら苦労はない。

 正確に秋月を狙った砲撃は、逆に軌道が読みやすい。あっさり迎撃されてしまい、一発も届かなかった。

 

「何度も何度も何度も、そんな半端な速度の砲撃が、この秋月に当たる訳ないでしょう。学習能力のない馬鹿ですね」

「そのバカを三度も殺しそこなってるのはどこの誰だったかしら」

「減らず口を!」

 

 立て続けに満潮も砲撃戦に参加。二人掛かりで攻撃して注意を引き付けてる。その間に飛鷹たちは、事前の作戦通り顔無し掃討のため動きだす。それまではたった二人で秋月を引き付けなければならない。

 できるかどうか不安は大きい。それでもやらなければならない。僅かな不安を満潮は呑みこんだ。

 

「アンタ程度に勝てなきゃ、私の存在意義がないのよ……!」

「存在意義とかいきなり何言ってんだぴょん」

「独り言に一々突っ込むな!」

 

 卯月の恐るべき地獄耳にキレる満潮。その一瞬、卯月は満潮の方を向いていた。

 

「慢心していますね貴女」

 

 視界に入っていない状態から放たれる超高速の砲撃。もう見てからでは間に合わない。

 しかし、卯月は最初からそれを捉えていた。

 砲弾が給弾され、装填される音が完全に聞こえていた。態々見なくても反応可能、卯月は余所見したまま攻撃を回避した。

 

「このうーちゃんの地獄耳を忘れたのかぴょん! お前の攻撃なんて、もう当たんないぴょーん!」

 

 何も聴覚だけではない。鎖帷子を着込んだ他、地獄のような訓練を潜り抜けた成果か、卯月の動きは以前よりも格段に良くなっている。まさに兎のようにちょこまかと跳ねまわり、狙いにくい動きとなっている。

 良い感じに攪乱できていることに卯月は調子に乗り、秋月をおちょくっていく。

 

「ホレホレ砲撃が止まってるぴょん。まさかうーちゃんの美貌に見惚れて……!? キャ! 照れちゃうー」

「ふざけないでくだ」

「隙ありじゃ死ねー!」

 

 反応した途端コレである。そもそも会話しているようで、卯月は会話なんてしていない。今更秋月と話すことなんてない。頭の中にあるのはどうやって叩きのめして、痛めつけて、叩きのめすか。それしかない。ふざけた態度もその一環でしかない。

 

「やりにくい。ですが、その程度では」

「私を忘れるな! 今日を命日にしてやる! そのニヤケ面を恐怖に染めてやるわ!」

「戯言は止めて下さい。殺す気もない癖に」

 

 その一言に満潮は少し顔を顰めた。

 卯月とは違い、満潮は()()()にはなれなかった。殺すつもりでは戦えても、本気の殺意を持っては戦えない。あくまでD-ABYSS(ディー・アビス)による犠牲者、その認識が強かった。

 

 だが、それを改めるつもりは毛頭ない。

 

「殺さないわ。だから死ぬ寸前まで痛めつけるのよ、こっちだっていい加減苛立ってんだから!」

 

 何度も何度も負けて撤退する羽目になった。満潮も相当なストレスを溜めていたのだ。殺意はなくとも敵意はある。今更傷つけることに抵抗なんてある筈がない。

 その叫びと同時に満潮も砲撃を放つ。前の戦いで挟み込んでも大して意味がないのは分かっている。なら火力を集中させた方がマシ。卯月と同じ方向から、砲撃を重ねて放った。

 

 二隻同時かつ着弾箇所はほぼ同じ。風の動きが悪ければ、お互いの砲撃がぶつかり合ってしまうような距離。

 だが、嫌というほど訓練したのは無駄ではなかった。

 卯月と満潮の砲撃は、お互いにぶつかることなく、全弾同時に秋月の元へと殺到したのだ。

 

 だが、それでも所詮は駆逐艦二隻分の砲撃でしかない。

 

「長10センチ砲ちゃん、やっちゃって、いい加減ここで殺しちゃって、秋月だってうんざりしてるんですから」

 

 主と同様、悪意に満ちた光が超10センチ砲ちゃんの目に灯る。次の瞬間、強烈な爆風と共に砲撃が全て破壊された。

 今までと同じだ、圧倒的連射速度による対空砲火。それによって二人の砲撃は全部落とされてしまう。

 

 しかし撃つのは止めない。砲撃すれば迎撃してくるが、その際反動で動けなくなる。回避行動ができなくなったところへまた攻撃を浴びせ、迎撃を誘発する。そうすればいずれ弾切れに追い込むことができる。

 

 今までの戦いでは隔絶した能力差のせいでそれができなかった(主に卯月)が、度重なる戦闘で動きに慣れたのと、練度向上が相まって、対応できるようになっていた。僅かな砲身を動きを頼りに射線から逃れ、再度狙いを合わされる前に攻撃を仕掛け、それを抑え込む。

 

「……なるほど、強くなっていますね。無駄な戦いをしに来た訳ではな」

「喋っている暇はねえぴょん!」

「いえありますよ」

 

 奇襲気味に放たれた雷撃だったが、回し蹴りで海面を叩かれた衝撃で軌道が逸れてしまう。分かりきっていたことだが話している最中の奇襲は何度も通じない。ただの嫌がらせだったが、効かないのはそれはそれでイラっとくる。

 今の宣言通り、二人の攻撃を捌きながら秋月は口を開く。

 

「前より勝率は上がっている、そう見込んでいるんですね。ですが甘い。努力とかそんなものでどうにかなると思っているんですか?」

 

 明らかに小馬鹿にしている様子に、卯月は更に怒りを高める。

 

「喧しいダラダラ話すなバカ纏めろぴょん!」

「パワーアップしているのは、秋月も同じということですよ」

「……ぴょん?」

 

 瞬間、秋月の纏うオーラが、一段と強く輝き──赤色が()()へと変色した。

 

 不味い。絶対に不味い! 

 

 これまでの秋月と違うと本能的に理解する。背筋が冷たくなる。生存本能が警鐘を鳴らす。卯月たちは攻撃の手を一時中断し、一気に距離を取る。

 その判断は正解だった。

 しかし、それは無傷で済むという意味合いではなかった。逃げないよりマシという意味合いしか持たない。

 

「一網打尽です!」

 

 秋月が砲撃を連射した。今までと同じことだった。だがその規模が今までと比較にならない。

 

 それは最早砲撃ではなく、巨大な()だった。

 

「がっ……!?」

 

 正確には壁ではない。壁と同然になるまで高密度と化した砲撃の塊だ。最も喰らう側からしたら壁と変わりない。

 瞬きする一瞬で何十発放てばこうなるのか。既に秋月の砲撃能力は人間が近くできる領域を越えてしまっていた。

 どう回避すれば良い。回避なんてできるのか。卯月は必死で対処方法を考える。そうしている間にも壁が迫る、既に数センチの距離である。

 

「喰らってたまるか! こんなインチキ攻撃、私は認めないわ!」

 

 先に動いたのは満潮だった。

 満潮は壁の中央に狙いを済ませ、砲撃を立て続けに()()発射した。その狙いに気づいた卯月は二発目に重ねて同じ場所目がけて砲撃を放つ。

 一発目の攻撃が当たるが、異常な速度と威力に弾かれる──だが、鉄塊同士の正面衝突、僅かながら亀裂が入る。

 

 その亀裂に二発目が直撃した。

 

「密集体形なんて、全部誘爆させればお終いでしょうが!」

 

 壁のように密集させている。つまり一発が爆発すれば誘爆を狙える。そうでなくとも、爆発の衝撃で陣形が崩れる。砲弾同士がぶつかり合って逃げる隙間が生まれる。見た目はえげつないが冷静になれば対処できる。

 

 予想通り、砲弾が破壊され爆発が発生、周囲の砲弾は壊れなかったが陣形は崩れた。黒煙に隠された僅かな安全地帯へ二人は非難する。

 そのほんの一瞬、卯月たちの視界は黒煙で塞がる。耳も爆発で隠されてしまう。

 秋月はその瞬間を見逃さなかった。

 

「これが一回しか撃てないとお思いで?」

 

 その安全地帯目がけて二射目の『壁』が発射された。発射音は爆炎で聞こえていない。黒煙で視界は阻害。これが来ていることに気づけず、卯月たちは潰されることになる。秋月はそう思った。

 なのに卯月たちは、再び主砲を同じ場所へ構えた。

 

「えー聞こえてるぴょーん。カッコつけちゃって、キャー恥ずかしいっぴょんー」

 

 秋月は卯月の地獄耳を、少しばかり舐めていた。

 

 爆炎の中でも、その激烈な壁弾幕の発射音はしっかりと聞こえていた。音さえ聞こえていれば大まかな場所は分かる。卯月の至近距離にいるおかげで、満潮もだいたいの動きが察せられる。再び息を合わせて、二射目目がけて攻撃を二重で撃ち込む。

 

 一つの砲弾を破壊できれば連鎖爆発を起こせる。二射目も破壊に成功した。黒煙の中からでも卯月の地獄耳は攻撃を正確に捉える。

 

「それが何時まで持つか見ものです」

 

 しかし、秋月の攻撃はこの程度では終わらない。パワーアップに応じて残弾数まで増えている。こんな大量砲撃を行っても尽きる気配がまるで見えてこない。

 挙句、元から酷かった砲撃速度まで上がっている。密度が高すぎて隙間を潜ることも不可能。人一人分の隙間もない。

 

「ヤバイヤバイヤバイ! こんなの何時までも持たないぴょん!」

「耐えるしかない、残弾が増えてるっぽいけど、向こうだってこんな攻撃長時間はできない筈よ!」

「はいそうです。なので改良しました。()()()()

 

 パチンと指を鳴らす。海中から何かが浮上してくる。

 それは前の戦いでも見た輸送ワ級flagshipだった。以前は触手を使って内部へ取り込み安全な補給を可能にしていた個体だ。

 

「何をするきだぴょん、また変態行為に及ぶ気か!?」

「放置する理由はない! 今すぐ潰さないと……!」

「できるとお思いで?」

 

 満潮の言う通り今潰さないと確実に面倒なことになる。何とか攻撃を通したい。だが防壁と化した高密度砲撃がそれを許さない。次から次へ。即死トラップの迫る壁めいて矢継ぎ早に飛来する攻撃を捌くので精一杯。

 

 そうこうしている間にワ級が動きだしてしまう。ワ級は艤装にくっついている腕を外す──それは腕ではなく触手だった──そして、その触手を、秋月の艤装へ繋げた。

 接続時に何かがあるのか、秋月はビクンと身体を震わせる。

 

「んあっ!」

 

 嬌声を放った後も秋月は心地よさに浸っていた。強烈なものではないが、ぬるま湯に浸っているような心地よさが続く。魂の奥底まで深海に染め上げられた秋月にとっては、そのエネルギーを注ぐ補給行動そのものが、快楽として感じるよう調()()されていた。より自ら堕落を望むように。

 

「がーイライラする! 戦場でどこまでもふざけやがって!」

 

 卯月の発言に信じがたい顔をする満潮だが突っ込んでいる暇はない。あの触手はなんなのか。何故艤装に繋がっているのか。少し考えれば分かること。単純だが故に恐ろしいことが起きていた。

 

「あいつ、戦いながら補給してる!?」

「はっ!?」

「あれじゃ弾切れなんて起こせないわよ!?」

 

 言わずもがだが補給は本来安全な場所で行うものだ。補給船が極めて脆弱だから。更にどちらかが動いていたら補給作業が行えない。

 

 しかし、この秋月の場合は例外が成立する。

 まず秋月の防空能力が異常であること。補給艦への接近・攻撃を全て阻むことができる。更に秋月がその場からまず動かない戦術を取ること。お蔭で安定して作業ができるのだ。

 

「どうしましたか。補給艦の残弾も無限じゃありません。弾切れは起きますよ。それまで頑張って耐えて下さいね!」

 

 狙っていた作戦がほぼ不可能になったことが嬉しくて仕方がないのだろう。珍しく声を上げて下衆な笑顔を浮かべる秋月。

 追い詰められる程卯月の激情は膨れ上がっていく。秋月への怒りに加えて自身への不甲斐無さも加わっていく。

 

 今しかないのか。ギリギリで一瞬迷う。一度解放したが最後、体力の限界を超えるまで任意解除はできない。

 

 しかし今のままでは、耐えきることができない。残念ながらこの砲撃を捌き切れるだけの火力が絶対的に足りていない。

 

「満潮」

「なに!?」

「今から、キレるぴょん」

 

 鬱憤はもううんざりする程溜まっていた。何度も撤退する羽目になったせいでストレスはたまり続けていた。今もそうだ。ふざけたチートで暴れ回り、貰った力で得意げになっているのが気に入らない。

 何よりも、ここまで一方的にやられている、自分自身が許せない。

 耐えて、耐えて、今まで耐え続けた激情を、卯月はこの瞬間──爆発させた。

 

「が……ああアアアアッ!」

 

 身体が一気に熱くなる。自分自身が燃え尽きそうな程、怒りと憎悪が溢れ出す。一度開けたそれはもう止まらない。人格も記憶も、何もかもを根こそぎ呑み込んで、全てを怒りで塗り潰されていく。

 

「アっ!? が、んあ!?」

 

 同時に流れ込んでくるのは、今度は気がおかしくなりそうな快楽だ。出力の強制向上のお蔭だ。秋月のものと拮抗する出力によってエネルギーを取り込むことに成功したのだ。

 だがそれは、深海の悪意が流れ込むことを意味する。

 怒りとないまぜになり、黒い感情が無理やり流し込まれる。怒りで自壊しかけた心が一気に浸食される。

 わたしが消えそうになる。怒りと快楽で壊れる。

 

「さっさと制御しなさいよノロマ! 気持ちの悪い嬌声なんて聞きたくないのよ!」

「……ッ!!」

 

 それら何もかもが、殺意へと収束されていく。怒りも快楽もどうでも良い。全ては目的達成の為。秋月抹殺のため。目の前の浸食された奴を殺すことが全て。

 感情を満たすため目的が生まれる。目的達成の為感情が統率される。目的──即ち意志。その究極系である『殺意』が生まれた。

 

「──D-ABYSS(ディー・アビス)解放!」

 

 ブワッと衝撃波が戦場を突き抜けた。

 

 一瞬だけだがそれに怯んだ秋月。作動できなくした筈のシステムが動いていることに、少なからず衝撃を覚える。

 

 紅い眼光、紅いオーラ。深海棲艦の如き気配と、重苦しく鋭い殺意を全身に纏う卯月がそこにはある。

 

「お待たせぴょん!」

 

 しかし口調だけはいつも調子で、卯月は二パっと笑っていた。




卯月「しかしシステム解放の度に快楽が走る仕様はなんとかならないのか。毎回毎回艶めかしい嬌声が響いたら、皆うーちゃんに魅了されちゃうぴょん。うふっ」
満潮「耳が腐る声ね」
卯月「シヌガヨイ」

しかし敵からしたら、相手がいきなり嬌声を上げたら、直後殺意の化身が立っていたとか、そんな感じの恐怖映像に。ある意味有効か。代償はうーちゃんの評判。
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