前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第127話 秋月壊②

 深紅のオーラを纏い、深紅の眼光を光らせ、漆黒の殺意を纏い、秋月と相対する。

 D-ABYSS(ディー・アビス)を解放させながらも悪意に呑まれず、全ての感情を糧として殺意その物と化した卯月がそこに立っていた。

 砲撃の手が一端止まる。油断ではない。秋月自身が極めて不快だったから。

 

「……気に入りませんね」

「なにがだぴょん? テメーと同じD-ABYSS(ディー・アビス)。それを使っていて、何が不満だぴょん?」

「卯月さんのような裏切り者がその力を振るっていることにですよ」

 

 秋月からしたらD-ABYSS(ディー・アビス)()()である。幸運にも『主様』に選ばれた自分たちに与えられた、至高の幸福と圧倒的な力。何物にも代えがたい快楽を得ることができる素晴らしいモノ。

 なのに卯月は違う。それを『主様』を抹殺するために使っている。一度は忠誠を誓った癖に尚裏切って牙を剥けている。頂いた力をくだらないことの為に使う裏切り者だ。気に入る訳がない。

 

「違うね、嘘を吐いたなお前」

「は、なにを」

「もう一つあるでしょ。使えない筈のD-ABYSS(ディー・アビス)を使えている。それがまた気にくわない。そうでしょ?」

 

 その指摘に秋月は口を閉ざした。それは肯定しているのと同じ。まさしくその通りだった。所詮は最弱の駆逐艦、システムを使ったとてたかが知れている。と言いたいが、それでもシステムの力は強烈。実際それで片足を潰されている。

 だから、作動できないよう対策をして貰った。周辺海域のエネルギーを全て取り込むことで、作動できないようにしたのだ。

 北上の予想通りだったのである。しかし気づかれるとは思ってもいなかった。こんなザコたちに気づかれたことも怒りの一つだった。

 

「嘘はいけないなぁー、嘘なんて吐かれるとねー、このうーちゃん……ますます殺したくなっちゃうな!」

 

 殺意に従い卯月が砲撃を放つ。たった一発。だが速度も威力も今までの比較にならない。秋月は即座に迎撃。撃ち落とすことはできたが、砲弾越しでも威力の違いが感じられる。システムの恩恵を存分に受けている。

 

「だからなんですか。知っているんですよ、秋月とは違って卯月さんのそれ、時間制限があるんですよね。水鬼を倒した時血を噴いて倒れてましたからね。所詮は一時的な力でしかな」

「その通り故に時間がないからもう殺すからね死ねっぴょん!」

「またですか!」

 

 またである。むしろ時間制限ができたことで余計に話しを聞かなくなっていた。

 

 秋月の基本戦法は変わらない。とてつもない密度の砲弾を一斉射、文字通り5~6平方メートルの疑似的な『壁』を作り上げ、それを相手が死ぬまで続ける。常に補給艦と繋がっているから弾切れの心配はない。

 

 だが、卯月のパワーアップは確実に戦局を一転させていた。

 

「どーしたどーした! さっきまでのエラソーな口ぶりはどうしたぴょん! ホラ言ってみろ、効きませんよーってな!」

 

 分厚い砲撃の壁が一撃で破壊される。連射速度が上がったせいで後続の『壁』も対処されてしまう。秋月も大概だから攻め込まれはしないが、押し込むことができない。それでも卯月だけなら現状維持ができる。向こうだっていずれは弾切れだ。

 

「私を忘れないでって、言ったでしょうが!」

 

 そこへ満潮のサポートが加わる。システムがない以上戦闘力は劣るが、経験は彼女の方が圧倒的に上。卯月が破壊した隙間から砲撃を突っ込み、秋月の行動を阻害する。雷撃による不意打ちを抑え込まれる。

 連携の習熟度も比較にならない程上がった。そこへシステムの強化。少しずつだが卯月たちが押しつつあった。

 

 何故そうなっているのか。いくらシステムの恩恵があってもあり得ないことだ。訝しむ秋月は不意に気づいた。

 自分の弾速そのものが、僅かに低下している。

 だから卯月たちに、対処され易くなっていたのだ。その原因は明らかだ。

 

「これは……力を奪われている……引き負けている……!?」

 

 卯月がエネルギーを取り込めているということは、秋月は取り込めなくなっているということ。取れる力が少なくなればその力は低下していく。一方卯月は強化されていく。アドバンテージが消えていく。

 

「このまま一気に叩き潰してやるぴょん! 行くぞ満潮!」

「わたしに命令すんなクズ!」

「……調子に乗らないでください!」

 

 押し込まれている。その事実が認められない秋月は吼える。

 

「仕掛けが分かったから何だと。そんな小手先がこの秋月に効くとでも!」

「いや効いてんじゃん」

「黙りなさい! すぐ引っ繰り返してあげます、このように!」

 

 秋月の身体が──纏うオーラが一層強くなる。同時に卯月は身体から力が抜けていく感覚を味わう。システムの出力を上げて押し返そうとしているのだ。

 それに対抗したい。しかし卯月は出力を自在にいじれない。艤装本体はできるがシステムのはできないのだ。

 しかしながら、その動作中は僅かながら動きが鈍る。秋月も秋月で自分の限界を越えないよう慎重にやらなければならないからだ。

 

「させるかぴょん!」

「援護する! さっさと始末してきて!」

「アイアイサー! 全てを出し切るっぴょん!」

 

 残ったエネルギーを燃やし卯月は最大加速で突撃する。追いつけない満潮はその援護に回り、迫る壁や雷撃を出来る限り減らしていく。全部は到底無理だが何度も戦った経験と培った連携で、必要な分は排除できる。

 そして出来上がった場所を駆け抜け、一気に距離を詰める。今まで取り込めていた力全部を出し切っただけあり、あっと言う間に秋月の眼前に迫った。

 

「取られる前に、その心臓もぎ取ってやるぴょん」

「減らず口を叩く口ごと頭を撃ち抜いてあげましょう」

「え? 鏡見たら?」

「……死ね」

 

 もうまともに取り合わなかった。一言殺意をぶつけて砲撃を放つ。無理矢理エネルギーを取り込んだお蔭で元の力に戻った結果、その破壊力は凄まじいモノへと変貌する。頬を掠めるだけで衝撃波が走り意識が飛びそうになる。

 

 だが飛ばない。卯月は気を失わない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。異常なまでの殺意は人体構造すら超えていた。

 脳が揺さぶられようがどうでもいい。主砲を秋月の目玉へ合わせて即発射。卯月の火力ではそういった場所にしかダメージが通せないのだ。

 

 その一撃が懐に入る前に長10センチ砲の片方が迎撃する。砲弾同士の爆発に吹き飛びそうになるも、殺意で堪えて突っ込む。黒煙の中、もう片方の長10センチ砲が旋回する音が聞こえた。そこ目がけて爆雷を投擲、その直後砲弾が発射された。

 卯月への直撃コースだったが、爆雷に当たったことで爆雷が爆発、その衝撃により軌道が逸れていった。

 

 この時点で、もう片方の長10センチ砲はリロードを終えていた。だからこそ卯月はそこへ魚雷を投げ飛ばした。

 秋月は受けてもダメージにならない。深海棲艦同等の外皮を持っているから。

 だが以前発覚したように、秋月の姿勢は極めて不安定だ。発射直後は反動に耐えるせいで余計不安定に。そこへ何か受ければ、即姿勢が崩れる。

 

 故に秋月は、取るに足らない魚雷でも迎撃せざるを得ない。迎撃自体は容易だがそのせいで一瞬、両方の長10センチ砲を使うことになってしまった。

 卯月はリロードしない。その時間が惜しい。武器なら主砲以外にもあるのだから。流れるような動作で()()()を取りだし切りかかる。狙うは眼玉。

 

「ショック死させてや……いや死ぬのはダメだったぴょん。死ぬほど苦しめてやる!」

 

 しかし、その一撃は届かなかった。

 

 ナイフの刃に触れないよう、腹の部分を手の甲で押しのけていたからだ。

 

「二度もやられませんよ! あんなのは御免です!」

 

 以前のアレ──目玉を爆発させて海水をぐりぐり練り込んだこと──は凄まじいトラウマになっていた模様。その分警戒している。同じ手は何度も通用しない。

 そして、そこで時間切れとなった。

 卯月から赤いオーラが失われた。エネルギーが全て尽きたのだ。もう強化されていない只の艦娘に戻ってしまった。

 

「残念でした」

 

 秋月は焦っていたが余裕のある下衆な笑みに戻る。長10センチ砲は両方もう使える。

 

「何か企んでいるようですがムダでしたね!」

 

 そして後方から満潮が迫っているのも電探で気づいていた。何を目論んでいるかは知らないが、ただの卯月と満潮なら、この距離からでも始末可能だ。長10センチ砲が対処してくれる。

 しかしまずは卯月から始末しようとする。何故ならばD-ABYSS(ディー・アビス)を勝手に使う裏切り者だからだ。

 

 が、その時秋月は見た。

 

 腰の懐に二本目のナイフが煌めいているのを。それのグリップを握る卯月を。秋月は警戒を何段階も跳ね上げる。

 だが片腕はまだフリーだ、振るわれても対処可能だった。

 それこそが卯月の目論見とは気付けずに。

 

「うーん、実に理想的反応ぴょん」

 

 それを見た時点で、卯月の策に嵌っていたのだ。

 

 突如、卯月は持っていた主砲を手放した。そして流れるような動きで制服の内側から拳銃を取り出した。妖精さんが搭載された拳銃を。

 

 迷いはない。即座に発砲された。

 

 秋月はその拳銃が只の銃でないと気づいていた。

 しかし気づけても対処できない。秋月の目線はナイフへ集中していた。そのせいで拳銃に気づくのがコンマ数秒遅れてしまったのだ。

 

 もっとも、そう反応すると卯月は予測していた。前回ので秋月はナイフにトラウマがある。取りだせば必ず警戒するし見逃さないだろう。

 逆に言えば、絶対にナイフ側に注意を逸らせるということ。

 

「迎げ──」

「間に合う訳ないだろぴょん」

 

 長10センチ砲は背後に満潮に、片腕はナイフを押しのけ、もう片腕は二本目にナイフ用に残していたせいで、咄嗟に動きを変えられない。

 間に合うとすれば長10センチ砲。だが、そうなれば背後の満潮が何かを仕掛けてくる。そうして見てしまったのはロケットランチャーを構える彼女の姿。

 

 あれは何だ。あのランチャーはなんなんだ? 

 

 武装を理解しようとしてしまう。疑問を抱いてしまう。それは当然致命的な隙となる。

 

 もう間に合わない。拳銃の弾丸が、秋月の艤装の隙間に挟まった。

 

「チッ!」

 

 何故人間体でなく艤装を狙ったのか。分からないが嫌な予感しかしない。秋月はすぐ弾丸を摘まんで取り出す。しかし手遅れだ、妖精さんはもう艤装内部へ突入してしまっていた。

 妖精さんは予め与えられていた任務に従いシステム内部へ一瞬で侵入する。艤装の構造自体は艦娘と変わっていないのが仇となる。

 

「なにを──!?」

「その残念なオツムで考えたらどーだぴょん?」

 

 秋月は少しだけだが、力が抜け落ちていくのをまた感じていた。それと同時に卯月の目に、僅かながら閃光が灯る。

 その時点で何が起きているか理解した。

 怒りが一気に噴出する。主様から頂いた祝福が内部から犯されている。怒り狂わない理由がなかった。

 

「よくも、主様の下さった祝福を、よくも!」

「ダメ押し、行くわよ!」

「このっ、近付かないでください、長10センチ砲ちゃん!!」

 

 背後から突入する満潮へ長10センチ砲による砲撃を仕掛ける。しかしシステムの恩恵が下がっている状態ならば、卯月にもギリギリ対処可能。立て続けに主砲を連射し撃ち落とす。むしろ爆炎を作り視界を妨害する。

 

「発射!」

 

 射出された特殊弾頭が、秋月の頭上目がけて飛来。一端回避する他ないと後退しようとした。そこへ卯月が仕掛ける。

 

「逃がすかー!」

 

 卯月はその弾頭を蹴っ飛ばし、着弾箇所を、秋月の()()()()へ変えた。

 そうなったら当然当たらない。逃げる方向へ落っこちて終わり。直撃を警戒していた秋月は拍子抜けした様子で、こちらへ向き直る。

 だが、逃げようとした時の加速がまだ残っていた。急に止まることはできず、着弾した後を踏み抜いてしまった。

 

「良い場所ね、褒めてあげるわゴミ卯月!」

「誰がゴミだこのノーコン!」

「まさか!?」

「そのまさかだぴょん。マ、ヌ、ケ!」

 

 気づいた時にはもう遅い。システムをハッキングされ冷静さを欠いたのが仇となる。満潮の発射したランチャーに入っていたのは、エネルギー流入を阻害する『布』。それが一瞬で脚部艤装へ巻き付く。

 纏っていたflagshipのオーラが薄くなる、弱体化しているのが一目で分かった。逆に卯月の紅いオーラが再び激しくなる。

 

「さて、ここからが第二ラウンドだぴょん」

「……この程度で勝った気に」

「え、聞こえないぴょーん? どうしたどーした、さっきまでの自信満々な笑みはどこへいったぴょん? ほらお前強いんだろ、だったらもっとドヤ顔で笑ってみろっぴょん。そんなんじゃ、ご主人様まで弱く見えちゃうぴょん?」

 

 作戦が上手くいき調子に乗っている卯月。とは言え油断はない。秋月から更に平静さを奪うべく挑発を重ねていく。

 その最中、戦場そのものが静かになったのに気づく。

 遠くへ目線を向ければ、散々響いていた爆音がなくなっていた。顔無しが掃討されたのだろう。

 

「お? 向こうから音がしないなー、顔無しが全滅したみたいだぴょん。一体多数が成立だぴょん。でも秋月ちゃんは強いからね、リンチでも問題ないぴょん?」

 

 このまま向こうの仲間と合流し、秋月を文字通り押し込めば、勝ち筋が見える。余裕をぶっこいているがシステムの作動限界も迫っている。急いでケリをつけなければ一瞬で逆転されてもおかしくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、秋月ったら何やってるのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その音を聞き取れたのは卯月だけだった。恐らくは独り言。本当に呆れて呟いただけ。だがそんなことは問題ではなかった。

 

 卯月の知らない声だった。即ちそれが意味することは、ただ一つ。

 

 近海に潜んでいるであろう、もう一隻が動きだしたということ。その証拠にこちらへ急速に接近してくる音まで聞こえてきた。

 

 卯月は喉が張り裂けんばかりに叫んだ。

 

「みんな急げっ! 二隻目が動きだしたーッ!!」

 

 追い詰めたのか追い詰められたのか。戦闘は一気に決着へ転がり出す。それが勝利か敗北なのかは、まだ分からない。




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