前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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色々言われているけど私はセルレギオス好きだよ?


第128話 秋月壊③

 特殊兵装を用いて秋月のD-ABYSS(ディー・アビス)を弱化させ、こちら側のD-ABYSS(ディー・アビス)を作動させることに成功した卯月たち。戦況はこちら側に傾いたと誰もが思った。

 

 卯月の地獄耳がその独り言を聞くまでは。

 

「みんな急げっ! 鈴谷が動きだしたーッ!!」

 

 鈴谷(仮)と思われる独り言を卯月は聞き取った。その絶叫を聞いた瞬間真っ先に熊野が偵察機を飛ばした。僅かに遅れて飛鷹も偵察機を飛ばす。

 現状鈴谷がどこにいるかは分からない。

 独り言が聞こえたということは、近くに潜んでいる。そう考えたいが、たまたま風向きが良く、風に乗って聞こえただけという可能性もあり得る。

 

 奴が到達するまで何分かかるのか、二人が鈴谷を捕捉するまではその焦燥感に駆られる羽目になる。

 

「クソ! 折角圧勝ムードになってきたのに! なんてことだぴょん!」

「バカな理由をほざいてる場合じゃないでしょ焦んなさいよ!?」

「だってアイツ見て見ろ! ぜったいまたむかっ腹が立つ顔してるに決まってるぴょん!」

 

 神経を苛立たせる笑みを浮かべているに違いない。調子に乗った姿をまた見ないといけないのはかなりイライラする。

 卯月はそう思っていた。だが実際は違っていた。

 

「……な、なん、で」

 

 秋月は硬直していた。一目で分かる程顔は青ざめ震えだす。ガチガチと歯の音が止まらず、離れている卯月や満潮にまで聞こえてくる。どこをどう見ても増援を喜んでいる様子ではない。

 

「……ど、どしたっぴょん?」

「不味い、不味い、不味い不味い……急がないと、早く、早く! 始末しないと、殺しますから、直ぐに! 直ぐに! あああア゛アアアッ!?」

「バグってるー!?」

 

 悲鳴とさえ呼べない絶叫を上げて、秋月の猛攻が始まった。

 いったい秋月と鈴谷(仮)はどういった関係なのか。それはあの恐怖に駆られた顔を見れば大体察しがつく。

 だがそんなことは今現在全く関係ない。卯月は内心かなり焦っていた。

 

 残念ながら、卯月と秋月の力量差は未だ隔絶している。どれだけ特訓を積んでも、睦月型と秋月型では性能差があり過ぎるのだ。その差を埋めるには相手の油断を突くほかない。

 

 そう考えていたのに、秋月はいきなり本気になってしまった。

 

「ああ、あアアア!! 早く死ね、死んでえええ!?」

「どうなってんのアイツ!? 発狂してんじゃないの!? アンタ何かやったの!?」

「やってないし、うーちゃんに分かる訳ないぴょん!」

 

 文字通り嵐のような怒涛の砲撃が降り注ぐ。秋月自身を一切考慮していない自壊上等の猛攻撃。無茶な連撃に艤装が悲鳴を上げている。砲塔は赤熱し、亀裂が走り、一部からは火災が見える。

 妖精さんのハッキング等の阻害がある中で、D-ABYSS(ディー・アビス)の出力を強制的に上げているのだろう、その反動が襲い掛かっているのだ。

 

「不味い、あのままじゃアイツ、自爆するクマ」

「自爆したら寧ろラッキーじゃ」

「アンタ馬鹿! 捕縛任務ってこと忘れたの!?」

 

 色々な意味で止めなければならない。あいつを生かさなければならない。なんという状況か。卯月は頭を抱えて叫ぶ。

 

「ふ、不幸だぴょん!」

「喧しいですわ! さっさとアイツを止めますわよ!」

「ラジャー!」

 

 先ほどまでと違い、顔無したちを相手どっていた熊野たちがこちらへ合流している。数的には勝っている。

 とにもかくにも、攻撃しなければ始まらない。熊野の叫びを合図に一斉に砲撃を始める。五隻分の砲撃密度は先程までとは比較にならない。

 

 だが、暴走しかけた秋月の抵抗は凄まじかった。

 

 喉が割けそうな絶叫を続けながら、無茶苦茶な密度の砲撃を飛ばし続ける。システム出力は抑えられているのに、未だに壁のような弾幕を張り続けることができている。

 無茶をしているのは客観的にも分かる。未だ背後で繋がっている輸送ワ級まで火を噴き始めている。心なしか悲鳴まで聞こえてくる。

 

 どう押し切るべきか。そこへ不知火が叫ぶ。

 

「卯月さん、システムはまだ作動していますか!」

「え! あ、うんしてるっぴょん!」

「なら秋月へ接近してください。援護は不知火たちでどうにかします。満潮さんも行ってください!」

 

 指示が出たらもう迷うことはない。卯月と満潮は猛攻撃の中へ飛び込んでいく。

 

「卯月、貴女が死ねば! 秋月は!」

 

 卯月は秋月にとって最大の敵だ。彼女を視認した瞬間、攻撃が卯月へと集中する。

 壁のような砲撃が一人に向けて何重にも形成される。しかし卯月もシステムで強化されている。瞬間的に砲撃を連射して弾幕に道を作り上げる。

 

 爆風で視界が封じられるが、居場所は『音』で分かる。秋月目がけて尚進む卯月だが、その足元へ秋月は魚雷を発射した。

 壁の対処で精一杯の卯月には魚雷にまで対応する余裕がない。だからこそ満潮がいる。壁の側面から隙間を狙える場所に満潮はいた。

 

「冷静さは欠片もないわね、最初からあってないような物だったけど!」

 

 その側面から、眼下の魚雷目がけて砲撃を撃ちこむ。爆炎で視認できなくなっているが、直前の動きを注視していれば、十分予測可能な範疇。秋月の異常性は砲撃だけ。言ってしまえば魚雷は()だ。

 秋月だって、その妨害をそのまま放置したりしない。魚雷に集中する分他の警戒が薄くなる。そこを狙われた。

 

「邪魔です! 卯月の金魚の糞があアアあ!」

「誰が誰の糞よ!? ふざけんじゃないわよ!?」

「こっちのセリフぴょん!」

 

 と叫んでいる間に、満潮を狙った砲撃が飛来しかけた。だがそこに向かって爆撃が降り注ぐ。後方から艦載機を飛ばしていた飛鷹と熊野の援護だ。

 それが直撃しても、秋月は即死しない。しかし隙は晒す。それは危険だと、長10センチ砲の片割れを上空へ向け、対空砲火を放ち無力化する。

 まだ片方が動ける。満潮へはそちらを向け、即座に砲撃を行う。本体狙いに加えて回避しても当たる場所へ──が、満潮に当たる前に爆散してしまった。

 

「なっ」

「軌道が単純すぎます」

 

 結果的には満潮を狙った攻撃だ、回避場所を想定したら、撃つ場所は限られる。同じことを想定すれば、狙う箇所は分かる。不知火は予めそこへ砲撃を撃ちこみ攻撃を相殺したのだ。そうしている間にも卯月はどんどん距離を詰めてくる。怒りと焦り、更に数も増え、交戦のやり過ぎで手の内の殆ど読まれた。

 既に、ここに単独で追い込まれた時点で、秋月は途方もなく不利な状態なっていたのだ。

 

「さっさとケリつけてやるぴょん!」

 

 爆炎を割き再び眼前に現れる卯月。秋月は全ての射線を彼女へ集中させた。卯月だけでも排除しようと考えたのだ。

 

「貴女だけでも殺さなければ、秋月は、秋月は!」

「叫んでろ!」

 

 秋月の意識を逸らすべく、卯月は持っている武装全てを一斉に展開する。誘発材が塗られたナイフを片手に、ハンドガンを片手に握りしめ突貫する。

 それを相打ち覚悟で殺さんと、一斉に砲撃する秋月。砲弾の爆発に巻き込まれる射程だが気にしない。殺せればその方がまだマシだからだ。

 

「それで良い、良い反応ぴょん」

 

 しかし卯月は、要は済んだと言わんばかりに後退した。狙いをギリギリまで絞っていたせいで、砲弾は海面を撃つだけで終わる。

 秋月は追撃を試みる。ここで卯月を仕留めると決めたから意識がそっちへ引っ張られてしまったのだ。

 その上空を、大量の爆撃機が通り過ぎていった。狙いは秋月の背後、即ち補給ユニットである輸送ワ級だ。

 

「御愁傷さま、全部嘘だっぴょん」

 

 初めから狙いは秋月ではなく、背後にいた輸送ワ級だったのだ。しかしその為には秋月の対空砲火を一瞬でも止めなければならなかった。その為に、あたかも秋月を狙っている体を装ったのである。

 それでも秋月は諦めない。即座に砲塔を回転させて上空へ向ける。

 

「この程度十分間に合います! 主様から頂いた、この力なら!」

 

 更に全方位へ雷撃を放つ、これにより卯月や満潮は牽制され接近困難に。処理するにも時間はかかる。その間に爆撃は十分対処可能だ。

 その予測通り、秋月が砲撃した瞬間、空中の艦載機は軒並み爆散してしまう。対空砲火については、本当につけ入る隙がない。

 もっともそれは予想していること。卯月たちの目的はそんなことではない。だが気づかれてはならない故に、更なる追撃をかける。

 

「しつこい! 早く諦めて! さっさと死んでください! 秋月のためにも!」

「うるせー先にお前が死ねか降参しろっぴょん!」

「うるさい……うるさいっ!」

 

 今度発射されたのは、卯月、満潮、不知火、球磨四隻がかりの魚雷包囲網だ。そのままでは対空砲の射角処理外。秋月は足を振り上げて、津波によって対処しようとする。

 だが、その方法はもう通じなくなっている。

 発射された魚雷は特殊な技術で撃たれている。津波を越えることができる魚雷だ。ついでに今度は到達速度にも差をつけておいた。タイムラグをおくことで対応を困難にした代物だ。

 

 それらを処理しつつ、迫る卯月を迎撃することは秋月にも困難だった。だから彼女は選択肢を減らせる方法を選んだ。

 

 魚雷を気にしなくて良いエリア。即ち()()へ。

 

「一網打尽にします……長10センチ砲ちゃん! いくよ!」

 

 思いっ切り屈んでから、小規模な地鳴りが起きる程、強烈なジャンプを秋月が繰り出す。空中へ移動すれば魚雷は無視できる。今迫っている艦載機よりも先に、奥にいる空母を始末できる。こうなったら優先順位を変えるべきだ。秋月はそう判断して、跳躍した。

 

 しかし、その判断が誤りであったことを、秋月は思い知る。

 

 気づいた時には既に手遅れだった。

 

 卯月が球磨の主砲の()()に足を置いていた。

 

「狙いはワ級だと言ったな」

「──は?」

「あれは嘘だっぴょん」

 

 球磨がトリガーを引く。主砲が発射される。

 

 卯月はその主砲を加速器代わりにして、全力で()()へ跳躍──否、射出された。普通は砲弾の爆発に巻き込まれる。だがD-ABYSS(ディー・アビス)による強化を持って、卯月は加速された砲弾を足場代わりにしたのだ。

 

「でりゃぁぁぁぁ!」

「があっ!?」

「吹き飛べ、くたばれ、臓物ぶちまけて、星になれー!」

 

 予想外、かつ凄まじい速度に反応しきれず、秋月はその突進を腹で受け止めてしまった。挙句空中にいたせいで踏ん張れず、勢いのまま吹き飛ばされてしまう。卯月はそのまま腹に主砲を突き付け、風穴を空けようと試みる。

 重傷確定だが入渠させれば治るから一切問題はないと卯月は判断した。

 

 それでも、秋月も強化されている。

 そのフィジカルを持って卯月を蹴り飛ばし、反対方向へ長10センチ砲を発射、その反動で急制動をかけ着水する。

 顔を上げた秋月が目にしたのは、遠くで爆発する輸送ワ級。距離を離されたせいで護衛できなくなった以上、輸送艦なんて的でしかなかった。

 

「はぁ、はぁ、驚きましたが、この程度で秋月が!」

 

 秋月は未だ止まる気配はない。補給がなくなったのなら、残弾切れになるまでに殺すまで。そう言わんばかりに邪悪な殺意を滾らせていく。

 再び遠距離から近づいてくる卯月たちへ照準を合わせる。じきに卯月のD-ABYSS(ディー・アビス)にも限界が来る。そろそろ限界の筈。

 時間をかけるほど、勝ちに近づくのは、秋月の方なのだから。

 

「……やっとだ」

「は?」

「やっと、ついたぴょん」

 

 何かを呟く卯月を訝しむ秋月。その行動自体が、秋月の動きを少しでも止める為のもの。狙いやすくするためのもの。

 

 ()()()()()するためのものだった。

 

 

「射程距離内に! 到達したっぴょん!」

 

 

 瞬間、秋月は全身に強い衝撃を感じる。それが起きた場所に目線を向ける。視界に映った光景に言葉を失う。

 

 右側の長10センチ砲を収める固定ユニットに、綺麗な風穴が空いていたのだ。

 

 それだけならまだ良い。本当の問題はこの後に起きた。

 

 風穴がいきなり膨れ上がり、腫瘍が膨張していき、膨れ切った風船みたいに爆発した。

 結果、固定ユニットが完全に融解してしまい、長10センチ砲が一切旋回できなくなってしまった。

 

「溶けた!? 修復誘発材の、狙撃弾!?」

 

 今向いている方向は真正面。その状態で右の長10センチ砲が旋回できなくなった。それが意味するところは只一つ。

 右方向への攻撃手段を失ったということ。

 右後ろや、真横に直接攻撃ができなくなったのだ。

 

「バカな、どうやって!? 秋月の電探から、いったいどうやって!?」

 

 狙撃されたのは理解できる。

 だが、ただの狙撃なら電探で察知できた。それができなかったということは、索敵範囲外から撃たれたということ。

 それが分からない。大型電探の索敵範囲の更に外から、どうやって狙撃できたのかが一切理解できない。

 

 理解できなくとも攻撃は続行される。

 

 卯月以外の全員が右側に一斉に回りこむ。死角から攻撃するのは当然のことだ。秋月自身が回ればそこへ攻撃できるが、それを止める為に卯月がいる。真正面から攻撃を仕掛けて、射線を向けられないよう妨害していく。

 

「最大出力、トドメだぴょん!」

 

 艤装本体の出力を最大まで上げて秋月に掴みかかる。無防備な側面から砲弾の雨嵐が飛んでくる。蹴りも抵抗も、卯月に抑えられていてできない。

 文字通り全力で動きを抑えられている。ここから抵抗しても、どうやっても間に合わない状況に追い込まれた。

 

「あ、ああ、あああアア!?」

 

 打てる手が全て封じられた。もはや絶望するしかない。秋月が断末魔を上げるがそれさえも、爆音に呑み込まれた。

 

 かと、誰もが思った。

 

 たった一人を除いて。

 

「──ダメですわ、間に合わなかった!」

 

 熊野が喉が張り裂けんばかりの絶叫を上げる。次の瞬間、右側面に回り込んでいた熊野たちの頭上から、無数の爆弾が降り注いだ。

 瞬時に対空砲火に切り替えようとする、だが直後、足元に甲標的と魚雷が撒かれていることに気づく。

 秋月以上の高密度。熊野たちは距離をとって回避するしかなかった。卯月もまた、その隙に秋月の抵抗を許し、大きく吹き飛ばされてしまう。

 

 一体何が起きたのか。それは言うまでもない。熊野が叫んだとおり間に合わなかったのだ。

 

 瑞雲による爆撃の中から、鈴谷が姿を現す。

 

 そう、とうとう鈴谷がここまで来てしまったのだ。折角狙撃が成功したのに、間に合わなかった。悔しさに顔を歪める卯月。

 そんな感情露知らず、鈴谷が呆れた様子で呟いた。

 

「あーあ、ここまで追い詰められるなんて、何やってんのさ。怪我は大丈夫? あ、治ってるね。良かった良かった」

 

 報告通りだ。航空巡洋艦の装備をした()()()の艦娘。セミロング……よりミディアムぐらい、鎖骨ぐらいまで伸びた髪の毛が特徴的だ。

 こいつが鈴谷なのか。卯月は身構えた。

 卯月は気づいていない。その異常性に。知っている人からすれば、明らかな異常事態が起きていることに。

 

「……ちょっと。冗談でしょ」

 

 満潮は絶望していたが、混乱が勝っていた。

 

「満潮?」

「違う……絶対に、あれは、髪色だけじゃない!」

「な、なんだぴょん。どーしたぴょん!?」

 

 状況が呑み込めていない卯月が叫ぶ。理解できていないことに苛立ちながらも叫びながら説明した。

 

()()()()()()()()()()()()!」

 

 卯月には言っている意味が分からなかった。

 

「……は? だって、薄緑色の艦娘が、鈴谷だって」

「そうだけどそうじゃない! 艤装は鈴谷っぽいけど……でも、何なのアイツ!?」

「何だっていいから説明してぴょん!」

「あの艤装、あの外見は、鈴谷とは違う!」

 

 そして遂に、二隻目の刺客が正体を現した。

 

「あれは()()!髪が薄緑色になってる()()よ!」

 

 髪の毛や艤装だけが鈴谷の最上。最上なのだが一部分だけが鈴谷。

 

 以前撮影した写真は、直後撃墜されたこともあり、画像解像度が良くなかった。艤装の大まかな形状と髪色しか分からず、故に細かい判別ができなかったのだ。

 

 言葉の意味を呑み込んだ卯月は、漸く納得して、叫んだ。

 

「そんなパターンアリかっぴょん!?」




最上(仮)→鈴谷(仮)→最上(正解)というオチでした。上空からの荒い画像+髪色と艤装だけじゃ間違えてもしょうがない。
ところでボーイッシュなキャラが悪堕ちするのって良いですよね。筆者的には大好物です。
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