前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第138話 敵の名は

「卯月さん尋問を手伝っていただいても良いですね?」

「なんだって?」

 

 自主訓練中の卯月へ不知火はそう告げた。全く意味が分からず卯月は困惑する。訓練に付きあってくれていた那珂も不思議そうにしている。言葉足らずにも程があった。

 

「いやどういうこと?」

「すみません。秋月へ尋問を行いますのでそれを手伝ってください」

「お、お前、あんなボロボロの人に尋問すんのかぴょん!?」

 

 非人道的極まる行為だ。視覚障害と感覚過敏、トラウマで精神はボロボロ。これに精神攻撃も加えると言うのか。

 

「間違えました。ただの事情聴取です」

「紛らわしい言い方すんなぴょん!」

「……という冗談なのですが」

「うん全くそう聞こえないからね?」

「なんですって」

 

 原因は能面のような真顔だ。とてもジョークを言う顔には見えない。

 

「本当に暴力はないよね?」

「ご安心下さい。本当にただのインタビューです。なので手伝って頂きます」

「なら良いけど……」

 

 何故だろうか。不安でしょうがない。不知火が言うインタビューには、インタビュー(拷問)とルビが振ってある気がしてならない。

 

「那珂ちゃんは行かない方が良いかな?」

「そうしてください。満潮さんも来なくて大丈夫です。人数が多いのはまだ酷なようなので」

「別に良いわ。特訓に集中できるんだからむしろラッキーよ」

 

 二人はいかず自主練を続行。卯月は不知火の後ろを追い駆け秋月へ会いに行く。その途中で気になることを尋ねた。

 

「なんでうーちゃんなんだぴょん。うーちゃんをご指名でもしたの?」

「ずっと一緒にいて、面倒をみているお蔭でしょう。卯月さんと一緒の間はストレスが減る様子でした。その方がインタビューも受けやすいと判断した為、及びしました」

「ふーん。ま、そういうことなら良いけど」

 

 卯月は鼻をフンスと自慢げに鳴らす。しつこく話し続けていたが、これで良いかどうかの確証がずっと持てなかった。それが今回正しかったと証明されたのだ。つい嬉しくなってしまう。

 

「本当なこの尋問、もう少し後だったのです」

「そうなの?」

「精神状態の改善が予定より早かったんです。なので尋問にも耐えれるだろうと、予定を繰り上げることができました。卯月さんと満潮さんのお蔭ですよ」

 

 直々のお褒めの言葉みたいなものだった。毎日お話をしていたことがそこまで効果を発揮していたことに卯月自身も驚く。

 

「それに、同じ被害者として秋月さんにも仲間意識があるのでしょう。一緒の方が話しやすいと考えたのも卯月さんを呼んだ理由になります」

「ん、構わないぴょん。うーちゃんも結構気になってたし」

「……でしょうね」

 

 今言った通り卯月と秋月は同じ被害者。その心理として『敵』は何をしようとしているのか、早く知りたいと思っている。秋月への質疑応答でそれが知れるなら、同行はむしろ望ましいことだ。

 

 

 

 

 そうこう話している間に一行は秋月の部屋の前に。

 中に入ると不知火はテキパキと三人分の椅子を用意し、そこに座るよう促す。服がこすれ、座る時の衝撃が痛かったのは動きはぎここちない。反対側へ不知火が座る。卯月は秋月の隣へ座った。

 

「では、これから尋問を始めます」

「じ、尋問、ですか……!?」

「ただの質疑応答だからビビる必要はないよ。もし不知火がとんでもないこと言い出したら止めるから、安心するぴょん」

「……冗談なのですが」

「だからマジに聞こえんだっぴょん!」

「いえ秋月さんの緊張を和らげようと」

「いらないぴょん!」

 

 そういうのは不知火の仕事ではない。なんで急にそんなことを考えてるのか。

 まあどうでもいいことだ。

 それより質問の方が先。秋月の体力限界だってある。長時間の事情聴取はムリ。早く済ませるべきだった。

 

「……秋月の、か、過去とかを?」

 

 秋月はとても辛そうにする。トラウマを自主的に抉る羽目になるからだ。だが今の卯月たちには情報が必要だ。

 

「不知火たちは鬼ではありませんが、必要であれば行います。かなり辛い思い出を掘り返しますが、質問は全てご回答ください」

「……そう、で、です、か」

「気が進まないのは重々承知。しかしこれが、秋月さんを貶めた敵を追い詰める為に必要だと理解してください」

 

 秋月の意見は実質無視される。可哀想だとは思うが止むをえない。彼女の精神衛生より敵の特定の方が優先だ。

 

「まずですが。秋月さん貴女は何処の出身ですか」

「……ドロップ艦、だと思います。め、目が覚めたら……海の上に立って、いたので」

「次です。その後、どういった行動を?」

「鎮守府を、探して……近海をウロウロと、していました。そうしたら……か、かの、女と、で……でっあ、あ、ぁあ!?」

 

 その質問は秋月の()()を抉り出した。

 まともに呼吸ができなくなり、恐怖にガタガタと震えだす。涙を流しながら頭を抱え、悲鳴を上げ続ける。

 突然のことに卯月と不知火は反応できなかった。

 

 だが、秋月が何に怯えているのかは察しがつく。

 

「彼女と、出会ってって言ってたけど」

「十中八九、最上でしょう」

「最上か……アレと遭遇しちゃったってことなのか」

 

 D-ABYSS(ディー・アビス)に支配された最上だが、その狂い型は常軌を逸していた。常に笑顔なのに突然キレて、滅茶苦茶な暴力を振るう。

 そんな危険人物と、ドロップしたばかりの秋月は遭遇してしまったのだ。

 

「う、あ、ぁあぁっ!」

 

 それより今は秋月だ。最上のことを思い出したせいで恐慌状態になっている。

 

「……どうするべきか」

 

 不知火は直ぐには動けなかった。普通なら手を握ったり抱きしめたりして、落ち着かせるべきだが、秋月の感覚過敏が問題だ。抱きしめる行為はプレス機で潰されるぐらいの激痛に変わってしまう。

 代替手段はないのか。

 考えているその時、卯月は動いていた。

 

「落ち着いて秋月。大丈夫、ここに最上はいないから」

 

 そう優しい声で語り掛けながら──卯月は秋月を()()()()()。どれだけ優しくやっても感覚過敏の前では痛みに変わる。

 

「ぎぃっ!? あ゛アア゛ッ!?」

 

 恐怖に激痛が加わり更に発作が激しくなる。今すぐ止めるべきだ。だが卯月は意に介さない。抱きしめることを止めない。

 

 結果、変化が起きた。

 

 しかし若干予想外の変化が起きた。

 

「―—あがっ!?」

 

 なんと卯月が激痛にひっくり返ったのだ。

 

「は?」

「な、なにが、起きぃイイイ゛ッ!?」

「え、え、な、何……?」

 

 反対に秋月の発作は止まった。激痛に苦しんでいる様子もない。トラウマに苦しんでもいない。秋月も何が起きたのか分かっていない。呆然としている。心配そうに卯月を見下ろしている。

 

「……不知、ぬい、さん。何が?」

「全くもって不明です」

「あがががが、うーちゃんは生きてるのかっぴょん……」

 

 時間が経つと痛みが引いた。なんとか動けるようになる。起き上がった卯月自身も何が起きたのか全く理解できていない。

 ポカンとしている卯月へ不知火が小声で耳打ちをする。

 

「こうなると分かって、抱きしめたんですか」

「違うぴょん。感覚過敏だけど、優しくずーっと触ってれば、その、慣れてきて、ハグの安心感が伝わるんじゃないかと」

「そうですか……」

 

 熱い物や冷たい物も、長時間触れていれば慣れてくる。その効果を期待していただけ。今起きた謎の現象を狙ってはいない。

 三人とも疑問しかなかったが、それは後。何であれ秋月は落ち着いた。聞き取りが再開できる。こっちの方が優先だ。

 

「話を戻します。秋月さん……話しやすい所からどうぞ」

 

 またトラウマを踏み抜いて発作は不味い。傷口に触れないように気を遣う。秋月は少し考えてから話し出した。

 

「……秋月は、その後、鎮守府に、連れていかれました」

「鎮守府?」

「はい。でも、途中で……おかしいのは、気づいたん、です。だって、秋月と……以外誰もいないなんて」

 

 今良い淀んだ部分があった。それは最上のことだろう。名前を口にするのも恐ろしいらしい。

 

「脱出とか、そういうのは考えなかったの?」

「ムリだったと、思い、ます。そこら中が、深海棲艦の巣窟、だった、気がするので……脱出しても、こ、殺されていたと」

「何れにせよ、まともな基地ではなさそうです」

 

 全包囲が敵に囲まれている鎮守府なんてあり得ない。その状況が成立している所を見ると、やはり敵は深海棲艦に関係する者と考えられる。今更と言えるが。

 

「そこで……秋月は、ひたすら、深海棲艦を沈めていました。そう、命令されたので……ただ、あ、あの、人と……一緒でした」

「ず、ずっと? アレと?」

「そうで、す」

「マジかよ……発狂するじゃん……」

 

 四六時中最上と一緒とか発狂待ったなしだ。考えるだけでゾッとする。事あるごとに滅茶苦茶な理由で暴力を振るわれたのだろう。

 

「理由も、分からず、ただ、彼女に殴られながら、深海棲艦を毎日、ま、毎日殺してきました。その頃には、あそこが、まともじゃないって分かって、いたんですが……脱出なんて、で、できませんでした」

「深海棲艦を毎日、ですか。理由は本当に分からないんですね」

 

 秋月は力なく頷いた。不知火は不思議そうに首を傾げる。秋月の背後にいる『敵』は深海の関係者。なのになぜ自ら戦力を減らす真似をするのか分からない。

 

「それ、で、気が付いたら……何もかもが、心地よくなっていて……深海棲艦だけじゃなく、遭遇した艦娘も、こ、殺す、よう、に、なって、まし、た。殺す理由なんて、ど、どうでも良くなって……皆を」

「不知火、これってつまり」

「そういうことでしょう」

 

 わざわざ言わなくても分かる。どこかのタイミングでD-ABYSS(ディー・アビス)が解放されたのだ。そして悪意に呑まれ、虐殺の快楽に堕落させられたのだ。

 

「酷なことを聞くようですが、具体的に、何があってシステムが起動したんですか。卯月さんはその辺の記憶がなくて役に立たないんです」

「そういうこと言うなぴょん」

「静粛に。それでどうなのですか」

 

 D-ABYSS(ディー・アビス)は現状敵に繋がる唯一の手掛かりだ。このシステムを解明することが敵へと繋がる。秋月を捕縛したのも半ばその為なのだから。

 ところが肝心の秋月の回答は、期待と違ったものだった。

 

「お、覚えて、いません」

「……本当に? 嘘とかではなく?」

「嘘? 嘘は嫌いだぴょん。どうなんだっぴょん」

「本当、です。何にも、覚えていないんです……何が起きて、あ、秋月がおかしく、なったのか、ちっとも分からないん、で、す」

 

 卯月と同じ答え。同じ状況。システム解放前後の記憶がさっぱり抜け落ちている。これを偶然と片付けられる人はこの場にいない。

 

「卯月さん」

「なんだぴょん」

「先ほどの戦いで、どう起動したのかは覚えていますか」

「殺意を一気に爆発させて、怒りで解放させたの。記憶もしっかりあるぴょん。まあ初作動時の記憶はないけど」

 

 一部訂正。神鎮守府を壊滅させた時の作動記憶はない。戦艦水鬼で作動させた記憶は曖昧。それ以降はしっかり覚えていた。

 

「作動前後の記憶が二人とも飛んでいる。これもしかして、記憶が飛ぶのが『仕様』になっているのでは」

「というと?」

「単純な話です。D-ABYSS(ディー・アビス)の作動条件を知られたくないから、作動前後の記憶が飛ぶような設計になっている。そうは考えられませんか」

「じゃあなんで作動条件を知られたくないの?」

「不都合があるからでしょう」

 

 その不都合が何なのか知りたいのだが。と言っても不知火だって分かっていない。卯月自身もうんうん言いながら頭を捻る。

 

「そもそも、回数を重ねて以降、卯月さんの記憶の損耗がないのかも謎なんですよね。どうなっているんでしょうか。さっきの現象しかり」

「うるさいぴょん。なんか思いついたのかっぴょん?」

「……確か卯月さん、始めにシステムが作動したのは、出撃中の時でしたよね」

「そうだぴょん」

 

 記念すべき初出撃。その時に(卯月は覚えていないが)システムが作動。味方を皆殺しにし鎮守府も壊滅させたのだ。

 状況証拠的に『泊地棲鬼』に遭遇してから作動したのは確かだと思われる。記憶がないからどうしても断定できないが。

 

「…………」

「不知火?」

「この件も保留ですね。質問に戻りましょう。秋月さんそれ以降はなにを?」

「え、えっと……そ、それ以降も、やってることは、同じでした……快楽の、まま、虐殺をしてました。そんな中、あの、卯月さんを、殺せと……()()()()()が下って……それで、戦艦水鬼を見て、ました」

「命令? 最上の?」

「いっ、いえ、違います。気持ち良くなって以降は、監視は、なくなってました」

 

 システムが解放されるまでの見張りだった。ということだろうか。それより気になる言葉があった。

 

「直々の命令、とは?」

「……な、名前だけです。直接は、会ってません、指示もその、一回だけでした」

「構いません。名前をお願いします」

 

 最上より更に上。『敵』そのもの──もしくはより近い存在なのは確実だ。そうして卯月たちは遂に敵の名前を知る。

 

「彼女、は」

 

 しかしてそれは。

 

 

「泊地水鬼と名乗っていました」

 

 

 泊地棲姫(最初の敵)に余りにも似た名前だった。




またうーちゃんに妙な気配が。
それはそれとして、第一部二つ分の話数をかけて、漸く敵の名前が発覚。本当に長かった。
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