前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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頼むから納刀しても地烈斬の砲撃バフは消えないようにしてくださいうーちゃんが何でもしますから!


第139話 非常事態

 秋月から情報を聞きだす卯月たち。その中で彼女に指示を出していた『敵』の名前が遂に発覚した。

 

 その名前は『泊地水鬼』。卯月は顔を顰めた。

 

「泊地棲鬼の親戚かなにかですか?」

 

 名前だけだが良く似ている。一番最初に交戦し、神鎮守府を壊滅させた姫級『泊地棲鬼』に。というか一文字違いだ。何らかの関係性を疑ってしまう。しかし不知火は否定した。

 

「いえ……外見は僅かに似ていますが、全くの別個体です。泊地水鬼は『基地型深海棲艦』。艦種さえ違っています。流石に関係性はありません」

 

 基地型深海棲艦。それは深海側にしか確認されていない艦種(?)カテゴリー。文字通り基地そのものとして顕現し、辺り一帯の海域を支配できる強力な個体。

 基地そのものなので火力も航空戦力も桁違い。巨大なので仕留めるのも簡単ではない。

 

 代償として基地は動けず──移動できる基地とか前代未聞だ──姫自身も海上を移動することはできないが、それを差し引いても十分強力。そういう個体群である。

 

「ちょっと画像をお見せします」

 

 不知火はタブレットをいじり、過去確認された泊地水鬼の画像を見せてくれた。確かにほんのちょっとだけ似ている……かもしれない。左右に伸びる二本角。下半身が艤装と同化したビジュアルは同じ。けどそれ以外は似ても似つかない。

 

「なんで大本営はこう紛らわしいことをするんだぴょん。あの塵芥が蘇ったのかって、ちょっと身構えちゃったぴょん!」

「はい。戦闘能力も泊地棲鬼とは雲泥の差です。もし交戦するのであれば相応の準備が要るでしょう……とは言え、ある意味朗報ではありますが」

「何が?」

()()()()()んですよ。普通の姫より遥かに」

 

 少し考えれば簡単なことだ。動き回る水上艦と、移動できない基地。羅針盤や因子によりブレは発生するが、どちらの方が見つけやすいかは言うまでもない。

 

「秋月さん」

「は、はい」

「何処か拠点にしていた場所はありますよね。システムの影響下と言えども艦娘。何の拠点も無しに活動はできません」

「……あり、ます。出撃も、き、帰投も、そこを拠点に、していました」

「場所は分かりますか」

「……ごめん、な、さい。分かりません」

「謝罪は不要です」

 

 また忘れているが仕方のないことだ。作動時の記憶がないことからそれは察せられる。

 D-ABYSS(ディー・アビス)には、不都合な記憶を選択して消せる機能がある──可能性が高い。

 基地の情報も不都合な記憶ということで、消えるようになっていたのだろう。

 

「ですが一つだけ分かったことはあります。卯月さんも分かりましたね」

「ぴょん?」

「……あの海域は深海棲艦が殆どいませんでした。そして秋月さんがやらされていた虐殺。これはつまり」

「秋月が深海棲艦を殺しすぎて個体数が減ってたってことだね、

 もちろんうーちゃんは分かっていたぴょん!」

「……そうですか」

 

 凄い冷たい目線が突き刺さるが卯月は意に介さない。

 

「っていうか、あんなにいなくなるまで殺してたのかっぴょん」

「……そ、そうなります。秋月以外の、艦娘も……も、最上さんも含めて、虐殺をして、たので」

「泊地水鬼はバカなの?」

 

 周辺海域から深海棲艦が消える程殺し尽くすとか何を考えている。せっかくの防衛戦力をなんだと思っているのか。こんなことをする理由が本気で分からない。

 

「理由は、推測はできますが……」

「できるの?」

「はい。ですが言いません。推測でしかないので。もう少し……証拠が欲しい」

 

 暗に、最上も捕縛する。と言っていた。口に出さないのは秋月を刺激しかねないからだ。

 不知火は聞いたことを記録していたパソコンを閉じる。目を少し閉じて、秋月の方を向く。

 

「不知火が確認したいのとは概ね終わりました。秋月さんから、何かありますか」

 

 秋月は何もないと首を振る。息がだいぶ荒く疲労した様子。体力の限界が近い。

 

「うーちゃんからも特にはないよ」

「ではこれで終了とします。大変お疲れ様でした。ご協力感謝致します」

「お疲れぴょん!」

 

 礼儀正しく一礼をして、二人は部屋から出ていった。

 卯月の聴覚は扉越しでもそれを捉える。

 長いため息とうめき声を上げて、その場へ崩れ落ち、泣きじゃくる秋月の声が聞こえた。

 この質疑応答で、多くのトラウマを抉られたせいだろう。

 

「どうしよ。うーちゃん行ってあげた方が……」

「……そうして貰っても。卯月さんにはまだ心を開いている様子なので」

「うん。行ってくる」

 

 踵を返し秋月の所へ行く卯月。不知火はその背中を見届けて去っていく。

 

 扉の前まで来ればもう苦しむ声が鮮明に聞こえる。居ても立ってもいられず卯月は扉を開ける。

 

「大丈夫かっぴょん」

「…………」

「ダメか」

 

 反応はない。秋月は部屋の隅っこに蹲りながら、苦しそうに呻いている。さっきの質疑応答で相当トラウマを抉ってしまった。必要なことだったからしょうがないが、申し訳ない気持ちになる。

 できることは多くない。卯月は先程と同じようにした。

 即ち身体を引き寄せて、多少強引に抱きしめた。安直だがこれが一番落ち着くと身を持って知っている。

 

「よーしよし、ごめんだっぴょん、嫌なこと聞いちゃったぴょん」

「……ぅ、あ、う、卯月、さん?」

「そう、うーちゃんだっぴょん」

「顔、離して、ください。その、色々つい、て、しまいます」

「うんどうでも良いぴょん」

 

 鼻水とか涙とかが服につくが、まあどうでも良い。そんなことは些細なことだ。力づくで抱き寄せて、顔を胸に埋めさせる。余計なことを話さないようにしてしまう。ついでに心音を聞かせて落ち着かせることも可能だ。

 

「……お胸がもっとふくよかから効果倍増だったのに」

 

 卯月は自らの幼女体形を呪いつつ、秋月の背中をさすり続ける。まだ苦しそうに痙攣している。落ち着くまではこうするつもりだ。

 

「ほらもっと泣いちゃえば良いぴょん。ここにはうーちゃんしか居ない。ご希望なら何も見てないことにもできるし」

「……そんな、資格は」

「あるよ。秋月にはギャン泣きする資格がある。むしろ堂々と泣くべきだっぴょん。つまり、今の秋月がまともだって証拠なんだから」

 

 まともになっているからこそ、今までの行為に嫌悪感と後悔を抱き、泣くことができるのだ。自らが正気に戻ったことの証明になる。恥ずべきことは何もない。

 

「う、卯月さん、も、泣いたん、ですか?」

「泣いたけど泣いてないよ」

「は?」

「生理的反応として泣いただけであって、後悔とかで泣いてないぴょん。だってうーちゃん()何もしてないし。被害者だし。なんで後悔すんだぴょん。プライドが許さないぴょん。オーケー?」

「ええ……」

 

 但し自分は例外扱いだったりする。泣くということは罪悪感を認めるということ。何故持つ必要さえない罪を認めなければいけないのか。『卯月』への侮辱でしかない。卯月はそう考えているので、一切悔いないよう──実際は罪悪感を悪夢で見る程感じているのだが──意識している。

 

 それに泣いて後悔したところで、殺してしまった人達には何の意味もない。ムダな行為でしかない。死人は誰も許せない。

 涙で救えるのは自分だけ。だからこそ秋月には泣いて欲しい。彼女は救われなくてはならないのだから。

 

「でもこれはうーちゃんが……うん、面倒な性格だからであって、秋月が泣かない理由にはならないぴょん。だから泣け。恥も外見もなく泣き喚くんだぴょん」

「ええぇ……?」

「何故困惑してるんだぴょん」

 

 これで困惑しない方がムリである。だいぶ飛躍した卯月の持論に涙が引っ込む。結果的に震えは収まった。

 

「……あの、う、卯月さん」

「なんだぴょん」

「……どうして、あ、秋月に、優しく、してくれるんです、か」

「理由が必要なのかっぴょん?」

「秋月は、卯月さんにも、酷いことを、惨いこと、ばかりをしてきました……なのに、どうして。怒ってないの、ですか」

 

 洗脳されていたから──で済むと秋月は思っていない。洗脳されていても自分がやったことだ、責任を取らなければならない。そう考えていた。なのに憎悪も嫌悪も一切なく普通に慰めてくれる卯月が不思議で仕方がない。

 卯月はその問いに、不思議そうに首を傾げて答えた。

 

「もう殺したから」

「こ、ころ?」

「あのクソ淫売ド腐れ女(秋月)は徹底的に痛めつけた上で殺したぴょん。それでスッキリしたから終わり。今の秋月には怒りもなーんにもないの」

 

 まあ、だからと言って、あの秋月とこの秋月を完全に別人扱いできる訳ではない。僅かに苛立ちは残っている。けれどもそこは我慢する。そんな理性的でない振る舞いは卯月的にはアウトだ。

 

「優しくしているのは、色々あるぴょん。さっさと立ち直って貰わないと敵を喜ばせるだけだし。でも一番は秋月が心配だから。勝手な自負だけど、今秋月の気持ちを分かってやれるのは、うーちゃんだけだと思ってる。なのに遺恨を引きずって何もしないのは()()()()()()ぴょん」

 

 要は『カッコ悪い』のだ。

 そんな自分は許せない。誇りに反さない為に卯月は秋月に対し優しく接しているのだ。単純に心配している部分もあるが、大きな所はそういった考えが占めている。

 

「……まあ、秋月の為になってるかは正直分かんないけど。でもアレだよ、ここでじっとしてても何もできないでしょ? だったらもう思いっ切り泣いて、スッキリするってのも良いんじゃないかと、うーちゃんは思うぴょん」

 

 卯月は両手を開きハグの体勢をとる。ここで泣けと伝える。秋月は恥ずかしいのか申し訳ないのか、大分逡巡していたが、最終的にこっちへ来た。

 

「……ッッ!!」

 

 再び未知の現象が起きる。正気が吹っ飛ぶ程の激痛が全身を襲う。まるで秋月の感覚過敏を自分も感じているような感覚だ。

 だがそれが何だと言うのか。所詮は幻覚だ、無視しようと思えばできる。そう気合でねじ伏せ、ひたすら泣きじゃくる秋月の頭を撫で続けた。

 

 慟哭の内容は、どれも許しを請うような、ただ謝るような、そういったものだった。D-ABYSS(ディー・アビス)に呑まれてから、どれだけの艦娘や深海棲艦を殺してきたのか。

 

 恐らくは覚えていない。数える意識が存在しなかったのだから。それでもどうしようもない後悔が止まらない。

 それは何にもならない。吐き出す以外にできることはない。謝罪の相手はいないのだから。

 

 でもそれで良いと卯月は思う。今救われるべきなのは、間違いなく秋月だ。

 

「大丈夫、泣いて良いんだよ。バカにするような奴はうーちゃんが心臓引っこ抜いてきてあげるから」

「い、いや、そこまで、しなくても」

「アッハイ」

 

 でもそれぐらいのつもりでいます。卯月はそう思いながら秋月を慰め続けた。これで少しでも前向きになってくれれば良いと思って。

 

 

 *

 

 

 卯月が秋月を慰めている頃、同時刻、別れた不知火は工廠に居ながら、監視カメラの映像を見ていた。隣には北上もいる。二人とも深刻な表情だ。

 

 彼女たちが見つめているのは、ガラスケースで隔離された二つの艤装。

 卯月のものと、回収された秋月のもの。どちらも内部にD-ABYSS(ディー・アビス)が組み込まれている。

 

 ケーブルで繋がれたモニターには、システムの出力や作動履歴が表示されていた。何時起動したのかもキッチリ表示されている。不知火はそれと合せて、監視カメラの映像の時間を見ていた。

 

「で、どうよ」

「まず顔無しと顔を合わせた時、卯月さんは身体を抱えて卒倒しました」

「なるほど、次は?」

「秋月さんをハグした時。激痛を感じてひっくり返っていました。この時と顔無しの時は不知火も同伴しています」

「……そして、今か」

「またハグしています。痛みはどうやら我慢しているようですね」

「うん。それで、時間を比べてどうなのさ」

 

 卯月がそういった行動をした時の時間と、D-ABYSS(ディー・アビス)の作動時間を比べた時、そこには信じがたい結果が現れていた。とんでもない異常事態としか言い表せない。下手をしたら非常事態。

 

「一致しています」

「……マジかぁ」

「到底信じがたいですが事実です」

 

 眉間を指で抑えながら不知火は半ば吐き捨てるように呟く。

 

「卯月さんに異常が起きた時、D-ABYSS(ディー・アビス)が作動しています……()()()()()()()()()

 

 原因不明。遠隔か勝手にシステムが動いているのか。どちらにしても普通ではない。

 

「しかも、秋月のシステムも同じタイミングで作動か」

「卯月さん側のシステムが、何か影響しているのは確かですが」

 

 口にしなくても良かったが、そうしないと何だか受け入れられなかった。遠距離からでも艤装が動いている──いや動いていると言えるのか。

 

 これは一体何を意味するのか。

 

 あまりに不可解な挙動に、不穏な予感を止めることができなかった。




艦隊新聞小話

基地型深海棲艦について

 深海棲艦は海を母体として現れる怪物――の筈なんですが、どうもかつての戦争も触媒になってるようでして、基地そのものが顕現することが稀に良くあります。
 流石に土地そのものなので、自由自在には動けません。
 その代わり、支配海域は普通の姫個体の何倍、生成できるイロハ級も激増、砲撃火力、航空戦力も強烈無比と豪勢なスペックに。
 耐久値も折り紙つき。中枢である姫級を仕留めるか、基地を制圧するか、基地自体を破壊するか――いずれかでなければ絶対に無力化できません。
 ただし三式弾といった対地兵装や、弾薬庫がある関係上、突く所を突けば、景気よく燃える某メガネのように別の弱点があるケースも。

 後、噂なんですけど、どこかの鎮守府に、拳だけで基地型を土地ごと消滅させた艦娘がいるらしいですよ。
 誰なんですかね、そんな噂が立つ時点で、私興味があります!
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