前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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超特殊鏖魔をソロ撃破したワイに敵はいないZE☆とヌシディアに挑んだら20分かかって絶望した結果投稿が遅れましたごめんなさい。


第14話 落涙

 ひとしきり暴れたからか、球磨に殴られたからなのか、とりあえず那珂は落ち着きを取り戻した。

 やっと訓練本番である。那珂の動きを真似るというが、具体的になにをするのだろうか。

 

 まさか本当にバックダンサーではないだろう。

 

「那珂ちゃんと一緒にダンスします!」

 

 まさか本当にバックダンサーだったのである。

 

 軽快なアイドルソングをBGMに、探照灯をふって踊って歌う那珂。どこに仕込んできたのかスモークや歓声まで聴こえてくる。ふざけすぎだろ。

 

「ほら卯月ちゃんも、ちゃんと踊って。歌うのは勘弁してあげるから!」

 

 勘弁ってなんだよ、まさか歌うのを恥ずかしいと思っているのか?恥ずかしいけど。

 

 しかし、これは楽かもしれない。

 どんな過酷な訓練かと思ったがダンスとは。激しい動きだが艤装のパワーアシストがある今なら問題ない。

 

 一気に成長して見返してやろうじゃないか。特に満潮を!

 

「準備オーケーぴょん!」

「よーし、じゃあミュージックスタート!」

 

 と、油断しきっていたのが数刻前。

 では数刻後は?

 

「ぎゃばぁ!?」

 

 水の中であった。

 艤装の重みに耐えきれず、卯月は一気に沈んでいく。

 紛れもない轟沈の感覚。卯月はダンスに失敗して絶命するのであった。

 

 あ、死んだ。

 そう思った瞬間、手を伸ばしてきた那珂に引っ張り上げられる。

 助かった。

 喉に入った海水にせき込みながら、卯月は生の実感を得ていた。なお溺れるのはこれで三回目である。

 

「誰だぴょん、楽な訓練って言ったやつ!」

「誰も言ってないよ?」

 

 那珂のマジレスは聞いていない。

 本当に殴りたい気分だった。楽な訓練って油断したわたし自身を。

 球磨のリハビリを辛かったが、那珂の特訓は別ベクトルで過酷だったのだ。

 

 なのに那珂は汗もかかず涼しい顔をしている。

 踊るだけじゃなく歌も歌っていたのにピンピンしている。化け物のような体力だ。わたしが無さすぎるだけかもしれないが。

 

「さ、さむい……べっくし!」

 

 ひぃひぃと息を切らす中、卯月は潮風に晒される。なんども沈んでずぶ濡れになった体にはとても寒く感じる。くしゃみまで出てくる。風邪を引きそうだ。

 

「ジャージならあるけど、着替えてくる?」

「おねがいしますぴょん」

 

 鼻水を垂らしながら、どうにか工廠まで辿り着く。機械の影響か外より暖かい。濡れた制服を脱ぎ捨て、タオルで拭いてから替えのジャージに着替える。

 

「こうなると思って、温かいスポーツドリンクも持ってきたよ」

「て、てんしがいるぴょん」

「違うよ、アイドルだよ!」

 

 死に追いやったという皮肉も込めたんだが通じてないらしい。いったいこのアイドルへの執念はどっから来るのだろうか。『那珂』自体そういう艦娘なのか。どっちでも構わないけど。

 

 ただ替えのジャージとドリンクは本当に助かった。感謝もしている。

 那珂は単なる狂人ではない。気づかいができて明るい狂人だったのだ。卯月の中のグレードがわずかに上がった那珂であった。

 

「あ、温まったら再開だよ」

「うぇー……」

 

 変な声が出るのも仕方ない。全然ダンスができなかったのだ。

 慢心もあったけど、それでも想像以上に動けなかったことがショックだった。卯月はドリンクを飲みながら項垂れる。

 

「まさかあんなに辛いとは思わんだぴょん」

 

 ダンス、という訳で、主に飛んだり跳ねたり、回ったりステップしたりしていた。

 しかし、その動作全てがままならない。

 とっさに飛べない跳ねれない。回れずステップできずにスっ転ぶ。そのまま艤装に押しつぶされて溺死コースに突入だ。

 

「そうだよ、艤装って思っている以上に重いんだよ。パワーアシストがあるからって慢心してるととっさに動けないんだよ」

「球磨にも同じこと言われたぴょん」

「新人あるあるだね、人の体と艤装のパワーを始めて感じて、どっちの力も得た気分になっちゃうってやつ」

 

 良いとこどりでも悪いとこどりでもない。正確にはどっちつかず。『艦娘』というカテゴリの兵器なのだ。そこを捉え間違えると死が近づく。

 

 結局まだこの体に慣れていないのだ。

 艤装を背負った艦娘。という存在に慣れてないから上手く動けず、まともにダンスもできない。そんな状態で戦場に行けば、どうなるかは明らかだ。

 

「でも前の鎮守府じゃ、そんなこと教わらなかったぴょん」

「前のって、確か壊滅しちゃったっていう……」

 

 那珂に言われて、ちょっと言いよどむ。わたしの帰る場所は本当にないと突き付けられた気がして。

 

「確かいたのは一ヶ月ぐらいでしょ。多分教わる段階まで行ってなかったんだよ思うよ。普通はもうちょっと『艦娘』に慣れてから始めることだし」

「うーちゃんは、それを寝起き三日目にやらされてるのかぴょん」

「しょうがないじゃん、あとちょっとで出撃なんだし。死亡率七倍だしー」

 

 他にも輸送隊という役割の関係してたのかもしれない。

 睦月型はハッキリ言って戦闘向きではない。基本輸送隊が主な仕事だ。神鎮守府でもそっちの役割を前提に置いた訓練をしてたのかもしれない。今はもう知りようもないが。

 

「まあなんとかなるよ」

「ならなかったら?」

「できる限り速やかに楽にしてあげる」

 

 そこは「ぜったい守るから大丈夫」と言ってくれよ。

 明るい抹殺宣言に卯月は顔を曇らせる。さすがの那珂もやや気まずそうに苦笑いを浮かべる。

 

「沈んで深海棲艦に取り込まれるよりマシでしょ?」

「そうだけどさぁ……」

「それが嫌から頑張るしかないよー、なにかしたいことがあるから、ここに来たんでしょ?」

 

 ある。深海棲艦をぶちのめすこと。

 もとい仲間を殺した深海棲艦に報復することだ。

 艦娘の使命を忘れる気はないが、報復を捨てる気もない。記憶がなくても魂が覚えているのだ。

 

「ここはとても過酷だし、守る実感も得にくいから、なおのこと目的を強く持たなきゃいけないの」

「那珂ちゃんの目的は……」

 

 しまった、聞くべきではなかった。もう遅い。那珂の目は深淵の中で光だしていた。

 

「もちろんアイドル! なぜならば那珂ちゃんは──」

「あ、うーちゃんなんだか凄いやる気が出てきたぴょん!すぐにダンスをしたくなってきたぴょん!」

「そう?」

 

 あんな狂気はもうこりごりだ。

 無理やり会話を切り上げて、卯月と那珂は特訓へ戻る。実際問題時間はない。あと数日で死なないレベルにならなくては。

 

 

 

 

 

 ダンスという名目の体幹トレーニングは夜まで続いた。

 言動は極めて特異だが、那珂はかなりまともな教官だった。

 球磨のように気絶するまで走らされるわけでもないし、濡れマスクもない。休む頃に休ませてくれる。

 

 だが、楽ではない。

 例のダンスはかなりの集中力を必要とする。一瞬でも弛んだら即転倒だ。集中だけでもダメだ。艤装の重さも含めたバランスを常に考えないといけない。

 

 ヒィヒィと走っていれば良かったランニングとは違い、頭も使わないといけない。

 頭を使いながら踊りまくり、体に動きかたを覚えさせないと、とても那珂についてこれなかった。

 

「か、からだじゅうが、い、痛いっぴょん」

 

 卯月は悲鳴さえ上がらないほどの筋肉痛を味わっていた。

 

「にゅ、入渠したい……ぴょん」

「基礎体力を戻すわけじゃないんだからダメだよ」

「鬼!」

「それは那珂ちゃんのお姉ちゃんに言ってよ!?」

 

 自分の姉を何だと……と思ったが、あの『神通』では、まあ、止むをえないか。卯月は黙り込む。

 

 しかし那珂も十分その血を継いでいる。

 泣く子も黙る鬼の二水戦。その妹の訓練もやはり鬼のようだ。いくら仕方ないと割り切っても全身の激痛は誤魔化せない。

 

「とにかく入渠はダメ、かわりにお風呂に入ろう、疲れはとれるよ」

「ぴょん」

 

 濡れたからだを引き摺って風呂場まで直行だ。

 風呂にはすでにお湯が張られている。那珂が用意していたらしい。本当に気が利くというか、用意が良いというか。とにかくありがたい。

 

「っあ、あ゛~」

 

 湯船につかった途端、変な声が出てくる。

 入渠じゃないのに気持ちが良い。疲労し切った全身にお湯が染み込んでくる。体に力が入らず湯船に沈みそうになる。

 

「ちょっと、お風呂で轟沈とか末代の恥だよ」

「ご、ごめんぴょん」

 

 後ろに回った那珂が体を支えてくれる。情けない恰好だが、支えがないとホントに溺れそうだった。本当に良い人だ。

 ちょっと変だけど。

 

「……なんでバスタオルつけてるぴょん?」

「なんでって、撮影がある時はバスタオル必須でしょ?」

 

 撤回、だいぶ変な人だ。

 今日の疲労、このノリも原因じゃなかろうか。まあ良いんだけど。

 はーと溜め息をつきながら、那珂にからだを預ける。

 

「あらら、お疲れさまー」

 

 背中に柔らかい感触があった。

 卯月は自分の胸を触る。ちょっと柔らかいぐらいのまな板が装備されていた。

 

「なぜぴょん」

「駆逐艦……でも大きい子は大きいか」

「まだだ、うーちゃんは成長期だぴょん。これからぴょん」

「艦娘は成長しないよ」

「絶望したぴょん」

 

 今なら絶望で深海棲艦になれる気がする。冗談だが。

 艤装の重さに振り回されるのも、この少女の体の影響が大きい。文句言ったってどうにもならないけど。

 

「疲れたぴょん」

「よしよし、頑張った頑張った」

 

 那珂はわしゃわしゃと卯月の頭をなで回す。突然のことにからだが固まった。じゃっかん雑だが悪くない。

 

「ど、どーしたぴょん?」

「え?卯月ちゃんはとっても頑張ってるから、誉めてあげようと思ったんだけど。嫌だった?」

「嫌じゃないぴょん。けど……そんな頑張ってないぴょん」

 

 訓練もまだ完璧ではない。頑張ろうがなんだろうが結果が出なければ意味がない。

 ましてやわたしたちは軍人だ。頑張ったけど守れませんでした、なんて通じないのだ。

 

 だからこの程度は『頑張った』に入らない。そう考える卯月だったが、那珂はそれでも卯月をなでていた。

 

「いやいや、頑張ってるよー。だってさ、帰る場所がないって知って、まだ数日しか経ってないんだよ?」

 

 そういえば、そうだ。半年間寝てて、起きてからは色々あっという間だった。

 

「普通ならさ、まだ泣いてるよ。訳分かんなくて辛くて、心の整理がつかないよ」

「そういうもんかぴょん?」

「うん、そーゆー子は那珂ちゃんも見てきたから」

 

 悲しそうに那珂は呟く。前科戦線に来る前に見てきたのだろう。わたしより艦娘歴は長いのだ、一人や二人、仲間を失った艦娘だって見てるだろう。戦争なんだから。

 

「でも卯月ちゃんはもう歩いてる、これは凄いことなの」

「別に凄くないぴょん。復讐のための努力だぴょん。細かいことを覚えてないから、耐えれてるだけぴょん」

 

 艦娘の本分から外れている自覚はある。動機はあくまで復讐だ。しかも記憶はない。仲間を喪った瞬間が分からないから、悲しみも薄まっているのだろう。

 

「なら、なおさら凄いよ卯月ちゃんは」

「は?なんでぴょん?」

「誰かの助けがなくても、自力で立ち上がれるから。理由なんて復讐でもなんでも良いんだよ、それで前に進めれば」

 

 そう言って那珂はまた卯月の頭をわしゃわしゃとなでた。

 

「卯月ちゃんが認めなくても那珂ちゃんが認める。卯月ちゃんは頑張ってる。だから褒めてあげる!」

 

 わたしは頑張ってるのか。

 少しでもそう思ったからなのか、撫でてもらって気が緩んだからなのか。どちらが切っ掛けかは分からない。卯月のこころが決壊した。

 

「…………」

 

 涙が落ちる。

 一滴出たら止まらない。帰る場所がなくなってしまったと知ってから耐えてきた物が一気に溢れ出す。

 自覚はなかったが凄まじいストレスに晒されていたのだ。この少女の体には重すぎるものが圧し掛かっていた。困惑や怒り、悲しみがぐちゃぐちゃになって暴れ出す。

 

「……うっ……あ、あぁ……」

 

 喉が張り裂けるような声ではない。ボタボタと滴り落ちていくような静かな泣き声。

 那珂はなにも言わずに黙々と慰めていた。卯月もそれに甘えるように泣き続ける。突然冤罪を被せられ、仲間が死んだと告げられたのだ。辛くないわけがなかった。その全てを吐き出すように卯月は泣き続けた。

 

 

 

 

 どれだけ泣いてたのか分からないが、泣くだけないてスッキリした感じだ。のぼせてないから長時間叫んでたわけじゃなさそうだ。

 

「もう大丈夫?」

「……ごめーわくをかけたぴょん」

「うん、じゃあそろそろ上がろっか」

 

 ずっと付き合わせてしまったのに嫌な顔一つしない。結構変な人だけど優しい人だ。こんな人なのにどんな『前科』を犯してしまったのだろうか。聞かない方が良さそうだけど。

 

「お蔭で明日も頑張れるぴょん!」

「そっか、それは良かったよ、那珂ちゃん撫でてただけだけど!」

「う、うん」

 

 撫でられたんだった。思い返すと結構アレだ。卯月は撫でられた頭をなんとなく隠す。色々吐き出してしまったことが恥ずかしかった。でも、お蔭で気持ちがかなり楽になった。

 

「ありがとぴょん」

「ん?なにか言った?」

「なんでもないぴょん」

 

 また明日も頑張ろうという気持ちになれた。もはやどうにもならないのだから、いっそ前向きになろう。復讐は必ずするが後ろめたさなんて知らない。元気に報復を成し遂げてやるのだ。那珂が言った通り、今はとにかく前に進むべき──もとい生き残るべきだ。

 

「お礼なんて言われちゃった、那珂ちゃん恥ずかしい!」

「聞こえてんじゃねーかぴょん!」

「ほらほら、早く出ないとご飯冷めちゃうよ」

 

 なんとかやっていけそうだよ、神提督。遠くにいるであろう提督に卯月は伝える。また会える日を望みながら。




冷静に考えれば泣かぬはずがないこの状況。たまには年相応に泣いていただきました。実年齢は知らん。体に引っ張られたのでしょう。
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