前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第141話 欠陥品

 訓練中に起きたD-ABYSS(ディー・アビス)起動というアクシデント。状況から考えて要因は顔無しにあると卯月たちは判断。実際その予想は当たっていた。秋月にも確認を取り裏付けも取った。

 

 だがそれは吐き気を覚える程胸糞悪いものだった。

 

 顔無しに艦娘が痛覚を残したまま茎こまれている理由。それは中の艦娘を死ぬまで苦しめることで、システム作動の為のエネルギーを永遠に生み出すためだったのだ。

 

 しかし──まるで嬉しくないが──これでD-ABYSS(ディー・アビス)をより解明することができた。

 顔無しを調べれば、連動してシステムの解析もできる。

 

 北上は回収した秋月のシステムと併せて更なる解析を開始。

 その結果が出るまでの間、卯月はいずれ来たる最上への戦いに備え、訓練をしたり秋月の所へ行ったりしながら過ごしていた。

 

 尚、D-ABYSS(ディー・アビス)が作動状態になるのはほんの一瞬だけだった為、システムを使い熟す為の訓練はできなかった。なのでそれ以外の所を集中的に鍛えていた。

 

 今までので卯月の基本戦術は決まっている。敵への決定打を持たない代わりに、敵の至近距離で霍乱を行い、修復誘発材によって隙を誘発させる。チャンスがあればシステムを作動させる。

 

 危険極まりない戦い方だが、睦月型最弱と呼ばれる彼女がまともに戦うにはこれぐらいしか方法がない。

 勿論攻撃を喰らえば即死。なので回避運動の訓練を満潮と一緒に行っている。調査の気晴らしとしてたまに北上も来てくれる。

 特に卯月は、怒りのまま冷静に自分を犠牲にすることがままある。そこは直さなければならない。

 

 そうして日々を過ごして数日、漸く北上の解析にケリがついたということで、卯月と満潮は工廠へと呼び出されていた。

 

「呼ばれて来たけど、分かったのかぴょん?」

 

 勿論D-ABYSS(ディー・アビス)のことだ。二つのシステムを解析したのだから、今までより進んでいなければ困る。

 

「大丈夫、そこんところは安心して良いよ」

 

 卯月の心配は無用なものだった。北上はしっかりと調査を終えていた。とは言え正式な報告は提督へ済ませてある。卯月たちへの連絡は口頭のみ、簡易な形で済まされる。単純に書類を用意するのが面倒というのもある。

 

「じゃあ早くしてよ。私たちだって暇じゃないんだから」

「へいへいっと……さとて、どっから話そうか。逆に聞いてみよう。何から知りたい?」

「結局作動条件は分かったの?」

 

 ズビシと手を上げて質問する卯月。北上はちょっと自身なさげに頷いた。

 

「多分、分かったよ」

「待ってよ、多分って何よ、どういうこと」

「ほぼ確定に近いって話。確定じゃないのは念頭に置いといてね。だってさ、秋月ので作動実験試してないじゃん」

 

 卯月のシステムを作動させる際、『怒り』がトリガーになるのは確定済み。では秋月はどうなのか。同じく怒りなのか別の感情か、全く別の何かなのか。

 それはまだ──当分実施できない。秋月のメンタルもフィジカルも余りにボロボロだ。強行したら本当に死にかねない。

 

「まーそれでも十分だぴょん。北上さん、お願いします!」

「あいよー、ゲホン、じゃあ良いねー?」

「だから早くして」

「ノリが悪いなぁ……」

 

 教師めいたノリで北上は話し出す。現時点で判明した作動条件を。

 

「起動条件一つ目、『怒り』の感情。だと思われる。但しこれは仮だ。さっき言った通り秋月のパターンを確認できてないからねー」

 

 但し正直推測はできている。恐らく怒り()()()()()()。ただ証明できないので言わないだけである。

 北上は続けて次の要因の説明に入る。

 

「この間、卯月のD-ABYSS(ディー・アビス)が起動した時、顔無しが気絶した。それは秋月の証言から、エネルギーが取りこまれたのが原因だと推測された。そん時の顔無しのデータを見たら、確かに力が大幅に減衰してたよ」

「ってことは」

「作動条件二つ目、射程距離内にエネルギー源が存在すること。深海の力がないと起動できない」

 

 前々から訓練した際、卯月のシステムが作動しなかった理由がコレである。あくまで深海のエネルギーを取り込む装置。取り込む物がなければどうにもならない。そんなある意味単純な理由だったのだ。

 

「エネルギーって言うけど、具体的には何を刺すの?」

「代表的なのはそりゃ深海の領域だ。あれは要するに()()()()()()()()だからね。十分なエネルギーがある筈だよー」

 

 忘れがちだが、深海棲艦の本体は海その物である。姫をコア、海を在り代として発生する現象とも言える。

 

「後は海域の中枢である姫個体。実際泊地棲鬼や戦艦水鬼が近くにいる時にシステムは作動してたしね。残るは顔無し。秋月が言ってた通りあれはエネルギータンクとしての役割もある。ただ、さっきのに比べると劣るみたい」

 

 あくまで補助タンク。卯月が一瞬しか作動できなかった通り、十分な量は確保できない。

 

「顔無しだけど、幾ら補助と言っても、数秒も維持できないんじゃ意味ないでしょ」

「いや、それは多分、基地内に入れる時に浄化しちゃった弊害じゃないかなー。それで深海棲艦としての力が大幅に削られちゃっただろうし。薬で極力感覚も抑えているから、尚更負念が生まれないんだろうねー」

「……やっぱ、何度聞いても胸糞悪くなるわ」

 

 深海棲艦の中に感覚を維持したまま艦娘を組み込む。そうすると相反する存在が力ずくで同化させられている為に反発が起きる。これが地獄のような苦しみを呼ぶ。それがシステムの燃料となる。この痛み自体が抑制されれば、生まれる苦しみも減る。北上はそう推測する。

 

 尚、顔無しをどうしていくかは、未だに結論が出ていない。中の艦娘には悪いが現状殺す予定はない。敵にとって重要なアンプルでもある自爆不全の個体だ。処分できる訳がない。例え死ねない地獄が続くとしてもそれはできないのだ。

 

「エネルギーエネルギーって言うけどさぁ、あの、こんなクソ単純な理由が、今の今まで分かんなかったのさ」

 

 卯月的には不思議でならない。分かってしまえば簡単な答えだった。皆どうして気づけなかったのだろうか。

 余りに単純すぎる。気づきが遅れたことに苛立ちさえ見せる卯月。北上は困った様子で頭を掻く。

 

「いやー、だってさー、そうなると……このシステム、意味不明になるんだよ?」

 

 意味不明とは何なのか。卯月は不思議そうな顔をする。

 

「考えてもみなよ卯月、このD-ABYSS(ディー・アビス)は何の為の装置なのさ」

「艦娘強化装置の出来損ない。もしくは艦娘洗脳装置のどっちかだぴょん。それがどうしたんだぴょん」

「じゃあ強化装置として考えよっか」

 

 それ以外の何だと言うのか。卯月は首を傾げる。

 

「これを作動させられるエネルギーは、深海の領域か、姫級もしくは顔無しが近くにいるか。そのどれかが必須だ」

「うん」

「ってことは、敵海域でしか作動できないから鎮守府内で動作確認等ができない。そして暴走のリスクは多大。その上一隻しか持ち込めない。作動後は反動で大破確定。後遺症の危険度も大。感情で起動するから制御困難」

「……うん?」

 

 まともな動作確認は基本不可能。

 悪意に呑まれる可能性は極大。

 エネルギーの食い合いが起きるので投入できるのは一隻だけ。食い合いを出力向上で解決すれば暴走の危険性増大。

 

 身体的ダメージ必須。場合によっては後遺症まで追加。

 これらを承知で必殺のタイミングで使おうにも、起動条件的に制御はムリ。というか起動条件が『怒り』という時点で、暴走しろと言ってるも同然。卯月はあくまで例外だ。

 

「それでもこれは技術だ、何れ解決できるものだとしよう……そこまでやんなら最初から特効艦持ってきた方が良くね?」

 

 吹雪が吹きすさぶ。二の句が仰げない。

 事実を淡々と並べただけでコレだ。卯月は必死に頭を回転させる。まだ見落としている物があるかもしれないからだ。

 

「うんゴミだわコレ」

 

 見落としはなかった。理解不能という困惑だけが残った。

 

「そうなる」

「ひ、酷過ぎない幾ら何でも……強化度合は凄いけど、これじゃ使えないわ。兵器として失格でしょ」

「そりゃ強化は凄いよそこは確か。だけどここまでのデメリットしょってまで使いたいかって言われると。正直欠陥直している間に戦争が終わる気がする」

「で、でも改善する可能性はあるわよ」

「エネルギー源が近くにないと作動できないのは欠陥じゃなく『仕様』。基地内では絶対に動かせない。安定した整備や訓練はできないだろうねー。そんな兵器使うヤツ居ると思う?」

「居る訳ないぴょん……」

 

 まさか基地内に姫級を複数その為だけに保管し続ける訳にもいかない。かかるコストに反してメリットが少なすぎる。艦娘強化装置として見た場合──使()()()()()()()()というのが評価になる。

 特にエネルギー源を必須とした結果、整備できない問題が大きすぎる。ただでさえ暴走のリスクが大きいのに整備負荷とか欠陥でしかない。

 

「だから、その可能性は低いって思ってたのさ……そのまさかとは思わなかったけど。これ考えた奴は余程の阿保なのかなぁ」

 

 本当に阿保なのかもしれない。卯月は割とマジでそう思う。

 

「あ、そうだ、じゃあ洗脳システムとしてはどうだぴょん。洗脳した艦娘を鎮守府にでも潜ませておけば惨劇を起こせるぴょん」

 

 そこで卯月はもう一つの可能性に思い至る。だが北上は深くため息を吐いた。

 

「姫級が近くにいないと作動できないのに?」

 

 まさか姫級が鎮守府まで同伴する筈もない。保護者同伴の工作員とかふざけているにも程がある。

 

「そもそもシステム作動中、赤いオーラはギラギラしてるし目は真っ赤に光ってるし、バレバレじゃんか」

「せやねー、そやねー……」

「じゃあコレ何に使えるのよ?」

「さあ?」

 

 満場一致でガラクタ判定だった。全てを解明しきれていないのに欠陥ばかりが見えてくる。自らを散々苦しめてきたシステムの正体は只の屑鉄だった。あんまりな事実に卯月はどう反応すれば良いのか困り果てる。

 

「って言うのが、今の所分かってるD-ABYSS(ディー・アビス)の詳細だよー。引き続き調査は続行するけどねー」

「いや必要あるの。こんなの即廃棄処分しかないじゃない」

「待って。こんなんでも、うーちゃんが戦う為の貴重な道具だから。まだ勘弁してくれぴょん。こんなんだけども!」

 

 二回も言った。駄目装置なのはもう自覚していた。艦種的な宿命もあるがそれを差し引いても卯月は弱すぎた。

 

「いや、使い続けては貰うよ?」

「……本気で言ってんの?」

「うん。マジだよ。まだまだ調べることはあるしサンプルは必要」

「これ以上何を調べろと?」

「一々うるさいぞ満潮。使って良いって言ってんだからそれで良いじゃん!」

「アンタ馬鹿? こんな危険で役立たずなゴミを使い続けて、良い事がある筈ないじゃない。それより地力を鍛えなさいよ」

「そんな時間ある訳ないぴょん!」

 

 危険性しかない装置に頼るよりも素直に訓練を積んだ方が良い。満潮の意見は正論だ。しかし時間は有限。限られた時間で確実に敵を倒さないとならない以上、手段は多い方が良いとも言える。どちらも正論だ。

 それに対して、北上は少し申し訳なさそうにしながら呟く。

 

「生憎だけど、卯月の安全は一切保証してないよ。前言った通りアタシ達が求めているのは敵の打倒。卯月の心身は二の次だ。むしろ──更に危険な領域に踏み込むことになるのは間違いないの」

「……まだ何かあるのかぴょん」

「ある。碌でも無いのが」

 

 これ以上クソみたいな要素が増えるのか。まさかまだあるとは思っていなかった。げんなりとしながらも卯月は腹を括る。北上もうんざりしながら答えた。

 

「卯月のD-ABYSS(ディー・アビス)だけど、何故だか分からないけど、遠隔で動いてた」

 

 とんでもない爆弾が投下された。

 

「……はっ!?」

「顔無しや秋月に接触して、激痛とかにひっくり返った時あったじゃんか。あの時装備してないのに、システムが確かに作動してたの。これと関係するかは分かんないけど卯月のは秋月のと比較して、作動効率―—吸収効率がかなり高かった。深海のエネルギーとの()()()()()()って言っても良いかな」

「待ってどういうことなの意味分かんないわよ!?」

「うん、アタシも」

 

 肝心の北上も困惑気味。当然だ。装備していない状態で艤装が動いたなんて前代未聞の事態だ。原因も未だに不明。

 吸収効率の高さ、つまり親和性の高さが何かシステムと関係しているのでは。

 北上はそう考えているが、子細は不明だ。

 

「強化システムとしてはクソ、洗脳装置としてもクソ。じゃあこの装置は何の為にあるのかなって話だけど、逆に考えれば単純。これ以外の『何か』の為にある。まだその為に付き合って貰わなきゃいけない。望む望まないに関わらずね」

 

 自分で言っておいてなんだが。

 

 わたしはとんでもない地雷原でタップダンスを踊ってるんじゃないか。

 

 卯月は引きつった笑みを浮かべる他なかった。




あらゆる創作物の強化システムのデメリットだけを煮込んだような代物。こんな物何に使うのでしょうか。
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