前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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次話投稿時は、遂に、モンハンが……!


第144話 強制合同練習

 ポーラの手引きでやっと叶った熊野との会話。

 しかしそれは、成功だったのか失敗だったのか、何とも判断し難い結果で終わっていた。

 

 その会話を終えて自室へ戻ってきた卯月と満潮。

 そして、結果報告をそこで(当然の如く酒を飲みながら)待っていたポーラ。

 満潮は返ってくるや否や、疲れ果てた様子でベッドへ倒れ込んだ。

 

「疲れたわ」

Buon lavoro(お疲れさま)で~す」

「帰って余計疲れる」

「先にParlare()を聞かせてくださいよ~、折角良いposto(場所)を用意してあげたんですから~」

 

 ポーラ的もある程度考えていた。

 その一つが『酒』だ。

 人間だろうが艦娘だろうが、アルコールの影響は大なり小なり受ける。

 酔った状態なら、頑なな熊野の口も開けやすくなる。

 

 あえて席を立ち、卯月が来るまで時間を作ったのも、アルコールを全身に回すための時間作りだったのだ。

 

「会話ねぇ、まあ、成立はしたわよ。前よりマシだったわよ。でも成功とは到底言えないわ」

「でもお話はできたんですね~、じゃ、successo(成功)ですね!」

「耳までアルコールに浸かってんの?」

 

 そして満潮は、結果を掻い摘んで話した。

 最終的に、卯月が勝手にあれこれさせて貰うと、言い放って終わってしまった。

 ただの一方的な宣言。

 これで成功とはとても言えない。

 

「本当に何考えてんのよ卯月アンタ。話し合いする気あったの。熊野死ぬのよ?」

「いや……それはうーちゃんにはどうしようもないじゃん。それとも無理くり過去を穿り返す? そこに理由はあるだろうけど、できるとは思えないぴょん」

 

 卯月の言う通りではある。

 今の熊野から、過去の話を聞きだすのは至難の技だ。

 そもそも、どんな過去なのか分からない。

 聞きだせた所で、過去の問題を解決できるかも不明。

 悪戯に傷を深くして、終わる可能性もある。

 

「熊野のことは心配だけど、うーちゃんが首を突っ込める内容じゃない。だから、突っ込めるトコから行く。それがベストだぴょん」

「それが、秋月のことって言うの」

「実際、ぶっ飛ばさなければ気が済まないし」

 

 秋月とずっと一緒に居たので、かなり情は移っている。

 その分最上を許さない気持ちも強まっていた。

 洗脳されているのは百も承知。

 だが殴る。

 瀕死の重傷まで追い詰めなければ『殺意』が収まらない。

 

「最上は叩き潰す。掴まえてから情報も引き出す。その為に必要な情報は吐いて貰うぴょん。もしかしたら、中佐にも隠してるかもしれないし」

「誤魔化されるんじゃないの」

「つけないから大丈夫ぴょん」

 

 何故か自信満々に言い放つ卯月。満潮は不思議そうに首を傾げていた。

 

「うん、ま~そこそこの所に着地できたんじゃないかって、ポーラは思いますよ~」

「本当にそう思ってんのアンタ」

Conversazione(会話)すらないままよかマシですって」

「そうだけど……」

「良いぴょん。手伝ってくれてありがとぴょん。そこの交換券持ってって良いぴょん」

「感謝で~す」

 

 と言われ、報酬を受け取るポーラ。

 そして部屋から出ていく──かと思ったら、満潮の方へ近付いていった。

 急に何なのか、不思議そうにする二人へ、ポーラは話しかけてくる。

 

「一応ですけど~、満潮さんのも、errore(間違い)じゃないですからね~」

「……急に何?」

「何も言えなかったこと、気にしてますよね~?」

 

 それは、図星だった。

 最上と死にたいと、とんでもないことを口にした熊野に対して、満潮は碌に話すことができなかった。

 卯月はアレな内容だが話した、その違いを引きずっていたのを、ポーラは見抜いていたのだ。

 

「ムリに言わなくたって、良いこともあります。熊野さんが、どんな過去なのか、どれ程の物を抱えてるのか──そーゆーことを、その気持ちを考えたら、迂闊に話せなかった……」

「……そうよ、ダメなヤツよ」

Sbagliato(違います)~、それは、相手を傷つけたくないってことだと、ポーラは思います」

 

 決して悪い事ではない。

 もっとも効率的な意見を言うことが、常に正しい訳ではない。

 自分が傷つくのを恐れている訳でもない、あくまで相手のことを気遣っている。

 その優しさはむしろ誇るべきだ。

 ポーラはそう諭してくる。

 

「なんで、分かるの、そんなこと」

「熊野さんにも言いましたけど~、ポーラこれでも、此処の最古参ですからね~、年の甲羅? ですっけ?」

「年の功でしょ」

 

 今更日本語に不自由する筈がないだろう。

 くだらないボケを一蹴する満潮。

 ポーラはエヘヘと間の抜けた笑みを浮かべていた。

 

「大丈夫です~、その優しさは、人間らしい良いcuore()です。捨てたりしちゃーダメですからね?」

「……あっそう」

「ねぇねぇうーちゃんは? コレで高評価ならうーちゃんはより素晴らしい心を持ってるでしょ?」

 

 対抗心をむき出しにして、しょうもないことを問い詰める。しかしポーラは何故か、引きつった笑みを浮かべたまま沈黙。

 

「ポーラ?」

「……卯月さんも、良いと思いますよ~」

「お前嘘吐いてる? 嘘吐いたら殴るぴょん?」

「大丈夫ですから、Vera intenzione(本心)ですから~!」

「そう」

「じゃ、お休みなさ~い」

 

 まるで信じていない、疑いの眼差しを回避するように、ポーラはそそくさと部屋から退散していった。

 

「……ぬぬ」

 

 そして卯月に聞かれないよう、心の中で思い浮かべる。

 

 卯月のも悪いとは言わない。だが、あの物言いは──どうなのだろう。疑問が燻る。

 

 きっと彼女は()()()()()()()()()()()

 

 それが殺意として顕現できる分かるように、卯月は感情も欲望もねじ伏せて、すべき事に全力を尽くせてしまうのだ。

 

 個人的感情を殺す──のではなく、それはさておき任務を遂行できる。

 そういう心。

 軍人としてはとてつもなく優秀だろうが、人間としてどうなのかと言われたら。

 

「……吉ですかね、それとも、邪でしょうか」

 

 判断しかねる。だが、とポーラはそれでも笑った。

 

「ああ、でもそれも良いです」

 

 人間らしくても、らしくなくても、それもアリ。どちらにしてもポーラにとっては好ましい存在なのだから。

 

 

 *

 

 

 翌日、満潮の様子が少し良くなったことに卯月は気づいた。

 ポーラの言う通り、あの時熊野に何も言えなかったことを気に病んでいたのだ。

 けど彼女の助言で、少し救われたのだろう。

 昨日までと比べて顔色が良い、食事量も多く、元気そうな様子だった。

 

 それはさておき、卯月は早速行動を開始することにした。

 具体的に何かと言うと、熊野に引っ付き続けることにしたのである。

 首を突っ込ませさせて貰う。

 つまり、あらゆる訓練に、勝手に参加するという意味だ。

 

 基地内に耳を澄ませて、熊野の位置を特定。

 居場所は工廠。恐らく艤装を受け取って、訓練海域に行くつもりだ。

 一人では行かせない。

 卯月と満潮もダッシュでそこへと向かう。

 

「おはようだっぴょん熊野!」

「……卯月さん?」

「一緒に訓練させて貰うぴょん。異議は認めないぴょん!」

 

 その言葉で、熊野も卯月がしようとしていることを理解した。だがとても認められない。誰も巻き込みたくないのだから。

 

「すみません北上さん訓練海域に使用許可はキャンセ」

「お金で使用順奪い取っておいて都合が悪くなったとかあり得ないでしょ? 幾らアタシでも二度も賄賂は通じないよ。まさか体調不良なんて言わないよね、朝ごはんちゃんと食べてたことも把握してるからね。で、何かい言う事はある? ないよねはいお終い分かった?」

「ル……」

 

 ぶっちゃけた話、この熊野の暴走に、北上も思う所はあった。

 親友関係のことを、自分だけでどうにかしたい。

 その思いは理解できる。

 しかし、相手はD-ABYSS(ディー・アビス)の最上だ。絶対単独では倒せない。それに秋月の件もある。一人の問題ではなくなってる。

 

「返事は?」

「……はい」

「卯月と満潮も使って良いからね~、艤装は整備済みだよ。あ、でもD-ABYSS(ディー・アビス)作動は控えといてね」

「分かりましただっぴょん!」

 

 ぶっちゃけ、もう一人で抱え込む所とか、最上と一緒に死のうとしている所を、変えようとは思っていない。

 だが倒せないまま死なれるのが一番困る。

 だから、一緒に訓練をすることにした。

 そうすれば自ずと連携もできる、熊野のやっていることを真似れば、きっと最上への対策にもなる。

 

 この考えには(一応だが)満潮も概ね同意。

 熊野の考えをどうにかしないといけないが、考えている間に作戦決行となったら意味がない。

 それはそれとして考えながら、訓練をしていくことになる。

 

 熊野はかなり嫌だったのだが、北上の圧もあり断れなかった。

 二人が勝手にいるだけ、訓練は別々―—とはならない。

 何故なら訓練海域は見た目程広くない、魚雷や主砲の射程距離は広く、隣同士でやってても射程に入ってしまう。

 それが誤爆しないよう気遣うとなると、実質同じように訓練しているのと、同じような感じになってしまうのだ。

 

 最もそれが卯月の狙いなのだが。

 

「……ねぇ卯月こんなんで良いの」

「何もないよりマシだぴょん」

「そうじゃなくて、対最上用のノウハウ、盗み見れてるのかって話」

「ふははは、まるで分かんない」

「阿呆ォ!?」

 

 だがそれをするには、卯月の経験値が悲しいぐらい不足していた。

 多くの実戦を経験したが、それでもギリギリ新兵卒業か否かと言ったレベル。

 結局、経験が多くある満潮が、隣で熊野の挙動を観察し、対最上の動きを身に着けていく羽目になったのであった。

 

 *

 

 

 その後も卯月たちは勝手に熊野について回り、盗み見兼自主訓練に励んでいた。そしてその様子を、上から不知火たちが眺めていた。

 

「……気になるのか?」

「ええ、結構」

「そうか」

 

 と言いながらも仕事の手は休めない。

 既に作戦は次のステージへ移行している。

 標的は言うまでもない。

 最上だ。

 

 今回も同じように、敵を知る為の重要な手がかりであることから、抹殺ではなく捕縛を目的として作戦は練られている。

 北上からも、後一つで良いからD-ABYSS(ディー・アビス)のサンプルが欲しいと要望も受けている。

 

 しかし最上の戦闘能力があれだけとは思えないのも事実。

 ドローンのような挙動をする瑞雲、甲標的も複数運用できるかもしれない、人肉を容易く抉る全身の力、全てが前代未聞だ。

 

 幸いにして、熊野から『鈴谷』に関する情報は得ていた。

 彼女自身の考えは兎も角として、戦いの為に絶対必要な情報だ。

 それはしっかりと話して貰っていたから、問題はない。

 

 だがそれはそれとして、熊野の状態は問題視されている。

 

「どうすれば良いのでしょうか。熊野さんは……」

「どうもこうもない。奴は前科戦線に必要な人材だ。自殺も決して許さない。既に対策はできている。奴の首輪は交換済みだ」

「高圧電流が流れる物に、ですか」

 

 万一自殺や相打ちを狙おうとしたら、旗艦or正規艦娘がスイッチオン、高圧電流を持って意識を奪う。

 

「一応なんですが、その、メンタルケアなどは」

「必要ない。ここは療養施設ではない、前科持ちに対する懲罰部隊だ。自死は決して認めない。命令違反や任務に支障をきたすなら、厳格に対処する。最上との交戦前に解体を言い渡すことも辞さん」

「そうですね、分かりました」

 

 卯月に対しても、特にケアをした覚えはない。

 その方が利用価値が高かったこと、代替の効かない存在だったら、壊れないよう注意しただけ。

 裏帳簿に多額の出資をしてくれている恩こそあれど、熊野自身にそれ以上の価値はない。

 もし死んでも、死んだ事実を隠匿して、資金を回収し続けるだけだ。

 どれも表に出せないアングラな企業だ、憲兵隊の協力もあれば潰すのは簡単。

 

 勿論権力の氾用だ。

 だから何だと言うのか。

 前科戦線の維持、及び、深海棲艦殲滅の為の手段を選ばないのが、此処のやり方なのである。

 

「もし露見しても問題はない。私の首が消えるだけだ。いや……せめて内通者を特定できるまでは、生き延びなければならないが」

「滅多なことを言わないでください中佐。それが仕事とは承知していますが、不知火は悲しくなります」

「落ち着け、実際起きるとは言ってない、もしもの話だ」

 

 中佐は責任者、不祥事が起きれば首が飛ぶ。

 しかもやっている事が事、物理的にも首が飛んでしまう。

 そんな結末は見たくないと、不知火は辛そうな表情を浮かべる。それを見て内心慌てた中佐は彼女を慰めていた。

 

 その時、外部からの内線が鳴る。中佐は不知火から離れて受話器を取った。

 

「……波多野曹長か?」

 

 憲兵隊の波多野曹長、あきる丸の上司からの直電である。

 会話は聞こえないが察せられる。

 憲兵隊に頼んでいた、D-ABYSS(ディー・アビス)に関係あると思われる人物──千夜千恵子についての調査報告だろう。

 

 仕事をしながら会話が終わるのを待つ、だがそれは、中佐の声に遮られる。

 

「―—なに?」

 

 深刻極まった表情を浮かべながら、中佐は受話器を置いた。そして不知火の方を視て、信じられない、といった様子で口を開いた。

 

「千夜千恵子だが」

「はい」

「恐らくだが、()()()()()()とのことだった」

「……え?」

 

 ならば誰が。その疑問への答えは、まだ先となる。だが憲兵隊の動きにより、手掛かりはそこまで近づいていた。

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