前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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モンハンのやり過ぎで前回投稿し損ねましたすみません


第145話 模倣

 D-ABYSS(ディー・アビス)に関わっているとされる千夜千恵子──彼女が死亡しているのではないか、という情報は、関係が深い卯月にも伝えられた。

 

「え゛? 死んでる?」

 

 思わず箸を落としてしまい硬直。

 当然の反応だ。

 今まで彼女が生きていて、どこかに身を潜めている前提で卯月は考えていた。

 その前提が崩れてしまったのだ。

 

「……どうして、そうなったのよ?」

「憲兵隊の方々が、それらしき証拠を見つけてくれたからです」

 

 数年前、千夜博士が姿を眩ませてから、憲兵隊は追跡できるだけの記録を徹底的に追った。

 その結果、ある場所で痕跡が途切れていることが判明した。

 

「切り立った崖が、荒れる海に面する場所。そこの近くで彼女のものと思われる車両が発見されました。尤も経年劣化で草や埃塗れでしたが」

「それで」

「近くに、彼女の髪の毛がありました。それ以外の痕跡は皆無。時間が経ちすぎていて、足跡の痕跡も殆ど辿れなかったそうです。どうにか解析できたものが正しければ、足跡は()()()()()()いました」

 

 沈黙が流れる。

 その崖の先は断崖絶壁に荒れ狂う海、落ちたら絶対に助からないと不知火は言う。

 

「落ちた。じゃあ……自殺なの」

「えー、そんなオチは勘弁ぴょん。うーちゃんをこんな目に合わせておいて自殺とか、絶対絶対ぜーったいに許さないぞ」

 

 一瞬瞳が赤く染まった──気がする。

 眼の前で見ていた満潮は自身の目を疑った。

 勿論それは気の所為、二度見した時には、元の瞳になっていた。

 

「いえ、自殺ではありません。他殺かと」

「え゛っ?」

「足跡は()()()ありました。尤も偽装されている上時間経過もあり、誰の足跡かは特定できなかったようです」

 

 改めて沈黙が流れる。

 千夜博士は、何者かに殺されたということなのか。

 状況証拠は『そうだ』と説明している。

 だが誰が、何の為に。

 これ以上のことは不明、憲兵隊も合法・非合法な方法を駆使して、絶賛調査中とのことだった。

 

「なんか、振り出しに戻された気分だぴょん」

「我慢してください。今卯月さんがすべきことは、最上さんを捕縛することです。D-ABYSS(ディー・アビス)の訓練はあれ以降できているんですか」

「たった数秒しか起動できないんじゃしようがないぴょん」

 

 ついでに起動すれば、エネルギーを奪われた顔無しが卒倒するおまけ付き。

 いくら深海棲艦は全員死ねと思っていても、一々気絶して苦しめとは思えない。ましてや顔無しは被害者だ。

 結局、システム関係でやれることはかなり限られる。

 以前と同じよう、必死で体力をつけ、感情を制御し、起動時間を少しでも延長することだ。

 

「それはもういい。それより聞きたいんだけど、熊野のアレ大丈夫なの?」

「と言いますと」

「対最上の訓練よ。あいつがだんまりなせいで、ちゃんと対策できてる気がしないんだけど。わたし達は熊野の真似をして、多少身についているけど……」

 

 それでもこれが正解か判断できない。

 これで正しいのだろうか? 

 満潮はそんな不安を抱きながら訓練をしていた。

 確かに尤もな意見。不知火は困った様子で唸り出す。

 

「とりあえず満潮さんたち以外は問題ないです。それぞれにとって頂きたい対策は伝達してあるので」

「……うーちゃん達何も聞いてないけど」

「熊野さんにずっとついてたので、必要ないと思ってました」

「オイオイオイ不知火ーッ!」

 

 卯月の叫びをスルーして不知火は淡々と続ける。

 

「現状最も厄介なのは二つ。対空と雷撃です」

「瑞雲と、甲標的かしら」

「見えない艦載機も忘れてはダメです。仮定段階ですが、恐らくステルス機を運用できる『三人目』も現れるでしょう」

 

 そう、最上だけに集中すれば良いという話ではない。

 攻撃直前まで、誰も近くできないステルス機。

 最上が使っている可能性はあり得る。

 しかし、それにしては、瑞雲とステルス機で動きのクセの違いが大きかった。

 

 別人ではないか。

 そう感じたのは満潮だけではない。

 あの場にいた(卯月以外)の全員が、三人目の存在を感じ取っていた。

 まだ敵が潜んでいる可能性は非常に高い。

 次の戦いで出てくる可能性も。

 

「引き続き対空戦が想定されます。最上と空母系の何者か。飛鷹さんには制空権を確保する為に尽力して貰います。甲標的対策は那珂さんに。彼女は対潜戦闘が得意です。甲標的も近い特徴はありますから」

「……ちなみに格闘戦とかは?」

「卯月さん貴女でしょう。システムで強化された動きに追従できる人は少ないです」

 

 卯月は安堵した。

 具体的に言うと自分の役割がちゃんと用意されていることに安堵した。

 

「わたしは」

「卯月さんの援護を中心としつつ、対空、対潜、臨機応変に動いて貰います。ちなみに熊野さんも同様です」

「あっそう……ま、良いけど」

「ただ、接近戦を挑むのが、卯月さん単独は望ましくありません。秋月さんとは比較にならない。非常に危険と言えます」

 

 この点も不知火の言う通り。

 何せ指が引っ掛かっただけで、人肉が豆腐のように抉られていくパワーだ。

 秋月とは雲泥の差。

 身を持って思い知っている卯月はブルリと震える。

 

「なのでそこについては、球磨さんが援護につきます。二人掛かりならだいぶマシでしょう」

「……球磨って格闘できたっけ?」

「卯月さんより遥かにできますよ?」

 

 そうなのか、と卯月は思った。

 不知火が言ってるなら事実だろう。こんなことで嘘吐く理由はないし。

 しかし──それでも不安は拭い切れない。

 

「でもなぁー」

「まだ何か不安がおありで?」

「いや、格闘戦って言っても、熊野そこんところは全然やってくれてないんだぴょん」

「……成程」

 

 熊野は色々な訓練をしている。

 それは良く観察すれば、どれも対最上を想定したものだと察することができる。

 だが、何故か接近戦の訓練だけやらない。

 やれないのか、やらないのかは不明だ。

 航巡でも軽空母でも、接近戦はあまり縁がないからしないのか──何れにしても、見るしかできない二人からしたら、ちょっと不便さを感じてしまう。

 

「なら、演習でも挑めば良いのでは」

「……逃げ出すんだけど。高確率で」

「なら不知火から厳命しておきましょう。ただでさえ事情説明をしてないんです。それぐらいして貰わなければ」

「やったぜ」

 

 ガッツポーズをする卯月。これでより最上をボコボコにできると喜ぶ。一方満潮は『こんなやり方で良いのだろうか?』と、頬杖を突きながら悩むのであった。

 

 

 *

 

 

 不知火の提案で、熊野と模擬演習をすることになった卯月たち。

 予想通り、と言うかやはり熊野は逃げそうになったが、不知火及び高宮中佐からの勅命により逃走不能に。

 そして大変不機嫌な状態で、演習に参加してくれたのである。

 

「いやぁ感謝感激だっぴょん、熊野はとっても優しいぴょーん!」

「……どうも」

「どこが優しいのよどこが」

 

 演習の目的は、格闘戦だ。

 最上との接近戦を有利に進めるため。

 但し──接近戦に持ち込むまでの流れも、演習に含まれている。

 だから砲撃も魚雷も使用可能。

 当然、使用しているのはゴム製の模擬弾である。

 

 だが卯月にはゴム弾さえ致命傷。内部で爆音が反響し、聴覚過敏を抱えた鼓膜が内側から破裂する羽目になる。決して油断はできない。

 

「はぁ、時間のムダなので、早く始めさせて頂きますわ」

「バッチコーイ! だぴょん!」

「では遠慮なく」

 

 そして、前触れなく砲撃が放たれた。

 発射体勢を取っていない。

 腰溜めのような姿勢での高速砲撃。所謂早打ちだ。

 

 不意打ち気味の攻撃に、二人は体勢を崩される。

 そこへ絶え間なく、瑞雲が突撃してくる。

 何時発艦させたのか? 

 最初からである。

 二人がこの演習場に来るより前から、既に攻撃は始まっていたのだ。

 

「こ、これが鈴谷のやり方なのかっぴょん!」

 

 卯月は、最上と鈴谷に、何かしらの関係があると思っている。

 最上はまるで鈴谷のように振る舞うし、身体的特徴にも鈴谷らしきものがある。

 熊野も熊野で、最上に対し、異様な反応を見せている。

 これで関係性を疑わない方が無理難題だ。

 だからこそ、熊野は鈴谷の動きを知っている──したがって最上対策もできるのでは。そう思っていたのだ。

 

「一度痛い目に合いなさい」

 

 だが、卯月の一言は熊野の何かを踏み抜いた。

 

「ぴょ、ぴょーんっ!?」

 

 突如、卯月に殺到していた瑞雲の数が激増したのだ。

 何かと言うと、満潮へ回していた機体を、全て卯月の方へ差し向けたのである。

 瑞雲、しかも航巡の搭載数。

 そこまで多くはない、対処可能だ。

 

 しかし、それは熊野の技量が許さない。

 瑞雲は複雑な──最上のドローン瑞雲は異常だが──機動を描き、対空砲火を華麗に回避していく。

 卯月の行動を予想し、計算しつくされた動きだ。

 要するに何時もの熊野の行動。

 それに気づいた卯月は憤慨する。

 

「ちょっと何で熊野が動いてんだぴょん! 最上とか鈴谷の行動を取れよ!?」

「チッ……了解ですわ」

「不満タラタラじゃない」

 

 これでは訓練の意味がない。

 流石に熊野もそれは自粛し、彼女が知っている鈴谷の動きへシフトする。

 瑞雲の動きが変化する。

 計算し尽されたものではない、軌道が読みにくいものになる。

 パッと見ただけでは、誰の何処を狙っているのか判別がつかない。

 

 どう動けば良いのか──そう悩んだ瞬間、瑞雲が爆撃を仕掛けてきた。

 

「やべっ! 来るぴょん!」

 

 聴覚でいち早く気づいた卯月が指示を出し、迎撃体勢へと移る。

 だがそこに向けて、熊野は容赦なく砲撃も浴びせてくる。

 だが、その狙いは正確ではなく極めて不規則。

 なのに、動きを止めた瞬間、意識を逸らした瞬間に、攻撃が飛んでくる。計算はしてなさそうなのに、動きが読まれているような感覚。

 

「これは、やっぱりか……鈴谷はそーゆータイプなのかっぴょん!」

「みたいね、糞が、物真似でこれなら、本物はどうなんのよ!」

「知るか!」

 

 今まで熊野の動きを見ていた経験と、今の戦い。

 それらを通じて二人は、鈴谷がどういった艦娘だったのか、朧げながら理解する。

 彼女の戦法は、相手を観察し分析する熊野とは真逆。

 

「直感、で、良いのかしらね!」

 

 細かい計算は存在しない。野生の動物のような、瞬間的な判断に基づく戦い方だ。

 

「当たり、ですわ」

 

 熊野がそれを肯定した、その時にはもう、二人の足元に魚雷が放たれていた。

 ジャンプで回避すれば瑞雲と砲撃の挟み撃ち。

 逃げ回ろうにも砲撃と瑞雲が広範囲を塞ぐ。

 僅かな逃走ルートがあるが、そこに逃げれば間違いなく撃ってくるだろう。そう予想できる──だから、二人は、そこへ逃げ込んだ。

 

 こんな所に逃げ込んだのだ、どこへ撃つかは限られる。

 場所が分かっていれば迎撃も対処も可能。

 そう見込んで動いたのだ。

 

 ただ、これが通じるのは『熊野』の話。

 

 『鈴谷』ならばどうするかと言うと。

 

「それはハズレですわ」

 

 あろうことか、瑞雲と雷撃の中に、熊野自身も飛び込んできたのだ。

 

「いっ!?」

 

 熊野は深く考えていない。

 それは鈴谷の戦い方ではないからだ。

 良くも悪くも直情的、考えるより前に身体が動く。

 今回もそう。

 砲撃しても、対処されそうだったから、突っ込んだ方が良いと判断したのだ。

 

 当然、自分がばらまいた魚雷と瑞雲を回避するのは前提。

 その上で距離を詰めて、至近距離から砲撃を浴びせかける。その方が勝てると思ったから、そうしたのだ。

 

「な、めるなーっ!」

 

 だが卯月も負けてはいない。

 針の穴を縫うような、ほんの僅かな隙間を潜り抜け、熊野の懐へと迫っていく。

 一発、否、機銃一発が掠るだけでも、致命傷を受けるのが今の卯月。

 逆にそれにより、彼女の神経は、更に研ぎ澄まされていたのだ。

 常に背水の陣を敷いてるも同然の状況だ。

 

 満潮も、その後を追う形でどうにか追従している。

 卯月程回避し切れていないが、そこは砲撃で逸らしたりと、カバーできていた。

 そして、先に卯月が熊野の懐へ飛び込む。

 

 ここからは格闘戦だ。卯月にとってはこれが最も重要。砲撃にせよ絡め手にせよ、ここから始めて攻撃が成立する。

 

 主砲を打撃武器にして殴りかかってくる、それを受け流す──のさえ禁物、完全に回避してから、ナイフを急所目がけて突き立てる。

 更に後方から満潮が援護をし、砲撃や魚雷で、行動の選択肢そのものを狭めていく。

 

 そして数秒経った時、ナイフは熊野の首元に突き立てられていた。

 

 卯月は少し苛立った様子で口を開く。

 

「……ねぇ熊野」

「何ですの」

「もしかしなくても、熊野ってか鈴谷って、格闘戦ができなかったの?」

 

 最上は接近戦も強かった──と聞いている。

 それにしては熊野との接近戦が一瞬で終わってしまった。

 本物であればこんな簡単には終わらない筈だ。

 卯月は何故こうなったのか疑問を抱き、その答えに行きついたのである。

 

「……さぁ、どうでしょう?」

「あの、誤魔化す理由は何かあるのかぴょん?」

「最初から始めますわよ。時間が惜しいので」

「あ、ちょ!?」

 

 と言い放ち、スタート地点へ戻っていく熊野。

 

「……何なのアレ?」

 

 行動の意味が分からない。と言いたげな様子で、卯月は首を傾げるのであった。

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