前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第151話 最上改二壊①

 深夜、破棄された元鎮守府に辿り着いた卯月たち。

 彼女たちはド深夜かつ灯り一つもない中、スリル溢れる爆薬設置作業を強いられることとなっていた。

 幾ら内通者が恐いからといって、これはないと卯月は愚痴る。

 それでも何とか、設置作業を終えることができた。

 

 ギリギリかもしれないが、まだ最上は来ていない。

 卯月たちは艤装を身に着けて、鎮守府内部に建造した仮設トーチカ内で息を潜める。

 後は最上が来るのを待つだけだ。

 

 

『最上及び顔無しをおびき出した後、この基地諸共爆破します。しかし、全く抵抗がなければ逆に警戒されるでしょう。それまでの間、普段と変わらず──しかし全力を出さずに戦闘を行ってください』

 

 わざわざ深夜を選んだのも、この基地が罠だと気づかれにくくするため。

 稼働中の基地だと誤認させるために、明かりも点けている。ちなみにトーチカも分かりにくいよう偽装されている。

 秋月を探す時とは違う、来るのを待ち続けるという、別ベクトルの緊張感が込み上げてくる。

 

 どうせ来るなら、さっさと来て欲しい。

 

 その状況になるまでに、然程時間は掛からなかった。

 

 水上電探が感知するのと、ほぼ同じタイミング。卯月は()()()()()()()()を聞き取った。

 今までで、一度しか聞いたことのない艤装音。

 しいて言うなら熊野のが近い。音の主は言うまでもない。

 

「来たっぴょん、砲撃も、同時だぴょん!」

 

 間髪入れずに、基地を破壊する為の砲撃が放たれる。しかも複数発。最上以外の僚艦がいるのも確定した。

 

「まだです、合図が出るまで待機を」

 

 しかし、直ぐ飛び出していったら、『襲撃は予想されていた』と思われてしまう。出て行くタイミングは図らなければならない。

 爆音で揺れ、崩れていくトーチカ。

 

「まだ……」

 

 弾薬庫(に偽装した只のタンク)に着弾したのか、大きな衝撃波と轟音が走る。設置した爆薬の幾つかが衝撃と共に爆散していく。

 

「まだ、後少し……」

 

 卯月の耳には、凄い勢いで接近してくる最上たちの航行音が聞こえていた。水上電探を持っている満潮も同じ気持ちだ。トーチカは持つのか、後どれぐらいか。

 息を呑む、目を閉じる、汗が流れる。

 不知火が叫んだ。

 

「出撃ッ!!」

 

 バネのように身体を動かし、内部から飛び出たその直後、砲弾が直撃しトーチカが全壊した。

 だが気にはしない、顔を上げれば、煌々と燃えて崩壊した鎮守府──予定通りに壊れてくれた鎮守府。

 何処が崩れ、何処が炎上するかは、予め決められていた。

 そこから、海へ出るルートも決定済み。

 各々がその通路を使い、瓦礫や炎を抜けて、一気に海へと脱出した。

 

「迎撃っ! 総員迎撃を急いでください!」

 

 海へと抜錨した途端、眼前に広がっていたのは、いったい何処から調達したのか、夥しい量の大軍勢だった。

 連合艦隊で12隻、支援艦隊で12隻……どころでは済まされない。

 恐らく、三桁近くに昇る大部隊を、最上は引き連れていたのだ。

 

「いや多過ぎだっぴょん!?」

 

 おかしいどう考えたって異常だ。何だ三桁ってどういう数だよ。不知火も予想外だったのが目を点にしてフリーズしている。

 

「こんなか弱い駆逐艦一隻にこの数とか、恥ずかしくないのかぴょーん!」

 

 卯月の魂の叫びに最上が反応した。

 

「いやか弱いどかどの口で言っているんだい君は!」

「この愛くるしい唇」

「君なんなの?」

 

 珍妙な返しに最上は困惑気味。

 尚最上の言うことはやや正論だった。

 何だかんだでD-ABYSS(ディー・アビス)を使い熟し、連携込みとはいえ秋月を撃破している。流石にか弱いは嘘である。

 

「……うんまあなんでも良いか。とにかく主様からは、卯月さえ殺せれば何でも良いって聞いてるし。いやでもやっぱり前科戦線も潰した方が主様の為になるかな? なるよね? そうだよね! じゃあ全員皆殺しにしよう、なるべく苦しんで死んで貰いたいから頑張って抵抗しt」

 

 と、言い切ろうとしたその瞬間、最上の口元へ砲弾が叩き込まれた。

 

「あぶなっ!?」

 

 しかし、ギリギリで頭を動かし回避する。彼女は話を邪魔した張本人を睨み付ける。主砲を構えた不知火を。

 

「もう、急に何すんのs!」

 

 言い掛けた途端また砲撃。最上はたまらず回避する。

 

「話が長いので、さっさと終わらせようとしただけです。狂人の言うことなど聞くに値しません。速やかに無力化されて下さい」

「何て駆逐艦だ! 人としての常識がなっていないね!」

「艦娘です人ではないです」

「そういう話はしてないんだけど」

 

 真顔で主砲を連射する様は恐怖そのものだ。

 しかし、ただ狙いを定める程度では、最上には当たらない。

 動きを予測し、完璧な一手を撃っても、彼女は無茶苦茶な身体スペックで押し返してくる。

 

「全く、こんなのはムダなのさ!」

 

 鋭い主砲が、あろうことか、飛行甲板を振るった時の風圧だけで吹っ飛ばされる。勿論掠り傷もなし。密かに撃っていた魚雷も、素早く発艦された瑞雲が処理してしまう。

 

 今夜間なのに、何気に瑞雲を使っていた。

 以前もそうだったが、やはり、夜間航行能力を持つ瑞雲である。

 しかも厄介なことに、今回夜間でも使える航空戦力はいない。

 球磨やポーラは水戦を使えるが、あれは昼戦限定だ。

 

 そして瑞雲を使えるということは、他もそうだと言う事。

 

「君達とまともに戦うつもりはないよ。一網打尽にさせて貰うからね!」

 

 最上がカタパルトを掲げると、矢継ぎ早に艦載機が撃ち出されていく。

 水上機だけではない、通常の艦上機もまた、夜間航行使用だ。

 最初から、このつもりだったのだろう。

 夜、航空戦力を使用できない中で、一方的に空爆で蹂躙する。

 そういう算段だったのだ。

 

「……前科戦線は、常に人員不足でして」

 

 なのに不知火は、急に変なことを言い出した。

 

「うん? 急になに?」

「夜間戦闘機は保有していますが、空母の絶対数がどうしても少なく、有効的に運用できる機会は稀です」

「宝の持ち腐れってヤツだね。可哀想に」

「ですので、金に任せた物量で殴ることにしています。どうぞ」

 

 不穏な一言を告げ、指をパチンと鳴らした。

 

 その直後であった、後方の基地から地鳴りのような轟音が聞こえた。そこから──無尽蔵の煙が空へ向かって伸びていた。

 

「な──」

「空爆より更に高密度なロケット弾です。これなら大幅に被害を減らせます」

「ゴリ押しって、何て言うかまあ……」

 

 最上も手は出せない、出しようがない。

 火花を散らして爆散していく艦載機を、呆れた顔で見上げる他ない。

 だが、これで戦いが決することもあり得ない。

 やれやれと首を振り、最上纏う、D-ABYSS(ディー・アビス)のオーラが輝きを増していく。

 

「バカだな君たちは。せっかく皆で仲良く死ねる方法を提供して上げたっていうのに。なんでそういうことするかな? 人の心がないんだね、じゃあもがき苦しみながら死のうか! 感謝の気持ちがないヤツは死ぬしかないんだから!」

「……ぬ、台詞終わったのかぴょん?」

「良し卯月から死のうか」

 

 その発言が逆鱗に触れたのか、もしくは最優先目的だからだろうか。

 真っ先に照準を定めたのは、結構のんきしていた卯月にだった。

 すぐさま発射される砲弾、卯月は見るより早く、砲弾を装填する音で察知し、一気に加速して回避する。

 

 秋月とは違い、無茶苦茶な弾幕を敷いてくるタイプではない。今分かっているのは、異常な挙動をする瑞雲に加え、艦載機、甲標的といった各種兵装だ。

 極論、砲撃にだけ気を使っていれば概ね良かった秋月と違い、最上は警戒すべき事柄が非常に多い。

 どれか一つでも警戒が漏れれば、その瞬間死に至るだろう。

 

「貴様なんぞ、D-ABYSS(ディー・アビス)を使わずとも叩き潰してやるぴょん!」

 

 この後の為に温存しなきゃいけないからだ。

 重要なのは、後ろの基地が『罠』だと気づかれないこと。

 良い感じで必死の抵抗をしているように見せかけ、体力を残しながら戦う。

 既に球磨たちも、周囲の顔無しと交戦を始めている。

 卯月も主砲を掲げ、臨戦態勢へと突入した。

 

「生憎だけど、油断はしないよ。こっちへは来させない」

 

 最上は追加の瑞雲を、一瞬で展開した。

 艦載機を混ぜてこないのには何か理由があるのだろうか、兎も角瑞雲が迫る。先ほどと同じように、ドローンのように縦横無尽に動き回り、取り囲むように近づいてくる。

 

 搭載されている爆弾の威力も普通ではないだろう、卯月など、掠っただけで蒸発しかねない。全部そうだが喰らってはならない。

 であれば、近付く前に撃ち落とすしかない。

 主砲だけではなく、艤装に乗せた機銃も総動員、全てに同時に狙いを定める。

 

 そうなれば、最上への注意がどうしても逸れる。そこを見のがす彼女ではない。

 

「よし今の内に……」

「させる訳が、ないでしょうが!」

「だよね!」

 

 主砲で、ワンショットキルを狙った最上へ、満潮が強襲を仕掛ける。

 

 だが安直、動きは読まれていた。

 主砲の照準が変化、卯月から満潮へ変わり、すぐさま砲撃が放たれた。

 動いて回避するには、かなり早い、だが砲撃で弾いたら、何と卯月の方へ流れていく、絶妙に嫌な角度で放たれている。

 

 どう裁くべきか、もし悩んでいたら、最上はその一瞬で満潮へトドメを刺していた。だがそうはならない。満潮はすべき選択を一瞬で決めた。

 

「舐めないで!」

 

 満潮は最上の砲撃目がけて、主砲を放った。互いに激突した砲弾は軌道が逸れ、卯月の方へ角度を変える。

 そしてそこへ、二射目を撃った。

 

「うわマジか!?」

 

 一射目を撃ってから、目にも止まらぬ速さで二射目を撃ったのだ。それは砲弾の芯を捉え、起動を変えることなく誘爆させた。

 弾かれた後で、卯月の方へ行くとなれば、軌道は限定される。

 それでも、そこを瞬時に予想して、砲弾を置きに行くのは至難の技。満潮はそれを実行したのである。

 

「こんな小細工は通じないわ。にしてもセコイ真似をするのね。腹が立つ」

「テクニックって言って欲しいんだけどなぁ」

「つまらない手品以下のインチキよ。D-ABYSS(ディー・アビス)のチートに頼ってるだけのクズなんかに!」

「……むぅ、ま、良いさ。あっちは追い詰めてるし」

 

 何かが触れたのか、癇に障ったような表情を浮かべる最上。満潮に気にしている余力はない。動きを抑え込む為攻撃を続ける。

 その一方で、瑞雲に包囲されたかけていた卯月。

 彼女は対空兵装を総動員して、まだ瑞雲と戦っていた。

 

「滅茶苦茶な挙動だぴょん意味不明だぴょん!」

 

 ただ艦載機を迎撃するのとは訳が違う、挙動が意味不明過ぎる。右に左に自由自在、動きを予想するのが困難過ぎる。

 まともな艦載機の挙動ではない、全く読めない訳ではないが、どうしようもなく手間取ってしまっていた。

 

「チッ、ザコが、あのまま死ねば良いのに」

「……え、仲間じゃないの君達」

「アンタにだけは言われたくないわよ秋月をあそこまで痛めつけておいて」

「あれは指導だよ? 僕は親愛を持って接しているさ! なのに主様を裏切るなんて信じられないヤツだよ。満潮もそうだとは思わないの?」

「会話するのも嫌になってきたわ!」

「つまり肯定ってことだね!」

 

 話が通じない気持ち悪さを堪えながら、満潮は再び最上に主砲を向ける。

 フリであっても、今の内にダメージを通せるなら通しておきたい。幸い瑞雲は卯月に集中している。チャンスかもしれない。

 だが、そんなことは最上だって重々承知している。

 

「せっかくだから、満潮にも僕の親愛を見せて上げるよ!」

 

 と言った矢先、飛行甲板を構えながら一気に最上は接近する。

 

「って、来るな気持ち悪い!」

 

 条件反射的に主砲を撃つが、最上の飛行甲板も、異常な堅牢さを誇っていた。完全に直撃したと言うのに、掠り傷の一つもついていない。

 これも、D-ABYSS(ディー・アビス)の恩恵なのか。

 インチキ振りに悲鳴を上げる暇もない、主砲が通じなければ妨害はできない。

 

 ならばと足元目がけて魚雷を撃つが、最上は器用なステップを画き、雷撃の僅かな隙間を潜り抜けてしまう。

 

「来たよ! さあ、僕の指導を経験して貰おうか!」

 

 満面の笑顔を見せて、最上は腕を振るう。

 その指先は、鷹の爪のように、あるいはカギ爪のように構えられている。

 人肉を豆腐のように抉り飛ばす、恐るべき威力の攻撃に、満潮は生命の危機を感じる。狙いは首元とか腕でもない、頭部そのものを、抉り飛ばさんとしている。

 

「願い下げって言ってんでしょ!」

 

 ならばと、満潮は構えも取れていない体勢から、手の甲に向けて主砲を放った。

 

「わっ!?」

 

 直撃、されど傷はなし。

 だが、振るっていた腕の手の甲に当たったことで、加速し過ぎてしまう。

 速度を謝りカギ爪は空ぶる。

 至近距離で爆炎を浴びながらも怯まず、満潮は一気に距離を取った。

 

 しかし掠ったのであろうか、満潮は急に痛みを感じ、そこを触る。

 

 血が止まらない。耳たぶがごっそり抉れていた。

 

「……チッ」

「あーあ、半端なことするから、無駄な痛みを感じるんだよ。もっとちゃーんと僕の教育を受け止めるんだよ。良いね?」

「死ね!」

 

 こんな奴が最上だと認めたくない。確実にこの世から消さなければならない。満潮はそう強く決意し、再び主砲を構えた。

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