前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第153話 最上改二壊③

 大量の増援に苦戦している中、更に追加で送り込まれた顔無し軍団に苦戦する球磨たち。

 卯月たちは最上相手に善戦しているが、その前に球磨たちが押し潰されかけていた。

 

「ヤバイ、流石にヤバイクマ。処理し切れない上、そもそも残弾の数が絶対に足りないクマ!」

「ポーラはワインが足りなくなりそうです。死活問題です!」

「そのまま息絶えて構わないクマ」

「酷い~!」

 

 ──と言いつつ、最終的に基地の爆破に巻き込む予定なので、押されているのは問題ない。

 ただ余りの数に、それを待たずにやられかねない状況。

 このまま罠に誘導するにしても、誘い込める数には、物理的な限度がある。そこまでは自力で減らさなければならない。

 しかも迅速に。

 

「……おかしい」

 

 だが、そんな中で不知火は疑問を抱き続けていた。戦いながらも、疑問を拭えずに、思考を続けていた。

 

 幾ら何でも、数が多過ぎる。

 

 顔無しではない。普通の深海棲艦の数が多過ぎる。

 艦娘とは違い、深海棲艦は『建造』できないとされている。

 自然発生するのを待つしかなく、それらが本能で、近くにいる姫に集まっていき、勢力を増やしていくのだ。

 

 そんな方法故に、極端な数は揃えにくい。

 時間をかけて待つ以外の方法がない。

 一応、他の姫に襲い掛かり、戦力を奪い取る方法もあるが──そんな行動してたら、偵察部隊が察知する。

 

 しかし、ここ最近、そういった接収の動きがあった情報はない。

 

 ならば、あれだけの数の深海棲艦をどう揃えたのか。パッと考えて浮かんでしまうのは二つ。

 

 何らかの力で、深海棲艦を強制招集できる。

 ただ、先程のように、それをしたら他海域の戦力図が変わる為察知できる。可能性は低い。

 

 もう一つは、考えたくもない可能性。

 艦娘を建造するように、『資材』が許す限り、幾らでも深海棲艦を建造できる術がある。

 

 元々顔無しを作る技術はある、専用の設備が泊地水鬼の元にある可能性は高い。

 それが事実なら大参事確定である。

 最も現時点で机上の空論、気にしたってどうしようもないことだ。

 

「不知火! 後、どれぐらい削れば良いんだクマ。球磨たちはそろそろ限界だクマ!」

「もう少しです、後もう少し削ります。全員奮起してください」

「了解、だクマ!」

 

 これ以上増援が増えたら不味い。その前に区切りをつけようと、不知火は主砲を掲げた。

 

 

 

 

 その必死で戦う光景を見て、最上は嘲笑っていた。

 余りに無駄な足掻きが愉快で、見ていて気持ちよくて、醜悪な笑い声を止めることができなかった。

 

 だがそれが卯月の逆鱗に触れた! 

 

「侮辱の前には、殺人も許されるのだぴょん」

 

 一体どういった思考が起きたのは検討もつかない。

 最上は唐突にD-ABYSS(ディー・アビス)を解放した卯月の強襲を受ける羽目になる。

 まさか、もう切り札を切るとは思わなかったのだ。

 

「くたばりやがれこの狂人が!」

 

 システムにより強化された肉体が、卯月を一瞬で加速させる。瞬きをする間に眼前へと到達し、加速の乗った状態で、主砲を放とうとする。

 本来なら掠り傷しかつけらないが、加速に、至近距離に、システムのブースト。

 喰らえば肉を抉られるのは必至。

 

「誰が狂ってるって、嘘は言っちゃダメなんだよ!」

 

 しかし相手もD-ABYSS(ディー・アビス)有り、しかも重巡クラス。保有するパワーは比較にならない。

 最上はあろうことか、飛んで来た砲弾を、素手で受け止めてしまったのだ。

 力任せに、鉄の塊である砲弾を握りつぶし破壊する。

 

「クソが、マジかっぴょん」

「いやー、危なかったよ。けど残念、奇襲は失敗だ。D-ABYSS(ディー・アビス)のカウントダウンは始まっちゃったね?」

「……で、何」

 

 卯月の表情は変わらない。理由不明の殺意がこれでもかと溢れ出ている。

 何故ここまで怒っているのか分からない、卯月を侮辱するようなことは言っていないのに。

 

「まっ、いっか」

 

 恐らく彼女は狂人なのだろう。可哀想な子供だと認定を下し、最上は砕いた砲弾の欠片を全力で投げ飛ばした。

 言ってしまえば石つぶて、しかし、最上のパワーで投げれば対物ライフル以上の破壊力へ変容する。

 

 回避ができる密度ではない、側面へと移動して攻撃範囲から逃れる。

 だが最上は更に、逃げる先へ魚雷を撃ちこんでいた。

 しかも至近距離、雷撃は既に卯月の足元へと迫っている。

 

 卯月は、更に横へと跳躍する、それが確実な回避方法、故に読まれやすい。

 

「狙い通りだね!」

 

 最上はその回避先へ、主砲をもう向けていた。トリガーを押すのは一瞬、もう阻止はできない。勢い良く跳躍しているせいでブレーキもかけられない。

 なのに卯月は回避を止めない、何故なら、その主砲は撃たれないと分かっているから。

 

「……うーちゃんも予想通りだぴょん」

 

 眼下に迫るそれを最上は見つける。

 

「―—魚雷か!」

 

 移動にせよ、処理にせよ、主砲を持ちながらでは不可能―—否、瑞雲を展開すれば同時に実行可能、飛行甲板を振るい瑞雲を展開する。

 加速もクソもなく、最初から最大速度で飛行し、雷撃の排除に掛かる瑞雲たち。

 しかし、今度はそこ目がけて、正確な狙いの砲撃が飛び、瑞雲の何機かがやられてしまう。

 

「誰!? って、君しかいないよねぇ満潮ぉ!」

「ざまぁないわ」

「よくも僕の邪魔を」

「余所見してて良いの」

 

 雷撃のない場所まで一気に迂回した上で、卯月は再び最大戦速で突撃を仕掛け、超至近距離から主砲を放とうとする。

 最上からしても、一発も被弾してはならない。

 それがそれなのか不明だが、秋月の時と同じ破壊工作弾を入れていたり、吸収阻害の武器を持ちこんでいる可能性も高い。

 

「ああ゛もうクソっ! うっとおしいなぁ君達は!」

 

 結果、卯月の排除よりも、回避を優先せざるを得なくなる。後方へと跳躍し、上から主砲を叩き込んで魚雷を処理。

 

 そこへ卯月も突っ込んできた。

 

「死ね、今すぐに死ね」

「何なの君!? 一体僕が何時卯月を侮辱したって言うのさ! 意味が分からないよ狂ってるのかい!?」

「やかましい、消え失せるぴょん」

 

 理解不能な狂人の言動に最上は混乱気味だ。

 それでも卯月を抹殺せんと、殺戮兵器と化した指先を振るう。

 空中だ、回避はできない。

 ──な訳がない、卯月は考え無しに跳躍したのではない。

 

「―—少しなら真似できるぴょん」

 

 そう言って彼女は後方へ砲撃を放った。

 D-ABYSS(ディー・アビス)により強化された砲撃は反動も凄まじく、僅かだが卯月の身体を前方へと押しやった。

 それは、秋月の模倣であった。

 

「なっ──」

「殺すッ!」

 

 そして胸元へ突き立てられるのは一振りのナイフ。修復誘発材が塗られた狂気。それが間違いなく胸元へ突き刺さった。

 だが、最上の反応も早い。

 胸部が融解していく感覚の中で、すぐさま瑞雲を再展開し、包囲したのである。

 

「僕は死なない、爆撃ぐらいじゃ、でも、君は死ぬねさようなら!」

 

 最上は迷うことなく、瑞雲から爆弾を発射した。

 

「うん、さよならだぴょん」

「……どういう意味」

 

 突然だった、卯月が『真下』へ急速に落下した。

 

 結果瑞雲包囲網の外へ脱出、置き土産に爆雷が放り投げてあった。

 

 だがいったいどうやって? 

 その答えは、卯月の艤装から伸びる『錨』にあった。

 艤装にくっついている筈のそれが、真下の海に向かって伸びていた。予め投下しておいたのだ。それを満潮が全力で引っ張ったことで、真下へ脱出したのだ。

 

「助かった感謝するぴょん満潮」

「私のアドリブ力に感謝しなさい」

「キャー天才! 美人、美女薄命! ステキー!」

「今なんか悪口混ざってなかった」

 

 取り残されたのは、胸部を溶かされた最上と、卯月が置いてった爆雷と、瑞雲が発射した高威力の爆弾たち。

 通常ならダメージにはならないが、胸部を溶かされた今であれば──外皮(装甲)はないも同然である。

 

「―—あ、あああアあ!?」

 

 目もくらみ、姿勢が保てないような大爆発が最上を覆い尽くした。

 

「うわー、ヤバいなアレ。直撃してたら死んでたぴょん」

 

 身体を伏せていなければ数十メートルは吹っ飛ばされていた。瑞雲が出して良い破壊力ではない。直撃しなくて良かったと心の底から安堵する。

 だが、これで終わったとは到底思えない。

 満潮と共に、爆発の跡地を注視する。

 やがて、爆炎の中に、一人分の人影を発見する。

 

「……痛いなぁ」

 

 言うまでもなく、最上であった。

 流石にノーダメージとはならず、融解した胸部を中心に、大きな火傷を負っており、出血もしている。

 しかし健在だ、致命傷には至らなかったのだ。

 いや死んでも任務失敗なのだが──それはそれとして、卯月は舌打ちをする。

 

 その時である。卯月は聞き覚えのない音を聞き取った。

 

「ここまで痛いのは久し振りだよ。主様にお仕置きされた時ぐらいかな。んんっ! でも主様が構ってくれたのは至福の時だったよ……あれ以来、苦痛を感じる度に、そのことを思い出しちゃうんだ……」

 

 涎を垂らしながら恍惚とする最上は狂人そのものである。

 だがそんなことはどうでもいい。

 今の音は何の音だ、聞いたことがない。

 耳が良いからずーっと音は聞き続けている、人間の体内の音もある程度認識できている。

 その上で知らない音とはいったい何なのか、警戒心が跳ね上がる。

 

「それに、あ、ああ、きた! これだよっ、あはっ、堪らないィィ!」

 

 嬌声を上げながら、腹部の傷が──高速で治癒していた。

 

「嘘でしょ!?」

「うわ、まじかぴょん」

「はぁぁぁぁんっ!?」

 

 最上は身を捩り、その顔を快楽に溶かす。

 戦場のど真ん中で、絶頂する声が聞こえ、別働隊の球磨たちまで『何だ今のは』と反応する。

 その時にはもう、傷は跡形もなく消え去っていた。

 

「自己再生……!?」

 

 あり得ない現象である。

 まず、艦娘は自己再生能力を持たない。入渠した時のみその特性が発揮される。

 深海棲艦は自己再生能力を持っているが、艦娘の武器で攻撃された場合は、その力が抑制させる。

 

 最上は確かに、艦娘の兵装でダメージを負った。最上が艦娘にしろ深海棲艦にしろ、簡単に治癒しない。

 なのに現実として、傷一つなく立っている。

 考えるまでもない、これもまた、D-ABYSS(ディー・アビス)が齎す『異能』の一つであると卯月は理解した。

 

「ふぅー……おっと、どうしたんだい皆、顔を赤らめて。ひょっとして僕が羨ましくなった? うん仕方ないよね、こんなに気持ちいいんだもん、可能なら分けてあげたいよ! まあ無理なんだけどさ」

 

 妄言を吐き散らす最上。会話する気はもうない。

 だが、どうすれば良い。

 ダメージを一切累積できないことが分かってしまった今、こいつをどう倒すべきが、この場で考えなければならない。

 しかし最上はもう、考える暇は与えなかった。

 

「だって、もう時間切れだし」

 

 指ぱっちんと共に、深海棲艦たちが殺到する。戦術、戦略もなし、物量に物を言わせた津波が押し寄せてくる。

 

「数が、また増えてる!?」

「うん、増やしたのさ! でも流石に建造に時間がかかるから、ちょっと遊びに付きあって上げたって訳。どう絶望したかい? そっかそれは何よりだ。再生する時の痛みはとっても気持ちい良いけど僕は人が絶望して死んでいくのも大好きで──」

 

 聞いている余裕は皆無。

 なんということか、最悪の予想が当たってしまった。不知火は内心頭を抱える。まだ増援は出せたのだ。しかも更に増える可能性がある。

 この際方法はどうでも良い、この状況から、時間まで持たせる方が最優先だ。

 

「全員撤退! 籠城に移行します、各々指定されたトーチカで戦闘を開始してください!」

 

 不知火が張り裂けそうな声で指示を飛ばす。

 全員すぐさま行動開始、敵に背中を見せて逃げ出し、基地内部に設置されたトーチカへ立て籠もろうとする。

 最上は一人も逃がすまいと、執拗に砲撃を加える。

 それの邪魔の為、ポーラが敵陣へ向けて、特殊弾頭を撃ち込む。

 

「うわっ、これ、この白い煙は」

 

 単純な目晦まし、スモーク弾である。

 だが一時的な妨害に過ぎない、最上側にはレーダーもあるし、そもそも最終的に物量で潰されるのがオチだ。

 でも待ってあげる理由もない。

 

「全員突撃してね!」

 

 視界が埋まるような大群で、スモークの中へ突撃。

 勿論味方同士でぶつかり合い、衝突事故が多発するが、最上には関係ない。死体が増えるならそれはそれで、D-ABYSS(ディー・アビス)に回すエネルギーが増える。

 

「よーしよし頑張ってね! 頑張って進んで進んで死んでね!」

 

 人を人とも思わない指示を飛ばしながら、自らも砲撃を出鱈目に撃ちこんでいく。トーチカは固いが、自分の砲撃を重ねて叩き込めば、何れは壊れる。

 その内、繰り返された爆発により、スモークが掻き消されていく。

 獲物をじっくり見つけ、1人ずつ殺してあげよう。そう舌なめずりした最上が見た者は。

 

「あれ?」

 

 人の住んでいる気配が欠片も見当たらない廃墟と。

 

「まさか──」

 

 閃光と轟音、衝撃波に破壊される自らの五感であった。

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