前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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モンハンのやり過ぎでちょっと遅れました


第156話 最上改二壊⑥

 熊野は、最上に対してどうすべきか、今の今まで決断し切れていなかった。

 表面上は、自身の手でケリをつけると言っている。

 しかし、そうしたいのならば、卯月や仲間たちに手伝って貰うのが最善。

 それをしなかったのは、彼女自身が迷いを抱いていたからだ。

 

 実際に最上と相対した時、本気で戦えるのか。

 手加減なんてして勝てる相手ではない、殺す気で挑まなければならない。

 だが、本気の殺意を抱けるのか? 

 高宮中佐の見立てはこうだった、『不可能である』と。

 

 その結果、返って足手纏いということで、戦力外通告を喰らったのである。

 

 最初こそ激昂したが、冷静になってみれば分かること。

 一人頭を冷やし、何故作戦参加が許可されなかったのか、その理由を理解した。

 

 確かに戦える自身がない。

 何故『鈴谷』が今、技研から所在不明になった挙句、『最上』になっているのか、あらゆるコネを駆使した結果、知ってしまったのもある。

 あの『最上』は、偽物などではない。

 そりゃ相違点はあるが、間違いなく『鈴谷』でもあった。

 

 けれども、それを自覚したところで、今更どうすれば良いのか。

 そう後悔していた所、那珂のアドバイスで吹っ切ることになる。

 

 好きにすれば良い──、一理ある、そう思った。

 

 どう転んだにせよ、あの最上を放置しておきたくない気持ちはある。

 あの傍若無人振り、あれは『鈴谷』を侮辱している。

 かつての親友として、許しがたい行為だ。

 

 それに今更前科の一つや二つ、増えたところでどうということはない。

 

 そう思ったからこそ、熊野のは命の予約という無茶苦茶までやって、この戦域までやって来たのである。

 

「ほらほらどうしたのさ! 特にそこで援護してるだけの熊野! まさか君、こんなことする為だけに、此処まで来たっていうのかい!?」

 

 最上はあらゆる面で卯月を上回っている。

 艦としても、D-ABYSS(ディー・アビス)の使い手としても。

 正面からのパワー勝負では、戦いにさえならない。

 大して最上は、一撃で致命打にならなければ、永遠に自己修復ができてしまう。

 満潮の援護も、火力的に援護にならない。

 多少でもダメージを通せなければ、援護は援護として成立しないのだ。

 

「どうする……どこをどう叩けば良いんだぴょん……」

 

 熊野の観察が終わるまでの時間稼ぎさえ怪しくなってきた。

 それどころか、卯月自身の作動時間の限界が迫りつつある。D-ABYSS(ディー・アビス)を維持できなくなれば、一瞬でこの世とオサラバしてしまう。

 

 そうこう手招いている内に、最上が卯月を抹殺せんと、猛攻を仕掛けてくる。

 

「さーて、卯月は生き残れるかな! ムリだと思うけど極力足掻いてくれると嬉しいな! 死ぬって分かってるのにありもしない希望に縋る虫けらって見てて楽しいんだよ? 可哀想にずっとこちら側だったなら卯月も楽しめたのになぁ」

「ベラベラやかましいぴょん! ちっとは黙ってろ!」

「嫌かな!」

 

 最上は主砲を上向きに構えて、扇状に放つ。

 卯月たちへの直撃コースではなく、その少し後方へ着弾するように、アーチを画いて発射される。

 立て続けに瑞雲を放ち、砲撃の僅かな隙間を補填。

 背後に、弾幕の壁が築かれようとしていた。

 

 これを阻止できなけば、後方への逃げ場が消えてしまう。

 だが最上を前にそんな余裕はない、悩んでいる間にも最上は一歩ずつ接近してきている。

 

 卯月は砲撃を撃ちこみ、発艦を阻止しようとする。満潮は発艦された瑞雲を排除しようとする。

 

 だが、ままらない。

 瑞雲はまだしも、最上は平然と、回避運動をしながら発艦を続けている。

 多少回避がおろそかになる筈なのに、動体視力と反射神経のみで、全て見切っているのだ。

 

「卯月! 甲標的が出る!」

「げっ!」

「気づくの遅いんじゃないかな」

 

 それどころか、こちらが気をとられている一瞬を突いて甲標的を展開、すぐ阻止しようとするも間に合わず、発射を許してしまう。

 けど、甲標的は音で探知できる。

 動きも素早くない、卯月なら素早く排除することが可能。

 

「満潮交代! 甲標的はうーちゃんがやるっぴょん!」

「了解──」

「ダメダメダメダメまず卯月から殺すんだからさ」

 

 まず最上が目の前に現れ、そこから遅れて、海面を踏み抜く音が来た。

 

 彼女の移動速度は音より早かった。

 

 直ぐブレーキをかける。後方は砲撃と瑞雲で逃げ場がない。横に飛び退こうと試みるも、それは移動の余波──ソニックブームに阻まれる。

 

「移動が攻撃とか冗談キツイっぴょん!」

「冗談じゃなくて現実だよ同じシステム積んでいるのにここまで差が出るなんて卯月は本当に可哀想だね」

「ッ熊野ー!」

 

 言われなくとも、と既に援護砲撃を行っていた。

 最上の進路を塞ぐ形で、砲撃が()()発射されており、丁度砲弾が間に挟まる形になる。

 このまま行けば加速している最上が激突することになる。

 もう少し加速すれば、この砲弾も破壊できる。

 だが、その爆炎の中で、卯月の持つ工作員砲弾が撃たれたらどうなるか。

 

「むっ……しょうがないか!」

 

 一瞬だけ悩み、最上は後方にいた瑞雲を手前に呼び戻し、砲撃を塞ぐ盾とした。

 結果、後方の弾幕が少しだけ薄くなり、卯月たちが距離を取る隙間が空く。

 今こそチャンスと、卯月は最大船速で逃げようとする。

 それを見た瞬間、最上は満面の笑みを浮かべる。

 

「良し引っ掛かった!」

 

 隙間はあったが、数が少なかった。

 故に、逃げ場は限られていた。

 狙いを簡単に絞ることができたのである。

 

 隙間の左右は弾幕、そして卯月が逃げ切るより早く最上は移動できる。

 再び力を込めて跳躍し、ソニックブームを起こしながら、その首を跳ねんと手を伸ばす。

 

「良し、掛かったぴょん!」

 

 だが狙っていたのは卯月の方だった。最上が飛び退いた、まさにその瞬間、卯月は弧を描いて急カーブしたのだ。

 以前も行ったのと同じやり方、予め錨を投下しておき、それを支えに最大船速のまま急旋回。

 それによって、最上の突撃を回避したのだ。

 

「うわっとっとっ!?」

 

 逆に、最大速度の突撃が空ぶったせいで、最上の体勢は不安定になる。

 そこへ卯月と満潮が狙いを定める。

 主砲に装填したのは、一発逆転の鍵となる一発。

 妖精工作員入りの、特殊弾頭。

 これが艤装内部に入り込めば、勝てるレベルに引き摺り降ろせる。

 

「発射、ぴょん!」

 

 一瞬の隙でありながら、卯月の狙いは正確だった。

 前々の卯月では駄目だった隙を逃さず、狙うべき場所へ確実に撃ち込むことができている。

 これが、最上でなければ、命中したであろう一撃だった。

 

「なんてね、残念でした!」

 

 それもまた身体能力のゴリ押し、最上は強靭過ぎる四肢を持って体勢を立て直し、砲撃の方へ向き直ってしまう。

 だが、まだだ、だから満潮と一緒に撃ったのだ。

 最上の眼前にあるのは、大量の砲弾、その内数個だけが工作員入り、他のは只の砲弾だ。

 

 全部を破壊することは不可能、どれか一発だけで当たればこちらの勝ちだ。

 

「―—適当に行こう、えいや!」

 

 だが最上は、その数発を『全て』撃ち抜いてしまった。

 

「がぁっ……!?」

「この様子、もしかしてこれが工作員入りの特殊弾頭かい? うわぁびっくりした、当たってくれて良かったよ!」

「嘘でしょ……!?」

 

 そんな偶然あって溜まるかと叫びたいが、これが現実。

 特殊弾頭以外の喰らってもいい砲弾は、そのまま全身で受け止めてしまう(勿論無傷)。

 何故、正確に見抜かれてしまったのか、外見上の差異はないのに。

 

 まさか、卯月の脳裏に嫌な予感が走る。

 

 思い出されるのは熊野から学んだ、鈴谷の特徴だった。

 

「まさか、勘!?」

 

 しかしそれが正解、最上はただ『嫌な予感がする』というだけで、特殊弾頭を正確に見破ったのである。

 考えたくもない事実に、殺意で冷徹になっている卯月の心が震える。

 ならば、どうすれば良い? 

 ほぼ予知能力に等しい直感相手に、どうやってやれば良い。

 熊野との模擬演習で、それらしきことはやったが──実際できるかどうかとなると、それは別の話だった。

 

「うん、良い顔だね、ふふっぞくぞくしてくる……漸く理解できたみたいだね、身体でも精神でも、僕には絶対に勝てない、ザコ集団だってことが」

 

 最上もある意味で、秋月に似た歪み方をしていた。

 どちらかと言えば、抵抗さえ許さない一方的な蹂躙が好きなだけであり、出すもの出し尽させて、無力感という絶望を見せつけるのも嫌いではないのだ。

 

 ただし油断はしていない、卯月と満潮が駄目になった今、彼女が出てくるからだ。

 

「お二人ともありがとうございました。ここからはわたくしが直接戦います」

 

 二人を庇うようにして、熊野が現れた。

 

「あれ、見学はもう良いのかい?」

「ええ、十分時間は頂きましたので」

「時間? あー、そうだった、熊野はそういうのが得意だったね、忘れてたよ!」

 

 やはり、鈴谷自身のように話す。

 しかし最上は鈴谷ではない、何故こんなことになっているのか理解できず、卯月は首を傾げる。これもD-ABYSS(ディー・アビス)の弊害なのだろうか。

 

「もう、貴女とお話しすることはございません。此処で倒させて頂きますわ」

「アッハッハ、熊野じゃムリだよ。だって僕は君の動きを良く知ってるんだよ? できないって、ムダだと知って足掻くのも結構オツだけどさ」

「そうですか、では」

 

 宣言通り、熊野はすぐさま攻撃を開始する。

 システムを積んでいないから、卯月のような速度では攻撃できない。

 だが、だからといって隙がある訳でもない。

 練度が違う、卯月よりも遥かに無駄のないモーションで、素早く攻撃ができる。

 だが最上は単純なスペックが狂っている、砲撃を目視でどうこうできるのだ。

 

「見えてるってば!」

 

 動体視力のみで砲弾を捉え、飛行甲板で()()()()

 更に、砕けた破片に向けて、甲板をバットのように振るい、破片を撃ち返す。

 弾かれた破片は摩擦熱で赤熱し、艦娘であろうと傷は避けられない攻撃と化す。

 

「そうするでしょうね」

 

 しかし、それは読んでいた。

 交戦開始前から予め飛ばしていた熊野の水上戦闘機が、真上から弾幕をばら撒く。

 軽い攻撃だが、軌道変更には十分。

 更に、飛行甲板を振るった際生じた死角から、雷撃を放っていた。

 

 それと合せて砲撃を繰り出す。

 砲撃と雷撃、両方に対処しなければならない状況を作り上げる。

 

「うん、真っ当なやり方だね、僕には効かないけど!」

 

 フィジカルにものを言わせたステップで、雷撃の隙間を跳躍しながら砲撃を回避。

 勿論、着地地点に予め砲撃をしてあるが、最上は絶妙に緩急を交えながら動き、予測を掻き乱していく。

 その上、最上自身も砲撃を織り交ぜ、熊野を妨害していく。

 

「それじゃあ今度は僕の番だ」

 

 最上は足を止めて、熊野へ向けて、集中的に砲撃を浴びせに掛かる。

 

 分厚い弾幕に、回避に集中せざるを得なくなる熊野。

 そのタイミングを使い、最上は再度、甲標的を展開しにかかる。

 簡易潜水艦みたいな兵器だ、再度出されれば厄介なことになる。

 それに対処するのは、援護役に回った卯月たちの仕事だ。

 

「させるかぴょん!」

「黙って見てるだけだと思ってたの」

「え、思ってないけど?」

 

 だが、最上は既に甲標的を展開し終えていた。

 

「早い!?」

「そうだよ、だってさっきのは、手を抜いていたんだからね!」

「嘘ついたのかっぴょん!」

 

 卯月たちの認識を誤魔化す為、二射目を確実に展開する為、一回目は敢えて遅くしていたのだ。

 テンポを読み間違えた卯月たちの砲撃は外れ、甲標的の発信を許す。

 まだ間に合う、そう思ったのもつかの間、彼女たちの頭上からは、不規則な軌道で瑞雲が迫って来ていた。

 

「駄目だ、止められない、ごめん熊野!」

 

 直ぐに抑えることができず、卯月たちは瑞雲の対処に取り掛かる。

 その間、熊野は甲標的に常に狙われ続ける形となる。

 面倒なことになったと、熊野は顔を顰め、最上は逆に嬉しそうな顔をした。

 

「うひひ、これで二人っきりで、殺し合えるね」

「気持ち悪い、さっさと倒れて下さいな」

「えー、冷たいこと言わないでよ、友達じゃないか、僕たちは!」

 

 その一言を聞き、熊野は更に顔を顰めた。

 

「貴女に友達などと、言われる筋合いはありません。鈴谷を返して頂きます」

「意味は分からないけど、怒ってる熊野は面白いね!」

「そうれはどうも」

 

 甲標的が撒かれた今、下手に距離を離すほうが危険だ。

 だが最上は分かってる、こちらを近寄らせず、砲撃や雷撃、甲標的にで仕留めにかかるだろう。ならこちらから接近するしかない。

 熊野は考え、残っていた水上機たちを片端から発艦させていく。

 

 最上もお返しと言わんばかりに、脚を止め、展開する暇がなかった艦載機を大量に展開してゆく。

 爆撃が及ばないのは、本人に被害が及ぶ最上周辺のみ。

 否応なしに、接近せざるを得ない状況ができあがっていく。

 

 そして、水上機を出し切った瞬間、熊野は最上に向かって一気に突撃した。

 

「来るよね、それしかないもんね、迎え撃ってあげる、そして死んじゃいな!」

 

 先ほども言ったが、熊野はシステムで強化されたようなスピードは出せない。

 だが、卯月より遥かに技量はある。

 そして何より、鈴谷の直感も癖も、全てを理解している。

 

 熊野は弾幕の嵐へ突撃した、そして、無傷で突き抜けた。

 

「―—嘘、越えてくるのかい!?」

 

 分かるのだ、何処へ爆撃してくるか、どんな緩急をつけてくるのか。後は回避不能な状況に追い込まれないよう、急制動や加速を繰り返すだけで良い。

 人間には、完全な乱数は作れない。

 絶対に一定の法則が存在する、ずっと一緒にいた親友の『法則』なんて、考える必要もなく身に沁みついてる。

 最上の方の法則は知らなかったので、そこの分析には時間を要したが。

 

 歪んだ自信を持たされた最上は、まさか突破してくるとは思っておらず、不意を突かれた形になる。

 

 そして、その事実を認識した瞬間、熊野は既に攻撃をしていた。

 必要最小限のモーションで、撃っていた事実にさせ気づかせないように。

 認識した時には、もう手遅れになっているように。

 

 そのように撃った──筈だった。

 

「残念、でした」

 

 手を伸ばしても届かず、主砲の射程の内側にまで迫った砲弾を、最上はその場でバク転することで、回避してしまった。

 空中にいる間に、予め撃っていた魚雷は足元を通り過ぎていく。

 逆に、回避しながら、逃げ場のない弾幕を一瞬で展開されてしまった。

 

「おしまいだよ。さようなら!」

 

 全力で踏み込んでいたせいで回避ができない、ブレーキが間に合わない。

 まさか読み間違えたのか、いや、確実に命中できる流れだった筈。

 ならば、それが不発に終わった原因は。

 

 それを考える暇もなく、熊野の視界は真っ赤に染まった。

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