ガンランスはどこへいくのでしょうか。誰か教えてください。
満潮は首を傾げていた。
負傷箇所が増えた最上が、全力で動こうとした途端、白目を剥いてひっくり返ったからだ。
勝ったのか、何だ今のは。
「どうやって勝ったの、今ので」
白目を剥き、海面へ倒れ伏す最上を見ながら、満潮は呟いた。
「なんと言いますか。少々語弊がありますが、自爆というのが一番適切ですわ」
「自爆って、どういうことよ」
「元々最上さんは、
最上の凄まじいフィジカルは、実の所再生能力によって齎されたものだった。
踏み込めば音速突破、タックルで砲弾を粉砕。
そんな滅茶苦茶な身体能力は、彼女の限界を超えており、一挙手一投足の度に肉体の崩壊を招いていた。
それを端から再生させることで、帳尻を合わせていたのだ。
戦闘中発揮された再生能力は、その一部分に過ぎなかった。
「言うなれば、修復しながら飛行機を飛ばしているようなものでしょうか。わたくしはその修復作業量を増やしただけです」
「で、飛ばす労力にまで手が回らなくなったってことね」
「そういうことですわ」
しかし、それには限界がある。
外部から損傷を受けた場合は、そちらへ再生のリソースが割かれる。
その為、余りにも外傷が深すぎると、肉体強化へ用いていた再生力まで、そっちに回さざるを得なくなる。
この間、最上の身体強化と再生の帳尻が合わなくなる。
一時的ならまだしも、それが長時間続けば、明らかな形で消耗が現れる。
挙句最悪なことに、最上は『加減』を知らなかった。
堕ちてからずーっと、『強化』込みで暴れてきた為、それがない時の動き方を知らなかった。
肉体の限界を超えた動きをしても、それが危険だと分からない。
分かってもそれ以外の動き方を知らない。
熊野により、最上は全身の傷を深く抉られた。
結果、そちらに再生リソースが割かれ、肉体崩壊が始まった。
なのに気づかず、同じ暴れ方を続けようとしたせいで、肉体崩壊が限界を超えて──意識を失ったのだ。
「とは言え、肉体限界を超えても、叩き続けるガッツの持ち主だったら、かなり不味かったので、運が良かったと思います」
「確かに、その状態になってから、直ぐに引っ繰り返ったわね」
「再生能力頼りで、限界を超えて戦うというシチュエーション自体、なかったのでしょうね」
なんなら、追い詰められからの暴れ方は、秋月より大人しかった。
というか秋月より根性ナシだった。
限界を超えても再生するから、本人に負荷がかかならい。
そんな状況を続けていたせいで、いざ限界を超えた負荷を感じたら、全く耐えられなかったのだろう。
「まあ、お蔭で秋月さん程、体内ダメージは大きくなさそうなので、そこは安心できるところですわ」
「……それは、そうね。こんなに苦労して死んでたなんて、目覚めが悪すぎるものね」
「ええ、本当に……思いますわ」
熊野からしたら、良い事ばかりではない。
これでとうとう、鈴谷の生死が明らかになってしまうからだ。
真実が分かるのが恐い、生きている可能性がある状況で、留めておきたかったとは思う。
だが、それは鈴谷への侮辱になる。
絶対に口には出さない。
満潮も何となく、そういう気持ちは感じた。
複雑そうな表情にも、何も言わないことにした。
「……おおーい、決着は、ついたのか……っぴょん」
「うわ卯月、アンタ意識が戻ってたの」
「何度も気絶してるせいかなぁ……何か、あっさり起きれるようになってる気がする……ぴょん」
それ結構ヤバイのでは?
良くない慣れをしている気がしてならない。
今心配しても意味ないが。
「
「うーちゃんは良いっぴょん……決着、ついたんだよね?」
「ええ、ご安心ください」
「そう……」
「それと」
「うん?」
「叱咤して頂き、ありがとうございます。お蔭で目が覚めましたわ」
吹っ切ることが出来たのは、卯月のお蔭と言っていい。
お礼を言うのは当然だった。
だが、卯月は不思議そうに首を傾げている。
「うーちゃん、ただ、本当にうっとおしかったから、イライラして怒っただけだぴょん。八つ当たりだけぴょん」
「卯月さんの意図がなんであれ、結果として良い状態なったと思います。お礼ぐらいは受け取ってくださいな」
「じゃ、帰ったら、間宮パフェ……お願いぴょん」
「かしこまりましたわ」
話している最中、遠くの方から球磨たちも近づいてきた。
「そっちは終わったのですか?」
「そうだクマ、あらかた片付けたクマ。最上がやられたのを見て、残党は逃げて行ったクマ」
「成程」
周囲を観察しても、敵らしき影はない。
上空を警戒しても、艦載機の影はない。
敵は全ていなくなったのだろう。
これで戦闘は終わり、全員ホッと一息ついた。
「……で、どーして、熊野さんがいるんですか?」
「出撃許可は中佐から貰いました、高くつきましたが、こうして最上さんを倒せたのだから、安い買い物でしょう」
「そーでしたかそーでしたか、良い顔つきですね~、スッキリした感じ。ポーラそっちの方が好きですね~」
まあ、ストレスや悩みでしかめっ面してる人より、好印象なのは確かだ。珍しくポーラの言うことが正論だ。
何はともあれ決着はついた。
後は最上をしっかり拘束して、帰投するだけ。
「……この音、大きな音、秋津洲の輸送艇……ぴょん?」
「そーみたいですね~、あーもーポーラ疲れました~、腕も足も棒みたいです。機内にワインはありますよね?」
「重油でも飲んでろクマ」
「……いけるかも」
ダメだコイツ。全員色々と諦めた。
そうしている間に、輸送艇が着水。
太陽も昇ってきた、安全なフライトが楽しめるだろう。
これでやっと、身を休めることができる。
卯月は心の底から安堵した。
「いえ、搭乗は暫く待ってください」
だが、それを不知火が止めた。
「どういうこと?」
「忘れているのですか。この戦い、いる筈の存在がいなかったことに、気づいていますか」
「……ステルスの艦載機?」
「それです。最上さんとの戦闘中、それに遭遇しましたか」
卯月たちは遭遇していなかったので、首を横に振る。
イロハ級と戦っていた球磨たちも同じだったので、同様に首を振った。
秋月との戦いでは、ちょこちょこ妨害してきたアレが、最上との戦いでは出てこなかった。
言われてみれば、違和感しかない。
「そもそも、来てないって可能性もあるんじゃないの」
「ええ、それも想定されていました。だから高宮中佐は、熊野さんの出撃を許可したのです」
「……わたくし?」
「許可の理由は、熊野さんが特効艦だからではありません。いいですか、残念ながら作戦は内通者の手により、どうしても一部漏洩してしまします。逆に言えば、敵はその情報を元に動くということ」
「そりゃそうね」
「では、情報と違う事態が起きたらどうなるか。現状確認を
事前情報を貰って、行ってみたら想定外のことが起きていた。
すぐに情報を更新する必要がある、動く必要が出てきてしまう。
それは仕方のないことだ。
「この戦場は、そのステルス機──の使い手に、監視されていたんです」
「……え、待つクマ。じゃあこの待ち伏せ作戦自体、最初からバレてたってことになるクマ」
「そういうことになります」
最も全部露見していた訳ではない。
どの辺りの海域で待ち伏せしているかとか、何時頃に、何処を航行しているかとか──致命傷になりにくいが、作戦に支障をきたすぐらいの情報を、敢えて漏らしておいたのだ。
「でも最上さんは、そんなこと知ってそうではありませんでした」
基地全体を用いた罠にも引っ掛かっていた。予め知っていたとは思えない。
「恐らくですが、全部囮だったのでしょう」
「全部って」
「大量のイロハ級も、最上さん自身も全てが囮。敵はきっと、不知火たちが輸送艇に乗り込み離陸する時を待っていたのだと、想定されます。疲弊して抵抗できず、空中で逃げ場もない中、最上さんごと不知火達を抹殺する為に」
その為だけに、ステルス機を出さずに待機させていた。
高くつくが、確実かつ纏めて殺す為に。
あれだけの数のイロハ級でさえ、囮に過ぎなかったと言うのだ。
「故に、ステルス艦載機は近くで、動きを見ていると踏みました」
「ムリでは? だって、見えないんですよね~」
「ええ、ですが熊野さんが来たことで、観測ができました」
「……ああ、そういうことですの」
「情報になかった人が来たせいで、ステルス機を動かさざるを得なかった。しかも夜間、明かりがなければ正確な観測は不可能。ほんの一瞬ですが確かに見えました、艦載機の明かりが遥か上空に」
これが意味することは一つ。その事実に臨戦態勢へ戻る。
「この近く、いるの、敵が」
不知火は頷いた。
「けど……どこにいるんだクマ。さっきから偵察機は飛ばしてるけど、敵影なんて見当たらないクマ」
戦闘が終わり、日が昇った頃、輸送艇の安全確保を兼ねて偵察機を飛ばしていたが、何も見つからなかった。
本当に敵なんているのだろうか。
だが、近くに敵の艦載機があったのは確かなのだ。
「マジで誰もいません。あるのはイロハ級の水死体ばかり。じきに消えるでしょうけど」
もうじき泡になって消える。それが深海戦艦の宿命だ。
「でも、気のせいにするのは、ちょっと怖いですね~。戦闘中に巻き添えで倒してた~、とかどうでしょ~」
「そんなことで倒せるなら苦労はしてないクマ」
全員敵を疑っている。目を凝らし、耳を澄ませても何もない。
『ちょっとー、迎えに来たのに何してるのかもー』
「敵がまだいるかもしれないんです。申し訳ありませんが、秋津洲さんも周囲を警戒してください」
『二式大艇ちゃんを沈めるつもり!? なんて奴見つけて殴ってやるかも!』
しかし何も無い。レーダーにも、ソナーにも、目視でも偵察機でも痕跡一つ発見できない。
「……撤退した可能性もありそうですが」
熊野の言う可能性が高そうだ。
何時までも此処にいるのも、それはそれで危険。
仕方なく、撤退の判断を下そうとする。
「……待って、おかしい、ぴょん」
「卯月?」
「艤装が、動いてる音が、
卯月が指差したのは、イロハ級の死体の山だった。
何割かは泡となって消滅し出している、間違いなく死んでいる。
死んでるから勿論、艤装の機能も停止している。
だから、音がする筈がないのだ。
「どれからですか」
「あそこ、頭部が半分砕けてる、空母ヲ級の死骸」
頭部、というか頭蓋骨が半分捥げてなくなっている。
どう見ても死んでいる。
一目で分かる死体である。
けど、卯月の聴力に疑う余地はない。
警戒し、フォーメーションを組んで死骸へ接近する。
「撃ちますよ」
宣言してから、不知火が主砲を叩き込んだ。
爆発が起き、ヲ級の外皮が吹き飛ばされる。
そして中身が顕になる。
「……空、ですわね」
生きていれば機械部品や内臓等が詰まっていたのだろう。しかしこれは死体だ。既に内蔵は泡となって消えてしまっている。
「待ってよ。変よコレ……そういう風には見えない。中身が綺麗過ぎる気がするんだけど……アンタどう思う」
「球磨も同じだクマ。泡になって消えたなら、腐りかけみたいな感じになる。でもこれは……」
「予め、くり抜かれた様な?」
つまり、このヲ級は最初っから『皮』だけだったのだ。
誰かが潜んだ状態で戦線にやってきて、適当なタイミングで、死体の振りをしていた。
ある意味理にはかなっている。
正確な偵察をしたいのなら、最前線に潜んでいるのが一番だからだ。
「でも、中身ないですけど」
「皮を捨てて、もう逃げちゃったんでしょーか?」
「……まだ、音は、してるぴょん」
今度こそ、異常であると把握した。
中身がなく、くり抜かれた空洞のヲ級。
ならば、どうして艤装の音がしてくるのか。
「まさか……カメレオンのように、透明になってるんじゃ」
満潮の無茶苦茶な予想に、球磨が反論する。
「冗談は止せクマ。ステルス迷彩なんて、SFにしか出てこないクマ」
「じゃ目の前のこれ何」
「……クマ」
ステルス艦載機の使い手なら、本人も透明になれるのではないか。その可能性は高い。
「……試してみます」
砲撃や魚雷では、爆炎で見えなくなる。
機銃の銃弾を一発取り出し、それをヲ級の死骸へ、放り投げた。
弧を描いて弾丸が落ちる。
それはカツンと音を
「誰だ! 動くなク──」
「ひゃぁぁぁぁぁ!?」
誰が悲鳴を上げる。
何も無かった空間から、突然艦娘が現れた。
何と土下座をしていた。
「
金髪のツインテールで、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにさせながら、謝り倒すそれに変な恐怖を覚える。
本当にステルス迷彩だったことにも驚いた。だがそれ以上に、この態度に衝撃を受けた。
「何、コイツ」
「……該当する艦娘は、います」
「誰なのよ」
「カサブランカ級護衛空母、19番艦、
「ヒィィィィ!」
三隻目、ステルス機を操る存在との遭遇は、とてもグダグダなものとなった。
艦隊新聞小話(久々)
艦娘強化システム(仮)の
ご覧の通り、最上さんの場合は、外部からエネルギーを供給することで、高い自己再生能力を実現していました。
まあ、肉体限界を超えた稼働の反動で、壊れていく身体を端から再生する使い方をしてた訳ですが。
肉体が限界突破してたのなら、脳も崩壊&再生を繰り返してるかもしれませんね。直接調べてはいないので、わたしは分かりませんが。
ガンビア・ベイも何かしらあるのでしょう。おおかたステルス能力に関係してそうですが。
卯月さんは……あるんですかね?
ちなみに、ここまで登場した