前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第179話 逃走経路

 核発射発射前に、事態を収拾させなければならない。

 つまり、原因を排除しなければならない。

 卯月達は逃亡を繰り返すガンビア・ベイを追跡し続けていた。

 

「核発射まで、後、どれぐらいの猶予が」

「そういうこと考えている暇があったら、もっと早く走るぴょん」

「チッ!」

 

 少し会話をした瞬間、二人は悪寒を感じた。

 役割は決めてある。

 卯月が主砲を、満潮がガンビア・ベイを監視する。

 

 見失わない為に。

 

 そして悪寒は当たる。

 

 再び人が落下してきたのだ。

 

「卯月!」

「了解だぴょん」

 

 地面に落ちた場合、その衝撃で破裂。

 飛び散った血肉が、目潰しとなって降り注ぐ。

 これで一瞬、ガンビア・ベイを見失った場合、彼女はステルス迷彩でその身を隠す。

 

 再発見は可能だが、時間がかかる。

 その分距離を離される。

 再追跡の猶予は残されていない。

 次見失ったら──ゲームオーバーだ、核が放たれる。

 

「同じ手は何度も通じないぴょん」

 

 着弾前に人を撃ち抜き、纏めて吹っ飛ばす。

 それによって視界を確保。

 監視し続ける事で、ステルス起動の隙を与えない。

 

It's useless(役に立たないなんて)! 折角助けて上げたのに!」

 

 ガンビア・ベイはふざけた事をぬかす。

 助けてなどいない。

 落下させた人達は、彼女が騙して拉致した人達だ。

 

「……少なくなってきてる、と思うのはうーちゃんの気のせい?」

「いえ、私もそう感じた。落下物でしょ?」

「うん。落とされる人の数が、少なくなってきてるぴょん」

 

 考えてみれば当然だ。

 落下死させる為の人間は、拉致して確保しただけ。

 溜め込んだ『残弾』に底が見えてきたのだ。

 

 しかし、それが朗報とは思えなかった。

 

「気のせいじゃない。ガンビア・ベイのあの顔は何かを目論んでいる顔よ。ただ時間稼ぎの為だけに逃げている訳じゃない」

 

 時間稼ぎの為なら、もっと良いルートが存在する。

 ガンビア・ベイはそれをしない。

 多少ブレはあるが、ある一定の方向に向けて逃亡している。

 目的地があるという事だ。

 

「あの呟きは気のせいじゃないって事か……」

「もしくは、それも計算の内かも。あの汚い泣き顔も演技かもしれないわね」

「嘘吐いてんのかぴょん? だったら殺す他ないぴょん」

 

 目的地に到達させたら、碌な事にならないのは間違いない。

 それより前に仕留めなければ、更に厄介──ぐらいならマシで、手遅れになりかねない。

 

「追跡自体が罠って可能性はあるけど、それでも、行くしかないぴょん」

 

 卯月は上空を見上げた。

 飛鷹達の艦載機が、ガンビア・ベイの航空部隊と激しく戦闘しているのが見える。

 残念ながら、卯月達の火力では有効打を与えられない。

 何とか拘束して、航空隊の攻撃を浴びせるのが一番確実だ。

 

 その時、視界に邪魔者が映り込んだ。

 

「イロハ級か、時間稼ぎのつもりかぴょん!」

 

 人が変異したものではない。

 元々周囲に潜んでいた個体──元人間の可能性はあるが──だ。

 妨害の為、呼んだのだろう。

 

 だが卯月には意味がなかった。

 

 落とされた人間は、救助部隊と騙された人達だ。

 故に、死の間際に絶望を残す。

 それはD-ABYSS(ディー・アビス)にとって、強烈なエネルギー元となる。

 

 ガンビア・ベイはこれで無尽蔵のスタミナを得ているが、同じ事は卯月にも言える。

 通常の何倍もパワーアップをしており、稼働時間も延長できている。

 普通のイロハ級なら、簡単に排除できる。

 

「排除って言っても、この人達は……」

 

 満潮は、直ぐ攻撃ができなかった。

 元は人間だったのかもしれない。

 そう思うと余りにも辛く、一瞬だけ躊躇してしまう。

 

「どいて、邪魔」

 

 卯月は躊躇なく撃ち殺した。

 

「……迷わないのね、アンタ」

「元人間でも、殺すしかない以上、躊躇する理由はない。むしろさっさと殺した方が為になるぴょん」

「……そう」

 

 卯月は正論を告げた。

 彼女の思考は今、『殺意』で統括されている。

 目的達成の為なら、如何なる手段も躊躇しない。

 実際には迷っていても、()()()()()()()()()()()と、感じつつ割り切ることができる。

 

 まあ言ってしまえばいつも通り。

 

 D-ABYSS(ディー・アビス)解放中は、完全なる殺意へと至っているのだから、いつも通りだ。

 

 ──なら、この嫌な感じは何? 

 

 満潮は卯月の顔を覗き込む。

 何時もと変わらないように見える、しいて言えば、普段より目つきが冷たく見える。

 精々それぐらいだ。

 ガンビア・ベイがあんなんだから、より殺意が深くなってるだけだろう。

 

 なのに、どうにも嫌な感じが抜けなかった。

 

「満潮!」

「え、あ、ごめん!」

「何の話だぴょん! それよりヤバい、一匹が何か変だぴょん!」

 

 輸送ワ級が、何故かガンビア・ベイの所へ近づく。

 そしてガンビア・ベイも、その場から動かない。

 恐怖で身動きがとれなくなった、なんて理由ではない。

 

「ヤバい!?」

 

 手遅れだった。

 手が届く距離まで接近した輸送ワ級に、ガンビア・ベイは空爆を叩き込んだ。

 

 爆撃の炎が、多くの弾薬や燃料に点火。

 瞬間、ガンビア・ベイ自身を覆い尽くす大爆発が起きる。

 

「やられた」

 

 これは自爆ではない。

 爆風で飛んでいく彼女が見えた。

 

「どういう事なの!」

「逃走だ。あいつは自分を爆発に巻き込んで、その衝撃で一気に距離を稼いだんだぴょん!」

「自爆じゃない!?」

「それよりも、メリットがある逃走経路って事だぴょん」

 

 しかし、滅茶苦茶遠くまでは飛んでいない。

 全力で走れば追い付ける。

 二人は吹っ飛んでいく彼女を追跡する。

 

「ヒッ……ヒッ、ひぇん……」

「泣いてるわアイツ。爆発のダメージが入った……」

「ようには見えないぴょん。というか、掠り傷も火傷さえ負ってなさげだぴょん」

「嘘泣きって……」

It's not a lie(嘘じゃないです)!」

 

 至近距離で自爆を受けても、掠り傷すら追わない装甲だ。

 なのに、この憶病っぷり。

 バカにされた様な感覚だ。

 益々苛立ちを募らせる。

 

「高度が落ちてきた、落下するぴょん」

 

 積み重なった瓦礫の向こう側に、ガンビア・ベイは落下。

 自爆で飛ぶなんて無茶をしたのだ。

 そんな手段、目的が達成できる時にしか行わない。

 

 つまり、ガンビア・ベイは目的を達成した。

 

 今ので目的地に到達した。

 

「アイツは何処へ逃げていたの!」

「見れば分かる事だぴょん」

「もう時間がないのに……此処で、絶対に仕留める!」

 

 砲撃で瓦礫を吹き飛ばし視界を確保。

 ステルス迷彩は起動済みかもしれないが、着地の衝撃で多少()()が発生している、すぐ探せば発見できる。

 着地の衝撃で鈍った所を確保、空爆で一気に無力化を図る。

 

 そう思い、目にした光景は。

 

「ふえ?」

「……え、あれって」

「この形状って、これは、シェルターって場所かっぴょん?」

 

 具体的には知らないが、昔漫画で読んだような、核シェルターめいた外見の建物があった。

 これから実行される(であろう)核攻撃に備えて、生存者を保護する場所だ。

 卯月はそう思った。

 そう思わせる程、『警備』がしっかりしていた。

 

 そう『警備』である。

 

 警備している人と言えば。

 

「どうも憲兵です」

 

 大量の警備──憲兵隊に包囲されるガンビア・ベイがいた。

 

「あ、私、not the enemy(敵じゃなくて)!」

「情報伝達は完了しています。貴女は敵ですね?」

「無力化します」

「拘束します」

「拷問します」

 

 蹂躙が始まった。

 

「ひぃあああああっ!?!?!」

 

 波多野曹長はいないが、戦闘能力は大体同じ。

 下手な深海棲艦を鼻で笑う憲兵隊数十人に包囲されては、ガンビア・ベイでも逃げる手段は存在しない。

 

「……此処が、逃走経路?」

「何がしたいんだアイツ」

「さあ」

 

 顔が原型をとどめてない。

 秒で無力化された彼女を見た二人は、『バカだったのかアイツは?』と思った。

 

 

 

 

 袋叩きにあっているガンビア・ベイを遠巻きに見ながら、注意深く接近する。

 何故、こんな所へ逃げ込んだのか? 

 憲兵にボコボコにされる為だったのか? 

 それは考えにくい、何かがある、警戒するに越したことはない。

 

「あのー」

「どうも卯月さん。満潮さん。波多野曹長からお二人の事は聞いています。ここまでガンビア・ベイを追い込んでくださり、感謝します」

「油断しない方が良いわ。何か目論んでるかもしれないし」

「ええ、承知しています」

 

 彼女を捕縛している憲兵隊も、警戒は怠っていない。

 厳重な拘束を施し、複数人体勢で監視を続けている。

 

「シクシクシクシク」

 

 どうせウソ泣きだ。無視に限る。

 

「でもこれで、核発射の危機は去ったってことで良いのかぴょん?」

「どうかしら。私達じゃ何も分からないし。貴方分かる?」

「簡単な情報なら分かります。残念ながら核発射体勢は解除されていません。まだ事態は収拾されたと見なされていません」

「クソ、やっぱり深海棲艦を殲滅しきらないと、ダメって事かぴょん」

「まあでも、後は掃除みたいなものでしょ」

 

 逃げ続けるクソ虫を追うよりよっぽど精神的に良い。

 あの戦闘力を持つ憲兵なら、ガンビア・ベイも拘束できるだろう。

 後の事は憲兵隊に任せて、掃討へ移っても良かった。

 

 狙いさえ分かれば。

 

「……で、ガンビア・ベイは吐いたのかっぴょん?」

「いいえ。泣き言はほざいていますが、肝心の情報は一切話していません」

「そういう口は堅いって、ますますクソね」

 

 疑問は最初へと戻る。

 何故、大量の憲兵がいるシェルター前を、逃走場所として選択したのか。

 此処に何がある? 

 卯月はシェルターを見上げた。

 

「このシェルターって」

「これか? 無感染者用の核シェルターだ。見れば分かるだろう」

「……ねぇ、満潮」

「何」

「ガンビア・ベイの艦載機って、全滅してたっけ」

「爆撃が起きてないなら、全滅したって事じゃ……」

 

 どうだった? 

 憲兵による蹂躙から、艦載機は見ていない。

 しかし、だからって全滅した事にはならない。

 まだ残ってる可能性はある。

 

 あの、人を運んでいた艦載機のように。

 

「まさか」

 

 卯月は思い至ってしまった。

 四肢を拘束され、憲兵に包囲された状況から、一気に逆転する方法を。

 

 正気ならやらない、悍ましい手段に気づいてしまった。

 

「落とす気なの?」

「何を?」

「このシェルター内に、感染した人の死体を放り投げるつもりなんじゃ」

「は? え? いや、そんなまさか」

 

 確かに、それなら逆転が狙える。

 シェルター内の人間全てを、イロハ級に変異させられれば、一気に数的優位を得れる。

 憲兵は強いが、深海棲艦を殺す事はできない。

 そのまま物量で押し切る事ができる。

 

 だが憲兵は首を横に振る。

 

「いや、不可能だ」

「どうしてそう言えんのよ」

「あのシェルターは対核使用だ。ただの爆撃では破壊できない。人の死体をぶつける程度では不可能だ」

 

 憲兵の言う通りだ。

 その説明に卯月達は安心しかけた。

 

 敵は、そういった常識を嘲笑うような連中だと、一瞬忘れてしまっていた。

 

 轟いたのは、耳を劈くような、聞いた事のない轟音。

 

 遅れて放たれる衝撃波。

 

 一体何が起きたのか。

 

 卯月達が見た光景は。

 

「……ヤバい」

 

 風穴が空いた核シェルターだった。

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