前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第180話 策謀へ

 卯月も、満潮も、憲兵隊も動けなかった。

 ガンビア・ベイは確保した。

 残る深海棲艦を殲滅すれば、核攻撃は止められる。

 

 なのにこれは何だ。

 

 核攻撃でも破壊できないシェルターの屋根が、破壊されていた。

 

「──戦闘態勢ッ!」

 

 真っ先に反応したのは憲兵隊。

 何処から攻撃が来たのは、そこからの追撃を警戒する。

 やや遅れて、卯月達も警戒する。

 但し、憲兵隊の見る周囲ではなく、『空』の方。

 

 そして見えた()()を見て、卯月はガンビア・ベイの作戦を理解した。

 

「やっぱりか! 落とす人間は減ってたんじゃない! 取っておいてたんだ!」

 

 落ちてくるのは、呪いに感染した人間爆弾。

 着弾地点は勿論、シェルターに空いた大穴。

 穴の先にあるのは、無感染の避難者達。

 

「ヤバい! 一人でも落ちてしまったら、無事な人達全員が、深海棲艦化してしまう!」

「何!? あれは呪われているんですか!?」

「そうだぴょん!」

 

 憲兵は戦慄しながらも指示を飛ばす。

 

「ガンビア・ベイの見張りは一人で! 残りは迎撃体勢! だが感染してはいけません! 接触せず全て迎撃しなさい!」

 

 憲兵隊は人間離れした動きで跳躍、超人的身体能力により、落下してくる人間をパンチやキックの衝撃波で破壊していく。

 

「もう良い! ガンビア・ベイを始末するぴょん!」

「ダメ、多分意味がない! こいつを殺しても消えるのは艦載機だけ、人は依然として落下するわ!」

「そうなのかお前!」

「ヒィっ!?」

 

 ガンビア・ベイはベソベソ泣いてて話にならなかった。

 

「どこまでクソ仕様なんだコイツは! じゃあいい対空砲火だぴょん!」

 

 卯月達も迎撃に加わる。

 幸いなのか、落下速度重視の為か、ステルス迷彩は機能してない。目視できる状態だ。

 全員でやれば、全て迎撃できる。

 

 その見立ては正しい。

 

 正しいからこそ、敵がそれを実現させる筈がなかった。

 

「あああもう! どうしてこんな事に……え」

 

 満潮はたまたま振り返っただけだった。

 結果、見てしまった。

 ガンビア・ベイが拘束具諸共忽然と消えているのを。

 

「ガンビア・ベイが逃げたっ!」

「嘘だろ!?」

 

 本当に影も形もない。

 横では見張りをしていた憲兵が、頸動脈を切られていた。

 

「本当よ! でも、そう遠くへは行っていない筈! すぐに見つけ出してや」

「必要ないです」

 

 満潮が感じたのは、真っ暗な寒さだった。

 

「え」

 

 ナイフが鳩尾に突き刺さっていた。

 

 痛みは感じなかった。

 疑問が勝った。

 どうして気づけなかった? 

 

 こいつは真正面から現れたのに。

 

「どどど、退いてください!」

 

 拘束具も消えていた。

 ガンビア・ベイは完全な自由。

 刺された鳩尾へ、回し蹴りを叩き込まれ、満潮は瓦礫の山へ吹っ飛ばされた。

 

「満潮!?」

 

 卯月も同じ疑問を抱いていた。

 ステルス迷彩は動いたら解除される、そういう能力だ。

 だが、今ガンビア・ベイは、透明のまま動いていた様に見えた。

 満潮の目の前に、突然出現した──様に見えた。

 

 動いたら解ける、という事自体、そう思わせる為の罠だったのか? 

 

 兎に角ヤバい。

 逃げられたら全てが終わる。

 

「ひっ、ひゃ……!」

 

 だが、ガンビア・ベイは逃げなかった。

 代わりに、その場で丸まって、一切動かなくなった。

 これは、何なのだろうか? 

 卯月は罠の気配を感じ、動けない。

 そこへ、隙を見逃さなかった上空の飛鷹達が、空襲を仕掛けた。

 

「C,Came(き、来た)……ッ!」

 

 飛鷹達の航空隊は、ガンビア・ベイの航空隊と戦っていた。その最中、彼女が止まったのを見て、攻撃を決断したのだ。

 この場で仕留めなければ、核が撃たれる。

 

 出し惜しみはない。

 残っていたあらゆる火力が、限界ギリギリの至近距離から叩き込まれた。

 艦攻、艦爆、致死レベルの火力が捻じ込まれる。

 踏ん張らなければ、卯月が吹っ飛ぶ程の衝撃。

 卯月はガンビア・ベイの死を確信していた。

 

「よし、うーちゃんは、落下物の撃破を優先し」

「う、うう……」

 

 その声に戦慄する。

 

「嘘だろ」

 

 爆炎が収まった。

 姿が見えた。

 ガンビア・ベイは無事だった。

 傷も火傷も、何一つ負っていない。

 

 前科戦線が出せる最大火力を叩き込んでも、一切のダメージを負っていなかった。

 

 卯月は絶望する。

 

 自分達の最大火力でもダメージを与えられなかった。

 ならどうやって倒せばいい? 

 どうやって無力化すればいい? 

 

 厳重な拘束も、手段は分からないが脱出された。

 

「止める手立てが、ない……!」

 

 それでも、諦める訳にはいかない。

 核攻撃を許す訳にはいかない。

 幾ら艦娘でも、核攻撃の直撃には耐えられない。

 絶対に阻止しなければならない。

 

 そう思っているのは、上空で戦っている飛鷹達も同じ。

 

 一度でダメなら、何度でも浴びせるまで。

 ダメージが通らなくても、爆撃でその場へ縛ることは可能。

 再攻撃の為、次々に急降下。

 

 

 

「──分っかり易い軌道ねぇ」

 

 

 

 微かな声が。

 瞬間、航空隊が蒸発した。

 真っ黒な暴風が、殴り込んできた。

 その正体は、暴風のような密度の航空隊の軍勢。

 

 暴風は艦載機を蹴散らすと、四方へ散り、各所へ攻撃を始めた。

 

 憲兵隊へと襲い掛かる。

 更に高高度へ飛翔し、ガンビア・ベイの航空隊へ加勢、制空権をひっくり返しにかかる。

 無論、呆然としてる卯月にも襲い掛かる。

 

「増援って、ふざけるなよ!?」

 

 悲壮な叫びが、寒空へ響く。

 更に絶望はもう一つ。

 さっきの急降下爆撃で、飛鷹達は殆どの火力を使い切っていた。

 そこへ横殴りの攻撃。

 今の航空隊にはもう、空爆できるだけの弾薬が残されていなかった。

 

「まだだ、まだ、人を、護らないと……!」

 

 それでも、それでも、絶望している暇はない。

 シェルター内の避難者達を護らなければ。

 核が落ちてしまえば、全て無駄になるが──放棄していい理由にはならない。

 それはプライドが許さない。

 

 しかし、敵もまた()()()()()

 この本土襲撃を、千載一遇のチャンスとして、最大の賭けをしていた。

 

 爆発と言っても良い様な、凄まじく激しい轟音が、空から聞こえた。

 それは、人の落下音ではない。

 人ならもっと小さい音がする。

 これは、もっと重い、かなりの重量物が落ちて、風を切る音。

 

 ──そう思考したから、対応が遅れた。

 

 それでも反射的に、空を見た。

 しかし、それらしきモノは何もない。

 変わらず、感染者が落ちてくるのが、()()()()()

 

「ステルスッ!?」

 

 違う、ステルスだ。

 今落下してきている、重いナニカは、ちゃんとステルス迷彩を起動しているのだ。

 そう気付いたと同時に、卯月は理解する。

 

 ()()()()()()

 

 ガンビア・ベイの目的は、感染者をシェルター内に落とす事ではなかった。落としたかったのは『本命』の方だ。

 人を落としたのは、途中ずっと落とし続けていたのは、思い込ませる為。

 ()()()()()()()()()

 そう先入観を与える事で、本命を落とした時の対応を遅れさせる為だったのだ。

 

 結果卯月達は、落下速度を読み間違え、迎撃の機会を逃す。

 

 もう間に合わない。

 

 そして、本命が着弾した。

 

「……そんな」

 

 凄まじい地響きが発生し、シェルター内から大量の粉塵が噴き出す。

 シェルター内に『本命』が落ちた。

 落ちたのが感染者なら、一気に呪いが避難者達に広がっていく。

 しかし、『本命』の正体が分からない。

 何をすべきか分からない。

 分かるのは、一つの事実。

 

「騙された、のか。私は」

 

 全ては、『本命』を落とす為の策謀だったのだ。

 

 先程卯月が気づいた通り、感染者を落としてきたのは、落下物は人間だと先入観を与える為。イロハ級の増産や、視界妨害といった目的もあるが、真の狙いはそちら。

 

 シェルター付近に来て以降、感染者をステルス迷彩無しで落としたのも同じ理由。その中の『本命』にだけステルス迷彩をつけて、投下したのを隠す為。全てを透明にするより、その内一つだけを透明にした方が、より存在を偽れる。

 

 ガンビア・ベイが蹲って動かなかったのも、自分を囮にし、飛鷹達の航空戦力を上空から引き剥がす為。そこへ今までずっと隠してきた、『伏兵』の航空戦力を叩き込み、制空権を奪い取れば、『本命』の投下を確実にできる。

 

 策謀は成功した。

 投下は成功した。

 

「……これは、呪いが生まれる、音か」

 

 シェルター内は、舞い上がった粉塵で直視できない。

 しかし、深海棲艦が生まれる音は聞こえていた。

 『本命』の正体は分からないが、呪いを撒き散らす物なのは確かだ。

 

「そうだ、みんな、殺さないと」

 

 うわ言のように、主砲を構えた。

 呪いは感染する。

 だが、感染してから変異までにはタイムラグがある。

 それまでに全員殺さなければならない。

 全員が変異したら──殲滅は不可能だ。核攻撃が実行される。

 

 卯月はもう、自分の生存は考えていなかった。

 せめて、核攻撃で、更なる犠牲者を増やさない為に、戦おうとしていた。

 憲兵隊も同じ。

 感染者の殲滅に動き出そうとしていた。

 

 

 

Now checkmate(これで、チェックメイトね)

 

 

 

 ()()()()()が聞こえた。

 それもシェルター内部から。

 つまり、『本命』の投下物の正体とは。

 

 送り込まれた敵はガンビア・ベイだけではなかった。

 洗脳艦娘は『三人』いた。

 同じ言葉を繰り返そう。

 敵もまた、千載一遇のチャンスに賭けていた。

 

 分厚いシェルターの壁が崩壊する。

 現れたのはイロハ級の軍勢。

 この数秒で、変異を終えた全ての避難者達。

 

「なんで」

 

 避難者達は変異を終えていた。

 

 

 

 

 そこからの展開は早かった。

 シェルター内にいた避難者の数は約100人近く。

 つまり、100隻の深海棲艦が現れたのと同じ。

 

 艤装と肉の濁流が押し寄せる。

 砲弾を撃っても、魚雷を撃っても、大火にじょうろで水をかけるのと同じ事。

 意味はなく、抵抗はできず、卯月は一瞬で押し潰された。

 

 誰も砲撃はしてない。

 攻撃はしてない。

 ただ行軍しただけ。

 それだけで、攻撃として成立する。

 

 人型に押し込まれていても、その実態は──最低でも一隻2000トン。

 それが100隻分。

 吹き飛ばされ、踏み潰され、蹴り飛ばされて……津波が引いた時にはもう、卯月は動けなくなっていた。

 

「う……あ、あぁ……」

 

 システムによる強化を以てしても、耐えられなかった。

 骨は砕け、内臓に何本も突き刺さり、濁流のように全身から出血。

 指先一本も動かせない、立ち上がる事さえ、できるかどうか。

 

「怯むな! 死んででもこいつらを排除するのだ!」

 

 憲兵隊達も戦っているが、勝ち目は皆無だ。

 人間の攻撃では、再生を阻止できない、絶対に殺し切れない。

 不意に食らった砲撃で砕けて死ぬ、機銃で穴だらけになって死ぬ、四肢を捥がれて死んでいく。防護服に穴が空き、呪いに浸食される。変異しきる前に自爆で死んでいく。

 

 それでもまだ、イロハ級だけなら、どうにかできたのかもしれない。

 

「卯月さん大丈夫か!」

 

 目の前に憲兵の一人が着地する。

 

「君だけでも救助をす」

 

 パン、と乾いた音が鳴った。

 頭部から、脳漿を垂れ流して死んだ。

 人の武器の音だった。

 周囲を包囲していたのは、イロハ級だけではない。専用防護服に身を包んだテロリストの軍勢もだった。

 

「増援も来てくれたわね。これで完璧だわ」

「ひっ……I'm scared(こ、恐いです)、私達、狙われないんですか」

「狙われたって、私達に勝てる訳ないけどね」

 

 アサルトライフルの音が鳴る。

 憲兵隊の断末魔が、途切れ途切れに響く。

 やがて、憲兵達の声は聞こえなくなった。

 

「さてと、これで形勢逆転って訳だけど……こいつ、死んでないわよね?」

Not dead(死んではいないわ)。まだ息はある。でもdying(瀕死)ね、脅威でも何でもない」

「こんな雑魚に秋月と最上は負けたの? まるで使えない連中ね。消えて済々するわね」

 

 第二、第三の声が聞こえる。

 軽空母以上の、超重量級の足取りが、こちらへ迫る。

 卯月は、立ち上がった。

 立たなければ殺されてしまう、倒れたままではいられない。

 

「ひぃっ!? まだ動けるんですか!?」

Calm down(落ち着きなさい)。もう戦えやしないわ。でもDon't let your guard down(油断は禁物ね)。これ以上は接近しない方が良いでしょう」

 

 一体は、玉座のような艤装に腰を掛けていた。

 もう一体は、和服めいた衣装に、巨大な弓、そしてカタパルトを構えていた。

 その後ろでガンビア・ベイがガタガタ震えて隠れている。

 

I will teach you(教えてあげる)。たった今、nuclear missile(核ミサイル)が発射されたわ」

 

 真っ暗闇に落ちていく感覚になった。

 

「このまま放置して、爆発で殺しても良いけれど……My lordは確実な抹殺をご希望。だからI will kill you directly(直々に殺してあげるわ)Traitor(裏切者)には過ぎた褒美よ。首を垂れて感謝しなさい」

「ねぇ、でも自己紹介は必要じゃない?」

Yes(そうね)。誰に殺されるか、理解して貰わないといけないわね」

 

 蔑み、嘲笑う視線を向けながら、誇らしげに宣言する。

 

「翔鶴型航空母艦2番艦、瑞鶴!」

Queen Elizabeth Class Battleship(クイーンエリザベス級戦艦) 二番艦、Warspite(ウォースパイト)

「これは、ご主人様からの寵愛を無碍にした罰よ」

Give despair(絶望を与えます)

 

 卯月はもう、全てを絶望に支配されていた。

 

 しかしそのせいで、聞きそびれた。

 

 艤装から、小さく『メキャ』と音がしたのを。




ここまで登場した洗脳艦娘。
秋月、最上、ガンビア・ベイ、瑞鶴、ウォースパイト。
実はある共通ネタからの採用です。
メッチャ細かいネタですけども。
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