前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第184話 獣②:PUPA

 身体が重い、手足を動かすのさえ億劫。瞼を空けることも辛い。

 このままじっとしていたい。

 気怠さの中満潮はそう思っていた。

 

 しかしそれを許さない者がいた。

 

「起きてください」

 

 誰かの声がする。

 けどどうでもいい。

 

「起きてください。用があるんです」

 

 煩いな、鬱陶しい、あっちへ行ってくれ。

 

「起こします」

 

 しつこ……何だって? 

 直後、強烈な痛みが頭を貫いた。

 

「がっ!?」

「おはようございます」

 

 鼻先を思いっきり殴り飛ばされた。

 次第に思い出す──そうだ、わたしの鼻先潰れてたじゃん。そこを更に殴られた。どうりで痛い訳だ。

 満潮はのたうち回りながら、そんなことを考えていた。

 

「おはようございます。私の言葉聞こえてますよね。耳潰れてないですよね?」

「聞こえ、てる、わよ……快適な目覚めを、どうもありがとう」

「お礼には及びません。用があるので起こしただけですから」

 

 皮肉を言ったつもりなんだが。

 鼻先を摩りながら、自分を起こした人物を見据える。

 

「アンタは……」

「ああ動かない方が良いですよ。満潮さん酷い重症を負っています。ギリギリで助け出せたら良かったですけど、あのままだと死んでましたね。あ、応急処置もしてあります。でもあくまで応急です。動かないように」

「……そうだ、私は」

 

 だんだん思い出していく。

 瑞鶴、ウォースパイト、ガンビア・ベイに囲まれた上、憂さ晴らしのように散々甚振られた。

 けど無抵抗で受け入れた。

 卯月が死ぬのを、見てしまったから。

 

「私は……また、また……どうして、まだ、ダメなの……?」

 

 無力感が全身を支配する。

 トラウマが蘇り『発作』めいた状態へ陥る。

 自己嫌悪が止まらない、半ば錯乱、身動きがとれなくなる。

 

「何か辛い事でもあったんですか?」

 

 満潮の心境を1ミリも察してない横やりがなければ。

 

「アンタ、どうしてそんな事言えるの。と言うか見てなかったの、助けてくれた事には、お礼を言うけど」

「見てましたよ? ええ、卯月さん……でしたっけ。心臓潰されてましたね。生憎、私がお二人を発見したのがそのタイミングでして、卯月さんの救助は間に合わなかったんです」

「そう……」

 

 文句を言える立場ではない。

 卯月を助ける事ができたのは、自分だったのだから。

 後悔に、更にトラウマが抉られる。

 

「そろそろ私の要件聞いて貰っていいですか?」

「要件……っていうか、アンタ誰? 艦娘で、味方なのは分かるけど」

「私は大将の艦娘ですよ」

「大将の?」

 

 彼女は自慢げに飛行甲板を翻す。

 

「航空母艦、赤城です。これから貴女に尋問します」

「……えっ」

「尋問します」

 

 瞬間、弓矢が突き立てられた。

 その動きは高速。構えるところも、引き絞る瞬間も見えない。

 一瞬でホールドアップされた。

 

「説明の時間はないので省略します。もう核ミサイルは撃たれてしまったので」

「……嘘、でしょ」

「本当の話です。私は提督(大将)をシェルター内へ避難させたいんです。ですがそれより優先度の高い任務が発生したので、貴女を尋問しに来ました」

 

 赤城が満潮達を発見できたのは、避難者の捜索作業をしていたからだ。

 空母である彼女には、大将自身の護衛よりも、その任務が割り振られた。

 その途中、敵と交戦する卯月達が見えた為、加勢しようと──結果的には間に合わなかったが──したのだ。

 

「優先度って、どういう事なのよ」

「卯月さんは何者ですか?」

「は?」

「高宮中佐が提督に信頼されているのは知っています。でなければ懲罰部隊を任せたりしません。けど私は信頼しません。提督が信用していても、同じようにするのは慢心です。ましてやこの状況、万一の事は……」

「だから、何。何なの」

 

 言いたいことは分かったが、どうして卯月が出てくる? 

 卯月はもう死んでいる。聞いて何の意味がある。

 赤城は首を動かし、方向を示した。

 

「見ろってこと?」

 

 満潮はそっちを見た。

 化け物がいた。

 異形の怪物が、ウォースパイト達と戦っていた。

 

「……何なの……あれは……?」

「卯月さんです。多分」

「は!?」

「なので貴女に尋問します。ずっと同室だったと聞いています。何か知っていますよね。話して貰います」

 

 そんなこと言われても何を話せと。

 化け物と赤城を交互に見て呆然とする。

 今分かることは、壮絶な何かが起こっているという事だけだった。

 

 

 

 

 零れ落ちた重油に足を取られ、拘束された瑞鶴。

 そこへ獣が口を開く。

 その口内は蒼い輝きを放っていた。

 

 光が、中央へ集約されていく。

 藻掻くが狙いは正確、瑞鶴の動きを見逃さずに追尾。

 仮に拘束から逃れても、周囲の弾幕を受けて回避速度は低下、狙いからは逃げられない。

 

 光が放たれた。

 

 真っ直ぐに瑞鶴へ飛ぶ。

 艦載機よりも機銃よりも砲撃よりも早い速度で光が伸びる。

 

「うぉぉおおおお!!」

 

 攻撃の正体は掴めていない。

 しかし確信はあった。

 喰らったら死ぬという絶対的な確信が。

 

 だが重油の拘束や弾幕で直ぐに逃げられない。艦載機を盾にしても効果があるか不明。

 故に彼女は『能力』を発動させた。

 

「私を守れッ!」

 

 光が瑞鶴を貫く──その寸前、地面から『戦艦ル級』──が生えてきた。

 戦艦ル級が肉盾となり瑞鶴を防御したのだ。

 その隙に瑞鶴は射線上から離脱する。

 

 それが彼女の能力。

 瑞鶴はイロハ級を生成できる能力を持っていた。

 この襲撃において、呪いの発生元である最初の一体目は、外部から持ち込まれたのではなく、瑞鶴により現地生成されたのだ。

 

「なんてことなの、私が、能力を使うことになるなんて!」

 

 しかし彼女的には、能力は隠したかった。

 その方が戦略上有利だからだ。

 尤も悠長な事を言える状況ではない、仕方ないと割り切る。

 だが逆に、そうなるまで自分を追い詰めた『獣』に対し、怒りの感情が沸き上がった。

 

「しかも何よコレ、見かけの割に大した攻撃じゃないじゃない!」

 

 光はル級の装甲に阻まれていた。

 照射は続いているが、周囲にエネルギーらしき光が飛び散るだけ。

 ル級は前傾姿勢かつ、足に力を込めて耐えている。

 発射の勢いは高いが、それだけだ。

 

「本当に大したことなかったのね……このクソ餓鬼が、私を舐めやがって……」

 

 ほくそ笑み、内心で安堵。

 油断したら吹っ飛ばされてしまう。しかし装甲は抜けない。

 それにル級より瑞鶴の方が固い。もし喰らっても耐えれる。

 

 能力まで使ったのは間違いだった。能力が知れ渡るデメリットを背負っただけ。また怒りを湧き上がらせる。

 

「もーいい、その図体といい、コケ脅しはもう十分!」

 

 さっさと終わらせよう。

 獣の頭部へ狙いを合わせ、弓矢を発射。

 照射を続けていた獣では回避が間に合わない。側頭部へ矢が刺さり、怯んで横転する。

 同時に照射が途切れる。

 踏ん張っていたル級は、前のめりに倒れた。

 

「……支配されてはいないみたいね」

 

 見た感じ、自分の命令を聞いてくれている。さっきのように、勝手に動いて獣の肉体へ成るとかもなさそうだ。

 同時に飛び散った光に気づく。ル級の装甲へ弾かれ、飛び散っていたそれに触れる。

 

「これは水……ってことは、あのレーザーみたいな奴は水鉄砲だったの?」

 

 深海棲艦は模擬弾として、高密度な水を放つことができる。

 丁度、前科戦線にいる顔無し(加古)がやっていた様に。

 つまり獣が発射していたのはレーザーではなく、単に高密度の水鉄砲──水圧カッターが近い──を放っていただけ。

 

「深海棲艦なら誰でもできる、水鉄砲の模擬弾……そういう事だったの。紛らわしい」

 

 私はこんな攻撃にビビッていたのか? 

 そう思うと本当に腹が立つ。

 この鬱憤はキッチリぶつけてやろう。

 

「攻撃隊発艦、くたばれ!」

 

 次々と弓矢を放ち、切れ目なく攻撃機を突撃、巨大な空襲を作り出す。

 獣は全身の対空火器を総展開、高密度な弾幕を張り、接近を阻む。

 しかし空戦においては、瑞鶴の方が有利。

 

 艦載機を精密にコントロール、急加速、急上昇を織り交ぜ、相手の予測を攪乱。D-ABYSS(ディー・アビス)で飛行速度も強化済み。全て突破とはいかないが、何機かが対空砲火を抜け獣へ肉薄。

 

「そこよ、爆撃開始!」

 

 攻撃機が爆弾を落とす。

 だが一瞬で撃ち落とされた。

 艦載機と違い、爆弾は落としたら()()()()だ。軌道が分かり切っている以上、迎撃はされ易くなる。

 

 だから空母は、爆弾をギリギリの所で投下する。

 間に合わないよう、仮に迎撃できても、爆風に巻き込めるように。

 

 瑞鶴の攻撃機は、各機が違うポイントで急降下爆撃を実行。

 獣は本能的に、落とされた順に処理してしまう。その結果最後の一発がデッドラインを超える。

 迎撃はできたが遅かった。

 

「■■■……ッ!」

「命中!」

 

 身体の一部が爆風に呑まれる。破壊力は並ではない。吹き飛んだ部位がクレーターのように抉れていた。

 だがやはり大き過ぎる。

 複数人纏めて消せる大爆発なのに、大したダメージになっていない。やはり40メートル級の巨体は──

 

「ん……あ、あれ?」

 

 瑞鶴は獣を二度見した。

 

「ちょっとウォースパイト!」

「どうしたのズイカク」

「なんか、大きくなってない!?」

 

 攻撃のチャンスを伺っていた彼女は、大型電探を用いて、サイズを計測し直す。

 

「……巨大化している」

「どうしてよ!?」

「そんなの私が知りたいぐらいです」

 

 この短時間で、更に1、2メートル肥大化していた。

 あり得ない事態だ。

 イロハ級の肉体と艤装で生成されたのが獣だ、いきなり膨張する深海棲艦はいない。だからこれは起こり得ない事態。

 尤も相手が相手、何が起きてもおかしくない。

 

「来るわよズイカク!」

 

 再び巨体が迫る。

 大きくなった分、速度が増す。

 武装の数は増えてないが、弾幕密度は変わらない。砲撃をまき散らしながら突っ込んでくる。

 

「ええ、でも、やることは変わらない!」

 

 落とされた分を超える攻撃機を発艦、空襲を仕掛ける。

 獣も同じように、対空砲火で迎撃しながら、瑞鶴達の元へ突っ込む。

 

 このままでも問題はない。爆弾を落としてダメージは与えられる。

 ただ時間がかかりすぎる。核が落ちる前に戦いは終わりにしないといけない。

 

 その為には連携しなければならない。

 致命傷となる砲撃を叩き込むか、空襲を全て叩き込むか。

 どちらかでなければ早期決着は望めない。

 だから空襲を続ける。

 上へ気を取られている分、チャンスが増える。

 

「ガンビア・ベイ、ステルスはもういい、アンタも空襲を手伝いなさい!」

 

 よりチャンスを増やすべく叫ぶ。

 いつも通り、ステルスで隠れながら、奇襲を狙っているのだろうが、そういう状況ではない。手数が必要だ。

 しかしガンビア・ベイは現れなかった。

 

「……嘘!?」

 

 その時彩雲が衝撃映像を捉えた。

 

「今度はどうしたのズイカク」

「あ、ああ、アイツ、に、()()()()!?」

What's that(何ですって)!?」

 

 ガンビア・ベイは海に向かって全力疾走していた。

 とっくに戦線離脱してたのだ。

 何故だどうしてだ主様への裏切りではないか。

 直ちに通信を繋げ、ガンビア・ベイへ怒声を飛ばす。

 

『何やってんのアンタ、逃げてんじゃないわよふざけんな殺すわよ!?』

「好きにして下さい! I run away(私は逃げます)! こんな所で死にたくない! いや! 死ぬ方が数百倍マシです! Please(お願い)! だから! 私に! 逃げさせてくださいぃぃぃってかズイカク達も逃げた方が良いですから!? 私警告しましたからね! Good bye(さよなら)!」

『訳分かんない事言ってんじゃな』

 

 通信が一方的に切られた。

 

「あの下衆が!」

 

 どの口が、という話だが、確かに下衆だった。

 しかし、二人共もうじき思い知る。

 ガンビア・ベイの判断が正解だったと。

 

「ズイカク、来るわ!」

「アイツ後で殺してやる!」

 

 地鳴りを起こしながら突っ込んでくる。

 大量の砲撃に被弾するがダメージにはならない。

 水圧カッターもコケ脅し、警戒すべきは質量攻撃だけだ。

 

「■■■■■■!!!」

 

 悍ましい咆哮と共に口を開き、地盤を抉って突進。

 それを回避しながら、ウォースパイトが副砲を頭部へ集中発射、少しずつだが抉れ飛ぶ。

 しかし獣は意に介さず、彼女の回避先へ前足を振り下ろす。

 

 そこへ、ウォースパイトが主砲発射。

 勢いと爆発力に前足が押し戻され──なかった。

 獣は咄嗟に、肘辺りの主砲を一斉発射、反動で無理やり前足を振り下ろしたのだ。

 

「そういうusage(使い方)もあるのね」

 

 冷静にチャンスを伺う。

 何度でもやるまで。主砲を連続発射、再び押し返す。

 それと自分の砲撃の反動に挟まれ異音が響く。装甲に亀裂が走り、イロハ級の内臓がまろび出る。

 脚部が潰れる。そう判断した獣は前足を引っ込めウォースパイト──ではなく、その近くへ叩きつけた。

 

Aiming(狙い)がズレた……?」

 

 想定外地点への攻撃、迎撃が遅れる。

 その一撃が周囲を丸ごと破壊。

 足場を崩され、ウォースパイトの体勢が崩れる。

 その瞬間を狙い、獣が口を開く。

 

 再び水圧カッターを叩き込む為に。

 

「甘いわ。所詮獣なのね」

 

 そこへ、瑞鶴が生成した戦艦ル級が割って入る。

 瑞鶴の艦載機に放り込まれたのだ。

 ダメージはないだろうが、万一もある。直撃は避けた方が良い。そう考えた瑞鶴の支援。

 

 水圧カッターがまたル級に当たる。

 一回目と同じ。装甲を貫けず水が飛び散るだけ。

 効果は無し。目の前には、大口を開けた獣。

 

「体内へ直接Presentをあげる」

 

 主砲が口内へ叩き込まれる。

 それも一発では終わらない。

 盾になったル級を巻き添えに、水圧カッターを吹き飛ばし、撃てるだけ捻じ込まれる。

 体内から爆炎が溢れ出し、爆炎が獣を吞み込んだ。




前、加古(顔無し)が演習で水鉄砲模擬弾撃ってましたが、あれは獣に水圧カッターを撃たせる為だけの前フリです。
まあ、ル級の装甲も貫けないよわよわレーザーですけども。
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