前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第185話 獣③:CHRYSALIS

 ウォースパイトの放った砲撃は、ル級を貫き獣の口内も貫いた。

 

「──────……ッ」

 

 悲鳴のような咆哮を上げ、獣が倒れた。

 身体を構成していたイロハ級の眼が、次々と光を失っていく。まるで一つの街が停電になったように。

 体内を貫く攻撃を何度もを受けて、無事な筈もない。

 

「終わった……と、carelessness(油断)しない方がよさそうね」

 

 しかしウォースパイトは警戒を続ける。何が起きてもおかしくない。

 だが迂闊に砲撃もできない。

 卯月が最初変異した時、砲撃が効かず、むしろ獣を構成する糧にされた。同じ事が起きるかもしれない。

 

「追撃しないの?」

「ええ、できれば、こうなったcause(原因)を特定したいわ。My lordへの報告もいるし、何も分からないままでの攻撃は恐いわ」

「成程ね、でも核ミサイル数分で来るわよ。多分5分もない」

「それまでには終わらせます」

「任せる。私は敵やミサイルの動向を見てるから」

 

 瑞鶴も同意見。

 結局獣の戦闘能力は大したことなかった。

 攻撃力、防御力共にイロハ級と同程度。水圧カッターはこけおどし。脅威になるのは質量攻撃だけ。

 しかし雑魚と片付けられない威圧感がある。

 艦載機を飛ばし周囲を警戒する。

 

「……これ、触って大丈夫なのかしら」

 

 獣を観察しながら呟く。触れた瞬間吸収とか恐ろし過ぎる。

 

「やるしかないわね」

 

 ウォースパイトは意を決し、そっと外殻に触れた。

 彼女の『能力』を応用すれば、触診めいた事が可能だ。

 

「なにかベタベタしてる。重油の残りかしら。それにしては変な感触……汚いわ……bad mood(最悪の気分)ね」

 

 外殻としては妙な触り心地。経年劣化で解けたゴムみたいな触感。

 嫌だがちゃんと見ないといけない。汚物に触る気分で、再び触れる。

 

「私、触る役じゃなくて良かったわ」

 

 そんな感想を抱いて、瑞鶴は周囲を警戒する。

 敵影はない。核ミサイルから逃げたからだ。

 残っているのは、散財した瓦礫や、獣の遺体、さっき巻き添えで木端微塵になった()()()()()()()

 

 水圧カッターは効かなかったが、ウォースパイトの砲撃はダメだった。

 ふと、疑問が芽生えた。

 

「……あの獣、どうして二度も水圧カッターを撃ったのかしら。一射目で効かないって分かってた筈なのに。一射目と二射目で、威力が変わってる感じもなかった」

 

 その疑問を、放置していいとは思えない。

 多分確かめた方が良い。

 そう思った瑞鶴は、近くに落ちていたル級の残骸へ手を伸ばす。

 

 それが光り出した。

 

「え」

 

 蒼色に光り出す。

 破壊かどうするか──その判断を下す間もない。

 その直後、残骸が()()()()()()

 

「え……え、え?」

 

 辺りに液化したル級の残骸が飛び散る。

 死んだ深海棲艦は、跡形もなく消滅するが、こんな形ではない。

 

「ウォースパイト……おかしい。変よ、どうなってるの!?」

「どうかしたんですか」

「ル級が、光って、液化して、弾けた!」

「……Shining(光った)?」

 

 連鎖的に、反応が起きる。

 全ての残骸が輝き、溶けて弾ける。

 ばちゃん、ばちゃん……と。

 そこら中に、元ル級の水たまりが出来上がっていく。

 

 獣がル級に何かをしたのだ。

 そしてやった事は一つしかない。

 

「水圧カッター……もしかして、それなの!?」

 

 ウォースパイトの悪寒がピークに達する。

 もう一度外殻に触れる。

 一気にD-ABYSS(ディー・アビス)を解放し、内部にまで感覚を到達させる。

 

 そして感知する。

 

Fetal movement(胎動)!?」

 

 まだ死んでいない。

 口から尻の穴まで貫いたのに絶命していなかった。

 飛び退き、距離を取り、主砲を展開。

 瑞鶴も艦載機を突撃させる。

 

 爆発が獣を覆い尽くす。

 残っていた建物や道路の残骸も吹き飛ばし、辺り一帯を更地へ変えていく。

 しかし手遅れだった。

 

 爆煙で姿が見えなくなる。

 一度、状況を確認する為、砲撃を止める。

 その中に、一体の巨影が見えた。

 ウォースパイトが、呟く。

 

「……蛹だわ」

「さ、蛹?」

「外だけじゃない。中も溶けていたんだわ」

 

 完全変態を遂げる生物は、蛹を形成する。

 その中はドロドロのスライム状になっている。そうやって肉体を再構成し、孵化を遂げるのだ。

 

 獣もまた同じ。

 外殻の内側でイロハ級達は溶けて混ざり合い、再構成されていた。外殻もその余波で溶けていたのだ。

 

 尤もこれも『蛹』。

 『(PUPA)』から『(CHRYSALIS)』へ変異しただけ。そして『(COCOON)』を超える為の中間形態に過ぎない。

 

 融解した外殻が剥がれ落ち、第二の蛹が姿を現す。

 

「……状況、悪化してない、コレ?」

 

 40メートル程度だったのが、44メートル相当に。

 第一形態と同じ四足歩行。

 溶けて混ざり合った結果、継ぎ接ぎではなく、一体の巨体へ変異。

 黒い装甲が積み重なり、隙間からは青い光が溢れ出す。

 そのせいで、ぼんやりと青黒く輝いているかのよう。

 

 何よりも目立つのが角だった。

 

 姫・鬼級個体は大体角を生やしている。

 この獣も角を生やしている。

 だが大き過ぎた。

 頭部の大きさとほぼ同じ。歪に捻じ曲がった一対の巨角を冠していた。

 姫・鬼級の格を示すかのように。

 

 首をもたげ、天を仰ぐ。

 獣の歓喜が、大地を揺るがす。

 

 

 

 

 更なる変容を遂げた獣に、ウォースパイト達は動けない。

 もう理解を諦めたい。

 イロハ級の合体だけでも大概なのに、今度は融合って。

 誰か説明してくれ。しかし、思考を止めては勝てるものも勝てない。

 

「どう見る。ウォースパイト」

「どうって言われてもね。ひょっとしてImmortality(不死身)なのかしら」

「止めて。本当にそういうの止めて」

 

 だが、彼女達には義務がある。

 主様の命令に従う義務。

 卯月を殺さずに逃げ帰る選択肢はない。

 例え、核ミサイルの着弾リミットが迫っていたとしても。

 

「やるしかないわ。最初っからこの作戦にescape(逃げ)はない。私達が死のうがどうなろうが、倒す以外にすべきことはない」

「いや、そうなんだけど……」

 

 見た所武装は減っている──どころか、一つも見当たらない。

 全身のイロハ級が全部溶けたせいで、無くなったのだろう。もしくは装甲の奥に格納しているか。

 

 相対する獣は、沈黙したまま。

 ウォースパイト達を見ながら、出方を伺っている。

 攻撃一辺倒だった第一形態と違い、妙に理性めいたのを感じる。それが返って不気味。

 

 先に仕掛けたのは獣だった。

 

 しかし、それは攻撃とは言えないアクション。

 前足を振り下ろした。

 ただそれだけ。

 それが(CHRYSALIS)の攻撃。

 

 踏みしめた場所が輝いた。

 

「光、が……来る、迫ってくる!?」

 

 真っ直ぐに光は地面を伝わり──瑞鶴の方へ迫る。

 

「来たわ! 攻撃よ、多分だけど!」

 

 何だか分からないが絶対に攻撃だ。

 左右に分かれ大きく跳躍。反撃として航空隊を上空ではなく、真っ直ぐ突撃。

 ウォースパイトは更に大きく跳躍し、背後へ回り込む。

 そうしながら光の軌跡を見続ける。

 何が起きるか確かめる為に。

 

 輝きが、瑞鶴達の居た場所へ到達。

 その瞬間、輝きが膨れ上がり、地盤が弾け飛んだ。

 砕けたのではない。

 溶けて、液状化して飛び散った。

 あのル級と同じように。

 

「また、液体に……!」

 

 確信する。

 戦艦ル級がああなったのは獣の力だと。

 攻撃を喰らえば溶けてしまう。

 確信はないが、装甲なんて関係がない。内部の骨や肉ごと溶かされて死ぬ。

 

 獣もまた、自身の力を理解したのか、次々に前足を叩きつける。

 新しいおもちゃを手に入れた子供のように。

 その全てが致死性の攻撃。

 瑞鶴は艦載機をコントロールしつつ、回避運動を続ける。

 

Oh my god(何てこと)。とんでもないmonster(化け物)が生まれてしまったわ」

 

 瑞鶴に注意が向いている隙に、背後へ回り込んだ。前後に分かれた方が、注意を分散させ易い。

 第一形態と違い、全身に眼球はない。頭部の二つだけ。

 レーダーがなければ死角がある。あったとしてもやりようはある。

 

 その時辺りが暗くなった。

 それは振り下ろされる尻尾の影だった。

 

「Fire!」

 

 すかさず尾へ砲撃。

 叩きつけを遅らせてから回避運動。

 直撃は免れたが衝撃波が飛んでくる──だが安心はまだ。

 そのままの勢いで、地面を擦りながら薙ぎ払ってくる。

 

 ウォースパイトは少し考え、地面に向けて砲撃。

 地形が抉られ、彼女の前に半ドーム状の壁が形成。

 力強さ故、尾は壁の形状に従い、上の方へ弾かれる。尾の下にいる状態となったウォースパイトが砲撃。

 

 勢いを利用され、砲撃を受けた尾はか上へ弾き飛ばされた。当たらなかったのを感知したか、首だけ曲げてウォースパイトを直視。

 

「狙い通りだわ」

 

 それをウォースパイトは待っていた。

 真っ直ぐ顔を狙えるタイミングを。

 砲撃は発射済み。

 これで直撃、相手の脅威度が図れる。そう彼女は考えた。

 

 獣が口を空けた。

 水圧カッターを撃つ気だ。

 触れた物体を融解させる攻撃。

 ウォースパイトの砲弾も破壊できるだろう。

 不可能という点を除けば。

 

Disappointing(残念)。貴女のそれはchargeが必要。もう間に合いませ」

 

 予想は前提から崩される。

 開くと()()()水圧カッターが放たれた。

 

「早──」

 

 一瞬の攻防が起きる。

 水圧カッターは一瞬で砲弾を液化させ貫通。その砲弾は勢いを残し獣に当たるが、溶けているのでダメージ無し。

 そして水圧カッターの射線上にはウォースパイトもいる。

 

 だが、砲弾を貫いた事で、僅かに軌道が反れたのが幸いする。

 上半身を屈め、ギリギリで回避。

 

「もう水圧カッターじゃない。これはlaser(レーザー)よ!」

 

 しかし攻撃は終わっていない

 辺り一帯が、急速に輝き出したのだ。

 レーザーも当たってなく、前足の叩きつけもなかったのに何故──ウォースパイトは速攻で理解した。

 

Tail(尻尾)も!?」

 

 物質を輝かせて、溶解させる。

 その攻撃を放てるのはレーザーや前足だけではない。『尻尾』も同じ。

 先程の薙ぎ払いで、尻尾が岸壁のドームを擦った。

 接触した場所全てが、溶解攻撃の対象となっていたのだ。

 

 光が伝搬し、ウォースパイトのいる場所も光り出す。

 溶解に巻き込まれればどうなる。

 分からないが、きっとただでは済まない。

 加えて獣の猛攻は止まらない。

 

「■■■■ッ!!!」

 

 後ろ足も地面へ叩きつけた。

 そこも光り出し、輝きがウォースパイトの方へ走り出す。

 

 彼女は理解した。

 この、地形を溶かす攻撃は()()()()()()のだと。

 少なくとも四肢と尻尾でやれる……全身と大差ない。

 光が弾けようとした、その時。

 

「ウォースパイト動かないで!」

 

 瑞鶴が高速で、『三本』矢を放った。

 その三射がウォースパイトの肩を掠め、服を貫いた直後、艦載機へ変異。

 意図を察した彼女は、小ジャンプから砲撃。

 

 それによって、ウォースパイトは砲撃の反動を受けながら、艦載機に引っ張られる形となった。

 二重の勢いによって一気に離脱。光に呑まれることなく回避成功。

 引き摺られているので、身体が地面にぶつかるが、こんなものは軽傷だ。

 

「一気に決めようウォースパイト、私達も時間がヤバい!」

「どこまで来てるの!?」

「すぐそこ、後2,3分程度しかない!」

「Ok!」

 

 獣の身体能力も向上していた。

 一瞬で身体を翻し、真正面へ二人を捉えながら、レーザーをチャージする。

 

「薙ぎ払う気だわ!」

「阻止するしかない……攻撃隊、発艦!」

 

 大量の艦載機が殺到、獣を爆弾の炎で包み込む。

 第一形態より弱体化した点が、一つあった。

 先程空襲を仕掛けたが、獣は一切無抵抗だった。第一形態で持っていた対空気銃や対空砲が、無くなっていたのだ。

 つまり、爆撃し放題──だと思われた。

 

 そうではない。

 対空武器がない理由はそこではない。

 ()()()()()()()()()()()()

 

「ダメ、通らない!」

 

 堅牢極まった外殻は、核シェルターさえ破壊する瑞鶴の爆撃さえ、尽く弾き返した。

 既に空襲でダメージは与えられなくなっていた。

 だが妨害は可能。

 瑞鶴は爆撃を、獣の頭部へ集中させた。

 

「ウォースパイト、斜め方向から、アイツの口内を狙える!?」

「行けるわ」

「視界妨害と牽制はやっとくわ。私じゃ直ぐにはできない。アンタの攻撃を体内に撃ち込むのが一番早い!」

 

 レーザーが、地殻を瞬時に溶解させながら迫る。

 盾代わりに生成した戦艦ル級やタ級も、一瞬で液化して使い物にならない。

 それをどうにか、爆撃で遅らせる。

 効かずとも炎が視界を遮る。

 いずれは被弾するが、とりあえず目晦ましができればそれでいい。

 

「これで!」

 

 その瞬間、獣が口を閉ざそうとした。

 口内に砲撃を叩き込んでくることを、獣は予測していた。

 だから一度口を閉じ、彼女を真っ直ぐに捉えてから、砲撃事撃ち抜こうと考えていた。

 

 だが口は閉ざせなかった。

 閉ざせない程、頬に艦載機がつっかえていたからだ。

 

「!?」

「所詮は獣、化け物、単細胞の畜生ってことよ!」

 

 爆撃の理由はもう一つ。

 口を閉じて防御されない為に。

 艦載機をつっかえ棒のように、口内へ叩き込む予兆を隠すためのカムフラージュ。

 

 否、こんなものは直ぐ噛み砕ける。

 獣はそう思ったが、それも叶わない。

 艦載機がイロハ級へ肥大化したからだ。

 

「──ッ!!」

 

 弓矢が艦載機に、更にそれを糧にイロハ級に。肥大化によって強制開口。

 咬合力やレーザーで破壊は可能。

 取りついたイロハ級は、もう獣の制御下。変貌した時のように吸収もできる。

 

 だがどちらも間に合わない。

 

「いい加減消えなさい、醜いmonster(怪物)!」

 

 ウォースパイトの砲撃は、見事口内へ叩き込まれた。

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