前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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白黒ゴマに没頭した結果ストックがなくなった為、次回の投稿はちょっと遅れます。ごめんなさい。


第186話 獣④:CHRYSALIS

 剥き出しの口内へ砲撃が入る。

 瞬間、辺りの空気を吹っ飛ばす規模の爆発。

 吹き荒れる砂嵐。しかし彼女と瑞鶴は、瞬きせず獣を睨み続ける。

 

「クソ、ダメね。Fatal wound(致命傷)になっていないわ!」

 

 ダメージは入った。

 しかし大量出血しているだけ。

 砲撃はちゃんと体内で爆発した。ただ、獣の体内防御力も尋常じゃなかったのだ。

 傷もみるみる内に修復される。

 

「自己再生能力もあるみたい。抜かりないわね」

「完全にチートじゃない……今更だけど、本当にコレ卯月なの」

 

 本当に今更な事を瑞鶴は呟く。

 如何なる現象が起きれば、一介の駆逐艦が、こんな化け物へ進化を遂げるというのか。

 

 答えは誰にも分からない。

 答えもしない。

 獣は只、敵を葬るために進むだけ。

 

「■■■」

 

 唸り声を上げ、迫りながら口を開く。

 喉が輝く、レーザーが放たれる。

 ウォースパイト達は、砲撃を当て、時に壁を作り、生成したイロハ級を盾にしながら、直撃を回避。

 

「ああもう、イロハ級どんだけ生成しても、キリがない!」

 

 妨害として作ったイロハ級。

 それらは獣に触れた瞬間、最初の変容時のように、ズブズブと体内へ取り込まれていく。

 レーザーで溶けていても、五体満足でも吸収される

 

「本当に続けて良いの、これ、あいつに力与えてるだけじゃない!?」

「私達の生存が優先です。Riskはありますが仕方がありません」

「つくづく化け物ね……!」

 

 生き延び、獣の分析する方が重要だ。

 

「とにかくfight(戦闘)を続行しましょう。それに、little by little(少しずつ)ですが動きを理解できてきました」

 

 レーザーの挙動は理解できた。

 曲がったり、ホーミングしたりだとかはない。

 頭部方向へ真っ直ぐ飛ぶだけ。

 加えて一々大振りなので、軌道を見るのは楽。

 但し攻撃はレーザーだけではない。

 

 咆哮と共に、前足を地面へ叩きつけ──岩盤深くまで抉り込ませた。

 地面が、円状に輝き出す。

 地殻深くまで入れた分──原理的に理由はそれだけではないが──射程が拡張。

 

「ここまで届くってことね!」

 

 光に接触しないよう、強化された身体能力を全開、一気に距離を取る。逃げながら戦うなんて余裕はない。

 輝きが最高潮に達した瞬間、小規模な噴火の勢いで地殻が弾け液化する。

 

「まだよズイカク、攻撃はこれで終わらないわ!」

「そうみたいね!」

 

 溶けた地面が雨のように降り注ぐ。それを目晦まし代わりにして、獣はレーザーを放つ。

 しかし、予め予想していたので、回避成功。

 それでも、着弾後の爆発に少し巻き込まれる。

 

「こんなの、掠り傷なんだから!」

 

 と言いつつ、当たった場所を確認。

 地肌が少し火傷している。

 溶ける気配はない。

 その事に心底安堵した。

 

「レーザーへの直撃、もしくは手足、尻尾に直接殴られなければ、Insoluble(溶けない)みたいね……」

「ええ、今の所はだけど」

 

 レーザーだけなら回避は容易。

 しかし地形爆破や、巨体による格闘戦がそれを許さない。逃げても振り切れない。

 どう攻めればいい? 

 火力と物量で再生能力を押しのけることは可能だが……もう時間がない。

 

 瑞鶴の偵察機が、時間制限を捉えた。

 

「──ヤバい、核、来た」

 

 それは着弾までのタイムリミット。

 それまでに仕留め切れる確証がない。

 

 だがその報告に、ウォースパイトは『可能性』を得た。

 

「それだわ」

「え……って、まさか」

 

 しかし砲撃がまともに通らない以上、その火力に頼るのが一番良い。

 

Nucleus()をぶつけましょう」

 

 現行人類が出すことができる最大火力。

 此処に飛んできている核ミサイルを、獣へ直撃させる。

 

「待って、深海棲艦には無駄だわ。ダメージは入るけど……直ぐ再生するから無意味になる」

 

 あれが艦娘か深海棲艦どちらに属するのかはかなり謎。

 それはそれとして、ウォースパイトも考えている。

 

「変異したての人間にはnucleus()が通ります。その理屈で言えばmonsterも同じ。死ななかったとしても深手は与えられます。そこで追い打ちをかければ、Reproduction(再生)よりも早く殺せるわ」

 

 幸いな事に、今来てるのは戦略級水素爆弾。

 火力は申し分ない。

 

「それだと、私達、水爆浴びるんだけど」

 

 その問題に対し、ウォースパイトは微笑みで返す。

 

「こういうwords(言葉)があるそうですね。『死なば諸共』。覚悟を決めなさいズイカク。My lordの為にも、このmonsterは命を賭して倒さなければなりません」

「……まあ、確かに。手遅れだし」

 

 核ミサイル着弾まで一分を切った。

 逃げる事はできない。

 水爆の直撃を受けて、自分たちは生きていられるのか。システムの恩恵を考慮しても、その保証はない。

 だが、やらなければならない。

 

Missile()の着弾地点の予想はできますね?」

「簡単よ」

 

 瑞鶴は艦載機を飛ばす。それが旋回している場所が、着弾地点。

 

「誘き出します」

「その後は」

「死ぬ物狂いでfoothold(足止め)です」

「ハァ……こんな戦い、主様に見初められて以来、初めてよ!」

 

 と叫び、背中を向けて走り出す。

 それを見た獣は、瑞鶴達が逃げ出そうとしていると思った。

 憎悪の呻きを上げて、獣が一気に迫る。

 

「近づくなっての、化け物が!」

 

 追い付かれては誘導にならない。

 しかし、ウォースパイトの攻撃は避けたい。

 砲撃をした分速度が落ちる。低速艦である彼女にとっては致命的。

 その穴埋めは、瑞鶴がしなければならない。

 

「ズイカク、お願いするわ!」

「さっさと走って足遅いんだから!」

「■■■ッ!」

 

 弓矢を構え、絶え間なく航空隊を突っ込ませる。

 もう爆撃なんてやらない。飛んでから落とす時間が勿体ない。

 真っ直ぐに飛ばし、真正面からぶつけて自爆させる。

 

 しかし、視界が埋まる爆炎が吹いても獣は止まらない。分厚い外殻は傷一つつかない。

 だがそれでいい。追いつかれなければ何でもいい。

 爆発の分僅かだが速度が落ちたのを確認した。

 

「このまま行け」

 

 爆炎の向こう側が蒼く輝く。

 

「る訳ないわよね!」

 

 爆炎をレーザーが貫いた。しかしそう来るのは予想済み。即座に回避行動に移る──それでもギリギリ。

 当たったら溶けて死ぬ。背筋を悪寒が撫でていく。

 

「今更だけど……アレどうなってんの。あれは、深海棲艦が出せる水鉄砲じゃなかったの。どういう力が込められてんのよ」

 

 疑問は尤もだが、答えてくれる者はいない。

 獣はレーザーを撒き散らし距離を詰めてくる。

 頻繁に手足を叩きつけ、地形を爆破しながら迫る。

 

 必死に、がむしゃらに──応戦するが、徐々に距離を詰められていく。

 このままではやられる。

 只の妨害ではダメだ、もっと効果的にやらなければ。

 

 となれば一つしかない。

 

「あまり使いたくないけど……!」

 

 瑞鶴が『能力』を行使する。

 その瞬間、周囲の地面がボコボコと盛り上がりイロハ級が生まれた。

 生成された個体は、どれも空母クラスの個体。

 

「艦隊総員、攻撃隊発艦、手足へ狙いを集中させて!」

 

 空母が、軽空母のイロハ級が、命令のままに攻撃隊を飛ばし、手足へ爆撃する。

 しかし、これでも攻撃は通らない。

 瑞鶴の爆撃でも無傷だったのだ、イロハ級程度では無意味。

 対空装備はない。全て直撃する。それでもダメージは皆無。

 

 獣は意に介さない。

 ダメージが通らないから。

 だが敵は皆殺し。

 生成したイロハ級が、レーザーで片端から溶殺。その度に瑞鶴は新たな手駒を生成する。

 

「第二航空隊発艦、頭部へ攻撃、相手の視界を奪ってきなさい!」

 

 更に増産した空母隊が、命令通りの攻撃を行う。

 頭部を覆い、手足を覆う爆撃。

 それを受けても尚、獣は止まらない。

 

 ただ、獣はこの爆炎を蹴散らそうと考えた。

 瑞鶴とウォースパイト。二人の位置は大体分かるが、ちゃんと認識しておきたい。

 再度口内からレーザーを発射。爆炎を吹き飛ばす。

 

 ついでに薙ぎ払う。

 魚雷より、砲撃よりも早いそれを、発艦しながら回避できる個体はいなかった。

 

 しかし、肝心の手応えが感じられない。

 瑞鶴に当たった感覚がない。

 あいつは何処に行ったのだ。

 その時、獣は自分自身の頭部に、何かがぶつかるのを感じた。

 

「この距離なら外さないから」

 

 弓矢を構えた瑞鶴が、獣の頭部へ立っていた。

 

「喰らいなさい!」

 

 高速で()()放たれる。

 二本の矢が獣の眼球を貫いた。

 

「■■■!!?」

 

 激痛に吠える。再生には多少時間が必要。暫く視界が潰される。

 それでも、獣は追跡を続ける為に動く。朧気だが彼女達を探知できる。

 進もうと一歩踏み出す。

 

「ウォースパイト!」

「ええ、As intended(狙い通りね)

 

 そこへ砲撃が撃ち込まれた。

 砲撃自体は、外殻に阻まれダメージにならない。

 

 それで良かった。

 前足が置かれた足場を崩すのが目的なのだから。

 

 踏み込んだ前足が地面深くへ埋没する。

 

「──ッ!?」

「かかった!」

「続けて行きます」

 

 ウォースパイトが四肢へ砲撃。更に埋没する。

 片足だけでなく、もう片方、後ろ足も次々に陥没。肩まで埋ってしまい、獣は動けなくなる。

 イロハ級達に手足の爆撃を命じた理由がこれ。

 地形を爆撃し、予め崩落し易くする為の下準備だったのだ。

 

「今がチャンスよ、死ぬ物狂いで走りなさい!」

「言わないで大丈夫ですから。この間に目標地点まで行きましょう」

 

 獣は藻掻き、四肢を動かして脱出しようする。

 簡単にはさせるものかと、また生成したイロハ空母隊により空襲再開。上から押し付ける形で穴に押し留める。

 

「どれだけ持つかしら」

 

 しかし、瑞鶴はぼやく。

 

 その予想は直ぐに当たった。

 獣がレーザーを、()()へ発射したのだ。

 レーザーが地面を貫く。

 それでも尚、同じ場所へ照射し続ける。

 

 何が起きる。

 何を起こそうとしている? 

 逃げながら偵察機で観測している瑞鶴が見たのは、地面一帯全てが光り出す光景。

 

 そして、光が爆ぜた。

 

 レーザーは触れた物を液化させる。

 それを照射し続けた結果、影響が周辺一帯へ伝播。

 

 獣は埋まっていた地形一帯全てを液化崩壊したのだ。

 

 それにより脱出成功。

 跡地にはクレーター。まるで巨大な爆心地。勿論獣には傷一つない。

 

「また迫ってくる。対象は健在、眼球も半分ぐらいは再生しているみたいよ!」

「時間稼ぎのroom(余裕)はもうありません。このまま突っ切りましょう!」

「それしかなさそうね」

 

 今のやり取りで更に怒りを買ったのか、獣の速度が跳ね上がる。

 叩きつけの爆破も、レーザーも勢いが上がる。

 此処で必ず殺してやる。

 突き立てられるような殺意に、ウォースパイト達の背筋は凍り付く。

 

 しかし後少し。

 もうちょっとで目標地点。

 低速のウォースパイトを瑞鶴が守り、着弾までの時間を意識する。

 生成しては尽く消され、数えるのが嫌になる程の艦載機を消しとばせれ──それでも尚走り続けた。

 

 そして時が来る。

 

「ここで良いのねズイカク!?」

「そこが良いの、それにタイミングもいい。着弾まで残り──10秒!」

 

 二人が上を見上げる。ミサイルらしき飛翔体が見えた。

 後は、決死の足止めをするだけ。

 逃げた所で爆発には巻き込めるが、直撃させた方がダメージは大きい。

 

 たった10秒。けど決死の10秒になるだろう。

 倒す為なら何でもやる。

 地盤沈下だろうが自爆だろうが構わない、全ては主様の為。

 卯月が死ねば、彼女のシステムは消滅する。命令に背くが仕方がない。この化け物は此処で殺さなければ。

 

「あ……?」

 

 振り返った二人が見たのは、異様な光景だった。

 獣は向かってくる核を凝視してた。

 

 破壊した眼球は完全再生済み──なのはどうでもいい。

 異様なのは、核を凝視していること。

 

「逃げようとしない……のはまあ良いとして。何でじっと見てるのよ」

「あれがweapons(兵器)だと理解できていない? いえ、そうだとしても、この様子は……」

 

 その時、獣が立った。

 尻尾を支えにして、後ろ足で立つ犬の様に。

 そしてフラフラと、核ミサイルに向かって歩き出した。

 

「何アレ。核ミサイルに当たりに行こうとしてるの……?」

 

 バカな、あり得ない。

 その考えを一度は否定するが、獣の動きはそうとしか見えない。

 

 だが、何のために? 

 理解できず立ち尽くす。

 元々ミサイルを直撃させる為に動いていたのだ。

 態々()()()()()()()()()()

 止める理由がなかったせいで、余計に動けなかった。

 

「■■■■──……!!」

 

 不気味な咆哮に我に返る。

 

「壁を作りましょう! 僅かでも直撃の威力を減らさないと!」

「ッそうね!」

 

 爆撃と砲撃を眼前へ集中。深い穴を掘る事で盾を形成し、その中へ身を隠す。

 焼け石に水だが、生きて主様の元へ帰る為に必死だった。

 

 そして、その瞬間が訪れる。

 戦略級水爆ミサイルが、獣の腹部へ直撃。

 起爆する。

 人類史最強の破壊が起こる。

 誰もがそう思った。

 

「……?」

 

 しかし、何も起きなかった。

 爆発の衝撃も、熱波も閃光も感じられない。

 

 今一体何が起きている? 

 ウォースパイトは即席の壁から様子を伺った。

 『異常』が広がっていた。

 

「……Wh,y(どう、して)

 

 ミサイルは爆発していなかった。

 獣の腹部に()()()()()()()()()()()()

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