剥き出しの口内へ砲撃が入る。
瞬間、辺りの空気を吹っ飛ばす規模の爆発。
吹き荒れる砂嵐。しかし彼女と瑞鶴は、瞬きせず獣を睨み続ける。
「クソ、ダメね。
ダメージは入った。
しかし大量出血しているだけ。
砲撃はちゃんと体内で爆発した。ただ、獣の体内防御力も尋常じゃなかったのだ。
傷もみるみる内に修復される。
「自己再生能力もあるみたい。抜かりないわね」
「完全にチートじゃない……今更だけど、本当にコレ卯月なの」
本当に今更な事を瑞鶴は呟く。
如何なる現象が起きれば、一介の駆逐艦が、こんな化け物へ進化を遂げるというのか。
答えは誰にも分からない。
答えもしない。
獣は只、敵を葬るために進むだけ。
「■■■」
唸り声を上げ、迫りながら口を開く。
喉が輝く、レーザーが放たれる。
ウォースパイト達は、砲撃を当て、時に壁を作り、生成したイロハ級を盾にしながら、直撃を回避。
「ああもう、イロハ級どんだけ生成しても、キリがない!」
妨害として作ったイロハ級。
それらは獣に触れた瞬間、最初の変容時のように、ズブズブと体内へ取り込まれていく。
レーザーで溶けていても、五体満足でも吸収される
「本当に続けて良いの、これ、あいつに力与えてるだけじゃない!?」
「私達の生存が優先です。Riskはありますが仕方がありません」
「つくづく化け物ね……!」
生き延び、獣の分析する方が重要だ。
「とにかく
レーザーの挙動は理解できた。
曲がったり、ホーミングしたりだとかはない。
頭部方向へ真っ直ぐ飛ぶだけ。
加えて一々大振りなので、軌道を見るのは楽。
但し攻撃はレーザーだけではない。
咆哮と共に、前足を地面へ叩きつけ──岩盤深くまで抉り込ませた。
地面が、円状に輝き出す。
地殻深くまで入れた分──原理的に理由はそれだけではないが──射程が拡張。
「ここまで届くってことね!」
光に接触しないよう、強化された身体能力を全開、一気に距離を取る。逃げながら戦うなんて余裕はない。
輝きが最高潮に達した瞬間、小規模な噴火の勢いで地殻が弾け液化する。
「まだよズイカク、攻撃はこれで終わらないわ!」
「そうみたいね!」
溶けた地面が雨のように降り注ぐ。それを目晦まし代わりにして、獣はレーザーを放つ。
しかし、予め予想していたので、回避成功。
それでも、着弾後の爆発に少し巻き込まれる。
「こんなの、掠り傷なんだから!」
と言いつつ、当たった場所を確認。
地肌が少し火傷している。
溶ける気配はない。
その事に心底安堵した。
「レーザーへの直撃、もしくは手足、尻尾に直接殴られなければ、
「ええ、今の所はだけど」
レーザーだけなら回避は容易。
しかし地形爆破や、巨体による格闘戦がそれを許さない。逃げても振り切れない。
どう攻めればいい?
火力と物量で再生能力を押しのけることは可能だが……もう時間がない。
瑞鶴の偵察機が、時間制限を捉えた。
「──ヤバい、核、来た」
それは着弾までのタイムリミット。
それまでに仕留め切れる確証がない。
だがその報告に、ウォースパイトは『可能性』を得た。
「それだわ」
「え……って、まさか」
しかし砲撃がまともに通らない以上、その火力に頼るのが一番良い。
「
現行人類が出すことができる最大火力。
此処に飛んできている核ミサイルを、獣へ直撃させる。
「待って、深海棲艦には無駄だわ。ダメージは入るけど……直ぐ再生するから無意味になる」
あれが艦娘か深海棲艦どちらに属するのかはかなり謎。
それはそれとして、ウォースパイトも考えている。
「変異したての人間には
幸いな事に、今来てるのは戦略級水素爆弾。
火力は申し分ない。
「それだと、私達、水爆浴びるんだけど」
その問題に対し、ウォースパイトは微笑みで返す。
「こういう
「……まあ、確かに。手遅れだし」
核ミサイル着弾まで一分を切った。
逃げる事はできない。
水爆の直撃を受けて、自分たちは生きていられるのか。システムの恩恵を考慮しても、その保証はない。
だが、やらなければならない。
「
「簡単よ」
瑞鶴は艦載機を飛ばす。それが旋回している場所が、着弾地点。
「誘き出します」
「その後は」
「死ぬ物狂いで
「ハァ……こんな戦い、主様に見初められて以来、初めてよ!」
と叫び、背中を向けて走り出す。
それを見た獣は、瑞鶴達が逃げ出そうとしていると思った。
憎悪の呻きを上げて、獣が一気に迫る。
「近づくなっての、化け物が!」
追い付かれては誘導にならない。
しかし、ウォースパイトの攻撃は避けたい。
砲撃をした分速度が落ちる。低速艦である彼女にとっては致命的。
その穴埋めは、瑞鶴がしなければならない。
「ズイカク、お願いするわ!」
「さっさと走って足遅いんだから!」
「■■■ッ!」
弓矢を構え、絶え間なく航空隊を突っ込ませる。
もう爆撃なんてやらない。飛んでから落とす時間が勿体ない。
真っ直ぐに飛ばし、真正面からぶつけて自爆させる。
しかし、視界が埋まる爆炎が吹いても獣は止まらない。分厚い外殻は傷一つつかない。
だがそれでいい。追いつかれなければ何でもいい。
爆発の分僅かだが速度が落ちたのを確認した。
「このまま行け」
爆炎の向こう側が蒼く輝く。
「る訳ないわよね!」
爆炎をレーザーが貫いた。しかしそう来るのは予想済み。即座に回避行動に移る──それでもギリギリ。
当たったら溶けて死ぬ。背筋を悪寒が撫でていく。
「今更だけど……アレどうなってんの。あれは、深海棲艦が出せる水鉄砲じゃなかったの。どういう力が込められてんのよ」
疑問は尤もだが、答えてくれる者はいない。
獣はレーザーを撒き散らし距離を詰めてくる。
頻繁に手足を叩きつけ、地形を爆破しながら迫る。
必死に、がむしゃらに──応戦するが、徐々に距離を詰められていく。
このままではやられる。
只の妨害ではダメだ、もっと効果的にやらなければ。
となれば一つしかない。
「あまり使いたくないけど……!」
瑞鶴が『能力』を行使する。
その瞬間、周囲の地面がボコボコと盛り上がりイロハ級が生まれた。
生成された個体は、どれも空母クラスの個体。
「艦隊総員、攻撃隊発艦、手足へ狙いを集中させて!」
空母が、軽空母のイロハ級が、命令のままに攻撃隊を飛ばし、手足へ爆撃する。
しかし、これでも攻撃は通らない。
瑞鶴の爆撃でも無傷だったのだ、イロハ級程度では無意味。
対空装備はない。全て直撃する。それでもダメージは皆無。
獣は意に介さない。
ダメージが通らないから。
だが敵は皆殺し。
生成したイロハ級が、レーザーで片端から溶殺。その度に瑞鶴は新たな手駒を生成する。
「第二航空隊発艦、頭部へ攻撃、相手の視界を奪ってきなさい!」
更に増産した空母隊が、命令通りの攻撃を行う。
頭部を覆い、手足を覆う爆撃。
それを受けても尚、獣は止まらない。
ただ、獣はこの爆炎を蹴散らそうと考えた。
瑞鶴とウォースパイト。二人の位置は大体分かるが、ちゃんと認識しておきたい。
再度口内からレーザーを発射。爆炎を吹き飛ばす。
ついでに薙ぎ払う。
魚雷より、砲撃よりも早いそれを、発艦しながら回避できる個体はいなかった。
しかし、肝心の手応えが感じられない。
瑞鶴に当たった感覚がない。
あいつは何処に行ったのだ。
その時、獣は自分自身の頭部に、何かがぶつかるのを感じた。
「この距離なら外さないから」
弓矢を構えた瑞鶴が、獣の頭部へ立っていた。
「喰らいなさい!」
高速で
二本の矢が獣の眼球を貫いた。
「■■■!!?」
激痛に吠える。再生には多少時間が必要。暫く視界が潰される。
それでも、獣は追跡を続ける為に動く。朧気だが彼女達を探知できる。
進もうと一歩踏み出す。
「ウォースパイト!」
「ええ、
そこへ砲撃が撃ち込まれた。
砲撃自体は、外殻に阻まれダメージにならない。
それで良かった。
前足が置かれた足場を崩すのが目的なのだから。
踏み込んだ前足が地面深くへ埋没する。
「──ッ!?」
「かかった!」
「続けて行きます」
ウォースパイトが四肢へ砲撃。更に埋没する。
片足だけでなく、もう片方、後ろ足も次々に陥没。肩まで埋ってしまい、獣は動けなくなる。
イロハ級達に手足の爆撃を命じた理由がこれ。
地形を爆撃し、予め崩落し易くする為の下準備だったのだ。
「今がチャンスよ、死ぬ物狂いで走りなさい!」
「言わないで大丈夫ですから。この間に目標地点まで行きましょう」
獣は藻掻き、四肢を動かして脱出しようする。
簡単にはさせるものかと、また生成したイロハ空母隊により空襲再開。上から押し付ける形で穴に押し留める。
「どれだけ持つかしら」
しかし、瑞鶴はぼやく。
その予想は直ぐに当たった。
獣がレーザーを、
レーザーが地面を貫く。
それでも尚、同じ場所へ照射し続ける。
何が起きる。
何を起こそうとしている?
逃げながら偵察機で観測している瑞鶴が見たのは、地面一帯全てが光り出す光景。
そして、光が爆ぜた。
レーザーは触れた物を液化させる。
それを照射し続けた結果、影響が周辺一帯へ伝播。
獣は埋まっていた地形一帯全てを液化崩壊したのだ。
それにより脱出成功。
跡地にはクレーター。まるで巨大な爆心地。勿論獣には傷一つない。
「また迫ってくる。対象は健在、眼球も半分ぐらいは再生しているみたいよ!」
「時間稼ぎの
「それしかなさそうね」
今のやり取りで更に怒りを買ったのか、獣の速度が跳ね上がる。
叩きつけの爆破も、レーザーも勢いが上がる。
此処で必ず殺してやる。
突き立てられるような殺意に、ウォースパイト達の背筋は凍り付く。
しかし後少し。
もうちょっとで目標地点。
低速のウォースパイトを瑞鶴が守り、着弾までの時間を意識する。
生成しては尽く消され、数えるのが嫌になる程の艦載機を消しとばせれ──それでも尚走り続けた。
そして時が来る。
「ここで良いのねズイカク!?」
「そこが良いの、それにタイミングもいい。着弾まで残り──10秒!」
二人が上を見上げる。ミサイルらしき飛翔体が見えた。
後は、決死の足止めをするだけ。
逃げた所で爆発には巻き込めるが、直撃させた方がダメージは大きい。
たった10秒。けど決死の10秒になるだろう。
倒す為なら何でもやる。
地盤沈下だろうが自爆だろうが構わない、全ては主様の為。
卯月が死ねば、彼女のシステムは消滅する。命令に背くが仕方がない。この化け物は此処で殺さなければ。
「あ……?」
振り返った二人が見たのは、異様な光景だった。
獣は向かってくる核を凝視してた。
破壊した眼球は完全再生済み──なのはどうでもいい。
異様なのは、核を凝視していること。
「逃げようとしない……のはまあ良いとして。何でじっと見てるのよ」
「あれが
その時、獣が立った。
尻尾を支えにして、後ろ足で立つ犬の様に。
そしてフラフラと、核ミサイルに向かって歩き出した。
「何アレ。核ミサイルに当たりに行こうとしてるの……?」
バカな、あり得ない。
その考えを一度は否定するが、獣の動きはそうとしか見えない。
だが、何のために?
理解できず立ち尽くす。
元々ミサイルを直撃させる為に動いていたのだ。
態々
止める理由がなかったせいで、余計に動けなかった。
「■■■■──……!!」
不気味な咆哮に我に返る。
「壁を作りましょう! 僅かでも直撃の威力を減らさないと!」
「ッそうね!」
爆撃と砲撃を眼前へ集中。深い穴を掘る事で盾を形成し、その中へ身を隠す。
焼け石に水だが、生きて主様の元へ帰る為に必死だった。
そして、その瞬間が訪れる。
戦略級水爆ミサイルが、獣の腹部へ直撃。
起爆する。
人類史最強の破壊が起こる。
誰もがそう思った。
「……?」
しかし、何も起きなかった。
爆発の衝撃も、熱波も閃光も感じられない。
今一体何が起きている?
ウォースパイトは即席の壁から様子を伺った。
『異常』が広がっていた。
「……
ミサイルは爆発していなかった。
獣の腹部に