前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第188話 獣⑥:COCOON

 獣が、両翼を羽ばたかせ飛翔する。

 全長47メートルを超える巨体が飛んでいる光景は、非常識極まりない。

 だが現実。

 口内で生成される小さな光球は、逃げようのない『死』を、それを眺める全員に実感させる。

 

「凄い事になってきましたね」

 

 遠くの高台で、観察を続ける赤城は感嘆する。

 

 彼女は核が来た際、シェルター内に避難せず、戦場に留まっていた。そして第三形態へ移行した獣の観察を続行していた。

 

「満潮さん的には、アレどう思います?」

「拘束解け!」

「却下です」

 

 満潮は拘束用ロープでグルグル巻きだった。

 

「言う事言ったじゃない。私は何も分からないって、尋問は終わった筈よさっさと解放しなさい!」

「却下です。そうしたら満潮さん、卯月さんに突貫するじゃないですか」

「何が悪いのよ!」

「いや、流石に自殺しに行く人は止めますよ。それとも、今の卯月さんに勝てる策があるのでしょうか?」

「…………」

 

 沈黙が答えだった。勝てる見込みがないのに、卯月と戦おうとしていたのだ。

 

「……止めない訳にはいかない。勝てる勝てないの問題じゃない!」

「ああ、ミサイルが来そうな時、避難を促したのに従わなかったのは、そういう理由だったんですね。成程、つまり()()鹿()()()でしたか」

「何ですって!?」

 

 いきなりバカ呼ばわり。満潮は憤慨する。

 

「自分の命を粗末にする艦娘が、バカ以外の何だと言うのでしょうか?」

「シェルターに行かなかったのは、アンタだって同じじゃない」

「現地状況を、リアルタイムで提督に伝える人員が必要でしたから。それに私、核爆発を防御できるので」

「……冗談?」

 

 赤城は『当然でしょ?』的ニュアンスでにっこり笑う。

 

「本当です。私は生存方法を確立した上で留まっている。考えなしの満潮さんとは違います。勿論、あの卯月さんを止める事もできる見込みです」

「いや、だったら今止めなさいよ! あれ以上卯月の暴走を放置する理由ないし、それに、見るからにヤバい光球放とうとしてるじゃない、止めなくて言い訳ないでしょ!?」

「いえ放置です」

 

 惨過ぎる一言に、言葉を失う。

 

「これはチャンスです。謎が多いD-ABYSS(ディー・アビス)の深淵を除く最大のチャンス。きっとここまでの機会は巡って来ない。だから、本当に限界ギリギリになるまでは、『観察』に徹します。あ、ついでに瑞鶴とウォースパイトが死ねばラッキーですね」

「そ、それにしても光球は止めるべきよ、シェルターが無事な保証はない。内の人達死んだらどうすんの!?」

「そこは難しい判断でしたが、威力確認を優先します」

 

 満潮は絶句した。

 

「万が一の場合は、シェルター内の護衛艦隊が、大将や護衛人物を護るから保険はあります」

「一般の避難者はどうするの!? あの攻撃でシェルターが崩壊したら!?」

「各シェルターには憲兵がいらっしゃいます。可能な範囲で守ってくれます」

「守り切れるの、全員!?」

「それ以外は不幸な犠牲ですね。大丈夫、二射目以降は阻止しますから!」

 

 提督&護衛対象&避難者の命より、獣の権能を確認する方がちょっとだけ上。人命よりもそっちが重要だった。

 

「アンタ、最悪だわ」

「……提督と高宮中佐に確認した上での判断なんですが」

「どいつもこいつも最悪よ!」

 

 何かもう、全員敵にしか見えなくなってきた。

 

「とは、言え、そろそろ終わりですかね……」

 

 赤城は空を見上げる。口内でチャージしていた光球が一気に収束されていく。

 

「核爆発は防御できますが、あれはできるでしょうか……やる以外の選択肢はないですが、極力頑張りましょう」

「何が起きるのよ」

「うーん。辺り一帯の地形が熱膨張で大爆発して、水没するとか?」

「聞いた私がバカだった」

 

 本当に私はどうすれば良いんだ? 

 次々に起きる非常識な事態、対して無力極まる自分。

 もう涙も流れない。

 呆然と空を仰ぎ見るぐらいしかできない。

 

 下手したら、あの星が最後に見る光景。

 やたら綺麗な──『星』を眺めて呟く。

 

「金の星、か……」

「え?」

「は?」

「待って、満潮さん、今何て言いました!?」

「いや……金の星って」

 

 赤城の顔がいきなり顔面蒼白に。バッと空を見上げる。

 

「あ゛」

 

 それはどういう──聞いてみようとした時、光球が落とされた。

 言葉を交わす余裕はない。

 赤城に抱き抱えられた瞬間、全てが白になった。

 

 

 *

 

 

 光が爆ぜた。

 世界が白く塗り潰された。

 その光景を見下ろしながら、卯月はそれなりに満足していた。

 

 地面を這って、瑞鶴達を追い回すのはもう面倒。

 連中だけでなく、テロリスト共も消さなきゃならない。こいつらはまだ殺戮を続けようと、しぶとく生き残っている。

 しかも、あちこちに散らばっている。一人ずつ探すのは面倒。

 

 だから、纏めて消すと決めた。

 そうして放たれた一滴の光球は、視界の全てを灰塵に帰した。

 

 文字通りの全て。

 爆発に呑み込まれたエリアからは、()()()()()()

 建物も、山も、道路も、卯月自身が創造した海や大地も。

 

 射程距離内のあらゆる物質が、強制的に熱膨張──連鎖的に水蒸気爆発。

 すり鉢状のクレーターが残るだけ。

 核の爆発跡地の様な──グラウンド・ゼロと呼ぶべき、終末的光景が広がる。

 

「──―」

 

 封鎖区画一帯が吹き飛んだ。命あるものは全て消滅。テロリスト共も全滅。

 それでも尚、しぶとい連中がいる。

 遮蔽物が全部消えたから、直ぐに発見できた。

 

「が、ぁ……ッ」

 

 瑞鶴とウォースパイト。それに満潮と……誰だアイツ? 

 兎も角四隻。まだ生きている。

 いや、彼女達だけではなく、シェルター内に避難していた無感染者達も生きている。

 肝心のシェルターはボロボロ。一番重要な地下施設区画が剥き出し。亀裂が走り外壁は何か所も崩落。防御壁の体を成していないが、その中で息を潜めて生きている。

 

 卯月は溜息をつく。

 まだ結構生存者いるし。

 けどやり方は分かった。

 

 さっさと終わらせて、次の所へ行かなきゃいけない。

 

 この世で生きる全ての命を消す。

 

 それが私のお仕事。

 再び、光球のチャージを始まった。

 

「ズ……ズイカク、safe(無事)……!?」

「どうにか、ね……ッ!」

 

 この土壇場において、彼女達は正確な判断をした。

 落ちてくる光球、巻き起こる破壊。

 瑞鶴は、ありったけの艦載機を展開し、ボール状に密集させ盾を形成。

 続けてウォースパイトが、艤装のバルジを、()()向けた。

 

 獣の落とした光球だが、実は爆発性はない。

 射程距離内の物質を、熱膨張or水蒸気爆発により炸裂させる攻撃。つまり衝撃波は『下』から来る。直撃を避けるのなら、盾は下に向けなければらない。

 

 しかし、ウォースパイトの両足は大地と同化したまま。そのままでは向けられない。

 だから、自分で千切り飛ばした。

 自分へ砲撃を叩き込み、足を千切って自由になった。そしてバルジを真下へ構えた瞬間、爆発が起きたのだ。

 

 結果、真下からの直撃は防御。

 斜め方向から来る衝撃波は艦載機の盾で防御。

 見事、生存に成功した。

 

「……それで、よく、safe(無事)って言えるわね」

「アンタだって、人の事は、言えないでしょ……!」

 

 実際、無事ではない。

 飛び散る残骸、吹き荒れる熱量に晒され、瑞鶴の肌は9割形炭化崩壊。肉が剥き出し。眼球も焦げ付き、使えるのは片目だけ。

 ウォースパイトは脱出する為に両足を犠牲に。加えて砕けた地殻やアスファルトが、80箇所に及んで身体を貫き、文字通りのハチの巣。

 

 生存に成功しただけ。文句なしの完全大破。

 自己再生能力を持っているのに、中々回復できない。

 と言うか完治しても、勝てる見込みがない。

 

 何より、再生よりも、二発目が落ちる方が早い。

 

「次はっ……どう、防ぐの!」

「…………」

「答えて、ウォースパイト……っ!」

 

 獣は第二射の発射体勢、光球のチャージを開始。

 バルジは崩壊、艤装も大破。

 瑞鶴の艦載機も、再展開にそれなりの時間が必要。

 

「……撃つわよ、あの、light()を」

「それで、どうにかなるの」

「分からないわ。でも、どうなっても、I can't give up(諦める訳にはいかないの)……!」

 

 ズタズタの身体は主砲旋回の反動にさえ耐えられない。空いた穴から際限なく血が溢れる。強化された血液生成速度でも到底間に合わない。

 挙句、照準も定まらない。

 爆発で艤装がイカれた。砲身が固定できない。

 

「……Hurry(早く)Hurry(早く)っ」

 

 手間取っている間にチャージが進む。焦る程狙いがぶれていく。血反吐を吐く。視界が霞む。発射反動に耐えれなければ命中しないのに、その力も残っていない。

 もうダメなのか。

 絶望しかけたその時、瑞鶴が砲身へ身体を押し付けた。

 

「これで、固定、できるでしょ……!」

「ズイカク、でも、発射のimpact(衝撃)が……熱も、直接筋肉に」

「構わない……急いでッ!」

 

 瑞鶴の献身を無駄にはできない。ウォースパイトは歯を食いしばる。照準がブレないよう、瑞鶴が全身で砲身を支えてくれた。

 

「ちょっとだけだけど……ダメ押しよ……!」

 

 更に、少しだけ生成できた艦載機を飛ばす。砲撃と同じタイミングで頭部へ命中させる為に。

 

 ウォースパイトの照準が、怪物の頭部に固定された。間髪入れずトリガーを引く。

 

It finisheeeeeed(終わってぇぇぇぇっ)!!」

 

 ウォースパイトが叫ぶ。

 反動の衝撃波が二人を襲う。

 筋肉が潰れ、骨がひしゃげ、内臓が割ける。

 只でさえ致命傷だったのが、何時死んでもおかしくない次元に。それでも激痛を堪え、砲身を固定し続けた。

 

「当たれぇぇぇぇっ!!」

 

 瑞鶴が叫ぶ。

 まともに見えない視界の中、艦載機の爆弾を叩き込む。

 

 生成中の光球への、直撃ルートが確定した。

 彼女達の奮闘が奇跡が起こした。

 

 

 だが徒労だった。

 

 砲弾も爆弾も、軌道が歪曲し──光球を迂回、獣の頭部へ命中した。

 ()()()()()()()()()()()()

 顔に、砲弾が沈む、爆弾も爆風も取り込まれて消えた。

 

「嘘」

 

 核ミサイルを喰った時のように、頭部の中へ沈んで消える。

 内部から起爆させる、なんて都合の良い事はできない。砲弾も爆弾も、もう取り込まれて消えた。

 

 何故こうなったのか。

 それは、今の卯月が果ての化身だからだ。

 深海の根源、あちら側の現身となった卯月に、深海のエネルギーで攻撃しても無駄でしかない。

 水に水をかけても、何の意味もないように。

 

「……ごめんなさい」

 

 それは、瑞鶴への言葉でもあり、主様への謝罪でもあった。

 打てる手が一切無くなった。

 受け入れ難いが、もう認めるしかない。

 文句の言いようが無い完全敗北。

 ウォースパイトは屈辱に表情を歪ませる。悔しさの余り涙が出てくる。

 

「いいよ謝んなくて……いや主様には悪いけど。これじゃムリでしょ」

「ですがっ!」

「やるだけやったじゃん。うん、相当頑張ったんだから、ね?」

「……うぅ」

 

 もう、逃げる力も残っていない。

 あの一発を撃つので、全ての力を使い切ってしまった。

 

 時間があれば再生能力で復活はできる。

 時間があれば、砲弾や艦載機の補充もできた。

 

 それは、もう届かない未来。

 

「……ありがとね」

「ええ、せめて、My lordのhappiness(幸福)を祈りましょう」

「そうね」

 

 二人は手を取り合い、空を見る。

 チャージが最終段階へ到達。

 掌に収まりそうな小さな光球が、星の様な光を放つ。

 

 これが、最後に見る光景。

 空を飛翔する獣、輝く青い光球。その遥か上で輝く()()()()

 最後にしては、まあまあ綺麗な光景じゃないか──瑞鶴はそれを目に焼き付けようと、()()()()()眺めた。

 

 だから気づけた。

 

「……ん?」

「どうしたの、ズイカク」

「いや、見間違い……?」

 

 目をゴシゴシ擦り、もう一度空を見る。

 飛ぶ獣、収束される光球、そして()()()()

 

 星の輝きが、大きくなっていた。

 より大きく見えていた。

 見間違いではなかった。事態を把握した瑞鶴は絶叫した。

 

「星が、落下してる!?」

Star()!?」

「ほらあれ、あの金色の星が、こ、こっちに──」

 

 彼方大空から金色の星が落ちる。

 彗星の様に、隕石の様に軌道を描き、地上へ迫る。

 

 星が片翼をぶち抜いた。

 

「■■■ッ!??!」

 

 片翼に大穴を空けられ、飛行を維持できなくなり、地表へ落下。

 チャージしていた光球も、その衝撃であっさり霧散。

 落下した星は、羽をぶち抜いた勢いで地表へ激突。巨大なクレーターが生まれ、大量の粉塵が巻き上がった。

 

「……こ、今度は何が、起きたの……」

 

 隕石衝突の衝撃波で、二人は吹っ飛ばされていた。

 しかし、意地で意識を繋ぎ止めた。

 今のが何だったのか、確認の為に。

 獣もまた同じ。今の隕石は何だったんだと、頭を振って立ち上がる。

 

「あの、silhouette(シルエット)は、確か……」

 

 粉塵が収まる。

 クレーターの中央には、割と小柄な人影があった。

 見覚えのあるシルエット。

 

「……What?」

 

 しかしウォースパイトは、自分の眼を疑わざるをえなかった。

 彼女の知っている()()とは、明らかに異常。

 誰もが知っている個体でありながら異形その物。

 

「……Lie()でしょ?」

 

 黄金のオーラを纏っていた。瞳は青く燃えていた。黒い水着に黒いパーカー、フードを被った深海棲艦。

 

 それは戦艦レ級。

 但し()()()()()()()()()

 つまり三尾のレ級。

 顔付きの尻尾なので『三つ首』の戦艦レ級。

 

 単独で大本営を壊滅に陥れた怪物。

 

 数多の名を冠する怪物。

 『三つ首』。『羅刹』。『黄金の暴風雨』。『アルテミット・ワン』。『悪魔』。『飛翔棲鬼』。『謚第ュ「力』。

 しかして、その正式名称は──『戦艦レ級改flagship』。

 

 天地を震わす咆哮を上げ、最強のイロハ級が此処に降臨した。




実は前作で出したかったけど、結局その機会が無かった戦艦レ級改flagship。
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