獣による最終攻撃、それにより瑞鶴達も核シェルターも、避難者達も全てが消滅するかと思われた。
だが、その時、遥か大空より乱入者が現れる。
三尾──転じて『三つ首』のレ級。
正式名称『戦艦レ級改flagship』。
世界最強のイロハ級が、突如として降臨した。
「■■■……ッ」
『三つ首』を前に、獣は唸り声を上げる。
それは威嚇だ。奇襲とはいえ、片翼に風穴を空けられたが故の警戒。それも当然の行動。
何故なら、既に異常事態が起きていたからだ。
今の卯月には、深海の力を帯びた攻撃は効かず、一方的に吸収できる。
なのに結果は御覧の通り。
吸収できず、むしろ羽をぶち抜かれた。飛行能力は喪失、何故か再生も上手くできない。
これで警戒するなという方がムリ。
そして……予想通りだったが、威嚇は意味を成さなかった。
「────ッ!!」
大地を揺るがす咆哮、宣戦布告の合図が響く。
戦艦レ級とは、ある種の艦種詐欺として有名な個体。
戦艦の癖に正規空母並みの航空戦力を有し、戦艦の癖に雷巡並みの魚雷を搭載し、戦艦の癖に対潜能力を持ちry。
下手な姫級を遥かに凌駕するイレギュラー。それが戦艦レ級。
しかも、現在存在を確認できているのは、『elite』まで。
上位どころか一番飛ばしで『改flagship』。
万能戦艦だったレ級の最上位個体。一体どういう戦闘を仕掛けてくるのか──卯月は警戒を厳とする。
ところが、『三ツ首』はどれもしなかった。
「!?」
防御態勢ナシ、艦載機発艦ナシ、主砲展開もナシ。
万能戦艦のアドバンテージを全て無視して、身体一本で襲い掛かってきた。
しかしそれなら、正面から迎え撃つまで。
飛べなくなったが、まだまだ力は溢れている。
地殻を容易く両断するレーザーを発射。
レ級は回避行動もとらず、真正面から突っ込んだ。
言うまでもなく命中、それも頭部へ直撃。頭蓋骨が弾けるか、頭部が熱膨張で溶けるかの二択。
勝負は決まった──そう思った卯月が見たのは、想像を絶する光景。
「■ッ!??」
三つ首は
頭皮が割け、融解し、血は片っ端から蒸発、夥しい致命傷。
だがそこまで。
剥き出しの頭蓋骨で受け止めていた。
それ以上貫けない、頭部を両断できない。
「……ッ、──ッ!」
『三つ首』は一歩踏み出した。
地殻を貫通するレーザーの勢いは言うに及ばず。なのに、それを正面から受け止めて、歩き出した。
「■■■──!」
レーザー出力を更に上昇。直撃どころか余波の熱量で、周囲がドロドロに融解していく。
人体どころか、骨まで溶ける温度。頭蓋骨だって溶けて消える。
なのに止まらない。
『三つ首』は、正面から押し切って来る。
一歩ずつだったのが、二歩に、三歩に、『ダッシュ』に。
気が付けば目前。
「ッッッ!」
『三つ首』が、丸太の様な尻尾を振り上げた。
しかし卯月は怯まない。むしろチャンスとさえ思った。
体格も重量もこちらが上。格闘を仕掛けてくるなら返り討ちにしてやる。
レーザーを中断し、全力で殴りかかる。
対する三つ首も、尻尾をフルスイングでぶちかます。
視界が引っ繰り返った。
「……ッ!?」
吹っ飛ばされたのは、卯月の方だった。
地面をゴロゴロと吹き飛ばされていた。47メートルの質量体が、2メートル以下との力比べて負けたのである。
二転三転する視界の中、『三つ首』が見えた。三尾の内一本──今殴った尻尾は、装甲が砕け血が溢れていた。
自壊する勢いで殴ったという事だ。しかし『三つ首』が気にする様子はない。
卯月を見据えると、四つん這いになり──違う、四肢と三本の尻尾。
レ級が駆けだした。
地面が爆発した。
さながら、グリズリーめいた猛ダッシュで飛ぶ2メートルの砲丸。
跳躍の度に地面が砕ける。それは『三つ首』の限界を超えた挙動。跳ねる度に四肢や尻尾が砕け、血が噴き出し、骨が筋肉を突き破る。
なのに全く止まらない。
自壊を一切厭わない、全速力の
体勢を立て直そうとするが、上手く立てない。
何殴られた片腕が捻じ曲がって砕けていた。
核シェルターを破壊する瑞鶴の爆撃でも傷一つ付かなかった外殻が、ただの殴打で骨ごと崩壊。
殴打でこのダメージ。
ぶちかましを喰らったら。
戦慄する卯月は、崩れた姿勢のまま無理やりレーザーを発射。狙いは頭部。出力は最大。自壊の影響で装甲はボロボロ、通じる見込みはった。
だが今度は更に酷かった。
通らないどころか、
一射目の時、頭蓋骨の貫通はできなかったが、頭皮両断はできた。
なのに今度は完全無効。
頭蓋骨に届かない、額の薄皮一枚さえ破れず、血の一滴も流れない。
同時に気付く。
『三つ首』の頭皮が何時の間にか再生している事に。
卯月はとうとうパニックに陥った。
一体何時再生した!?
私の攻撃を受けた以上、こんな早く再生できない筈なのに!
というか、そもそもどうして液化しない。物理耐久力は関係ない攻撃なのに、どうして──
ぶちかましが直撃した。
*
「何なのこれは……」
『三つ首』に蹂躙される獣を、何とか生き延びた二人が見ていた。
多少時間が経過したことで、動ける程度に傷もパワーも回復。しかし目の前はこの状態。様子見に徹していた。
「あれは、レ級なのよね……ズイカク、あんな個体がいたなんて知ってた?」
「知る訳ないじゃない。何なのあの化け物。砲撃も何も使わないで、膂力だけで卯月を圧倒している」
「いや、それに、何故
「考えない方が良いんじゃない?」
ぶちかましの直撃。それでも『三つ首』は止まらない。相撲の押し出しの様に卯月を叩き潰して進んでいく。
堪らず獣が、無事な腕で地面を殴った。
瞬間、光と共に爆発が起き、地形が変貌。
爆発跡地が、断崖絶壁へと変化。
どこまで続いているのか、底が見えないような巨大クレパス。
『三つ首』から見たら、地面がいきなり消失したも同然。踏ん張る事はできず奈落の底へと落下。
「落ちた、いや落とした!」
「地面を丸ごと
それでも追撃を緩めない。油断できる相手ではない。
先程のぶちかましで、獣の身体はボロボロ。外殻は何十か所も亀裂が走り、隙間から血が湧き水みたいに零れ出る。
怪物め、一刻も早く殺さなければ。
そう考えた獣が、レーザーで左右の崖の断面を薙ぎ払った。
固形から、液状へ、瞬間的にまた固形へ。
つまり、クレパスを閉めた。
地震等で発生した亀裂は、時間経過で閉じる事もある。それを地形操作で疑似再現。
どれだけ頑丈だろうが、大地の質量で圧し潰せば関係ない。これで死んだ筈、いや頼むから死んでくれ。
獣の考えは、そう悪いものではない。
地形操作能力を活用した、極めて効果的な攻撃。一瞬で地面を消して、強制的に対空状態に。動けない所へ一撃必殺。大地の質量ならまず耐えられない。
ただし例外はある。
地面より敵が固い場合だ。
「ッッッッ──!」
地面から『三つ首』が飛び出した。
潰れていなかった。
全身から夥しい出血をしているが無事。
頑丈さのみで圧死を耐え抜き、身体一本で掘り進んで来たのだ。
『三つ首』は、最大の特徴である『三尾』を伸ばした。
矛先は獣の首。
そこへ、尻尾先端の顎が喰らい付く。
獣は咄嗟に地面を叩き、結晶体の壁を形成──が、パンチ一発で破壊。
だが、その僅かな隙を使って、翼を正面へ展開しガード。
尻尾の顎は首ではなく、翼を喰らう事になった。
その翼も相当頑丈なのに、容易く食い千切られた。
尻尾の顎は、食い千切った断片を呑み込んだ。三つ首本体も零れた欠片をバリボリと噛み砕き、咀嚼する。
卯月は恐ろしい予感を覚えた。
このレ級は、私を殺しに来たとか、そんなんじゃなくて、
でなければ、態々破片を呑み込む意味がない。
──グギュルルルル
戦場にギャグみたいな腹の音が鳴った。
『三つ首』は卯月をじっと見て、ポタポタ涎をた垂らして舌なめずり。
卯月は全く笑えなかった。死刑宣告でしかなかった。
本能的恐怖が全身を駆け巡る。
ふざけるな、喰われて堪るか。
獣が咆哮する、『三つ首』も呼応して咆哮する。巨大な化け物と小さな化け物が、再び衝突を始めた。
衝突が起きる、地殻変動が起きる。
山が生えては、崩落して海になっては、爆破してクレパスになっては潰れて、大地が生まれ──繰り返される熱膨張と水蒸気爆発。その高熱で海も空も真っ赤に。そんな怪物と正面衝突を繰り返し、むしろ押している戦艦レ級。
まさに終末的光景。それ見続けていた瑞鶴達は、ある決断をした。
「……できると、思う?」
「やるしかない。この
「あの中に飛び込むしかないって事ね」
「──
『三つ首』に卯月を殺して貰う魂胆だった。
卑怯だの何だのはどうでもいい。
今一番獣を殺せるのは、間違いなく『三つ首』。あのレ級を援護する事が卯月抹殺に一番繋がる。
「でも、レ級の捕食を許すのも何だか不味い気が……」
「……
「ええ、卯月抹殺を優先。当初の目標通りって訳ね」
二兎を追う者は一兎をも得ず、とも言う。
ウォースパイト達は、あくまで卯月の始末を優先した。主様からもそう命令されている。
理由があるのだ。
彼女達は知らないが、卯月を何としても殺さなければならない理由が、主様にはある。
「……最大の懸念はレ級がこっちに襲ってくるか、どうかね」
「
そう考える理性があればの話。咆哮を繰り返す三つ首に、そんな知能があるとは思えない。だが、もうこれしか手段がない。
「行くわよ、ズイカク!」
「了解、第三航空隊、発艦──」
その時、彼女達の足元に一本の『矢』が突き刺さった。
「……まさかまさかの火事場泥棒。あれだけずーっとドヤ顔していたのに、ちょっとは恥ずかしいと思わないんですか」
近くの岩場に、人が立っていた。
「アンタ……赤城……?」
「
目の前に赤城が立っていた。
「!?」
突然のフックが瑞鶴を襲う。普段なら傷一つつかない──が、ズタボロの今は別。衝撃が軽く脳を揺らす。
「……そう、ミチシオを救助したのは、
「そう言う貴女はウォースパイトさん。戦争を忌むもの……でしたか。まさか泥棒風情に堕ちるとは、主様も思っていなかったのでは?」
「……言わないで欲しいわ」
残念ながら言い訳不可能。卑怯で姑息な戦い方。しかしこれしか戦闘方法がない。主様の為ならプライドだって捨てられる。
「それで、この状況下で
「貴女達、卯月さんを殺そうとしてましたよね。『三つ首』に便乗して。それを止める為に参戦しました。足止めをさせて頂きます」
「
「え、貴女できないんですか?」
煽ってい──ない。なんとこれが素。
「ああ……何て惨い事でしょうか、何て『主ナントカ様』はケチなんでしょうか。祝福だの何だの言っておいて、その程度の力しか与えないなんて。可哀想に、それっぽっちの力で傲慢ちきにされる精神構造に改造されてるとは。貴女のご主人様はとんでもないションベン垂れだったんですね。赤城、予想もしませんでした」
「…………」
「決めました。逃げて良いですよ」
「…………」
「大丈夫です、後ろから撃つなんてお二人の様な卑怯な真似しませんから、安心して回れ右して自宅に帰還なさってくださ」
ウォースパイトは流石にキレた。無言で主砲を乱射した。
「ウォースパイト!?」
「
爆炎の中から矢が一本飛来。ウォースパイトは顔を動かして難なく回避。
空爆も混ぜて爆発が続く、赤城が退避した様子はない。
所詮はこんなもの。今の弓矢の一撃は悪足掻き。そう思った。
「逃げないなら、仕方がありませんね」
しかし声は背後から聞こえた。
「嘘っ……!」
「今まで、大して実戦経験もない新人を虐めてきたと報告を聞いています。大変嘆かわしい事です。しかし誤った後輩を指導するのは先輩の責務。お二人に特別指導をして差し上げましょう。ご安心ください、洗脳とか関係なくなるぐらいの本能的恐怖で服従させてあげますから!」
既に空には、赤城の航空隊が現れていた。発艦した気配もない、音一つ無かったのに、もう大部隊が展開されている。
「──では、教育のお時間です」
「
「真の正規空母の戦いというものを、ご教示してあげましょう」
瞬間、赤城がその場から
爆炎が彼女達を覆い尽くす。
赤城はそれを遠くから眺める。
「……さて、妨害が来ないようにはしました。防衛もして上げます。だから救助は満潮さん、貴女の仕事です」
獣の羽が砕け、首が千切れる。
地を揺るがす咆哮が響く。
そこへ向けて、包帯を血で滲ませながら、満潮が走る。
「期待、してますからね?」
満潮の手には、錆一つない
※今作の赤城さんはサイコパス成分10割増しでお届け致します。