今回、やぁぁぁぁぁぁっと、そこに触れます。
『復讐』以外の全てを失った。
それが卯月の自己評価だった。
卯月の生きる意味は、生まれた直後に失われた。
『復讐』は絶対に必要だった。
自分の中に燻るドス黒い憎悪、侮辱に対して、ケジメはつけなければならない。
しかしあくまでケジメだ。生き方ではない。
生き方が必要だった。
だから卯月は、誇りに固執した。
他の艦娘でも、多かれ少なかれ、『自身』への誇りを持っている。
それは艦娘としてのではなく、かつてを生きた『艦艇』としての自分だ。
『『
しかし、具体的にそれはどういう生き方になるのか。
誰かの為に戦う……のには意味を感じられない。
何故なら、他人とは、自分が既に知っている『過去』だからだ。
友情、愛、思い出、それらは過去に得た物。それを護るというのは、過去の為の戦いだ。終わった事の為に戦ったところで仕方がない。
何より、大事な過去を虐殺をした彼女に、その道はもう選べない。
『……自分の為に戦おう』
それは、目先の我欲を満たすという意味ではない。
知らない誰かの為に戦う。
つまり
誰でもない誰かの為の戦い──
言い換えれば
私を見た誰かが、カッコ良いと思ってくれるような生き様。
それが、かつてを生きた『卯月』に対して、一番誇れるのではないかと……卯月はそう考えた。
『──だからこそ、黒幕に報復を』
その生き方を、ちゃんと胸を張ってする為に、復讐はやはり必要だった。運命の決着をつけなければならなかった。
果たして、それを選んだのか、それしか選べなかったのか。
卯月はその誇りを胸に生きてきた。
その結果、自らの手で護ると決めた子供を殺す事になった。
悍ましい虐殺を目の当たりにした。
『──でもダメだ、未来の為でなきゃ』
しかし、過去を
この死んでいった人達の意思が、無意味になってはいけないと、卯月は強く感じた。それは罪悪感故だったのか──卯月は壊れた。
そして卯月は、未来の為の戦いを再開する。
未来、果て無く未来、完全なる未来──それが行き付く先、『終焉』の為の戦いだ。
全員死ぬ。
しかし問題はない。
自分の為の戦いだから、死者の意思を無駄にもしないから、恥ずかしい事は一つもなく『卯月』へ誇れる。
だが、満潮の叫びが心を動かした。
理屈で言えば、卯月が正しい。
暴論の極致だが、世界が終われば全て救われる。ついでに巻き添えで黒幕も殺せる。
しかし、あの満潮をあんなに泣かせるのが、本当に正解だったのか?
心が揺れる。何故、こんなに迷ってしまうのか。
『ソリャ、貴女ガ間違ッテルカラヨ』
『……え』
『貴女ハ正シイ……ケレドモ、ソレハ『結果』ダケ。未来ハ……『結果』ダケデ出来テハイナイ。ソレヲ見落トシタ結果ガ、彼女ノ涙』
卯月は信じられない者を見た。
終わりを知って冷え切った心でさえ、初恋のように燃え上がっていく。
『どうして、ここに』
『
「一言?」
『私ヲ侮辱スルナ』
彼女の表情は、『完全なる殺意』で真っ黒だった。
『私ハ、ソンナ事ノ為ニ、戦ッテタンジャナイ。最後ニ行キ付クノガ、ソコダトシテモ……私ハ全力デ生キタノ』
「…………」
『貴女ノソレハ、諦観ノソレヨ』
「……で、でも、私は、何の意味を、持たせれば」
『救ワレルダケデ良イ。ソレデ、彼女ニトッテハ意味ガ生マレル』
再び暗黒に、鼻水混じりの叫びが響く。
どうやっても好きにはなれないが、今更、彼女ナシの未来が想像できない彼女の声。
不倶戴天のルームメイトの絶叫が。
それこそが、終わりへの道を、完全にするのに必要だったのだと、卯月は気が付いた。
「……どうして」
『ン?』
「また、助けてくれたんですか」
『礼ト、願イヨ』
彼女は微笑む。殺意のない柔らかな笑みを。
『貴女ノオ陰デ私ハ意味ノアル最後ヲ迎エラレタ、ソシテ……貴女ノ歩ミハ、私ノ命ヲ意味アルモノニシテクレル。ソレガ続イテ欲シイ願イ』
世界が再び真っ黒へ染まっていく。奈落が深くなっていく。
『デモ、コレデ本当ニ最後……奇跡ハ二度モオキナイ。私ヲ倒シタノヨ……モットカッコ良シナサイ』
「──はいっ!」
声が消えた。
卯月は確信する、もう絶対に奇跡は起こらないと。
「やっぱ、カッコ良いなぁ……」
寂しげな呟きと共に、卯月は目を覚ました。
*
果たしてそれは何秒の間だったのか。
暗闇から帰還した卯月は目を開く。
眼前には目を閉じる前までと同じ、無限に続く奈落が広がる。
満潮が必死で鎖を引き千切ろうとしているのも、前までと同じだった。
「満潮ー」
「何本あんのよクソが! ふざけんな、気色悪く纏わりついて……何なのよコレは、離れなさいよっ!」
「おーい、満潮ー」
「取れろ、取れろっ、取れ──え?」
血塗れの手を止めて、涙&鼻水&涎でぐっちゃぐちゃの顔をこちらへ向ける。
「もう、大丈夫だぴょん」
「卯月?」
「大丈夫になったから、止めるぴょルボァッ!?」
返事は右ストレートだった。
「私を油断させる気!? そうはいかない。騙されるものか!」
「いやあの、うーちゃん正気になレベァッ!?」
左ストレートだった。
「こんな簡単に正気に戻る筈がない……これを、どうにかしなきゃ。私が、私がやらなきゃいけないんだ」
「み、満潮……あの……」
「……へっ?」
「正気、だぴょん。マジのマジで……」
満潮が目をパチクリさせる。
これ以上殴られるのは勘弁して欲しい。
満潮は正気に戻った卯月を見て暫くフリーズ。そして状況を呑み込んで、卯月を睨みつけて、また殴った。
「死ね!」
「ぎゃんっ!?」
「なぁぁぁにが『大丈夫』よ! ここまで滅茶苦茶やっといて、そんな一言で済ませるつもりがざっけんぁぁぁぁ!」
「ちょ、あのまだ落ちてる最中だかギャァァァァ!?」
これでもかと殴られた。
顔面がたんこぶ塗れになるまで殴られた。
「ひでぇ……ぴょん」
「あれだけやっといて、これぐらいで済ませてるんだから、遥かに優しい方よ私は」
「そうですか……ハイ」
文句の言いようが無かった。
と、アレな時間はこれぐらいで切り上げる。
正気になったのなら何時までもこんな所にいる理由はない。早く脱出しなくてはならない。しかし満潮にはまだ疑念があった。
「でも、その鎖繋がりっぱなしだけど、アンタ本当に大丈夫なの?」
卯月を拘束していた黒い鎖は千切れていない。未だに繋がったまま。
まだ狂気に侵されたままで、一時しのぎで正気のフリをしているだけなんじゃないか。満潮は
そう心配していた。
「……これか」
それを、卯月は何とも言えない視線で見つめる。
この鎖の正体は結局の所──やはり鎖と言うのが一番最適だった。
この戦場で死んでいった人達の無念。
それを無駄にはできないという、呪いにも等しい卯月の重い。
それが相互に合わさった結果、卯月を縛り続ける鎖として、顕れたのだ。
「さっさと千切るなりなんなりしなさいよ。全力で引っ張っても全然ダメだった。できるのはアンタだけだと思う」
実際その通りだ。この鎖を構成している半分は卯月の意思。卯月が鎖の消滅を望めばその通りになる。
奈落の底へ引っ張り続けるこれを、持ち続ける必要はない。
しかし彼女は、鎖をじっと見つめたまま、中々動こうとしない。
「……早くしてくんない。ずっと落下し続けるのもいい加減キツイ。私だってダメージシャレにならないの。早く治療したい」
「ああ、うん。分かった」
鎖を強く握りしめる。
「でも、千切らない」
卯月は狂気に侵された歓喜ではなく、自分自身の意思でそう告げた。
「やっぱり無かった事にはできない。無駄にはできない、このまま奈落へ放置して、私だけ出てくなんて事はできない」
「……ならどうすんのよ」
「
そう言って卯月は目を閉じる。
次の瞬間、無数の鎖が──
繋がっていただけの鎖が、卯月自身に引き摺られるように、体内へどんどん呑み込まれていく。
奈落の奥底にあった分も含めて、悍ましい量の鎖を卯月は飲み干していく。
しかし、満潮に無理やり与えたような快楽はない。
むしろ、絶望と苦痛に満ちた感覚。
──卯月は涼しい顔をして、それを全部受け入れる。
実際の所、心の中に、途方もない数の人々が押し寄せている。
自分と他者の境界線がなくなり、壊れていくのが確かに感じられる。
しかし抵抗は許されない。
憎悪に呑まれていた時は受け入れて、正気に戻ったらハイサヨナラなんて都合の良い事は、誰よりも何よりも、自分が許せない。
「全て……全部、引き摺っていく。無駄にはしない、いずれ消えて忘れ去られる呪いでも、せめて、私が生きている間ぐらいは……でも、その為には生きない。私は変わらない、私は、うーちゃんは自分の為に戦う」
満潮は、驚愕していた。
鎖をどれだけ飲み干しても狂っていく気配がない。
様子がおかしくならない。
しかし、彼女の外観が凄まじい変容を始めていた。
「これは呪いじゃない、祝福だ。そうしなきゃいけない。その為に『誇り』がある……」
過去はもうやり直せない。
けど、
報復するのも、誇りを持つのも、過去があるから成り立つ事。
でも、それが全てじゃ『呪い』にしかならない。
「過去を呪いじゃなく、祝福にする事。それこそが『誇り』……!」
『祝福』に変えなければならない。
それができるのは自分しかいない。
先に『終わり』に至ってしまえば、意味も何もなくなってしまう。
最終的に『終わる』としても、そこまでが重要なのだと、卯月は理解した。
「これが『誇り』なんだぴょん!」
卯月の身体が、ドス黒い光で覆われた。
四肢が空母棲姫を思わせるような、赤黒いガントレットとブーツで覆われる。
そこから肌に、鈍く赤く光る亀裂が走る。
目は一目で異形と分かる程赤く染まり、耳の付け根から後ろに向けて、一対の赤黒い巨角が生える。
長く赤い髪の毛が、マグマのように赤く輝く。
eliteクラスとも違う、眩く赤いオーラが全身を覆った。
「……赤い、深海棲艦?」
そうとしか形容できない。
赤い獣を人型に押し留めたような雰囲気。
きっとこれが──孵化し切った姿なのだ。
兎に角『赤』の印象が目立つ、駆逐艦の深海棲艦が目の前に立っていた。
「おまたせ、終わったぴょん」
「アンタ、大丈夫なのそれ」
卯月は自分の身体ってか胸元を見た。絶望した表情で摩る。
「……大きくなってない」
「ああ大丈夫そうね」
杞憂だった。極めて普段通りの卯月だった。心配した自分がアホだった。
とりあえず、また狂っていない事に満潮は安堵する。
本来の流れに戻す為、ゲホンと咳払いをする。
「んじゃ、此処から出るわよ。また外には瑞鶴とウォースパイトがいる。赤城さんが戦ってるわ、援護しなきゃいけない。『三つ首』の動向も気になるわ」
赤城に助けがいるのかという話は置いておく。
多分要らなかった。
「おう、じゃ、早く」
「え?」
「ん?」
「ええ、早くしてよ」
「何を?」
「いやだから、早くこの奈落から出してよって言ってんの」
卯月の顔が真っ青に染まった。
四肢や髪の毛、纏うオーラまで赤いのに、顔面だけ青いのは何だかシュールだった。
満潮の顔も真っ青だった。
「……分からない?」
「それは、こっちの台詞だぴょん」
「……はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
何と、どっちも脱出方法を分かっていなかった。
「ふざけんな!? 何でこの流れで分かってないのよ、この空間開いたのアンタでしょ!? 分かってなさないよバカなのアホなの!?」
「うっさいそんな精神状態じゃなかったぴょん! てかお前だって無策で飛び込んできたのかぴょん! 出口に鎖とか命綱的なヤツつけとけって話だぴょん!」
「やるも何も『三つ首』に投げ飛ばされたのよー!」
「この流れで出れないってヤダー! ダサ過ぎるってか此処でゲームオーバー嘘ぉぉぉぉ!?」
「嫌ー! こんな所で二人きっりとかぁぁぁ!?」
阿鼻叫喚の地獄絵図だった。色々と台無しだった。錯乱する満潮の肩を誰かが叩いた。
「誰よこの状況下でふざけんな……」
待て、誰が叩いた?
異常な悪寒の中、満潮は振り返る。
『三つ首』がいた。
繰り返す、『三つ首』が居た。
「…………」
「……え」
何でこいつが此処に?
そんな事を考える暇もなく、『三つ首』が卯月と満潮を掴む。
そして、三尾の内二本を翼へ変え、一気に飛翔。
「どわぁぁぁぁ!?」
「ギャァァァァ!?」
パニックのどん底に叩き落される二人。
特に『三つ首』にボコボコにされた卯月の悲鳴は酷かった。ぶっちゃけトラウマになっていた。
しかしそんなの気にせず『三つ首』は飛ぶ。
二人を抱えているのを感じさせない、軽やかな高速飛行──やがて、光が見えた。
「出口よぉぉぉぉ!?」
「あああわぁぁぁぁいっ!?」
光を抜け、奈落から脱出した瞬間、満潮は無造作に放り出された。卯月は『三つ首』に掴まれたままだった。
同時に暗黒球は閉鎖し消滅。
巨大な獣の肉体も、光の粒子となって消滅していく。
「──ッ!」
石畳へ投げられた満潮はギリギリで受け身を取って衝撃を逃がす。
「が……っ」
そこで遂に体力の限界が訪れ、激しく吐血する。
しかし、これで助かった。全てが上手くいった。卯月を正気に戻り脱出する事ができた。
満潮は心の底から安堵する。
けど、『三つ首』が分からない。
どうしてあの空間に飛び込み、私達を救助してくれたのか。
暗黒球へ投げ入れた時もそうだ、間違いなく『三つ首』は援護してくれた。
ひょっとして、『三つ首』は味方だったりするんだろうか?
そう思い、顔を上げた満潮が目にしたのは。
「……あ゛」
卯月の心臓を『三つ首』が貫く光景だった。
おまけ:この世界のパワーバランス
越者:武蔵、?????、三つ首
――越えられない壁――
最強格:卯月(完全体)、赤城、雪風、北上(全盛期)、ラスボス
準最強:卯月(獣)、カレー変異イ級、比叡カレー
まあまあ:
例外:莨晁ェャ、遐エ螢、荳肴ュサ
ジョジョのスタンドパラメータ並の信憑性なので、あまり信じないようお願いします。