前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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今年の投稿はこれで最後になります。
ついでに、これで全体の折り返し地点を越えたので、暫く書き溜めに入らさせて頂きます。
皆様よいお年を。



第194話 顛末

 事の顛末を説明しよう。

 

 結論から言って、最悪の事態は免れた。

 核ミサイルが着弾し、死の大地になる事もなかった。

 深海棲艦の呪いが止まらず、日本全土が滅び1億隻の深海棲艦が生まれる事も無かった。

 

 それどころか、呪いは欠片も残っていなかった。

 あの戦場全域に蔓延していた呪いは、全て消滅していた。

 イロハ級も一隻残らず消滅していた。

 

 『獣』が全てを呑み込んだからだ。

 皮肉な事に、『獣』が全てを破壊し尽くしたからこそ、大地が浄化されたのだ。

 

 だからと言って、被害が無かったとは断じて否。

 『獣』による被害は甚大な爪痕を残した。

 

 地殻変動、天地創造により替えられた地形は元に戻らなかった。

 

 人が大勢住んでいた都市は消え、変わりに真っ赤な海が形成された。島の代わりに得体の知れないクリスタル状の陸地が幾つも形成。異界の様な、得体の知れない世界へ変わり果てた。

 

 ただ、そんな場所に成り果てても、人が住むことは可能だと、技研の調査チームは判断した。

 

 放射線汚染もない、呪いの汚染もない、有害そうな要素は何もない。

 ちょっと人類が知らない未知の物質でできているだけの、只の大地に過ぎない。

 

 このご時世住める場所は貴重という事で、大本営や政府機関は、居住地として戻るつもり満々だ。

 

 こんな所済む奴いるのか──割と居る模様。

 この土地が何なのか? 

 未知の物質を見れるなんて! 

 赤い海を、こんな至近距離で調査できるのは幸運極まる! 

 だと歓喜するマッドサイエンティスト共が、挙って入居希望を出している。

 

 尤も安全性の調査にはもう暫く時間が掛かる。本当に人が住めるかどうかの結論は保留だ。

 

 しかしそれは、物理的な被害の話。

 人的被害は計測困難な規模に広がっていた。

 瑞鶴、ウォースパイト、ガンビア・ベイによる掃討作戦、呪いの感染者による被害。

 

 トドメになったのは『獣』の最終攻撃だ。

 あの爆発により、安全地帯だった核シェルターまでもが被害を受けた。

 二発目が防がれたので、シェルター全壊は避けられた。

 

 だが犠牲者は出た。

 亀裂から入った爆発の衝撃で死んだ者。衝撃で次々に転倒し人の下敷きになって死んだ者。

 

 運悪く亀裂から海水が流入し、避難者全員が溺死したシェルターもあった。

 たまたま残ってた呪いのせいで、全員深海棲艦化して全滅したシェルターもあった。

 地形変化に呑まれ、全員が圧死したシェルターもあった。

 

 それでも最悪の事態は免れた。

 

 それが大本営の出した、被害に対する報告だった。

 

 

 

 

 ──以上が被害の説明。

 次は、人の説明に移ろう。

 

 まず、瑞鶴及びウォースパイトだが、彼女達は途中まで赤城と交戦を続けていた。

 しかし途中で防戦一方になった。

 『三つ首』までもが二人を襲いだしたからだ。

 

 満潮を暗黒球へ投げ入れた後、『三つ首』は赤城ではなく、二人にだけ攻撃を開始した。

 現場に居た赤城曰く、『援護してくれている、というより、餌を守っているとか、そんな感じでした』との事。

 

 後日受けた、暗黒球からの脱出を援護してくれた事も含めて、行動原理の調査は進められている。

 

 その後『三つ首』は卯月の心臓部をぶち抜いた後、空を飛んで戦線離脱。レーダーで捕捉はしていたが途中でロストした。

 

 そして瑞鶴とウォースパイト。

 二人は途中で戦場から姿()()()()()

 戦線離脱、ではなく、突如として消えたのである。

 その後、再び現れなかった事から、逃亡したと大本営は判断した。

 

 消滅した、という所から、ガンビア・ベイが逃亡を援護した可能性が高いと見込まれている。

 

 事の発端となった大将、護衛対象、他前科メンバーを含む艦娘達や僅かな憲兵隊は、無事なシェルター内に居続けたお陰で生存した。

 

 卯月及び満潮、赤城は最後まで戦場に留まっていたが、このような事態が起きた事で生存。

 

 

 

 

 ──最後に簡潔にだが、情勢の説明をする。

 結論から言って、何だかよく分からない事になった。

 

 事態を把握した大本営は当初、反艦娘活動が激化すると懸念していた。

 何故なら、事態が起きた当初、空を飛んでいたのは()()()()()()()()()()()のだ。

 

 瑞鶴は空母型のイロハ級を出さなかった。

 その理由が、そこにあった。

 

 封鎖区画の住民はともかく、その外から見た場合、無事な地区の人間が目にするのは、艦娘の艦載機だけなのである。

 

 燃える街、飛び交う悲鳴。

 そこで爆弾を落としまくる艦娘の艦載機。

 

 状況証拠だけ見たら、艦娘が街を襲っているとしか見えないのだ。

 

 揉み消そうにも既に手遅れ。

 艦娘の艦載機が、都市部を爆撃する映像は、インターネット経由で全世界へ拡散されてしまった。

 

 流石にかなり遠くからの映像故、画像は荒いが──艦載機の区別は簡単にできる。

 むしろ、態々映る様に飛んでいる瞬間もあった。

 二人には、反艦娘感情を高めるという目的もあったらしい。反艦娘テロリストが協力していた理由が垣間見える。

 

 艦娘が人を襲ったという事実だけが蔓延する。

 

 実際に、現地にいた工作員は、艦娘を『悪』だと断定する空気で満ちていたと語っていた。

 このまま、反艦娘へと世論が向かってしまう──と思われたのだが、『獣』が色々と滅茶苦茶にした。

 

 街を爆撃する艦娘の艦載機と、ビームを吐いて天地創造する『獣』。

 どっちが目立つかなんて、言うまでもなかった。

 挙句、空を飛ぶレ級のエントリー。

 最早、艦娘の艦載機に注目する人は殆どいない。

 

 結局この目的は、反艦娘テロリストの動機を一つ増やす程度で終わった。

 民衆への影響としては、微妙……というかグダグダなレベルに留まる。

 

 胸を撫でおろした大本営だが、高官達の胃痛は止まらない。

 国内に対する説明、核を喰った『獣』についての説明、核を撃ってくれた同盟国に対する釈明──当分家には帰れない。

 

 しかし、この反艦娘感情の被害を回避しきれなかったのが一人いた。

 

 まあやはり卯月なのだが。

 

 

 *

 

 

 あれから三週間が経過した。

 卯月は未だに目覚めない。

 点滴を打たれながら、医務室のベッドで静かに眠り続けている。

 満潮は非番の時は、ずっとそこにいた。

 

「今日も来たんですね。やっぱり心配なんですか?」

「今日どころか毎日いるアンタが言えた台詞じゃないでしょ。赤城」

「いえ、私はあくまで仕事。仕事でなければ司令官のお傍にずーっと居たいというのが私の本心です」

 

 恍惚とした顔で、艶めかしい溜息を吐く赤城。

 しかし、そうしながら、意識の何割かは常に卯月へ向けられている。

 

 赤城の任務は卯月の監視である。

 

 一応、卯月は元に戻っていた。

 満潮が最後に見たという、赤い深海棲艦ではなくなっている。

 勿論『獣』でもない。

 極々一般的な──いや結構変化したが──駆逐艦卯月に戻っていた。

 

 しかし、あれだけ規格外の暴走をした以上、人型に戻っていたとしても、その危険性は計り知れない。万一暴走した時、ある程度でも即時対応ができるよう、医務室には赤城が常駐していた。

 

「しかし満潮さんも飽きずによく毎日見舞いに来れますね。感心します」

「何よそれ。バカにしてんの」

「そんな事ありませんよ」

 

 慣れた手つきでリンゴの皮を赤城は剥いていく。

 

「やはり心配、という事ですか」

「……そうよ。心配に決まってるじゃない。デタラメな変貌をしたってだけならまだしも、最後に心臓を」

「ぶち抜かれた。『三つ首』によって」

「…………」

 

 獣の変貌から元(?)に戻り、暗黒球から脱出した直後、卯月は心臓を『三つ首』にぶち抜かれた。

 ──のだが御覧の通り生きている。

 

「まず生きている事自体驚愕ですけどね。えーっと、何でしたっけ、気が付いた時には、心臓の穴は塞がっていたと?」

「そうよ……あまり自信ないけど」

「え、そういうの困ります。ちゃんと見たかどうかってハッキリさせてほしいです」

「見たわよちゃんと。信じられないってだけで」

 

 心臓に大穴が空けられた。それは間違いない。

 だが、瞬き一瞬の間に穴は塞がった。

 心臓の音はちゃんと聞こえてくる。

 帰投後に取ったレントゲン写真でも、ちゃんと心臓は存在していた。

 ぶっちゃけ、信じ難い出来事である。満潮の反応もムリはない。

 

 ただし、明確な問題が一つ残っていた。

 

「……でも、刺が刺さりっぱなし」

「ああ、そうでしたね。正確には『三つ首』の装甲の破片ですが」

「ほぼ刺だったじゃない」

 

 ぶち抜いた時に残ったのだろうか? 

 卯月の心臓は、一本の巨大な刺が貫通した状態だった。

 まさか、心臓を捌いて中を見る訳にもいかない。

 予想でしかないが、その刺は砕けた『三つ首』の装甲片だと考えられている。

 

 心臓を刺が貫通した状態。

 それが今の卯月の容体。

 どういう訳か、奇跡的に心臓は鼓動しているが、ふとした拍子に停止するかもしれない。満潮はそれが不安で仕方がなかった。

 

「まあ、大丈夫ですよ。こんな状態で三週間も心臓止まってないんですから」

「何の根拠にもなってないじゃない」

「ええ、ですが、今後心臓が止まる根拠もない。三週間生存できている。その実績があるだけです」

 

 正直満潮の不安なんてどうでも良かった。

 そんな事より赤城の懸念は、『三つ首』の目的である。

 

 あの怪物は、破壊衝動のまま暴れるモンスターだと、大本営は考えていた。

 戦略も戦術もなく、単独で大本営を襲撃し、崩壊させた──戦略的敗北を与えた事が何よりの証拠。

 

 しかし、今回見せた行動は、それとはかけ離れていた。

 行動から察するに、獣を喰いに来たのかと思ったが、結局最後まで捕食はしなかった。

 それどころか、卯月を救助しようとする満潮の援護をしていたし、何なら暗黒球から出られなくなっていた二人の救助までしてくれた。

 

 だと思ったのに、最後の最後で、卯月の心臓をぶち抜いた。

 だが、それだけで終わった。

 追撃等は一切せず、さっさと飛び去って行った。攻撃を受けた卯月も心臓が復活していた。

 

 一連の行動は何の為にあったのか? 

 『三つ首』は何を目的として、今回の戦場へ飛来したのか? 

 今回の事件で一番意図が読めないのは、間違いなく『三つ首』だ。

 

 赤城は溜息を吐いて思考を止めた。

 アレについて考えるのは時間の無駄だと本能が言っている。

 目の前の敵について考えた方が有意義。

 赤城は剥いたリンゴをシャクシャク食べ始めた。

 

「色々言いましたけど、早く目覚めてくれるとありがたいですね」

「……自分で喰う用だったのね」

「何か?」

 

 満潮は呆れて返事もできなかった。

 

「……心臓だけじゃないわ。外見にも異常さが顕れてる」

「別に深海の細胞は検出されなかったのでしょう? で、あれば、問題ないと思いますが」

「精神がどうなってるかは、目覚めてみないと分からない」

 

 あまりの心配っぷりに赤城はつい突っ込んでしまう。

 

「……卯月さん、好きなんですか?」

「嫌いだけど……?」

「え、だって、そんなに心配してるじゃないですか。もっと二人っきりで愛し合ったりしたいとは思わn」

「止めて本当に止めて。言われるだけでも吐きそうになる」

 

 満潮は顔面蒼白になり、脂汗を流しながら口を押える。

 本当に吐く寸前の模様。

 流石に目の前で虹(暗喩)が放たれるのは見たくない。

 赤城はさっさと話しを戻す事にした。

 

「うん。何はともあれ起きて欲しいですね。まともな情報を聞き出せるかは怪しいですが、起きてくれれば早く司令官の護衛に戻れるので……」

「ふーん、そんな言うなんて、よっぽど立派な司令官なのね」

「敵ですね?」

「あぐぅっ!?」

 

 赤城は満潮を敵と認識した。不俱戴天の仇同然であると判断した。速やかに排除せねばと殺戮マシンが動き出す。

 

「何急に?!」

「立派な司令官……私の提督を渇望、私の提督を奪うつもりでしたか。そうはいきませんこの赤城が確実に始末します。覚悟をしてくださいこのド腐れビッチ!」

「本当に何の話!?」

「まさか純愛と偽る気ですか? 許しがたいですね」

 

 一つ残らず理解不能。突然全力の殺意を浴びせられたが、ぶっちゃけ混乱でそれどころではない。

 

「司令官の貞操は私が奪う予t……ゲホン、私のものなんですから」

「ちゃっかり既成事実化させようとしてる!?」

「知った以上やはり始末しなければ……」

「うわあああああ!?」

 

 詳細は後で知る事になるのだが、満潮はこの時点で察する。

 以前、大将の護衛は狂人だと聞いていたが、こういう事だったのかと。

 

 赤城は大将に好意を抱いていた。

 それもヤンデレの次元であった。

 なので、大将を狙っていると認識した場合、速やかに始末しにかかる悪癖を持っていたのである。

 

 好意カウントの基準は御覧の通り。

 他の事例で言うと、目が合ったとか雑談したとか、それでもう殺害ターゲットとして認識される。

 赤城としては何もおかしくない。

 愛とは往々にして狂っているものである。




開発報告第七番
 大変なことになった。なってしまった。とんでもない可能性を見落としていた。壱号機をグレードダウンさせて尚この欠陥が残っていたとは。欠陥というよりは、運用上の注意事項だ。
 『吸収』と『放出』、その根幹が『虚無』だった場合ヤバいことになる。
 何ということだ、子細を知っていれば、こんな運用リスクは残さなかったのに。いや、否定は駄目だ。あれは私の作った代物、だからその存在は、肯定しなければならない。それでも不味い。せめて使う人物を厳選するよう提言しなければ。
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