前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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ぼっちざろっくにヤバい次元でド嵌りしてしまった。
二期ハマダカ。
はい、一か月ぶりです。お待たせしてすみません。


第195話 獣の感性

 あの日、卯月達は『護衛対象』が護送されてくるのを待っていた。

 しかし敵はそれを阻止する為、街中で直接襲撃をかける暴挙に出た。

 撒き散らされる呪い、終わらない虐殺。

 その最中、『獣』へ変貌した卯月により混迷はピークへ到達。

 

 最終的に降臨した『三つ首』によって、事態は一応の収束を見る。

 

「…………」

 

 それから三週間、卯月は前科戦線の一室で昏睡状態にあった。

 今までは医務室で寝かされていた。

 しかし、今日は別の部屋。

 バイタルが変化し、目覚めが近づいたからだ。

 

「……ん」

 

 薄っすらと目を開ける卯月。

 彼女は思った。

 このパターン何度目だよ。

 手足が動くのを確認し、起き上がろうとする。

 

「……あれ、起き上がれない、ぴょん?」

 

 首も動かない。目線を動かしてみる。

 卯月は一瞬思考が止まった。

 手足が拘束されていたからだ。

 

「ぴょんっ!?」

 

 SFなんかで見かける、手足を拘束できるベッド。それだけでなく、腰回りから、首に至るまで、厳重に拘束されていた。

 

「拘束!? なんでだぴょん!?」

『それは、お主が危険視されているからだ』

 

 波多野曹長の声が放送で聞こえる。

 しかし、彼の姿は卯月には見えない。

 

 それどころか誰もいない。

 照明と監視カメラ、拘束ベッドだけ。

 不気味なことに壁は一面鏡張り。

 

 だが、卯月には分かっていた。

 

「……曹長は、うーちゃんから見て、左側の壁の向こうにいるぴょん?」

『……私の声が聞こえたのか』

「うん、唾を呑む音も聞こえたぴょん。ということは、これマジックミラーかぴょん」

 

 マジックミラーで覆われた部屋。

 その中央で卯月は拘束。

 部屋の外からは、曹長達が卯月を監視している。

 それが今の状況だった。

 

「──曹長だけじゃない。他にいっぱい人いるぴょん。これはどういうシチュエーションなんだぴょん。早く拘束を解くぴょん」

『それは安全が証明されてから、であります』

 

 今度はあきつ丸の声。

 どことなく楽し気な感情に、卯月は薄ら寒さを覚える。

 ──主にR-18G方面の。

 嫌な予感に思わず卯月は身体を捩る。

 

『おっと! 余り動かない方がいいであります。これは『警告』なのであります』

「警告?」

『今、この部屋は、波多野曹長直属の憲兵隊により包囲されているであります。対深海棲艦用非活性突撃銃を装備。flagship級を30分間に渡り無力化可能。曹長殿が合図を出せば直ちに発砲開始、卯月殿は廃棄処分。表上の記録には残らないのであります』

「ごめんよく分かんないぴょん」

『……ギロチンの前に立ってる罪人って訳であります』

 

 こういう長台詞が割と好きなあきつ丸。卯月の反応に『結構練習したのに……』と凹んでいた。

 

「理解できたぴょん。でもどうして?」

『まさか忘れたとは言わせないぞ。卯月殿、お主は何をしたのか覚えている筈だ』

「えーっと、確かうーちゃんは……」

 

 うんうん唸りながら、覚えている記憶を辿る。

 護衛対象を待っていて、本土襲撃があって、子供を助けて。

 そして瑞鶴達に遭遇して。

 

「ああ、殺されたんだった」

 

 あっさりと思い出す。

 

『……それから?』

「ああ、ちゃんと思い出したぴょん。沢山暴れて、あいつら(洗脳艦娘)も殺そうとして、何かヤベーのに襲われて死にかけたぴょん」

『最後まで話せ』

「はいはい。で、満潮に助けて貰ったら、レ級に心臓を……待って何でうーちゃん生きてんの!?」

 

 最後レ級に心臓ぶち抜かれた事を思い出す。

 言うまでもないが、心臓に穴が空いて死なない生き物はいない。艦娘も深海棲艦も例外ではない。

 慌てて目線を動かし、心臓を確認。

 

「……穴、ない」

 

 穴は無くなっていた。傷跡も残ってない。

 安心すべきか困惑すべきか、卯月は混乱していた。

 

『それは後。覚えているのはそこまででいいのだな?』

「アッハイ」

 

 そこを一番教えて欲しいのに。

 卯月は大分不安だった。

 

『記憶に影響はナシ、でありますね』

『次の質問だ。何故虐殺をした?』

「……ぎゃくさつ?」

 

 それは誰にとっても意外な反応。

 卯月はポカンとした様子で一瞬固まった。

 

「ああ! 虐殺! 、確かにした、沢山殺したぴょん。オーケーオーケー、拘束されてる理由も完全に理解したぴょん。そりゃこうなるぴょん!」

 

 本当に一瞬の硬直。

 波多野曹長達はそこに違和感──悪寒を感じる。

 彼らの反応に気付かず、卯月は()()()()()()()理由を話す。

 

「えっと、あの時は……って話になるけど。鏖殺するのが艦娘の使命だって思ってたんだぴょん。そうすれば誰かの為だし、皆救われるからね。でも満潮からの説得を貰って思い直したんだぴょん。あれは間違いだったって、今は反省してるぴょん」

 

 証言におかしなところはない。

 満潮から聞き取った当時の状況と一致している。

 虐殺が誤りだと言ったのも嘘ではない。

 あのベッドの下にこっそり設置した嘘発見器も反応していない。

 

 なのだが()()

 

『罪悪感、あるでありますか?』

「まったくないぴょん」

 

 取り繕う事もない。卯月はあっけらかんとしていた。

 

「ああは言ったけど、やったことが完全な間違いとも思えないし! まあ、呪いで死ぬよりマシな筈ぴょん」

『……呪われていなかった人間もいたのだが?』

「うーん、悪いことしちゃったぴょん?」

 

 その程度であった。

 幾つもあった避難シェルター、その人々を虐殺しておいて、この程度。

 これは何なのか? 

 波多野曹長は言葉に詰まる。

 

「あー……一応弁解しとくけど、何かヤバいってのは自覚してるぴょん。流石にね? でもメッチャどうでも良いってのが本音で、嘘吐くのはやっぱ嫌だから、言うんだぴょん」

『虐殺がどうでも良いと?』

「等価値、だぴょん」

 

 卯月自身、自分の精神を正しく把握できていない。

 目覚めてから五分と経っていないのに自覚するのは不可能だ。

 あくまで感じたままに口を開く。

 

「生まれるのも、死ぬのも、同じような出来事に感じるんだぴょん。だから死ぬ事に、そこまで悪い感情を抱けなくて……だから等価値」

『……そうか』

「いやー、上手く説明できなくて、申し訳ないぴょん!」

 

 なのだがやっぱり軽かった。

 猛烈な違和感を感じるが、波多野曹長に今できる事はない。

 人の理を越えた事が起きたのだから。

 

『成程、そういう動機、という事で。曹長殿記録は完了であります。次の質問に行くのではないのですか?』

「記録? 誰かに報告……するに決まってましたどうぞ続けるぴょん」

『……どうやって、『獣』になったのだ?』

 

 殺された卯月の残骸がツ級に喰われ、それにイロハ級が取り込まれて、『獣』へと変貌。

 どういう手順を踏めばああなるのか? 

 そういう質問だ。

 

『……さぁ?』

 

 質問終了。

 

「は?」

『あ違います。えっと、殺された後……何だかよく分からなくなって、でも、あいつらは絶対に殺さないと、子供の仇を取らないとって、憎悪が全部になったぴょん。身体動かないけど殺そうとしてたらツ級が寄ってきて、身体ができたぴょん』

「……死んだ後も、意識があったと?」

『多分』

 

 嘘発見器に反応はない。

 曹長の経験則でも、正直な話に聞こえる。

 あきつ丸も『虚偽なし』と首を振る。

 

 意識して『獣』へなったのではなく、死んで尚憎悪を抱いた結果『獣』になった。そう考えるべきか。

 曹長は答えを出さない。

 その分析は専門科に任せるべき事だ。

 

「……あのー、うーちゃんのボディはどうなってるぴょん。艦娘のまま?」

『そこは安心していい。艦娘のままだ』

「何故死んでないかますます疑問だぴょん……」

 

 それは全員共通の疑問だった。

 

『あきつ丸、終わったな?』

『記録は完了。報告は問題ないであります』

「じゃあ拘束解除を」

『私の一存ではできぬ。然るべき判断を仰いでから、お主の処遇が決定される』

「えー、じゃあうーちゃんが死んでない理由を」

『それを言うかも後日だ』

 

 判断が下るまではこの部屋で拘束されっぱなし。

 どれぐらい時間がかかるかも分からないのにこの扱い。

 流石に酷いんじゃないか? 

 卯月はブーブー抗議する。

 

『自分が行った行動の危険性を把握しろ。これほど警戒される暴走をお主はしたのだ』

「……真面目に尿意がヤバいんですが?」

『あきつ丸』

『はいであります、装置起動!』

 

 ボタンを押す音がした途端、ベッドが展開しトイレが出現。

 更にマジックアームが出現。

 卯月のスカートとパンツが脱がされた。

 

「……ぴょ?」

 

 尚改めて言うが、この部屋は憲兵隊に包囲されており、数十人が絶え間なく卯月を監視している。

 

『どうぞであります』

「おおおおむつとかなかったの!?」

『だって、その部屋に入れない以上、交換できないですし。それしかないのであります』

「だからって──あ、限界」

 

 羞恥に顔を真っ赤にして卯月は叫ぶ。

 

「拷問だぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 しかし、忘れてはならない。

 これがついさっき、大量虐殺を思い出した人の言動であることを。

 証言通り、罪の意識をまるで感じさせない言動。

 

 波多野曹長達は、その変貌ぶりに改めて恐怖した。

 未知の装置、D-ABYSS(ディー・アビス)を。

 

 

 *

 

 

 結局波多野曹長の言った通り、卯月はその部屋から出られなかった。

 曹長とあきつ丸は、報告の為に何処かへ消えた。

 残された卯月は、全身を拘束されたまま、暇を持て余す羽目になる。

 

「……ねー、誰かいるんでしょ。ちょっとぐらい話しても良いと思うぴょん」

 

 返事は返ってこない。

 確かに人はいる。

 万が一の為に、憲兵隊が突撃銃を持って部屋を包囲している。

 

 しかし、彼らは任務に忠実だ。

 卯月の抱える危険性も把握している。その時即時発砲できるよう、トリガーに集中している。だから会話なんてしない。

 

「やっぱり、ダメかぴょん」

 

 何となくそんな気はしていた。

 会話は諦めるが、それでも暇は暇。

 たっぷり睡眠(気絶)していたせいで眠くもない。

 暇というのは、ある意味苦行にもなるんだなと、卯月は溜息を吐く。

 

 そう、憲兵隊は話さない。

 

 故に憲兵以外は会話ができる。

 

『卯月、起きてるの?』

 

 外から声がする。

 卯月の一番よく知ってる声。

 瞬間、卯月は機嫌を悪くした。

 

「え゛ぇー……よりにもよって満潮かぴょん」

『そうよ、私よ、だから何よ』

「もっと別の人が良かったぴょん。満潮とじゃ楽しい会話が呪詛合戦になっちゃうぴょん。憲兵隊のみんなもげっそりするぴょん」

『なら秋月連れてきてあげる。ナイフ片手に憲兵隊を刺しまわるでしょうけど、それでも良いなら待ってなさ』

「よく来てくれたミッチーウェルカーム!」

 

 憲兵に包囲され、拘束されてるこの状況。

 ついでに、排泄行動を見られたと知ったら、秋月の暴走確率は90%を超える。それぐらい慕ってるという事なのだが、流石の卯月もそれは困る。

 

「……ところで満潮、お前以外に誰か来たの?」

『監視の憲兵よ。私がアンタの脱走を手助けするかもしれないから、だって』

「納得ぴょん。んで、何か用なの?」

『別に何も。起きたって聞いたから、その顔見に来ただけよ』

 

 と言って、満潮はマジックミラーの壁に座り込む。

 

「はぁ、んじゃ勝手に喋ってるぴょん」

『好きにしなさい』

 

 その通り、卯月は適当に話しかけ続ける。

 大した内容ではない。

 寝ていた間、他のメンバーは元気にしていたとか、作戦行動はどうなっているのかとか──満潮も適当に相槌を返す。作戦等、禁止されてる事以外は答える。

 

 そうして数十分経って、卯月のネタが尽きた。

 

「ぴょん、久々に話して、喉が疲れたぴょん。ああでも退屈は凌げたぴょん。サンキューぴょん」

『あっそ、それはどうも』

「それじゃもう帰っていいぴょん。面会時間的なアレも迫ってるだろうし、結構夜遅いと思うぴょん。明日に備えてもう寝るぴょ──」

『……何でなの?』

 

 この短い会話の中で、満潮が初めて会話を切り出した。

 

「何の話?」

『状況、分かってない訳じゃないんでしょ?』

「うん。上の判断によっちゃ、うーちゃん今度こそ解体で、この世からグッバイするんでしょ? 雰囲気的に察するぴょん」

『なら、どうして、そんな気楽にしてんのよ』

 

 卯月は『ああ』と気が付いた。

 明日には、卯月はこの世にいないかもしれない。

 最後の機会かもしれなかったから、満潮は今此処へ、どうにか許可まで取って、面会に来たのだ。

 

「言うて、慌ててもどうしようもないし、現実問題解体されても文句は言えないぴょん。審議の時間作ってくれてるだけ親切だぴょん」

『納得、できるの……』

「できるぴょん。しょうがない、運命力が足りなかったってオチだぴょん」

『ふざけないで……死ぬのよ、死んじゃうかもしれないのよ!?』

 

 突然の大声に卯月は驚く。

 そして憲兵達が一瞬で臨戦態勢へ入る。

 

「ちょ、満潮?」

『あの戦場から、必死で()()()()()……助けてあげたのに、どうして、そんなに平然としていられるの……!』

「待って待って、この音、まさか泣いてんの?」

『……泣いてない! アンタの無神経さに怒ってんの!』

 

 一旦叫び倒した事で、僅かばかし落ち着いた満潮。

 しばしの沈黙の後、卯月が感慨深く呟いた。

 

「……そっか、怒るんだ」

『そうよ』

「ありがとう、それは、凄い嬉しい事だぴょん」

『?』

 

 満潮には、その意味が分からなかった。

 

『どういう意味よ』

「…………」

『ねぇちょっと』

「満潮さん。面会の終了時間です」

『この状況で? ちょっとぐらいおまけしなさいよ! あ、ちょ、引っ張るなって──』

 

 無理やり連行されていく満潮。

 波多野曹長の部下であれば、危険はあり得ない。

 やった場合は拷問のスペシャリスト(あきつ丸)がエントリーするから、万に一つもあり得ない。

 

「……今と成っちゃ、羨ましいや」

 

 また静かになった部屋で、卯月は一人目を閉じた。




艦隊新聞小話

 憲兵隊は何も、全員徒手空拳で戦う人外集団ではないです。
 ちゃんと、対艦娘&深海棲艦用の武器も持っています。
 その一つが、対深海棲艦用非活性突撃銃。見た目はアサルトライフルですが、発射機構に組み込まれた特殊術式により、激痛を与えつつ再生能力を抑える効果があります!
 え、トドメ?
 刺せないですよ?艦娘の武器じゃないですし。
 え、艦娘と共同作戦?
 どうやって憲兵隊を、海域最深部へ運んで護衛すると?
 え、艦娘を完全制圧できる?
 艦娘の艤装の機銃の方が射程距離圧倒的に上なんですが?
 まあ、やっぱり上陸時の時間稼ぎ、もしくは拷問用しかならないのが、辛いところなんですね。
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