二期ハマダカ。
はい、一か月ぶりです。お待たせしてすみません。
あの日、卯月達は『護衛対象』が護送されてくるのを待っていた。
しかし敵はそれを阻止する為、街中で直接襲撃をかける暴挙に出た。
撒き散らされる呪い、終わらない虐殺。
その最中、『獣』へ変貌した卯月により混迷はピークへ到達。
最終的に降臨した『三つ首』によって、事態は一応の収束を見る。
「…………」
それから三週間、卯月は前科戦線の一室で昏睡状態にあった。
今までは医務室で寝かされていた。
しかし、今日は別の部屋。
バイタルが変化し、目覚めが近づいたからだ。
「……ん」
薄っすらと目を開ける卯月。
彼女は思った。
このパターン何度目だよ。
手足が動くのを確認し、起き上がろうとする。
「……あれ、起き上がれない、ぴょん?」
首も動かない。目線を動かしてみる。
卯月は一瞬思考が止まった。
手足が拘束されていたからだ。
「ぴょんっ!?」
SFなんかで見かける、手足を拘束できるベッド。それだけでなく、腰回りから、首に至るまで、厳重に拘束されていた。
「拘束!? なんでだぴょん!?」
『それは、お主が危険視されているからだ』
波多野曹長の声が放送で聞こえる。
しかし、彼の姿は卯月には見えない。
それどころか誰もいない。
照明と監視カメラ、拘束ベッドだけ。
不気味なことに壁は一面鏡張り。
だが、卯月には分かっていた。
「……曹長は、うーちゃんから見て、左側の壁の向こうにいるぴょん?」
『……私の声が聞こえたのか』
「うん、唾を呑む音も聞こえたぴょん。ということは、これマジックミラーかぴょん」
マジックミラーで覆われた部屋。
その中央で卯月は拘束。
部屋の外からは、曹長達が卯月を監視している。
それが今の状況だった。
「──曹長だけじゃない。他にいっぱい人いるぴょん。これはどういうシチュエーションなんだぴょん。早く拘束を解くぴょん」
『それは安全が証明されてから、であります』
今度はあきつ丸の声。
どことなく楽し気な感情に、卯月は薄ら寒さを覚える。
──主にR-18G方面の。
嫌な予感に思わず卯月は身体を捩る。
『おっと! 余り動かない方がいいであります。これは『警告』なのであります』
「警告?」
『今、この部屋は、波多野曹長直属の憲兵隊により包囲されているであります。対深海棲艦用非活性突撃銃を装備。flagship級を30分間に渡り無力化可能。曹長殿が合図を出せば直ちに発砲開始、卯月殿は廃棄処分。表上の記録には残らないのであります』
「ごめんよく分かんないぴょん」
『……ギロチンの前に立ってる罪人って訳であります』
こういう長台詞が割と好きなあきつ丸。卯月の反応に『結構練習したのに……』と凹んでいた。
「理解できたぴょん。でもどうして?」
『まさか忘れたとは言わせないぞ。卯月殿、お主は何をしたのか覚えている筈だ』
「えーっと、確かうーちゃんは……」
うんうん唸りながら、覚えている記憶を辿る。
護衛対象を待っていて、本土襲撃があって、子供を助けて。
そして瑞鶴達に遭遇して。
「ああ、殺されたんだった」
あっさりと思い出す。
『……それから?』
「ああ、ちゃんと思い出したぴょん。沢山暴れて、
『最後まで話せ』
「はいはい。で、満潮に助けて貰ったら、レ級に心臓を……待って何でうーちゃん生きてんの!?」
最後レ級に心臓ぶち抜かれた事を思い出す。
言うまでもないが、心臓に穴が空いて死なない生き物はいない。艦娘も深海棲艦も例外ではない。
慌てて目線を動かし、心臓を確認。
「……穴、ない」
穴は無くなっていた。傷跡も残ってない。
安心すべきか困惑すべきか、卯月は混乱していた。
『それは後。覚えているのはそこまででいいのだな?』
「アッハイ」
そこを一番教えて欲しいのに。
卯月は大分不安だった。
『記憶に影響はナシ、でありますね』
『次の質問だ。何故虐殺をした?』
「……ぎゃくさつ?」
それは誰にとっても意外な反応。
卯月はポカンとした様子で一瞬固まった。
「ああ! 虐殺! 、確かにした、沢山殺したぴょん。オーケーオーケー、拘束されてる理由も完全に理解したぴょん。そりゃこうなるぴょん!」
本当に一瞬の硬直。
波多野曹長達はそこに違和感──悪寒を感じる。
彼らの反応に気付かず、卯月は
「えっと、あの時は……って話になるけど。鏖殺するのが艦娘の使命だって思ってたんだぴょん。そうすれば誰かの為だし、皆救われるからね。でも満潮からの説得を貰って思い直したんだぴょん。あれは間違いだったって、今は反省してるぴょん」
証言におかしなところはない。
満潮から聞き取った当時の状況と一致している。
虐殺が誤りだと言ったのも嘘ではない。
あのベッドの下にこっそり設置した嘘発見器も反応していない。
なのだが
『罪悪感、あるでありますか?』
「まったくないぴょん」
取り繕う事もない。卯月はあっけらかんとしていた。
「ああは言ったけど、やったことが完全な間違いとも思えないし! まあ、呪いで死ぬよりマシな筈ぴょん」
『……呪われていなかった人間もいたのだが?』
「うーん、悪いことしちゃったぴょん?」
その程度であった。
幾つもあった避難シェルター、その人々を虐殺しておいて、この程度。
これは何なのか?
波多野曹長は言葉に詰まる。
「あー……一応弁解しとくけど、何かヤバいってのは自覚してるぴょん。流石にね? でもメッチャどうでも良いってのが本音で、嘘吐くのはやっぱ嫌だから、言うんだぴょん」
『虐殺がどうでも良いと?』
「等価値、だぴょん」
卯月自身、自分の精神を正しく把握できていない。
目覚めてから五分と経っていないのに自覚するのは不可能だ。
あくまで感じたままに口を開く。
「生まれるのも、死ぬのも、同じような出来事に感じるんだぴょん。だから死ぬ事に、そこまで悪い感情を抱けなくて……だから等価値」
『……そうか』
「いやー、上手く説明できなくて、申し訳ないぴょん!」
なのだがやっぱり軽かった。
猛烈な違和感を感じるが、波多野曹長に今できる事はない。
人の理を越えた事が起きたのだから。
『成程、そういう動機、という事で。曹長殿記録は完了であります。次の質問に行くのではないのですか?』
「記録? 誰かに報告……するに決まってましたどうぞ続けるぴょん」
『……どうやって、『獣』になったのだ?』
殺された卯月の残骸がツ級に喰われ、それにイロハ級が取り込まれて、『獣』へと変貌。
どういう手順を踏めばああなるのか?
そういう質問だ。
『……さぁ?』
質問終了。
「は?」
『あ違います。えっと、殺された後……何だかよく分からなくなって、でも、あいつらは絶対に殺さないと、子供の仇を取らないとって、憎悪が全部になったぴょん。身体動かないけど殺そうとしてたらツ級が寄ってきて、身体ができたぴょん』
「……死んだ後も、意識があったと?」
『多分』
嘘発見器に反応はない。
曹長の経験則でも、正直な話に聞こえる。
あきつ丸も『虚偽なし』と首を振る。
意識して『獣』へなったのではなく、死んで尚憎悪を抱いた結果『獣』になった。そう考えるべきか。
曹長は答えを出さない。
その分析は専門科に任せるべき事だ。
「……あのー、うーちゃんのボディはどうなってるぴょん。艦娘のまま?」
『そこは安心していい。艦娘のままだ』
「何故死んでないかますます疑問だぴょん……」
それは全員共通の疑問だった。
『あきつ丸、終わったな?』
『記録は完了。報告は問題ないであります』
「じゃあ拘束解除を」
『私の一存ではできぬ。然るべき判断を仰いでから、お主の処遇が決定される』
「えー、じゃあうーちゃんが死んでない理由を」
『それを言うかも後日だ』
判断が下るまではこの部屋で拘束されっぱなし。
どれぐらい時間がかかるかも分からないのにこの扱い。
流石に酷いんじゃないか?
卯月はブーブー抗議する。
『自分が行った行動の危険性を把握しろ。これほど警戒される暴走をお主はしたのだ』
「……真面目に尿意がヤバいんですが?」
『あきつ丸』
『はいであります、装置起動!』
ボタンを押す音がした途端、ベッドが展開しトイレが出現。
更にマジックアームが出現。
卯月のスカートとパンツが脱がされた。
「……ぴょ?」
尚改めて言うが、この部屋は憲兵隊に包囲されており、数十人が絶え間なく卯月を監視している。
『どうぞであります』
「おおおおむつとかなかったの!?」
『だって、その部屋に入れない以上、交換できないですし。それしかないのであります』
「だからって──あ、限界」
羞恥に顔を真っ赤にして卯月は叫ぶ。
「拷問だぁぁぁぁぁぁッ!」
しかし、忘れてはならない。
これがついさっき、大量虐殺を思い出した人の言動であることを。
証言通り、罪の意識をまるで感じさせない言動。
波多野曹長達は、その変貌ぶりに改めて恐怖した。
未知の装置、
*
結局波多野曹長の言った通り、卯月はその部屋から出られなかった。
曹長とあきつ丸は、報告の為に何処かへ消えた。
残された卯月は、全身を拘束されたまま、暇を持て余す羽目になる。
「……ねー、誰かいるんでしょ。ちょっとぐらい話しても良いと思うぴょん」
返事は返ってこない。
確かに人はいる。
万が一の為に、憲兵隊が突撃銃を持って部屋を包囲している。
しかし、彼らは任務に忠実だ。
卯月の抱える危険性も把握している。その時即時発砲できるよう、トリガーに集中している。だから会話なんてしない。
「やっぱり、ダメかぴょん」
何となくそんな気はしていた。
会話は諦めるが、それでも暇は暇。
たっぷり睡眠(気絶)していたせいで眠くもない。
暇というのは、ある意味苦行にもなるんだなと、卯月は溜息を吐く。
そう、憲兵隊は話さない。
故に憲兵以外は会話ができる。
『卯月、起きてるの?』
外から声がする。
卯月の一番よく知ってる声。
瞬間、卯月は機嫌を悪くした。
「え゛ぇー……よりにもよって満潮かぴょん」
『そうよ、私よ、だから何よ』
「もっと別の人が良かったぴょん。満潮とじゃ楽しい会話が呪詛合戦になっちゃうぴょん。憲兵隊のみんなもげっそりするぴょん」
『なら秋月連れてきてあげる。ナイフ片手に憲兵隊を刺しまわるでしょうけど、それでも良いなら待ってなさ』
「よく来てくれたミッチーウェルカーム!」
憲兵に包囲され、拘束されてるこの状況。
ついでに、排泄行動を見られたと知ったら、秋月の暴走確率は90%を超える。それぐらい慕ってるという事なのだが、流石の卯月もそれは困る。
「……ところで満潮、お前以外に誰か来たの?」
『監視の憲兵よ。私がアンタの脱走を手助けするかもしれないから、だって』
「納得ぴょん。んで、何か用なの?」
『別に何も。起きたって聞いたから、その顔見に来ただけよ』
と言って、満潮はマジックミラーの壁に座り込む。
「はぁ、んじゃ勝手に喋ってるぴょん」
『好きにしなさい』
その通り、卯月は適当に話しかけ続ける。
大した内容ではない。
寝ていた間、他のメンバーは元気にしていたとか、作戦行動はどうなっているのかとか──満潮も適当に相槌を返す。作戦等、禁止されてる事以外は答える。
そうして数十分経って、卯月のネタが尽きた。
「ぴょん、久々に話して、喉が疲れたぴょん。ああでも退屈は凌げたぴょん。サンキューぴょん」
『あっそ、それはどうも』
「それじゃもう帰っていいぴょん。面会時間的なアレも迫ってるだろうし、結構夜遅いと思うぴょん。明日に備えてもう寝るぴょ──」
『……何でなの?』
この短い会話の中で、満潮が初めて会話を切り出した。
「何の話?」
『状況、分かってない訳じゃないんでしょ?』
「うん。上の判断によっちゃ、うーちゃん今度こそ解体で、この世からグッバイするんでしょ? 雰囲気的に察するぴょん」
『なら、どうして、そんな気楽にしてんのよ』
卯月は『ああ』と気が付いた。
明日には、卯月はこの世にいないかもしれない。
最後の機会かもしれなかったから、満潮は今此処へ、どうにか許可まで取って、面会に来たのだ。
「言うて、慌ててもどうしようもないし、現実問題解体されても文句は言えないぴょん。審議の時間作ってくれてるだけ親切だぴょん」
『納得、できるの……』
「できるぴょん。しょうがない、運命力が足りなかったってオチだぴょん」
『ふざけないで……死ぬのよ、死んじゃうかもしれないのよ!?』
突然の大声に卯月は驚く。
そして憲兵達が一瞬で臨戦態勢へ入る。
「ちょ、満潮?」
『あの戦場から、必死で
「待って待って、この音、まさか泣いてんの?」
『……泣いてない! アンタの無神経さに怒ってんの!』
一旦叫び倒した事で、僅かばかし落ち着いた満潮。
しばしの沈黙の後、卯月が感慨深く呟いた。
「……そっか、怒るんだ」
『そうよ』
「ありがとう、それは、凄い嬉しい事だぴょん」
『?』
満潮には、その意味が分からなかった。
『どういう意味よ』
「…………」
『ねぇちょっと』
「満潮さん。面会の終了時間です」
『この状況で? ちょっとぐらいおまけしなさいよ! あ、ちょ、引っ張るなって──』
無理やり連行されていく満潮。
波多野曹長の部下であれば、危険はあり得ない。
やった場合は
「……今と成っちゃ、羨ましいや」
また静かになった部屋で、卯月は一人目を閉じた。
艦隊新聞小話
憲兵隊は何も、全員徒手空拳で戦う人外集団ではないです。
ちゃんと、対艦娘&深海棲艦用の武器も持っています。
その一つが、対深海棲艦用非活性突撃銃。見た目はアサルトライフルですが、発射機構に組み込まれた特殊術式により、激痛を与えつつ再生能力を抑える効果があります!
え、トドメ?
刺せないですよ?艦娘の武器じゃないですし。
え、艦娘と共同作戦?
どうやって憲兵隊を、海域最深部へ運んで護衛すると?
え、艦娘を完全制圧できる?
艦娘の艤装の機銃の方が射程距離圧倒的に上なんですが?
まあ、やっぱり上陸時の時間稼ぎ、もしくは拷問用しかならないのが、辛いところなんですね。