前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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イベントは突破したが宗谷がこないコナイコナイコナイコナコナコナ……


第20話 始動

 不知火から前科戦線の任務の説明を受けた卯月は大あくびをしていた。

 長かった。深海棲艦は海そのものであること、だから羅針盤と特効を調べないといけない。わたしたちはそのための強硬偵察部隊なのだ。

 

 それにしても長かった。卯月はまた大あくびをしていた。

 それもその筈、時間帯はもう0時を回っていた。食事中に暴走して気絶し、目覚めたのは23時ぐらいだったからだ。

 

 だがまだ寝れない。卯月は不知火と一緒に高宮中佐の執務室へ向かっていた。理由は一つしかない。襲い掛かったことを謝るためだ。わざとでなくてもケジメをつけないといけない。

 

「失礼のないように」

「もうとびっきりの失礼しちゃったぴょん」

「そういうところです」

 

 不知火が扉をノックする。

 

「不知火です、卯月さんを連れてきました」

『入れ』

 

 執務室に入ると真正面に仕事している高宮中佐がいた。そのとなりでは飛鷹さんがいた。なにやらお札とか巻物を使って作業めいたことをしている。

 

「うーちゃん!?」

 

 先に反応したのは飛鷹さんだった。作業と止めてわたしに駆け寄ってくる。

 

「もう動いて大丈夫なの、変なところはない?」

「うん、大丈夫だぴょん」

「そう、それは良かったわ」

 

 飛鷹さんまで心から心配しているのが分かった。出撃前夜なのに本当に余計な心配をかけてしまった。申し訳ない。

 

「心配をかけて申し訳ないぴょん」

「良いのよ、事情はあらかた聞いたから。でも……その状態で出撃できるの?」

「できる、できないではない。卯月の出撃は決定事項だ」

 

 仕事をしながら高宮中佐が言った。こちらを見ないままだった。不知火から聞いた通りだ。わたしが暴走する可能性を考慮しても、出撃する予定は変わらないと。

 

 なお暴走したら満潮にボコボコにされる。絶対に暴走するものかと強く誓っている。

 

「そうなると、やはり『羅針盤』ですか?」

「そうだ」

「……ぴょん?」

 

 会話の意味が分からなかった。羅針盤の完成が出撃の目的だ。それがどうしてわたしに関係してくるのだろう。

 

「羅針盤を動かす要因は多い。艦種、速度、海域、姫、それらが複雑に絡み合っている」

「知ってるぴょん」

「そのうちの一つが『縁』だ、縁を辿ることで中枢足る『姫』に付きやすくなる」

「いやだから知ってるぴょん」

「失礼です」

「あいたっ!?」

 

 不知火に丸めた資料で叩かれた。痛い。でも実際知ってることなんだからしょうがないじゃないか。高宮中佐は少し黙って、また話し続けた。今度は要約してくれるだろう。

 

「今回我々が目指すのは泊地棲鬼、必要なのはやつとの『縁』、それがあれば到達確率は上がる」

「……あ」

「そうだ、()()()

 

 泊地棲鬼に壊滅させられた基地の、数少ない生き残り、それがわたしだった。神提督は出撃できない、間宮さんは戦闘艦じゃない、だからわたししかいないのだ。

 

「お前の縁を使い、泊地棲鬼への羅針を開く。そのためにお前を組み込んだのだ」

「あのー、ちょっと良いですかぴょーん」

「なんだ」

「うーちゃんをスカウトしたのって、も、もしかして……」

「泊地棲鬼を追い詰めるため……ではない」

 

 あ、違うのね。

 卯月はちょっとホッとした。もしそうなら戦いのあと用なしってことで捨てられるかもしれない。そんなことしないと思うけど不安は不安だ。そうじゃなくて良かった。

 

「じゃあなんでぴょん? なんで新人のうーちゃんを?」

「お前が来る一月前丁度駆逐艦が轟沈してな、駆逐艦の手が足りなかったのだ。

 そこにお前が罪を犯したと情報が入った。まあその穴埋めに丁度良かったのだ、多少練度が足りなくとも人手は大事だ」

 

 確かにわたしを除いたら満潮しかいない。不知火は秘書艦なので除外。偏り過ぎなのは確かだ。

 わたしが選ばれたのは完全な『偶然』ってわけだ。ちょっと運が良かっただけなのだ。偶然でも、生き残ったチャンスを捨てる気はないけど。

 

「神少佐からの依頼もある」

「うーちゃんを解体刑から助けて欲しいって、依頼ですか?」

「そうだ」

 

 飛鷹さんの問い掛けに高宮中佐は答えた。

 どうやら前科組ではない正規メンバーはわたしの冤罪を知ってるようだ。

 つまりわたしが生きているのは悪運と、神提督のおかげなのだ。ますます死んでいられなくなったと、卯月は思う。

 

「で、卯月、なんの用だ?」

「あ、そうだったぴょん。中佐に謝りにきたぴょん」

 

 完全に忘れてた。卯月は高宮中佐のまえに移動した。そして深々と頭を下げる。

 

「今回うーちゃんの自制心が足りなかったばかりにご迷惑をおかけしたぴょん。首を絞めたことは言い訳もないぴょん。本当にごめんなさい。二度とないようにするぴょん」

 

 これでも『ぴょん』は消えないのか。いい加減うんざりする。少しは空気を読めよ。

 それはさておき、言いたいことは言えた。

 これがわたしの本心だ。ウソは言わない。もし二度あるようなら、その時は。

 

「もしもその二度があったら、卯月お前はどうする」

「こうだぴょん」

 

 卯月は手刀で首を切るジェスチャーをする。言うなれば切腹だ、人を襲うとはそれだけ重い行為なのだ。

 

「……艦娘は『化け物』だ」

 

 高宮中佐が教鞭を叩いた。

 

「人の世に入ることは容易ではない。ここが世間の目に入らない場所だとしても、お前の行為はそれを脅かす」

「承知してるぴょん」

「一人の暴走が、艦娘たち全ての立場を危うくする。それを自覚してるのであれば、言うことはない」

 

 わたしが人を襲ったことで、艦娘全員が()()()()()()()と思われるかもしれない。自覚している。しているから、二度目は許されないのだ。

 

「だが自殺は許さん。お前はここで戦うと契約したのだ、契約の放棄は許されない」

「当然だぴょん、このうーちゃんを誰だと思ってるぴょん」

 

 わたしは『卯月』、睦月型四番艦の卯月だ。その名前に恥じるような生きざまは晒さない。

 ……まあ、泊地棲鬼への仇討ちは頓挫したが。

 やっぱり復讐はダメってことだろう。しょうがないしょうがない。

 

「明日は明朝から出撃だ、もう休んでいい」

「了解ぴょん」

「おやすみねうーちゃん」

 

 ヒラヒラと手を振る飛鷹さんに手を振り返す。飛鷹さんはまだ起きてるらしい。出撃に関わるのだろう。どんなのか分からないけど。

 

 キッチリ覚悟をキメてきてスッキリした。まだ罪悪感は残ってるがこれぐらいなら寝れそうだ。

 

 泊地棲鬼を殴れないのは残念だが、わたしの存在があいつの討伐に役立つならそれもいい。

 残念だが。自分の役目を果たそう。残念だが。

 

「声出てますよ」

「……おやすみぴょん!」

 

 卯月はダッシュで自室へ返っていった。聞かれた恥ずかしさで寝付けないかもしれない。

 なお布団に入って秒で寝た模様。

 

 

 *

 

 

 夜が明けたあと、卯月はまずシャワーを浴びに部屋を出た。

 満潮はもういなかった。朝のトレーニングにでも言ったのだろうか、気の早いことだ。まあ朝からあいつの顔を見なくてラッキーだけど。

 

 シャワーを浴びるのは、からだの汗を流すためだ。

 まあ要するにまた悪夢を見た。泊地棲鬼に神鎮守府を破壊される夢だ。虚ろな足取りで死体の山を歩く、最後に光とともに泊地棲鬼が現れて、夢が終わる。

 

 前と変わらない。辛さも変わらない。起きたら寝汗で全身ベトベトになっていた。そういえば昨日もシャワーしか浴びていない。お出かけまえ(出撃)には身だしなみを整える。どうせ女の子の体なんだから、そんぐらい気を使いたい。

 

 身だしなみも程ほどに、食堂で簡単な朝食を済ませて工廠に集まる。

 工廠には出撃メンバーの艤装が並んでいた。

 天井から下がる椅子に乗って整備してるのは北上だ。

 

「おはようぴょん、北上さん!」

「おー、おはよー」

 

 気の抜けた返事だけど忙しそうだ。決して暇ではないのだ。わたしたちの艤装を準備してるのだから当然だ。

 

「うーちゃんの艤装は?」

「そこにあるよ、整備は完璧、ご機嫌な自爆装置も登載済み、いつでも木っ端微塵」

「ジョークにもならねえぴょん」

 

 なんで朝から自爆の話をされなきゃならんのだ。どうせならもっと面白いジョーク言え。

 卯月はプリプリ怒る。だが北上は目を丸くしたまま硬直していた。

 

「……え、ジョークじゃないんだけど」

「え?」

「え?」

 

 え、まじで? 

 まじで自爆装置積まれてんのわたしの艤装? 

 一周回って冷静になる。北上さんが無断でやったってパターンはあり得ない。なら高宮中佐の命令だ。

 

「全員、揃っているようだな」

 

 高宮中佐の声が上から聞こえた。工廠の上にはタラップがある。中佐はそこに立ってわたしたちを見下ろしている。

 

 いつのまにやら全員揃っていた。いまここにいるのが出撃メンバー、というわけだ。

 いつ決めたんだ。

 いや、わたしが気絶してるときか。

 

「改めてだが、今回の泊地棲鬼の強硬調査のメンバーを呼ぶ。旗艦軽巡球磨」

「クマー」

「旗艦補佐航空巡洋艦熊野。軽巡那珂、駆逐艦満潮、駆逐艦卯月、そして特務艦飛鷹」

 

 特務艦? 聞きなれない言葉だ。飛鷹さんは軽空母じゃないのか。昨日夜遅くまで作業してたが、それと関係あるのかもしれない。

 

「以上六隻、続けて『首輪』装着、かかれ」

 

 首輪? また聞きなれない言葉だ。

 いや首輪は知ってるけど、そのまんまじゃないだろう。そのまんまだったら高宮中佐はS趣味の変態になってしまう。

 

「卯月もだ」

 

 高宮中佐がこっちを見た。まじで言ってるの? 

 よし逃げよう。変態趣味につき合うヒマラヤない。卯月は回れ右で工廠から立ち去ろうとした。

 

「ごめんね、でも中佐の命令なの」

 

 後ろから飛鷹さんに羽交い締めにされた。

 眼前にはやたらゴツい頚輪を持った不知火だ。

 まじで首輪だった。

 この流れ、神鎮守府に置かれてた薄い本で見たぞ。すぐ取り上げられたが知っている! あんな展開やそんな展開が来てしまう! 

 

「やめろー! うーちゃんはマゾじゃないぴょーん! どっちかってーとエスだぴょん!」

「そうですか」

「アーッ!!」

 

 ガッシャンと音を立てて、首輪が装着された。これでわたしは変態の仲間入りだ。

 

「でも、うーちゃん心までは中佐のモノにはならな」

「時間がないんだが、お前が気絶したせいで」

「ごめんなさい」

 

 首輪なんてものを嵌められて気が動転していた。冷静になった卯月は素直に謝る。

 本来なら昨日説明する予定だったのだ。わたしが暴走したせいで、出撃直前になってしまったのだ。本当に申し訳ない。

 高宮少佐はちょっとため息をつき、教鞭をパンと叩いた。

 

「その首輪は『自爆装置』だ」

「え゛」

「正確に言えば強制解体装置、作動した瞬間、お前の体と艤装をこの世から浄化する」

 

 首輪から、ボク・クラフト・スーツを着込んだ妖精さんがあらわれた。元気な顔でサムズアップ。役割を果たす準備は万全だ。

 

「我々の任務は轟沈率が高い、だが轟沈すれば深海棲艦の糧となる。それは許されない。それとも怨念に成り果てて味方に牙を剥くのが望みか?」

「だから、そうなるまえに、自爆しろってことかぴょん?」

「そうだ」

 

 死にたい、そう強く願えば妖精さんが自爆装置を作動させてくれるらしい。

 首輪と艤装の自爆装置は連動している。どちらも完璧にこの世から消してくれる。北上さんの言っていたとおりだ、本当に自爆装置だった。

 

「前科組は全員、出撃のときにこれを装備している。お前も例外ではない、良いな?」

 

 満潮も球磨も、この首輪をつけていた。

 これが()()なのだ。圧倒的轟沈率でも人を護るために戦うため。死んでも人を傷つけないための。

 

「つけるのは了承するぴょん、化け物になるなんてゴメンぴょん、文句は勿論ないぴょん、誰だってそーするぴょん、でも自爆する覚悟は()()()()ぴょん」

「要らない、だと?」

()()()()()()()()()()、このうーちゃんは無駄なことはしない主義なのだ──ぴょん!」

 

 決まった──! 

 内心そう叫ぶ卯月。実際本心だ、沈む気は全くない。こちとら生きて神提督に再開する予定なのだ、こんな人生の墓場で死ぬ気は全然ない。

 

「そうか、つければそれで良い」

 

 しかし高宮中佐はほとんど反応してくれなかった。

 ちょっと、いやだいぶ寂しかった。スルーされた気分だ。しょぼんとした気分と恥ずかしさが混ざってくる。

 

 必要な説明は全て聞いた。

 任務は羅針盤と特効の調査、わたしは泊地棲鬼へ到達するための鍵、首輪は死んだときのための自爆装置。

 

「時間だ」

 

 あとは出撃するだけだ。艤装を装備した卯月は海へ向かい合う。前科を負った二回目の人生、二度目の初陣が今から始まるのだ。

 

「駆逐艦卯月、抜錨ぴょん!」

 

 そして、視界が黒く染まった。

 

 

 

 

「え?」

「各自搭乗せよ」

 

 視界が黒く染まったのは、目の前に大きな物が現れたからだ。

 工廠の前に着水したのは、巨大な飛行機だ。これは輸送艇というやつだろうか。唖然としていると、コックピットから誰かが現れた。

 

「お待たせかもー!」

 

 艦娘とは? 

 輸送艇へ乗り込んでいく艦娘を見て、卯月は思った。




前科戦線の任務は、『先行勢』の方々がモデルです。
先行勢の方々がいなかった、イベント海域攻略はどうなるか。
それを想像すれば、今作での前科戦線の重要性が分かると思います。
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