前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

200 / 221
とうとう200話到達しちゃいました。何時終わるのでしょうか。折り返しは超えた……筈。


第200話 自壊の時

 艦娘という存在は、純粋なテクノロジーで生み出された存在ではない。

 陰陽道であったり、魔術的なもの──科学技術だけでなく、あらゆる『力』によって作られた。

 

 その為、戦争初期は技術顧問として、そういった人々が招かれた。

 そして技術確立から数十年。

 僧侶や陰陽師、魔術師は、大本営における技術職としての立場を確立する。

 

 つまり袈裟を着て数珠を持ったボウズがメカニックだとしても、何もおかしい所はないのである。

 

「なるほど……?」

 

 が、疑問符しか浮かばない卯月。

 現実を受け入れるには、もう少し時間が必要だった。

 

「なにか、混乱させてしまったようで、申し訳ありません」

「あー、別に構わないぴょん……む、ってことは、あの戦場でシェルター内にいたのかぴょん」

「ええ、坏土大将と一緒に」

「それは悪いことをしちゃったぴょん。殺しかけてごめんなさい」

 

 乱射していたレーザーは、運が悪ければそこへ直撃していた。

 さらっと言ってるところから察せられるが、罪悪感はない。一応次元で残った倫理観から言っただけ。

 

「気にしないで大丈夫。むしろ、あの状態から艦娘にまで戻れたことを、私は喜ばしく思います」

「がふっ!?」

 

 しかし卯月には致命傷だった。

 

「どうしたの」

「不味い、この吹き荒れる善人オーラ! 正面から浴びたら灰になってしまうぴょん!」

「なれ」

「ミ゛」

 

 満潮が退く。後光が直撃し卯月は灰になった。

 

「で、どうしたの」

「ちょっと、卯月さんに実験に付き合って頂きたく」

「そう、ホラとっとと動きなさい……ダメね、工廠まで運んどくわ」

 

 何処からか取り出したシャベルで、卯月(塵)を丸ごと掬い、運搬する満潮。

 

「……これも獣化の後遺症でしょうか」

「違うと思うよ?」

 

 北上がバッサリ切った。

 

 で、その卯月は工廠につくと蘇生。

 そこには卯月の艤装が置いてあった。

 勿論、D-ABYSS(ディー・アビス)は搭載されたまま。

 

「獣化により、D-ABYSS(ディー・アビス)がどのように作動するのか、確認しておきたいんです。疲れているとは思いますが、お願いしてもいいですか」

「断ってるよーな余裕はないんでしょ? 大丈夫ぴょん」

 

 艤装を装備し、海へ出る。

 そして何時ものように殺意を高め、一気に作動までもっていく。

 異変が起きたのはその直後だった。

 

「んぎっ!?」

 

 不意に激痛が走った。

 一瞬だが、全身を引き裂くような痛みを感じた。

 今のは何だと、自分の身体を確認する。

 

「──は?」

 

 その手は()()()()()

 手だけではない。

 足も、首も、服の下にも罅割れが。

 真っ赤に光る亀裂が、全身に刻まれていた。

 

「これは」

「……不味くない?」

 

 彼等が思い出すのは、全身に赤い亀裂がある中枢棲姫という個体。

 深海棲艦の中枢と噂される個体だが──目の前の卯月は違う。

 この亀裂は、そういうものではない。

 

「がっ」

 

 苦悶の表情を浮かべた直後。

 

「があああああ!?」

「卯月!?」

 

 卯月は崩れ落ちる。絶叫を上げながら。

 

「痛い痛い痛い痛いッ!!?」

 

 全身に激痛が走っていた。

 骨がひしゃげ、内側から爆発しそうな感覚だ。

 訓練どうこうで耐えれるタイプではない、生物として反応せざるを得ない痛み。

 

 発作でもないのに五感が狂う。

 まともに立っていられない。目の前が見えない。

 金切り声を上げているのが、自分だというのも分からなくない。

 

 特に『耳』が酷い。

 脳味噌まで砕けそうな痛みが、鼓膜から発せられている。

 しかし突然──痛みが消えた。

 

「──っ」

「しっかりしなさい卯月! 大丈夫なの!」

「キ……キツイ……ぴょん。何、今のは……」

 

 先程見えた亀裂は消えていた。

 しかし幻ではない。

 卯月の全身には裂傷が走り、大量の血が滲み出ている。

 それが、あの亀裂が齎したのは明らかだ。

 

「──予め、改造しといて、良かったねぇ」

「ええ、心の底からそう思います」

「流石は元関係者。褒めてしんぜよう。その前に卯月の応急処置だけどね」

「準備をしてきます」

 

 実験を見ていた平須磨僧正。

 彼の手にはシステム制御のスイッチが握られていた。

 

 今までD-ABYSS(ディー・アビス)は、自発的に解除できなかった。

 それを任意で解除できる装置。

 元開発スタッフだから作れた物。『実験は安全な方が良い筈です』と、三週間の間に作っていた物が、さっそく役に立ったのである。

 

 

 

 

 急遽ドッグへ運搬された卯月。

 何が起きるか未知数なので、高速修復材の使用許可は取得済み。

 直ちにドッグへ叩き込まれたお陰で、卯月は後遺症等もなく、直ぐ治ることができた。

 

「死ぬかと思ったマジで死ぬかと思ったぴょん」

 

 いつもの口調だが、冗談ではない。

 そう確信させるぐらいの酷い痛み。ショックのせいか顔色がまだ蒼い。

 

 一体あの時何が起きたのか? 

 その答えは、割とあっさり判明した。

 

「『限界』だ」

「限界……って?」

「卯月さん、貴女の肉体がもう『限界点』を越えたのです」

 

 よく分からない。が、いい内容でないのは確か。

 ゴホンと咳払いをして、平須磨僧正は説明をしだす。

 

「恐らくは獣化による影響でしょう。D-ABYSS(ディー・アビス)の作動効率が跳ね上がっていました。それによりエネルギーの吸収効率も向上。身体強化効果が今までより何倍も向上しています」

「それパワーアップしたんじゃ」

「ええ、但し『システム』は、です」

「……うーちゃん自身に問題が?」

 

 平須磨僧正は淡々とした様子で頷く。

 

「システムによる強化は力業なんです。エネルギーを無理やり取り込ませ、ドーピングをしているに過ぎない。秋月さんや最上さん……卯月さん自身のように、使用後は身体に深刻な負荷が掛かる」

 

 最初の頃は特に酷かったが──システム発動の度に、数週間寝込んでいた。秋月も最上も救助時はボロボロ。それを卯月は思い出す。

 

「回復力も強化されるので、誤魔化しは効きますが、『限界』はある。そして……言い難いことではありますが、卯月さん、貴女は『最弱』の駆逐艦です。誰よりも肉体が弱い。流石に海防艦には勝りますが……だから誰よりも早く『限界』が来た。貴女の身体はD-ABYSS(ディー・アビス)に耐えられない。先程の亀裂がその証明。文字通り()()()()()()のです」

 

 傷口が光っていたのは、溢れ出る深海のエネルギーの輝きだ。

 

「次に、このまま使えば死にます」

 

 二度と使えないという、死刑宣告。

 使っても死ぬという、死刑宣告。

 

 卯月は固まった。

 どう反応すればいいか分からなかった。

 あるのは不安。

 システム無しで今後の戦いを生き抜けるのか。そもそもシステムが無い私に存在価値はあるのだろうか? 

 

「システムの作動効率を下げることはできないの」

「ムリだねー、効率が上がった原因が獣化なもんだから、前みたいに調整ができなくなってる。上げる事も下げる事もムリ」

「……バクった?」

「そうとも言う」

 

 まあバグるよな。あれだけやらかせば。

 卯月と満潮は納得していた。

 

「う゛ー……嘘だぴょん、まさか化け物になったのが、こんな形で足を引っ張るとは。冗談キッツイぴょん」

「戦い方を変えていくしかないわね。今後はインチキに頼らずってことで」

「えー」

「文句があるの?」

「いや……今まで必死になって使いこなそうとしてたのに、今更『ダメです死にます』って言われると、色々思う所が」

 

 こんなイカれた装置無い方がいい。

 しかし、必死で使いこなす努力をしてきた。

 それを否定された気分。何となくだが。

 

「──いえ、使えますが」

「え?」

「は? 矛盾してんだけど。さっきのアンタの発言と」

「ですから、()()()()使()()()()()と」

 

 どういう意味なのか。卯月と満潮は首を傾げた。

 

「ですので『改修』を施します」

 

 それは……どういう? 

 卯月と満潮はまた首を傾げた。

 

 

 *

 

 

 卯月の艤装は平須磨僧正預かりとなった。

 システム作動による肉体崩壊。それに対する改善を行う為に。

 ただ、具体的な内容はまだ。

 終わってからのお楽しみ、という事である。

 

 艤装の調整には暫く時間がかかる為、僧正と北上は工廠へ閉じ籠っていた。

 その後、生身でもリハビリはできる為、那珂ちゃんによるアイドル訓練が続行。夜になっても終わらず、深夜になって漸く解放されたのであった。

 

「ギィ……」

「あが、がが、ぎごげぇ」

 

 疲労の極致。

 身体の輪郭が安定せず、作画崩壊した卯月を加古が心配する。

 まともな返事も出なかった。

 

「リハビリとは言え可哀想なお姉さま。秋月が慰めてあげます」

 

 と言って膝枕。

 ふっくらとした太腿。その他諸々もおっきい。

 同じ駆逐艦なのに、この違いは一体? 

 

「どうも敗北者だぴょん。ガクッ」

「うふふ、寝ちゃうほど心地よかったんですね。秋月は嬉しいです」

 

 絶対に違う。

 

 尚、秋月型自体、駆逐艦にしては発育が良い。

 満潮も少しじっとりした目線を向けていた。秋月は気づかなかった。

 

 ──改めてだが、此処は卯月の地下独房である。

 何故か満潮に秋月に加古と合計四人生息しているが、あくまで卯月の地下独房である。

 

 備え付けのベッドは二つ。

 四人には足りないので、ベッド一つを二人で使用。

 まあ寝る前は、互いのベッドを行ったり来たりしている状態だ。

 

「満潮さんは、次の作戦について何か聞いているんですか?」

「何も。まだ未確定情報が多いんでしょ。知らされるかも分からないけどね」

「そうでしたか」

「……過酷には違いないでしょうけど」

 

 過酷なリハビリを課している時点で、それは察せられた。

 それも当然のこと。相手はガンビア・ベイ。どれだけの攻撃を叩き込んでも、一切のダメージを負わせられなかった相手だ。

 

「アンタはガンビア・ベイ知らないんっけ」

「はい……一番下っ端だったからだと思います。最上さんなら知ってるかもしれませんが……あの調子なので」

「記憶の混濁、少しずつマシになってるって聞いたけど」

 

 最上はここにはいない。彼女は熊野と同じ部屋で生活中だ。

 というか、ここにいたら、秋月が衝動的に殺す可能性が高かった。

 

「……思うんですが」

「何?」

「懲罰部隊という割には、皆さん、とても優しいですよね」

「は? 頭爆発したの?」

「いえ真面目に。こんな秋月や最上さんを引き取って、人並みの扱いですし、卯月お姉さまにも、私刑とか拷問してないですし」

「意味ないことはしない性分ってことでしょ。中佐はそういう奴よ」

 

 高宮中佐の人となりをちゃんと知りはしないが、それぐらいは分かる。だが優しいとまではいかないだろ。満潮はそう考える。

 

「本当に普通の鎮守府なら、もっと娯楽あるし、人間らしい扱いになるわ。ちゃんと罪人扱いしてるって意味合いなら、人間らしいかもしれないけどね」

 

 それが、満潮の知る普通。

 幾つもの鎮守府を渡って来た──その度に追い出されてきた──満潮だから分かる。

 

「と、言いましても、此処が初めてですからね」

「……そうね」

 

 そして満潮は知っている。

 初めての場所での経験が全てだと。

 どれだけ時間が立とうとも、そこでの記憶は、自らを永遠に苛む。

 卯月のように、()()()()()

 

「……こんな風に、他愛のない話をするのも、初めてなんです。敬愛するお姉さまを撫でながら、こんな、中身のない会話するのさえ、嬉しいんです」

 

 秋月は、不幸極まることに、ドロップしたのを『黒幕』に回収された。

 そこで無限の虐殺を強要された。

 逆らえば、最上の暴力に晒された。逆らわなくても気紛れに晒された。

 

 理不尽に殴られない。

 たった、そんな当たり前極まることが、秋月にはひたすらに嬉しかった。

 

 色々あふれ出し軽く涙が出る。

 それを心配した加古が近づき、秋月を慰めようとアタフタしていた。

 満潮はハァと溜息を吐く。

 

「アホくさ」

 

 切って捨てた。

 

「なっ」

「そんな当たり前のことで一々泣いてたら身体持たないわ。此処にいるのは一時的なもの、いずれ普通の鎮守府に行くのよ。もっと貪欲になんなさい」

「貪欲、ですか」

「もっと『幸福』を追いなさい。そんなんじゃ他所行ったとき、そこのメンバーに要らない心配かけるわよ」

 

 秋月には──加古も最上も、幸福になる権利がある。

 どう見ても『黒幕』の被害者。

 その分、幸せになってほしい。そうでなければ不条理が過ぎる。満潮は純粋にそう思っていた。

 

「満潮さん……」

「何」

「満潮さんも大概面倒な性格してますね」

「思ったけどアンタ結構毒吐くわね」

「洗脳されたた時の後遺症では?」

 

 それも、仲間内の軽口。

 相手を軽蔑するものではない。

 只の他愛のない雑談。だからこそ良い。

 

 ──だからこそ、私はダメだ。

 

 私に『幸福』を追う権利はない。

 洗脳されて虐殺とかではない。『艦娘』として成すべきことができなかった私には、その権利はない。

 

 握り拳に爪が喰い込む。

 けれでも、その手は布団の中。

 気付かれる事さえ、あってはならない。満潮はそう自分を戒めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。