前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第204話 新能力(要勉強)

 工廠の一角で、平須磨僧正と北上が慌ただしく動き回る。

 艤装にはデータ取りの為のコードが多く繋がれている。卯月はその状態のまま、加古と並んでちょこんと椅子に座っていた。

 

「まだかなー、ぶっちゃけこうなると暇だぴょん」

「──―」

 

 同意する顔文字がモニターに表示される。

 今の卯月は、目が煌々と光り、赤い亀裂が全身に発生している状態。つまりシステムが発動状態。

 その状態のまま、現在のステータスを調査していた。

 

「…………」

「ん、キツいなら、こっちに寄りかかってて大丈夫ぴょん」

「アウ」

 

 D-ABYSS(ディー・アビス)作動中ということで、加古のエネルギーはずっと吸収されている。

 彼女の負担もそれなりに大きい。こっちの都合で負担をかけている。気遣いは当然だ。

 

 という事で、加古は卯月の膝に頭を置いた。

 

「え、そうなるぴょん?」

 

 膝枕の姿勢である。

 

「まあ……いいけど……」

「うわぁ見てよ僧正さん。卯月またあんなことして……」

「あれがハーレムのボスの風格ですか」

 

 じゃかあしい、と睨みを利かせる。

 二人は『何も見てません』と言いたげな勢いで作業を再開。この上ない白々しさに、卯月は深く溜息を吐く。

 

 それもこれも、D-ABYSS(ディー・アビス)に未知の挙動が確認されたのが原因だ。

 加古の頭を撫でながら、卯月はもう一発溜息を吐いた。

 

「また面倒なことになってなきゃ良いけど……」

「──?」

「む、何でもないぴょん。独り言」

 

 平須磨僧正主導の改修のお陰で、作動しても自壊は無くなった。ついでに鬱陶しかった『快楽』も無くなった。代償に拒絶反応として『激痛』が顕れたが、必要な対価だと受け入れる。

 むしろ、あれだけのパワーアップをするのだから、当然のデメリットと考えるべきだ。

 

 だが、『音』が聞こえるようになった。

 

 卯月の聴覚は、元々鋭敏だった。

 しかし今回、より一層──異常と呼んで差支えがない程、彼女の聴覚は敏感になっていた。

 

 特にエネルギーの吸収源になってる加古が凄い。

 彼女の心音から、艤装の作動音、肺の収縮──本当に一挙手一投足に係る音全てが識別できるのだ。

 

 尚、北上と平須磨僧正への聞こえ方は、普段と余り変わっていない。

 それ故に、自分の身に何が起きたのか、いまいち分かり難かった。

 尤も、それを調べる為に時間。

 二人の尽力により、調査時間は短く済んだ。

 

 声を掛けられ、姿勢を正す。

 

「エネルギーが……()()()()へ向かっていました」

「身体以外」

「そうです」

「成程、じゃ、何処に行ったんだぴょん」

「……脳?」

 

 今ぶっちぎりで不味そうな単語が聞こえたのだが? 

 

「私が行ったのは、D-ABYSS(ディー・アビス)のエネルギーが、身体へ向かわないようにする処置でした。そうすることで卯月さんの自壊を防ぐ為でした。なので『出力』は下げていません……いえ、下げられませんでした」

「下げられない?」

「イレギュラーを起こし過ぎたせいだろうね。壊れたのか、意図してそういう機能なのか──人為的に出力調整ができなくなってる」

 

 まず自分の意思で作動できるのがイレギュラー。

 作動しても、深海の意思に染まらないのもイレギュラー、『獣』へ変貌した挙句、戻ってきたのもイレギュラー。

 

「そういう訳で出力は弄れなかった。けど身体に流れないようにすれば、余ったエネルギーは排出される……って、僧正さんは見込んでた訳」

「ええ、開発時の実験がそうでした」

 

 過剰なエネルギーを入れればより強化──とはならなかった。

 スポンジに水が無限に入らないのと同じ理由。吸収しきれなかったエネルギーは漏れ出て無駄になる。

 身体に行かなければ、同じ事が起こせる。

 平須磨僧正はそう考え、改修を実行した──のだが。

 

「余剰エネルギーの内、何割かが体外へ行かなかった……残りは『脳』へ行ったようです」

 

 無言だった。

 卯月はフリーズする他なかった。

 どう考えたって()()()と察せられた。

 

「どう、なるんだぴょん、うーちゃんは」

「脳味噌が爆発するとか、そういう心配はないよー。言った通り身体強化機能は抑制してある。脳の回転率が速くなるとか、そういうのは無い。ただ、これはきっと……副次的な効果に違いない。エネルギーを媒介として、別のものが流れてる」

「別の?」

「……聞こえたでしょ?」

 

 眉を潜めながら、隣の加古をじっと見つめる。

 

「音、ってこと?」

 

 こうしている間にも、加古から色々な音が聞こえてくる。

 心音、肺の音、呼吸音──それ以外の全然分からない雑音も。

 聴覚が鋭い、では済まされないレベルで、精密に響いてくる。

 

「ええ、ただしあらゆる音ではない。恐らくはエネルギー、深海のエネルギーがある箇所の音。典型例で言えば……艤装の音でしょう」

「え、でも加古は心音とかも……」

「深海棲艦は全身艤装です」

「へ?」

「僧正さんダメだよ、この子勉強ロクにしてないから」

「ああ……」

「止めて。その視線はうーちゃんに効く」

 

 艤装と人間が分離しているのが艦娘。

 対して深海棲艦は、艤装と人間が融合している存在と言える。

 生体サイボーグが近い。

 艤装部位の音が拾える。深海棲艦は全身艤装。だから身体の音も聞こえる。

 

「……なら、仮にD-ABYSS(ディー・アビス)搭載艦と相対したら?」

「全身の音が聞こえる筈です。身体中にエネルギーが回っていますから。腕を曲げる音から、力を入れる音まで……聞こえる筈です」

 

 卯月は息を呑んだ。

 

「つまり、うーちゃんは未来予知を手に入れた……!?」

 

 相手の艤装の音、身体の音、それが分かるなら──先読みができる。

 身体強化は失った。

 けど代わりに、もっとカッコイイ能力を手に入れた。

 

「まあ、そういう事は可能だと、思いますが……」

「パワーゴリ押しの時代ではない! 時代は、テクニック系主人公を求めてる。うーちゃんはこのムーブに乗るのだぴょーん!」

「―! ―!」

 

 加古はよく分からないまま嬉し気に拍手する。

 有頂天になっている彼女だが、周りの視線は冷徹だった。

 

「卯月さあ、でも、どの音がそういう音かって、分かんの?」

「……あっ」

 

 音は存在する。

 艤装が動く時、身体が動く時、音は確かに発生する。

 だがどの音が何を意味しているのかは、『知識』として知っていなければならない。

 

 砲塔が旋回するとすれば、速度、回転する角度、主砲か副砲か機銃か──で全てが変わる。それを予め知っていなければ、卯月の言う未来予知はできない。

 

 ついでに付け加えると、戦場にいる敵は一体ではない。

 多ければ『音』も激増する。

 それらを敵ごとに振り分けた上で、分析をしなくてはならない。未来予知にはそれも必要となる。

 

「えっと……じゃあ、どうすれば?」

「どうすればって、艤装の音について知識を蓄えるなら……」

「艤装について知るしかないでしょ。良かったね卯月ー、大嫌いな勉強をしなきゃいけない理由が遂に生まれた訳だー」

 

 瞬間、卯月は膝から崩れ落ちた。

 顔のパーツは崩壊し、出来損ないのキュビスムが爆誕する。

 手に入れた希望(チート)は、その実真面目に学ばなければ意味がなかった。卯月の精神はその乱降下に耐えられなかったのだ。

 

「べべべ、勉kyoおおおお? GAGAGAGAGA!?」

「あ、壊れた」

「そんなに勉強が嫌なんですか。この子は……」

「勉強ってか、コツコツ積み上げる事自体が嫌いみたい。基本的に訓練とかもひたすらに面倒がってるし」

「本当に復讐望んでるんですよね?」

 

 しかし、これはある種仕方のない事だ。

 何故なら、卯月は虚無の果てを見てしまった。

 何を積み上げても、最後には消えて、何の意味も無くなると知ってしまった。

 本能でそれを分かったから、余計に積み上げる事に意欲が湧いてこないのだ。

 

 ──と、心の中で復唱。

 即ちこれは『獣』の後遺症であって決して私の落ち度ではない。別に努力が嫌いとかそういう訳ではなくて。

 

「どっちにしても次の戦いには間に合わないけどねー」

「ギャンッ!」

 

 北上の一撃により、卯月は絶命した。

 

「これ大丈夫なんですか」

「ほっとけば蘇生するから平気平気」

「そ、そうですか……」

 

 事あるごとにオーバーリアクションを取るのが卯月だ。一々真に受けていたら身体が持たない。北上達はとっくに慣れていた。

 

 ただ、ここに倒れたままは邪魔。

 軽い介抱も兼ねて、僧正は卯月を近くの椅子へ座らせる。

 その隣へ加古が座る。

 彼女は純粋に卯月を心配していた。

 

「ぴょん……うーちゃんの救い加古だけだぴょん」

「ママ?」

「がふっ」

「あらトドメ」

 

 純粋故に残酷だった。

 

「……ねぇ、僧正さん」

「どうしました」

「本人が気絶してるから、確認しときたいんだけどさー」

 

 おちゃらけた雰囲気は鳴りを潜め、北上は昔の気配を纏う。

 何度も修羅場をくぐってきた、戦士の気配だ。

 

「これが普通なの?」

 

 彼は即座に首を横に振る。

 

 平須磨僧正は言った。余剰エネルギーが『脳』に集中したと。

 それは起こり得る現象だ。

 但し起きた瞬間、普通は死ぬ。

 

「音も情報です。ましてやそれが脳内に直接送られている。エネルギーは聴覚野に集中しているのは、北上さんも見た筈です」

「そうね、正直ドン引きだった」

「エネルギーが鼓膜か、または電気信号の代替なのか、もしくは骨振動に近いのか……原理は分かりませんが……すみません話が逸れました」

 

 原理がどれであれ、結果は同じ。

 

「情報を処理しきれず脳が焼き切れる。まるでパソコンがオーバーロードするように。それが普通の反応です」

 

 しかし結果は見ての通り。卯月は平然としている。

 

「──今はまだ、余剰エネルギーの何割かが脳へ流れている状態。もし余剰分全てが脳へ流れたら、どうなるんだろうね?」

 

 どうなるか、分かってる部分はある。

 より精密に、より広範囲に『音』を拾えるようになる。

 より強力な未来予知が可能になる──かもしれない。

 

 だがその時、卯月が無事である保証がない。

 

 未来予知の可能性。それを卯月に与えていいのか。その判断をこの場で下すのは困難だった。

 

 

 *

 

 

 身体強化は頭打ち。しかし代わりに未来予知を獲得──は見送りとなった。

 音を聞いても、何が何の音か即断できないので、見送るしかなかった。

 エネルギーが一部脳に流れている事については、調べてもダメージ等が見られなかったので、一先ず問題ないと判断。

 

 強化改修、と言うより、若干弱化した感じに留まった。

 それでも卯月は上機嫌だった。

 今までずーっと、密かに煩わしく思っていた、作動時の快楽が除去されたからだ。

 

「あがががが!?」

 

 作動時、本来受けるべき激痛に晒されるとしても。

 

「何をボサッとしてるのですか。どうぞ殺して下さいと言ってる様なものじゃないですか。じゃあ殺しますねさようなら」

「ごげぇぇぇ!?」

 

 何であれ艤装の改修は完了。

 と、なれば、今度は艤装装備下での訓練に移行。

 何度も何度も、殺意の暴風に晒される訓練が、貫徹で続く。

 

「ガンビア・ベイを取り逃がす事態はあってはなりません。故に卯月さん、貴女を確実に仕上げなければなりません。取り逃がす不名誉を受けるぐらいなら、此処で殺してよいと、坏土司令官から許可は受けています」

「ファッ!? それは流石に嘘ぴょん!?」

「はい嘘です」

「おいゴラ」

「でも独断で殺しますので、結果的には嘘じゃない」

「誰か医者を! こやつの頭を診てくれぴょん!」

「え、私正常ですよ?」

 

 狂人の常套句であった。

 

 狂人は加減を知らず、艤装を装備してからも、何度も三途の川を渡りかけた。

 というか途中から赤城も艤装を装備したので、一層危険度が増した。

 

 刀だけでなく、弓矢も使用開始。

 直接叩き込むだけでなく、何と矢を艦載機に変異させる技まで使い、本気で殺しにかかってくる。

 

「……あれ、それって本来の使い方じゃ」

「あ、隙あり」

「ひぃっ!?」

 

 矢が頬を掠め回避──直後赤城の姿が消え、背後から刀が来る。

 ──おかしいだろ、やっぱコレ! 

 回数を重ね、異常な感覚が確信に近づいていく。

 

 赤城の必殺パターンは、かなりの割合が()()()

 まるで瞬間移動、何時の間にか死角に出現し、意識の空白目掛けて致死の一撃を振るってくる。

 

 最初は矢に意識を割かせ、その間に移動していると思ってたが、それでは説明できない挙動が何回もあった。

 まさか、そうなのか? 

 

 ──あり得ないと頭を振る。

 しかし、自分がかつて『獣』と成ったのを思い出す。

 艦娘は未だ未知の存在。

 既知で全てを語ろうとする方が誤りだ。

 

 なら、そういう前提で行くべきだ。

 赤城は瞬間移動ができる。

 疑似的じゃなく、本当にできる。

 

 一体どうやって? 

 原理はやはり分からないが──『音』は正直だ。

 脳に流れ込む方じゃない、冷静になって聞けば、明らかにおかしな『音』がする。

 

 矢が飛ぶ、矢を弾く、赤城の姿が掻き消える。

 

「そこ」

 

 卯月は()()()()()()()()

 

 そこにいたのは矢ではなく、砲弾を切り払った赤城が立っていた。

 卯月は数日間の訓練で、やっと初めて、赤城の致命打の阻止に成功したのだ。それを受けた彼女は軽く息を吐き、呟いた。

 

「合格です」

 

 卯月は漸く、死の暴風から解放されたのだった。

 

「ではその感覚をもうちょっと身につけましょう」

「え、ちょ、ま」

「さようなら」

 

 Uターンしてきた暴風に、卯月はまた吹っ飛んで行った。

 ぶっちゃけ赤城の鬱憤晴らしだった。

 職権乱用だった。

 卯月は赤城が心底嫌いになった。




艦隊新聞小話

卯月「ねー赤城さん。そーいや思ったんだけど」
赤城「何ですか大した様でないなら殺しますよ」
卯月「三日月って、そんな強いの?」
赤城「ヒィ!!?」
卯月「……睦月型だからスペック差は相当なのに、何がそんなに」
赤城「いえ……三日月さんは、強くはないです」
卯月「え?」
赤城「弱くはないですが、戦闘力では私が上です」
卯月「じゃ、ナンデだぴょん」
赤城「……うちの鎮守府の、筆頭事務官なんですよ、彼女」
卯月「あ(察し)」
赤城「事務関係の大ボスです。艦娘なんですが、そっちの方の才能があったようで、書類事務の元締めです。以前うっかり、必死で集めた節分の豆を私が食べた時……懲罰房から出た私の部屋が、未決済だったり、押印洩れだったり、期日が次の日の書類でいっぱぱぱPOPOPOP!!!!」
卯月「赤城が壊れた!」
赤城「ちなみにあだ名は総書記です」
卯月「不味いぴょん!合ってるけど!」
赤城「もしくは三日月(持ち手付き)です」
卯月「槌を加えろってか!?」
赤城「バレたら殺されます。秘密を共有する仲ですね。キャっ照れます」
卯月「誰か記憶を消してぴょんー!」
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